Case07「切り取られた証言」
「どういうことだ?」
問いかけると、少年は一度ためらい、震える声で名を告げた。
「……高瀬悠斗。僕、彼女を見ました。テレビが言ってるような“加害者”じゃなくて、怯えて助けを求めるただの人でした」
名倉マスターが温かいココアを差し出す。
「落ち着いて。順番に話してごらん」
カップを両手で抱えながら、悠斗はゆっくりと言葉を継いだ。
「今夜、第七街区のアーケードで……彼女は電話していました。“助けて”って。泣きそうで……。その後、交番の方へ早足で歩いていったんです」
胸がざわつく。報道では完全に無視されていた事実だ。
「証拠は?」と告城さんが低く問う。
少年はおそるおそるスマホを取り出した。
画面に映っていたのは、濡れた路面と提灯の赤。その奥でトートバッグを抱えた女性が振り返っている。背後には、傘を差した黒い影が小さく写り込んでいた。
「撮った直後に速報が流れて……“加害者逮捕”って。怖くて、交番に相談しました。でも“軽々しく言うな”って取り合ってもらえなくて」
告城さんは目を細め、低く呟く。
「インタビューでお前の証言が消されていた理由が、これか」
悠斗は拳を握りしめた。
「だから信じてほしいんです。彼女は悪くない」
その言葉に、胸の奥で再びあの“助けて”がよみがえる。
俺は思わず拳を握りしめていた。
——切り取られたのは、彼女の声か。それとも、真実そのものか。