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嘘が正義の世界で、“真実”を叫ぶ明証師  作者: 真野はるえい
第2章:優しい嘘の始まり
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Case04「"助けて"の嘘が生んだ真実」

 その日の喫茶トゥルリエは、午前中から雨だった。

 しとしとと降る雨音を聞きながらカウンターで食器を拭いていると、扉が軋むような音を立てて開いた。


「……あの、ここ……明証師さんがいるって、ネットで……」


 現れたのは、中学生くらいの男の子だった。制服は濡れて、髪もぺったりと額に貼りついている。

 怯えたように目だけを動かし、店内を見回している。


「いらっしゃい。お前が依頼人か?」


 奥の席で新聞を読んでいた告城さんが、低い声でそう言った。

 少年はびくっと肩を震わせてから、こくりとうなずく。


「名前は?」


「……高瀬、悠斗……です」


 声がか細くて、聞き取るのがやっとだった。



「それで、今日は何の用だ?」

「……助けて、ほしいんです」


 悠斗くんは、膝の上で握った手を震わせながらそう言った。

 告城さんは何も言わず、名倉さんが静かにホットココアを置く。


「誰に助けてほしい?」と俺が尋ねると、彼はうつむいた。

「……学校で、いじめられてて……。でも、ぼく、言えなくて……」


 声が途切れ途切れになりながらも、断片的に話す。

 不良グループに目をつけられ、毎日のように暴力を受けている。

 先生にも、親にも、言えなかった。


「だから……助けて、って……嘘をついたんです」


「嘘?」


「昨日……川に飛び込んで、死のうとしたフリをしました……。

 そしたら、みんな、ちょっとは心配してくれるかなって……」


 胸が締め付けられる。

 だけど、その“助けて”の嘘が、別の問題を呼び込んでいた。


「……今朝、その不良に呼び出されました。

 『もう一度やれよ』って。

 次は……本当に、殺されるかも……」



「涼真、廉、行くぞ」

 告城さんが立ち上がる。俺は慌ててスマホを手に取った。


「真柴さん、現場を確認しよう。黒瀬さんは――」


「情報は任せて。近隣カメラ、SNSも追うわ」


 黒瀬さんはノートPCを開き、指先を走らせる。

 悠斗くんの震える手を、名倉さんがそっと包み込んだ。


「大丈夫。ここにいる間は、安全だから」


 俺たちは悠斗くんの案内で、学校近くの河川敷に向かった。

 午後の雨は止んで、灰色の雲の隙間から光が差し込む。

 そこには、不良グループのリーダー格らしき少年が待っていた。


「おい、また来たのかよ、嘘つき野郎」


 彼は笑いながら悠斗くんを突き飛ばす。

 心臓がざわつくのを感じた瞬間――


「そこまでだ」


 告城さんの低い声が響いた。



 俺たちは悠斗くんを庇い、告城さんが不良少年と対峙した。

 だが、その瞳は予想外に怯えていた。


「お、おれ……殺す気なんて……!」


 彼のポケットからは、濡れたナイフが落ちた。

 悠斗くんが悲鳴を上げる。

 その瞬間、真柴さんが少年を押さえつけた。


「涼真、通報しろ!」


 俺は震える手でスマホを取り出し、110番を押した。


 ――そしてその夜。

 トゥルリエで報告をまとめる中、黒瀬さんが険しい顔で言った。


「……これ、数日前の未解決事件。現場は同じ河川敷」


 俺は画面をのぞき込み、息を呑んだ。


「助けて、の嘘が……本当の闇を引きずり出したのかもしれない」


 胸の奥に、冷たいものが広がった。


 次に現れる“真実”は、もっと重い――。

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