第5話 長老の矜持、肉汁の前に霧散す
「……待て、まだ終わりじゃない」
俺は、ふっくらと焼き上がったコッペパンにソーセージを挟み、呆然とする長老の前で「仕上げ」の作業に入った。
まずは、小鍋でコトコトと煮詰めておいた『羊肉のミートソース』。余った赤身を魔力で叩き、森の酸っぱいベリーと野生のタマネギで煮込んだ特製だ。これを、ソーセージの隙間を埋めるようにたっぷりとかける。
さらにその上から、エルナが採ってきた黄色い花の種と里の蜂蜜を練り合わせた『ハニーマスタード』もどきを、流れるような線を描いて垂らした。
赤、黄、茶。そしてパンの黄金色。
視覚に訴えかける色彩の暴力に、静まり返っていた炊事場に「ゴキュリ」と誰かの喉が鳴る音が響いた。
「……さあ、完成だ。受け取ってくれ、長老さん」
差し出されたホットドッグを、長老は震える手で受け取った。
エルフの長い歴史の中で、これほどまでに「情報量」の多い食べ物が存在しただろうか。彼はしばらくその熱量に圧倒されていたが、やがて意を決したように、大きく口を開けた。
パキィィッ!!
ジュワァァァ!
静寂を切り裂く、あの快音。
ソーセージの皮が弾け、閉じ込められていた肉汁が噴き出す。それをふかふかのパンが余さず受け止め、ミートソースの濃厚な旨味とハニーマスタードのツンとした刺激が、長老の口内で完璧なシンフォニーを奏でた。
「…………っ!!」
長老の目が見開かれた。
杖を持つ手がガタガタと震え、あろうことかその場に膝をつかんばかりの勢いで、彼は二口目、三口目と食らいついた。
「な、なんという……! このパンの柔らかさは、まるで雲を食んでいるかのようだ! そしてこの肉! 溢れ出す雫が、パンの甘みと混ざり合い、私の知る『食』の概念を根底から覆していく……!」
高潔な長老が、口の端にソースをつけたまま、なりふり構わず咀嚼している。
その姿に、周囲の戦士やエルフたちが騒然となった。
「長老!? 本当にそんなに美味いのですか!?」
「バカ者! 黙って見ておれ……むぐっ、美味い、美味すぎるぞ……! これだ、これこそが我らエルフが失っていた、命の躍動そのものではないか!」
長老が最後の一口を惜しむように飲み込んだ瞬間、俺の周りで待機していた風の精霊たちが、祝福するように一斉に光り輝いた。
「……よし、じいさんも満足そうでなによりだ」
俺がそう呟くと、エルナが待ってましたと言わんばかりに、身を乗り出してきた。
「さあ! 執行者、私のも! 私の分も早く作って! 精霊たちもお腹を空かせて待っているわ!」
彼女の言葉を合図に、炊事場は一気に熱狂の渦へと叩き落とされた。
俺は「やれやれ」と肩をすくめながらも、神チューブの動画を脳内でリピート再生する。
「……わかった、わかった。全員分、焼き上がるまで待ってろ」
その日の夜。
エルフの里には、これまでの静寂が嘘のような、香ばしい匂いと笑い声が溢れていた。
キャンプファイアの周りで、エルフたちがホットドッグを頬張り、精霊たちが踊る。
俺は、里の特等席でエルフの酒を煽りながら、夜空を見上げた。
「……28連勤の後は、エルフの里でホットドッグ屋、か。悪くない休暇だな」
だが、この香りに誘われたのは、エルフや精霊たちだけではなかった。
森の奥深く、闇の中から、ソーセージの匂いを嗅ぎつける「招かれざる客」の気配を、俺はまだ知る由もなかった。
リアルで食べるなら、絶対液体チーズもかけたい、、、!
ということで、おじさんの次なるミッションはチーズの調達かもしれません。
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