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2008年12月20日 診療録(経過情報)

変更履歴

2011/06/25 記述修正 看護師 → RN

2011/07/08 誤記修正 特別審査会 → 特別審議会

2011/07/13 小題変更 12月15日 → 12月20日

2011/07/13 記述修正 記載日:2008年12月15日 → 記載日:2008年12月20日

2011/07/13 記述修正 先月までは → 前回までは

2011/07/13 記述修正 今週末の19日 → 来週の22日

2011/07/13 記述追加 どうやら仁科院長が~ → 追加

2011/08/04 記述修正 医師 → Dr

2011/08/16 記述修正 担当医師 → 担当医

2011/12/10 罫線はみ出し修正


カルテ(精神神経科)12頁目:経過情報

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記載日:2008年12月20日


◆主要症状・経過等:


[Subjective(主訴)]

先週と変わりはない。(睡眠不良と軽度の頭痛と腹痛)

<ドイツ語の走り書き>

今回のKrの態度には今までにない行動が見られた。

前回までは全く合わせようとしなかった視線が何度か合う事があったのだ。

これまでの問診でもKrは対面していても大半が視線は下を向いていて、たまに左右の何かを見ながらと言う具合だった。

それが数回程度ではあるもののやっとこちらの事ををただ自分に対して要求や情報を出している物体から、自分と同等の人として認識し始めたのではないかと感じる。

やっと今までの積み重ねてきたKrとのやり取りが、成果として現れようとしているのだと確信する。

この態度は明らかに何らかの意思があってそうしているのだろうが、まだそれを語るところまでは達していない。

ここは今まで以上に慎重に状況を観察し、Krの心情の変化を妨げない様に配慮する必要がある。

<走り書き終わり>


[Objective(所見)]

3回目の箱庭療法の実施。

<ドイツ語の走り書き>

問診の時もそうだったがKrは箱庭作成中にも何度か私の様子を窺う様に見ていた。

しかし視線が合うとすぐに目を背けてしまいやはり未だその時期には到っていない様だ。

そんな状態なので意識はあまり箱庭には向かっておらず、前半は指で砂を弄っている程度の行動しか見られなかった。

後半になると、この時はいつも通り俯いた状態で他の色の砂を混ぜても良いかを尋ねて来た。

私が構わないと伝えると元から入っていた白い砂以外の砂を袋から手で掴んでは砂箱へと、少しずつ落として線を描いたり撒き散らしたりしていた。

この時は前半の様な意識が散漫な感じは無くその作業に没頭していて、そうして何かを描く事を楽しんでいる様にも見えた。

様々な色の砂を落とした後に今度は細めの先端がある人形を幾つか取り出して来て、砂に色々な線を描いて描き混ぜながら新たな模様を作り出し最後は全体的に砂が混ざってしまう所までそれを繰り返していた。

今回の作品名を尋ねるとしばらく考えてから、別にないと答えた。

<走り書き終わり>


[Assessment(分析)]

今回作成した作品での精神分析は実施せず。

<ドイツ語の走り書き>

今回は前回の様に意図的に全てを消してしまう事はなかったものの、Krは作品として何かを作ったと言うよりは砂の中の模様の変化の過程を楽しんでいたと判断し分析対象としては相応しくないとして分析を見送った。

途中までは幾何学的な模様とその色合いからマンダラ的なものを描こうとしているのかとも思えたが、最終的なKrの発言も加味して考えるとこれは作品として成立していないと理解し分析対象としなかったと言うのもある。

しかしその描いていく過程においてのKrの行動については興味を惹くところがあった。

今回は特にこちらから指示を与える事はせずにいて、その結果最初は第1回と同様の動作をしていたが自ら思いついた事を実施する為に私へと許可を得てから実行していた。

以前のKrであれば反抗心からそんな事は考えもせずに実行していたか、或いは新しい事をしようとはしなかったのではないだろうか。

これはきっとKrの中でおき始めている変化の兆しだと考えている。

作品としての名前がないのは何となく始めた動作から行っていた行動によって出来たものである為、自分で作品として作り出していないから納得は出来ずこれは認めないと言う意思表示と感じた。

もう少しでKrは次の一歩を進めるところまで達していると私は判断している。

不眠と頭痛と腹痛については、先週から引き続き症状を訴えている。

そろそろ緩和して来るのではと思っていたのだが、予想よりも長引いていると感じる。

こちらについてはもう暫く様子を見る事にする。

<走り書き終わり>


[Plan(計画)]

箱庭療法の継続を提案。

<ドイツ語の走り書き>

今回の科内会議では宇野准教授がまた調子を取り戻して終始浮かれ気味であり、嫌な流れを感じる。

その理由はどうやら先月の全科定例会での提案が、異例の早期決定となるかも知れないと言う噂にある様だ。

今週の始め辺りに伊集院が話していたのだが、何かを嗅ぎつけたのか赤聖会側から早期決定の要求が上がっているのだと言う。

これの意味するところは赤聖会側としては意思が固まった事を表していて、恐らく宇野准教授の様子からして早期決定を仕掛けるのだと思われる。

これは裏を返せば時間を置くと問題が発生する何かが発覚して、それに対する措置とも取る事が出来る。

もしかすると赤聖会も脳科学統合研究センターの裏を掴んだのだろうか。

こちらも動き出す必要がありそうだ。

<走り書き終わり>




◆処方・手術・処置等:


引き続き箱庭療法を継続し来週も実施を予定。

<ドイツ語の走り書き>

赤聖会の動向について古賀へと確認した。

古賀の話によると噂は事実で赤聖会は今回の提案に賛同する方向で、特別審議会を発足させて早急に確定させようとしているがその理由までは掴めていない。

白聖会はもちろん反対に回るのだろうがそこは現状僅差になってはいるもののまだ優位な立場を利用して、第三勢力であるその他の診療科を抱き込んで票を確保するつもりらしい。

特別審議会は緊急の課題に対して協議や票決で意思決定を行う為の会合で、診療科の3分の1の同意があれば徴集が可能で議題は参加者の3分の2以上の賛成で可決となる。

この会合の出席可能な人間は各診療科の副部長以上の役職を持つDrが1名のみとなっている。

赤聖会に属する診療科だけで特別審議会の開催は可能だが賛成を取り付ける為の3分の2の票は、その他の診療科や診療協力部門をほとんど賛成させなければならずそれは容易な事ではないと思われた。

こういうシステムならばこちらとしても打つ手がありそうだ。

もう一つイベントがあり、特別病棟看護部からで箱庭療法の用具についてクレームが来た。

特別病棟区域内において勝手な治療器具の配置は禁止されていて、配置が必要な場合は申請しろと抗議して来たのだ。

この前最初に用具の管理を依頼した時には神経精神科のスペースはないとして却下した筈だと思い、それを抗議すると実にふざけた回答が帰って来た。

特別病棟区域使用許可を申請していないからだと言ってきたのだ。

そんなもの最初に説明すればすぐに済む話だったのにどうしてそれを説明しないと訊き返すと、それは訊かれなかったからだと当然の様に答えた。

今時の役所だってもっとまともな対応をするたろう、この特別病棟看護部所属のRNはDrに対して対等か上位であるかの様な態度を平然と取る。

何故こんな事になるかと言うと、特別病棟ナースステーションを取り仕切る看護部内の一組織である特別病棟看護部が自分達の立場を勘違いしている点にあると思われる。

私はここで特別病棟看護部に関する伊集院の与太話を思い出した。

特別病棟看護部は、その名の如く特別病棟のKrのみを専門に担当するRNだ。

この専属RN達は通常のRNならKrとの比率は1;7を守る様にしているのだが、特別病棟はそれが3:1となっており一人のKrに最低3人の専属RNが付いての24時間体制が基本となっている。

一時退院や入院中での外出時には同行して様々な処置や緊急時の対応まで行うので、看護師資格だけではなくSPW(精神保健福祉士)・CSW(社会福祉士)・CCW(介護福祉士)・ELT(救急救命士)・助産師・栄養管理士等の資格も担当するKrによっては必要となる。

更に通常のRN以上の仕事、ある意味接客業や秘書の様な仕事すらこなす必要がありそういったスキルも備わっていなければならない。

時には本物の秘書よりもKrたる要人の近くにつく事もあり、要人の指示や言葉の代弁も行う場合もある。

それだけに先の様なスキルも持っていなければならないのだが、その代言者のと言う立場を自分達の権限だと勘違いしている様な気がしてならない。

特別病棟のKrはほとんど担当医よりも立場や地位が高い人間が大半で、その要人達のQOLを最大限に考慮して担当医や時には病院相手にさえ抗議や交渉を要求する。

これを訊いた時、一体誰に雇われているのだと言いたくもなるとんだ勘違い集団だと私は思った。

正直今はそんなのに関わっていられないので、乗り込んで来るまで放置する事にする。

<走り書き終わり>




◆備考:


特になし


<ドイツ語の走り書き>


独り言……


中国に渡って調査中の霧嶋からメールが届いた。

メールによると脳科学統合研究センターに所属する研究員の出向先は、人体実験の噂のある附属病院を持つ中華人民大学の医学院であるのが判ったらしい。

この大学は国家重点大学の一つでもある大学であり、日本で言えば6大学に含まれるトップクラスの大学だ。

特に医学の分野においては多くの成果を上げている事で有名だが、それには裏があると言う噂も絶えない。

その一つが国家ぐるみで行われているとされる人体実験で、政治犯などの犯罪者の人権を無視して様々な臨床実験を行っていると言うものだ。

これは誠しやかに広まっていて勿論中国政府も中華人民大学医学院も附属病院も否定しているが、過去に発表された論文でもサルを用いた動物実験での検証結果としていたものが実は人間だったと言う事件もあって、人権擁護団体の非難や国際倫理委員会からの勧告を受けている。

今回提出された臨床データが非合法な人体実験の産物であった証拠を掴めば、これは確実に廃案になるであろうしこれを推進して来た人間は只では済まされないのも必至だ。

それにしても政府ぐるみでは手が出せないとして誰もここには手出し出来ないと思っていたのだが、霧嶋はそれを暴くつもりなのか。

あの女は生きて帰って来れるのか多少は気になるが、霧嶋自身の身の安全はその保障も含みの高額な契約なのだから自力でどうにかするのだろう。


この後古賀から特別審議会の開催時期について情報が入り、開催日は来週の22日だと判明した。

どうやら仁科院長が本来の全科定例会の日程である26日が不在で変更された30日もあまり時間がない点を利用して、院長不在でも実施可能な特別審議会で少しでも早くDrの意思決定を企んだ結果らしい。

まずは特別審議会での決議を阻止すべく、古賀の主導でこの今現在得ている情報をぼかした上で噂として流す策に出る事にした。

勿論流出元は判らない様に偽装して何の根拠もない単なる噂として広めた。

こういう噂と言うのは完全に根も葉もない代物では鎮火も早いが、嘘と同様で僅かな真実を散りばめる事によって信憑性は上がって因り拡散し蔓延しやすくなる。

更にわざと曖昧な表現にする事で情報の不完全さを与えると、より不完全で未確定的なものほど変化を促進する事が出来る。

そう古賀は語っていた、やはりこの男は危険かも知れないと改めて感じる。

これであれば現在押さえている情報でも十分に使える。

逆に今の僅かな情報しか得ていない段階で正式に追求してもこちらがデマを流した人間として処分されるだけだ、とにかく今は特別審議会を妨害出来ればいい。

本格的に追い詰めるのはもっと確実な情報が揃ってから、大きな勢力を動員してやらなければ駄目だ。

その為には霧嶋の更なる情報が重要な鍵となる。

とにかく今は霧嶋の事を信じて決戦の時に備え準備を始める事にしよう。


<走り書き終わり>



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