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死の対価、命の代償  作者: イカのお寿司
第一章 喰うもの、喰われるもの
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囁く声

灰が舞い、炎が燃え尽きた後も、部屋の空気は重たく湿っていた。斬ったはずの化け物の残滓は、壁や床に染みのように広がり、いまだ何かをうごめかせている。


「倒しきれてねぇな。核がどこかに残ってやがる。」


猟犬が歯噛みする。敵は肉体を持たず、影のように拡散する。完全に消し去るには、中心にある“核”を見つけ、破壊するしかない。


だが、その“核”は遼の近くに置ちていた。


まるで――わざとだ。


俺は一歩ずつ遼に近づく。彼の横にあった黒い塊は、心臓ほどの大きさをしており、どくん、どくんと不自然に脈打っていた。


「……これが核か?」


目を凝らすと、それは脈動のたびに“声”を漏らしていた。声――いや、囁きだ。耳ではなく、脳に直接届くような不快な周波。


《命と引き換えに…扉を開けろ……》


「……誰の声だ?」


《奴を起こせ……解き放て……》


声が遼を指しているのは明白だった。だが、遼は動かない。まだ意識は戻っていない。


「何を隠してるんだ、お前……」


ふと、遼の口元がわずかに動いた。微かに、息を吸い、吐いた。


そして次の瞬間、黒い塊が不自然に弾け飛んだ。裂けた内側から現れたのは――眼だった。


一つ、ただ一つの巨大な目が、俺を見ていた。


「――っ!」


視線が交わる。その瞬間、俺の中の何かがざわめいた。血が逆流するような錯覚。時間の感覚が歪み、過去と未来の記憶が一瞬だけ混ざる。


だが、それも一瞬のことだった。目は破裂し、黒い液体を床に撒き散らしながら完全に崩壊した。


静寂が戻る。


「……今のは、何だった?」


「見られたな。」


猟犬の声が背後から飛ぶ。


「お前が見たんじゃない。あれが“お前を見た”んだ。」


「……なんの意味がある。」


「やつらは探してる。扉を開ける鍵をな。」


俺はもう一度、遼の顔を見る。少年の表情は眠ったままだ。だが、その中に何かが潜んでいる。

きっと遼も――気づいている。自分の中に“何か”が眠っていることを。


「……ついでだ。最後まで見届けてやるよ。」


自嘲気味にそう呟きながら、俺は剣を鞘に収めた。


アジトの中に、再び重い沈黙が降りた。だが、外の闇はまだ収まっていない。

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