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第十四話 バーバラの幸せが僕の幸せ


 孤児院から城へと戻り、夕食を終え、自室でくつろぎながらエドガーは昼間の出来事を思う。



 ――バーバラ、すっごく楽しそうに笑っていたな。



 柔らかな眼差し。少し染まった頬。嬉しそうに輝く瞳。ぱちり、と可愛らしく震える睫毛まつげ

 何より、嬉しそうに楽しそうに笑うその表情。


「天使オブ天使。あれこそ、地上に舞い降りた極上の美と愛と調和の女神。僕の目に狂いは無かったな」

「そんな風に馬鹿になれるのは殿下だけですよね」


 ロミオが紅茶をエドガーの目の前に置きながら突っ込んでくれる。

 ただ、その声には少し覇気が無い。ロミオの案じる心が声ににじんでいることに気付き、エドガーはにっこりと笑って見せた。


「大丈夫だ。バーバラが、初めて僕以外の男と笑えていたんだぞ。しかも、あんなに可愛らしく。喜ぶべきことじゃないか」

「……」

「ダリオは皿職人で平民ではあるが、身分の獲得の仕方は如何様いかようにもある。何人か養子が欲しいと言っている貴族に心当たりもあるし、本気で二人が望むなら力添えしようじゃないか」

「……殿下」


 ロミオの声が微かに、本当に微かにだがとがる。

 責める様な声音に、エドガーは静かに首を振った。


「僕は所詮しょせん、バーバラの盾でしかなかったんだ。彼女が好きな男と添い遂げ、幸せになる。これは、僕の幸せでもある」

「……そんな、違います」

「ダリオは熱心で真っ直ぐだ。彼の師匠である職人にもちゃんと話は聞いてある。彼なら、貴族社会のルールも本気で学ぶ気持ちがあるなら乗り越えられる。後は僕が後ろ盾になれば」

「殿下っ。それは」

「僕はバーバラに幸せになって欲しい」


 力強く言い切ると、ロミオが気圧けおされる様に押し黙る。

 彼は本当にエドガー思いの従者兼幼馴染だ。いつもは淡々と冷徹にツッコミを入れて来ても、いざという時はエドガーの誠実な味方になってくれる。

 エドガーは恵まれている。家族仲も良好だ。変な王位争いも無い。王族としてのかせは数多くあれど、恵まれた環境にいるのは理解していた。


「バーバラが望むのなら、僕は喜んでピエロになるさ。あれだけ可愛らしく、優しく、気づかいにあふれているのにどこまでも凛々しく勇ましく、弱者を引っ張るカッコ良い背中を見せる女性など、そうはいないだろう?」

「……」

「僕は、元々バーバラへの態度が酷かった。世間もついにバーバラの方が愛想を尽かしたと見てくれる。バーバラよりも、僕の方に非難は向くだろうよ」

「……エドガー」


 ついに、ロミオの言葉から従者の壁が取れた。

 昔は、二人きりの時には必ず名前で、呼び捨てで呼んでくれていた。成長するにつれて、どこかでボロが出たら困ると、ロミオ自身が封印していたのだ。さみしく思っていたのは、ロミオには内緒である。


「エドガーはそれで良いのか? お前はバーバラ嬢が好きで好きで仕方がないんだろ?」

「それは好きさ。本当なら、僕の隣で笑ってくれていたらと願ってしまうほどに」

「だったら」

「それでも」


 静かに、けれどどこまでも貫く様に区切って、エドガーは気付かれない様に腹に力をめる。



「僕は、バーバラに心の底から笑って欲しいんだ」



 男にトラウマを持ってしまった幼少期。

 今も男に嫌悪を抱いている彼女。

 それでも、その嫌悪を乗り越えてげたいと思う人が現れたのなら、そちらと歩くべきだ。

 例え、エドガーがこの先、一生彼女の笑顔を近くで見られなくなろうとも。


「好きな人に幸せになって欲しい。僕の思いは、間違っているだろうか?」

「……いや」

「だったら、これで良いんだ。……明日、バーバラの背中を押そうと思っている」

「え。あ、明日?」

「ああ。こういうのは早い方が良い。卒業までは隠し通した方が良いだろうが、その後なら学校という狭い世界から抜け出している。何とでもなるさ」

「……エドガー」

「ロミオ。……出来るなら、君は最後まで僕と共にってくれると嬉しいのだけど」


 バーバラではなく、ロミオを縛り付けるとはエドガーも情けない。

 だが、彼には弱いエドガーの叱咤激励をこれからもしてもらわなければならない。立派に王族の務めを果たす者として。

 ロミオは何か言いたげではあったが、盛大に溜息を吐いて。



「……それこそ、願われなくても一緒にいるつもりですよ、殿下」

「あはは。ありがとう、ロミオ。……たまには今みたいに、前の口調に戻ってくれると嬉しいな」

「……考えておきます」



 再び元の口調に戻ってしまったロミオを淋しく思いながらも、エドガーは胸を撫で下ろす。

 安心し過ぎたせいか、その後にロミオがぼそっと何かを呟いたことには気付くことは出来なかった。



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