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第11話 ミコシバ・インスパイア、着丼。――「ニンニク入れますか?」

 拠点の空気は、もはや「料理の匂い」という生易しいものではなくなっていた。

 魚醤の重厚な塩気、煮込まれた背脂の甘い香り、そして刻みたてのニンニクが放つ刺激臭。それらが混ざり合い、一つの「暴力」となって周囲の森へと染み出している。


「主、本当に……これを食べるのですか? 拠点の外では、エルフたちが『何か恐ろしい魔導実験が始まった』と武器を持って集まっていますが……」


 ガウルが冷や汗を流しながら報告に来るが、俺の耳には届かない。俺は今、目の前の「麺」と対峙していた。


 エルフの強力粉を魔法の圧力で練り上げ、数ミリの厚さに切り出した極太麺。茹で上がったそれは、飴色に輝き、うねり、まるで生き物のような躍動感を放っている。


「……よし。決戦だ」


 俺は温めておいた巨大な丼に、琥珀色のカエシを注ぎ、その上からドロドロに乳化した大角牛のスープを流し込んだ。液体と脂が混ざり合い、黄金色の層が表面を覆う。そこへ、茹で上げた麺を豪快に投入した。

 仕上げは「山」の構築だ。

 シャキシャキに蒸し上げた洞窟もやしを、麺が見えなくなるまで高く、天高く盛り付ける。


「……やはり、この『山』の脇を固めるのは、牛ではなくコイツの役目だな」


 俺は大角牛のスープで一緒に煮込んでおいた、【魔豚オーク】のバラ肉を引き揚げた。魚醤と魔導キビのタレが芯まで染み込み、箸で持つだけで崩れそうなほど柔らかい。それを分厚く、こぶしほどのサイズに切り分けた『ブタ』を二枚、山の麓に鎮座させる。


 牛の暴力的な脂と、オークの濃厚な肉の旨味。異世界の生態系を丼の中で無理やり握手させたような、まさにスペシャルな一杯。仕上げに魔法の粉(白い粉)を一つまみ、その上から雪のように背脂アブラを振りかける。


「……ガウル、最後だ。ニンニク入れますか?」


「は、はいっ!? 入れ……入れる、というか、既にもう、その……すり潰されたそれが、そこに……!」


 俺は無言で、刻みたてのニンニク(マシマシ)を山の麓へドサリと添えた。

 完成だ。ミコシバ・インスパイア、第一号。


「いただきます」


 俺は箸を割り、まずは高くそびえ立つヤサイをスープに沈め、底から麺を引きずり出した。「天地返し」――。スープを吸って茶色く染まった極太麺が、白いもやしの上に躍り出る。


 ワシ、ワシ、と麺を噛み締める。


 ……美味い。


 強力粉の暴力的なまでの弾力。魚醤のキレた塩気。そして、魔昆布から抽出した『白い粉』がもたらす、脳を直接揺さぶるような旨味の衝撃。


「…………これだ。有給休暇をすべて注ぎ込む価値が、この一杯にはある」


「ぬ、主……。そんなに必死な顔で……。私も、その、一口……」


 恐る恐る、ガウルが麺を一本、口にする。直後、彼の目が限界まで見開かれた。


「…………なっ、何ですかこれは!? 口の中が、旨味で、脂で、破壊される……! なのに、次のひと口が止まらない! これほど下品で、これほど高潔な食べ物が、この世にあるのですか!?」


 ガウルは槍を放り出し、獣のような勢いで丼にかぶりついた。

 拠点の外では、匂いに当てられたエルフたちが、門を叩き始めていた。


「御子柴様! 頼む、その『黄金の脂』の匂いの正体を教えてくれ! 腹が減って死にそうなんだ!」


 俺は無言で麺を啜り続ける。

 だが、俺はまだ気づいていなかった。

 この「背徳の香り」が、地上を越え、はるか天界で退屈していた「ある存在」の鼻腔をくすぐってしまったことに。

とりあえずエアロバイク30分から初めています。(本当は動きたくないでゴザル)


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