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Case09「第零課の影」
路地を抜け、肩で息をしながら振り返った。黒い煙の残滓は消えたが、残された無線機はまだ断続的に音を吐いていた。
『……第零課より指令。目撃者を優先。対象コード:シグマ』
……第零課? 俺は思わず息を呑んだ。聞いたこともない部署名だった。
「やっぱり……最初から仕組まれてたんだ」悠斗の声が震える。
その時、頭上でカメラのレンズがわずかに光った。街灯に紛れて、監視が張り巡らされている。
彼女はただの“加害者”じゃない。組織的に追い詰められているんだ。
悠斗が拳を握りしめた。
「僕、もう逃げません。あの人を見たのは僕だけだから」
告城さんが短く頷く。
「なら、俺たちも覚悟を決めるしかないな」
だが次の瞬間、背後の暗がりで靴音が重なった。
振り返ると、黒いコートの人物がただ一人、こちらを見ていた。
街灯に照らされたその目は、冷ややかに笑っている――虚像を操る側の人間の目だった。
胸の奥で、再び“助けて”の声が響いた。
俺たちはまだ入口に立ったばかりだ。真実は、もっと深い闇に埋もれている。