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第12話 条件付き寄付と炎上の第二波――“寄付規程 v1.0”で角を丸く

 朝礼。黒川センター長が三行で置く。


臨時査察(都・越境種対策課)通知

水凪みなぎ財団 面談 14:00

“条件付き寄付”対策:受入基準の公開化


「昨日の夜、“危険実演”の疑いで臨時査察。点火の可燃域外と**“点かない設計”を現地再現で説明する」

「二分四十秒の査察版**、用意済み」白石ユナ。

「午後の水凪財団は“命名権+VIP見学+点火3秒”を条件に一千万円の提案書。早期譲渡KPIも付いてる」甘粕隊長が紙を掲げる。

 胸のどこかがきしと鳴った。譲渡数は数字だ。でもそこに**“待つ”の時間**は入っていない。


 ぽか——H-27は匂い布にぐい。点かない朝。

 芹沢獣医が短く指示。「今日は“見せない練習”固定。感度を上げすぎない」



 午前十時、臨時査察。

 都の腕章が二名。

 わたしは査察版2:40のスライドを回しつつ、可燃域外(42–45℃)、安心相手特異性、失敗手順の先出し、“点かない夜”の設計を順に示す。

 外部介入ログ(先日の低周波)も監査印つきで提示。

「実個体の“点火実演”はしません。安全は“見せない”が中心です」

 対策課はうなずき、「当面の見学は“触らない見学”限定で運用。手順書を都のサイトにも掲出したい」と言った。

「公開でどうぞ。出典はセンター、改変可」白石。

 閉鎖は回避。けれど**“限定運用”**の判が押された。



 昼前。通知が赤く跳ねる。

《渋谷レオン:“富裕層向け 火のショー” 裏取り完了?》

 サムネに水凪財団のロゴ、“点火3秒・VIP”の文言。提案書の一部が切り抜きで流れている。

「先にリークされたね」白石が息で笑い、指先は速い**。「元データの日付が合わない。財団側の話題作りだ」

 電話が増える。

「税金と寄付でショー?」「黒字は“金持ち優遇”だからでは?」

 黒川センター長が短く言う。「午後の面談、公開に切り替える。寄付規程 v1.0、今から作る」


 ホワイトボードに六行が走る。


安全手順への不可侵(寄付は安全網・設備・人件費へ。“展示”へは不可)


選定への不可侵(里親の選考・順番はセンター。寄付額との連動禁止)


命名権の限定(設備名のみ。部屋・個体への命名禁止)


VIP見学の不可(見学は抽選。顔出し配信は申請制)


KPIの定義(譲渡数でなく再入所率↓/鳴き→沈静時間↓/“点かない夜”率↑)


“返金=辞退の導線”(寄付も返金可。恥ではない。不一致なら返す)


 タイトルは**『寄付規程 v1.0(公開案)』。CSVの寄付台帳に“拒否案件”**用の欄も増やす。

「**寄付にも“辞退の導線”**を」わたしが言うと、甘粕が「良」と一言。



 14:00、会議室A。水凪財団の担当・天草が現れた。柔い声と抜け目ない笑み。

「素晴らしい活動です。スケールには資金が要る。私たちは社会のために**“点火3秒”の学術的デモを——」

「学術であれば論文と査読を。実個体の点火実演は方針上しません**」わたし。

「VIP見学で寄付者のエンゲージメントを」

「不可です。抽選で公平に。顔出しも申請制」白石。

「命名権はどうでしょう。“水凪ホール”とか」

「設備名のみ可。個体名は不可」黒川。

「譲渡数にKPIを置けば効率が上がる」

「“点かない夜”率と鳴き→沈静時間で効率を見ます。譲渡の早さは安全の敵です」芹沢。


 天草は肩をすくめた。

「世論は強い絵を求めます。あなた達の善意は伝わりにくい」

「絵の代わりに**“手順”を出します。二分四十秒に収まる絵で」

 沈黙が一拍。天草は微笑みの角を落とし、紙を置いた。

「では、我々の提案は保留で。条件は変えません**」

「当センターも。受入不可、公開で記録します。“返金=辞退”の同意文をご確認ください」

 寄付規程 v1.0に双方の署名欄。“受領不可/返金済”の印影が押される。

 断るための文書は、角を丸くする。



 面談の一時間後。

 ダイジェストが上がる。

『寄付は“見えるもの”へ——寄付規程 v1.0 公開(2:40)

 ・安全手順/選考/見学の不可侵

 ・設備命名のみ可

 ・KPIは**“点かない夜”率ほか

 ・拒否案件ログを寄付台帳に併記(CSV)

 ・返金=辞退の導線付き』

 寄付台帳のCSVと拒否案件の記録がQR**で流れる。


 同時に、渋谷レオンの新着。

『“規程で隠す”センター。条件拒否の裏に何が?』

 白石は三行で返す。

『隠しません。

 拒否案件は台帳に記録、公開しました。

 条件は安全と公平に不可侵です。』

 コメント欄に、市の対策課公式が追記してくれた。

《臨時査察済。見学は“触らない”限定で継続》

 怒号の角が、掲示で丸くなる。



 夕刻。母娘から動画。

《“点かない夜”の歌で宿題をしたらケンカが減った》

 江藤さんからも一行。

《“寄付にも返金の導線”、貼りました。孫が**“かっけぇ”と言います》

 合言葉は家の壁**に増えていく。



 夜、ぽかの前。

 扉は閉め、座って聞く。

 ひゅは来ない。無点火。

 ログに**“限定運用:触らない見学/無点火(良)/鳴き0”と記す。

 甘粕が肩越しに言う。

「明日、予算委の付帯決議が来る。“寄付規程を市の標準に提案せよ”になるかもしれん」

「なら、公開で寄付説明会をやりたい**」

「やるならライブで。里親募集生配信の前座だ」白石。

「荒らしは?」

「“合言葉”でコメントを整流する。“座って聞く”と“触る前に待つ”しか読めないモード、実装済み」



 公開ログを石板に刻む。


『条件付き寄付・炎上第2波 対応

 ・臨時査察:閉鎖回避/“触らない見学”限定で継続

 ・水凪財団:VIP見学・点火3秒・譲渡KPI→受入不可(寄付規程 v1.0に基づく)

・公開:寄付台帳CSV+拒否案件ログ

・FAQ:“寄付はどこに使われる?”/**“命名権の範囲は?”**追加

・問い合わせ:里親講習 5/寄付説明 12

・事故0/苦情0/返金1(寄付:受入不可→返金済)』


 黒川センター長が印を押す。

「次は**“寄付の公開説明会”、そして“里親募集 生配信”で反転だ。2分40秒で温度を下げる**」


 白石が予定表に二本の赤線を引く。

『配信①:寄付の使い道オープン(CSV・誰でも試算付き)/配信②:里親募集ライブ(“触らない見学”のみ)』

 芹沢は安全網の配置図を描き直し、甘粕はコメント整流モードを実地で試す。

 わたしは手順の歌カードを整え、合言葉の札を磨いた。


 合図は歌ではなく沈黙で。

 鳴いたら座る。触る前に待つ。

 寄付も里親も、“返金=辞退”の導線を真ん中に。

 ——討伐ではなく保護の物語。火ではなく温度、怒号ではなく半歩。

 東京は回る。ぽかは眠る。

 次回、配信で反転する。


(第12話 了/つづく)

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