Case06「声の在処」
夜の《トゥルリエ》は、コーヒーの香りと蛍光灯の淡い光だけが頼りだった。
非通知の通話が途切れた瞬間から、俺の胸はざわつき続けている。
「雑踏と……ブレーキ音、だったな」
告城さんが腕を組み、目を細める。
「都市部ならそこら中にある音だ。だが同時に“助けて”を発したとなれば、居場所を絞れる可能性はある」
名倉マスターがカウンター奥から一枚の地図を持ち出す。第七街区の詳細地図だった。
「今夜、祭りの設営で通行止めになってる道路がある。その付近は普段より雑踏が多い。ブレーキ音も妙に響きやすいはずだ」
赤ペンでいくつかのエリアが丸で囲まれていく。
俺は思わず拳を握りしめた。
「じゃあ、そこに……!」
「早まるな」告城さんが俺を睨む。「黒瀬が作ってる“物語”に飲まれたら終わりだ。俺たちが探すのは《真実》だ。彼女を追う奴がいるなら、証拠ごと引きずり出す」
言葉に、血が熱くなる。
だが次の瞬間、店のドアが不意に開いた。
雨に濡れたような姿で立っていたのは、ひとりの少年だった。
中学生くらい。どこかで見たような顔……ニュース映像の“近隣住人インタビュー”に映っていた子だ。
「……僕、彼女さんのこと、知ってます」
震える声。だがその瞳は、真っ直ぐ俺を捉えていた。
「テレビの言ってること、あれ……真実じゃないんです」