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第7話 最高の水は、魔法だけでは作れない

「……ふわぁ。よく寝た」


 小屋の入り口では、銀色の毛並みを朝日に輝かせたガウルが、俺が目覚めるのを今か今かと待っていた。俺が身を起こした瞬間、彼はシュタッと音が出るほどの勢いで立ち上がり、深くこうべを垂れる。


「……おはようございます、あるじ。目覚めの一杯ご用意しましょうか?」


「……主、ね。昨日も言ったが、ただの『設定変更』だ。そんなに畏まるな」


 昨夜、ホットドッグを平らげた後。俺はガウルの魂にこびりついていた「野生ゆえの魔力の乱れ」を、精密操作で整えてやった。特定の音――『ガウル』という名前に魔力の波形を紐付け、暴走していた力を最適化したのだ。仕上げに、手近な木杯に汲んだ水で、「これからもよろしくな」と、日本流のさかずきの真似事をして飲み交わした。


 ただのシステム再構築と、親睦の儀式のつもりだったのだが。


「滅相もございません。名を与えられ、この散漫だった力が一点に収束する感覚……。さらには貴方様と同じ杯の水を飲み、魂の格の違いを叩き込まれました。私は今、己が『主の猟犬』であることを魂の底から理解しております」


 黄金の瞳に宿る、狂気的なまでの忠誠心。……どうやら俺は、壊れたサーバーのパッチを当ててやるくらいの軽い気持ちで、最強の忠犬をアクティベート(起動)してしまったらしい。


「わかった、わかった。……それよりガウル、顔を洗いたい。水魔法で出すのもいいが、どうも味気ないんだよな」


「心得ております。主、こちらへ。貴方様の喉を潤すに相応しい、最高の水場へ案内いたしましょう」


 ガウルの案内に従い、拠点の裏手に広がる森を数分歩く。

 すると、さらさらと流れている鏡のように透き通った小川が見えてきた。


「……いいな。ここは温度が低い」


 手を浸すと、刺すような冷たさが心地いい。魔法で生成する水は純粋すぎるのか、どこか無機質な味がするが、この川の水は土壌のミネラルを含んだ「生きた」味がした。


 ふと、水面の下で何かがキラリと跳ねた。


「……魚か」


「はい。こいつらは素早いですが、味は最高ですぞ」


 ガウルが前足で器用に水面を叩くと、一匹の大きな銀色の魚が陸に打ち上げられた。イワナに近いが、体側に七色の斑点がある。そいつは空中で口を大きく開くと、鋭い水鉄砲を俺の顔目掛けて放ってきた。


「おっと、水圧カッターの真似事か。威勢がいいな」


 俺は魔力膜でそれを弾き、即座に指先から魔力を放出した。魚の鮮度を落とさないよう、一点集中で『氷結』させる。


「……おじさん流の『活け締め』だ。鮮度が命だからな」


 俺はそのまま、ガウルに協力してもらい、小川から小屋まで『水路』を引き始めた。


「主、土を削るだけなら私が爪でやりますが?」


「いや、ただ掘るだけじゃ小屋に着く前に水が土に吸われて消える。……ガウル、その小川の下にある粘土質の土を掘り出して、この砂利と混ぜてくれ」


「承知いたしました!」


 俺はガウルが運び込んだ粘土に、適度な砂利を配合していく。土系コンクリートの要領だ。それを魔力でU字型の溝にプレス成形し、仕上げに指先から精密に制御した熱量を流し込んだ。


「……ほう、粘土を焼いて、その場で石(陶器)に変えた……!? 建築魔法の真似事にしては、あまりに緻密だ……」


 ガウルが感心したように喉を鳴らす。

 ただ掘るだけじゃない。内壁を焼き固めて陶器化セラミック・コーティングすることで、浸透によるロスを防ぐ「完璧な導水路」の完成だ。俺にしてみれば、現場でU字溝を焼成しているような感覚なのだが。

 小屋の脇に、同じく内壁を固めた小さな生簀いけすを作り、捕まえた魚を放り込む。これで「いつでも新鮮な魚が食える」というQOLの基盤が整ったはずだった。


 だが、作業を終えようとしたその時。ガウルが突然、低く唸り声を上げた。


「……お待ちください。風の匂いが変わりました」


 彼が睨みつけるのは、小川の上流。

 俺も鼻を動かす。先ほどまでの清涼な空気の中に、不快な……獣の脂と腐敗が混ざったような、ドロリとした悪臭が紛れ込んでいた。


「この匂いの主はわかるか?」


「はい。恐らくオークでしょう。それも、かなりの大群だ。奴ら、この綺麗な水を上流で汚してやがります。おそらく、この水を辿ってここへ……」


 俺は、せっかく作り上げたばかりの「手作りU字溝」を見つめた。

 せっかくの有給休暇。最高の朝食。それを、野蛮な連中に踏みにじられる。何より、俺のインフラを汚されたのが我慢ならない。


「……ガウル。オークってのは、燻製にすると美味いのか?」


「えっ? ……さあ、食べたことはありませんが、奴らの脂はしつこいと聞きます」


「そうか。なら、徹底的に脂を落として、香りのいい魔木のチップで燻してやればいいな」

 俺の言葉に、ガウルが少しだけ戦慄したように後退した。俺は、指先に魔力を集め、それを『圧縮』して小さな弾丸のような塊を作る。


「俺のライフラインを汚した代償だ。そいつらには、最高に『スモーキー』な結末を用意してやる」

 俺の目から、社畜時代の「締切直前の冷徹さ」が漏れ出していた。



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