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第9話 理想の『山』は、暗がりに眠る。――おじさん、洞窟でもやしを収穫する。

「……あ、あの。御子柴様。先日お渡しした小麦とは別に、里に古くから伝わる『扱いにくい粉』があるのですが……」


 拠点を訪ねてきたのは、以前ホットドッグを届けた際にも顔を合わせた、里の若手エルフだった。

 俺はガウルと一緒に、朝食の片付けをしながら彼を迎え入れた。


「パンに使うには粘りが強すぎて、どう加工しても岩のように硬くなってしまうのです。もし御子柴様が、里の近くにある『黄昏の洞窟』の魔物を間引きしてくださるなら、その粉を在庫ごと差し上げます」


 俺は手を止めた。粘りが強すぎて、岩のように硬い……。それはまさしく、力強い歯ごたえを持つ極太麺に最適な「強力粉」の特徴ではないか。


「話を聞こう。その洞窟、他には何が生えている?」


「ええと……。光の届かない奥地に、白くて太い、食べ応えもない雑草のような芽が群生しています。それと、黒光りする、草のような植物も……」


 俺の頭の中で、バラバラだったパズルが一つに繋がった。

 極太麺に、山のようなもやし、そして深みを与える昆布。

 あの「暴力的な一杯」を作り上げるための、最後のピースがそこにある。


「……いいだろう。その依頼、引き受ける。ガウル、仕入れに行くぞ。今日は大漁になりそうだ」


 俺とガウルは、里からほど近い『黄昏の洞窟』へと足を踏み入れていた。


 入り口付近の魔物はガウルが一睨みで追い払い、俺は「鑑定」を使いながら慎重に進む。


「主、奥はかなり湿っています。……おや、あそこに生えているのは?」


「……ビンゴだ。【魔昆布】。こいつを魔法で磨き上げ、結晶化させれば、脳が震えるほどの『旨味』が手に入る」


 俺は魔法の刃で手際よく昆布を刈り取っていく。

 さらに奥へ進むと、魔力が濃く淀む広間に到達した。そこには、暗闇の中で淡く光る、水晶のように透き通った白い「山」が群生していた。


【鑑定:洞窟豆もやし。日光を遮断された環境で魔力を吸い、極限まで太く、シャキシャキとした食感を持つ変異種】


「…………これだ。この太さ、この瑞々しさ。これなら、あの濃厚なスープに沈めても、決してその存在感を失わない」


「主、草が生い茂りこの道は行き止まりのようですが……」


「ああ、これは【魔導キビ】だな。こいつを煮詰めて磨けば、酒と合わせて最高にコクのある『甘み』が作れる。これでようやく、あの『脂』をねじ伏せるタレが完成する」


 俺がホクホク顔で「貴重な食材」を回収していると、洞窟の天井を揺らす咆哮が響いた。

 この洞窟の主、大角牛グランド・タウロスが姿を現したのだ。


「主! 来ます!」


「……ああ、ちょうどいい。『脂』と『骨』が向こうから歩いてきてくれたな」


 俺の目には、もはやそれは脅威ではなく、「最高の一杯を作るための材料」にしか見えていなかった。


「……せっかくの極上肉だ。傷をつけずに仕留めるとしよう」


 俺は無造作に右手を上げ、逃げ場のない重力魔法を静かに起動させた。

「もし面白いと思ったら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、おじさんが喜びます!」


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