死之王アモン 後編
放浪編その18
新しい奥義を身に付けるためアラハタ村に向かったマヤたち。ミンフィスの街には続々と魔王軍がやって来る。
空飛ぶ絨毯で一気にユータス王国を横断するマヤたち。その目的は師匠のユキムラから最終奥義を学ぶことだ。
アラハタ村は極東のヤマト国とユータス王国を分断するように存在する、シュゲン連峰の麓にあった。
かつては別の場所に存在したが、バスカ火山の噴火から避難するため、一時的にユータス王国の王都付近に作られた仮設住宅に村人たちは住んでいた。そして、今は火山からなるべく離れた連峰の麓に村を再建したと聞いている。
「懐かしいですな。大体一年ぶりといったところですか」
ビャクヤの治療魔法で回復したユキマルだが、心の治療までは出来ない。初めての敗北は心に傷として残り続けているだろう。
「バスカ火山の噴火で村が消えたと聞いた時は慌てたものだがな」
マヤはなるべく先の戦いの話は避けていた。ユキマルならば乗り越えられるだろうが、自分からその話を振る気はない。
「僕はアラハタ村に行くのは初めてだから楽しみです!」
無邪気な弟の頭を撫でながら、アラハタ村で過ごしていた頃の話を聞かせてやった。ヤマト国を脱国して険しいシュゲン連峰を超え、アラハタ村に到着したこと。そこで初めてユキマルと会ったこと。そしてユキムラに師事して剣術の修行に明け暮れたこと。免許皆伝の許しを得て旅に出たこと。大陸剣術協会の試験で合格し上級剣士となって報告に戻ったこと。その後、再び旅に出たことなどを話して聞かせた。
「姉上は本当に旅が好きなんですね」
「ああ、それからロウランド王国でユキマルと再会し、一緒に旅を始めたんだ。ビャクヤ、お前と出会った頃だな」
「あっ!あの時のことは忘れてください!ちょっと魔法が使えるからと天狗になってたから」
「まあ、実際大した魔法使いだったわけだけどな。この旅で三人とも成長したと思ってたが・・・世の中は広い」
「アモン。とんでもない化け物でした。しかもあいつはまだ幹部の一人に過ぎない。私と姫様は何としても最終奥義を学ばなければ」
そう言うユキマルの頭に拳骨を落とす。
「姫と呼ぶな!と、言いたいところだが、アラハタ村ではみんながそう呼んでたな。しばらくお前の頭も殴れんな」
「マヤ様は本来なら本当に姫君なのですから、村に着いたらしばらく拳骨はもらえませんな」
「私に殴られることを喜びにするな!このマゾ男め!」
「おや、言っている間に到着したようですぞ」
ユキマルに言われて眼下を覗くと、以前と違う場所だが、村人たちが畑仕事をしているのが目についた。
「よし、ビャクヤ。ゆっくりと降りてくれ」
「分かりました!」
次第に降下してくる絨毯を、村人たちは興味深そうに眺めていたが、マヤの姿を見つけると歓声が上がった。
「マヤ姫様だ!」
「ユキマルも一緒だ!」
「あの子供はいったい誰なんだろう?」
「まさか、姫様の御子か!?」
「いや、良く見ろ!あんな大きな子供がいるはずないだろう!」
「しかし、我々と同じヤマト人のようだぞ!」
絨毯が着陸する頃には、村人たちが全員い並び、片膝をついて頭を垂れていた。筋肉隆々の村長、ゲンゾウが言葉を発する。
「お久しぶりです、姫様!再会出来たこと、お喜び申し上げます!」
「止してくれ、ゲンゾウ。私が姫だったのは昔の話だ」
「いえ、我々にとってあなた様は尊い御方!礼を尽くすことは当然でございます!」
ゲンゾウに続いて横に並んだ剣術の師匠、ユキムラも片膝をついている。
「ユキマルも久しいな!姫様をちゃんとお守りしていたのだろうな?」
その言葉を聞いた途端、ユキマルは刀を置き、その場に土下座した。
「すみません、師匠!先の戦いで私は敗北を喫しました!姫様の護衛として、恥じるばかりです!」
「ユキムラ師匠。相手は究極奥義でも倒せなかった魔王軍の幹部!ユキマルを責めないで頂きたい!」
マヤも片膝をつき、師匠に報告する。
「究極奥義が通じなかった?なるほど、それはかなりの手練れだ。ユキマルも恥じることはない」
ユキムラ師匠は柔らかな笑みで応え、責める様子はなかった。
「それで、アラハタ村に帰ってきたということは姫様、最終奥義を学びたいということですね?」
流石に師匠は察しが良かった。
「その前に申し上げておきます。サナダ流剣術で用いるのは魔力ではなく霊力です。ヤマト国が祀る龍神。その龍神の力が霊力なのです」
「え?師匠、それはどういう・・・」
「大陸では魔力のほうが通りが良いからその名を用いていましたが、サナダ流で鍛えられるのは霊力。その霊力を十全に使うのが最終奥義なのです」
「師匠、我々は最終奥義を学ぶことが出来るのだろうか?」
マヤが核心をつく質問をすると、ユキムラ師匠は静かに頷いた。
「姫様もユキマルもすでにかなりの霊力を養っている。後は呼吸法と瞑想で霊力のコントロールが出来るようにすれは良いでしょう」
その言葉にマヤは微かな希望を抱いた。
「ところで、姫様。そちらの御子は・・・」
ゲンゾウが恐る恐る尋ねる。
「ああ、私の腹違いの弟だ。名はビャクヤという」
「何と!それでは若様ですな!?」
「え?僕ってそんなに偉かったのですか、姉上?」
「まあ、ヤマト国では血筋が重んじられるからな。お前もショウグン家の血を引く特別な存在だ。最も、私が脱国した時には、その血筋が問題で後継者争いが起こっていたのだが」
「姫様と若様が来られたのだぞ!早速、宴の準備をするのだ!」
村長のゲンゾウが立ち上がり、村の衆に色々と指示を始めた。
「ゲンゾウ。私たちは修行するために来たんだ。宴は・・・」
「まあ、今宵は構わんでしょう。明日からびしびし指導させて頂きますゆえ」
ユキムラの言葉に、僅かに背中が寒くなるマヤたちだった。
集会場にみんなが集まり、カップを掲げて盛大な宴が催された。
「いやー、それにしても大したものですな、若様!その年で魔導士のBレベルを取得しているとは!」
「ふふふ、僕は天才だよ!いつの日か必ずAレベルになる!」
「頼もしいですな!さて、乾杯をしましょう!」
ビャクヤは村長と村の若い女性に取り巻かれて、気分良くビールを呑んでいた。
マヤも注意しようと思ったが、今はユキムラ師匠から剣の道について講義を受けていた。
「例えばこの割りばし。こいつに霊力を込めて強化すると」
ユキムラの動きは最小限だった。だが、割りばしの軌道上にあったカップが真っ二つになって転がった。
「凄い!これが霊力か!」
「霊力で刀を強化する。それだけでかなりの威力が得られます。最終奥義はその延長上にあります」
マヤとユキマルも真似をするが、カップがすっ飛んでゆくだけで、なかなか上手くいかない。
「大丈夫ですぞ、姫様。まずはさっき教えた呼吸法と瞑想に専念することです。明日はその最終奥義を見せてさしあげましょう」
ユキムラ師匠はにこやかにそう告げて、カップを傾けて酒を胃袋に流し込む。
幻だった最終奥義がいよいよ白日の元に晒される。マヤは胸が高鳴り今夜は眠れそうになかった。
魔王領のセイタンズから、武装したオークやオーガで構成された魔王軍が、続々とやって来る。市長のバルドー公爵は、港を取り仕切るロナルド辺境伯に、魔王軍の上陸を阻止するように命じた。勿論、出せるだけの衛兵の増援も行った。そして、万一に備えて同盟国であるヘリオン公国やロウランド王国に支援を要請していた。
「さて、我々も死ぬ気で戦うぞ!冒険者の意地を見せつけてやろう!」
鎧を着て万全の用意をしているルノー支部長が、ギルド支部の前でパーティーたちに演説を行っていた。
「とにかく、増援が来るまで持ちこたえるんだ!いつまで待てばいいのか分からないが、自分たちの街は自分たちで守る覚悟を決めてくれ!」
冒険者たちは剣や杖を持ち上げて賛同の声を上げた。その時、ギルド支部から受付嬢が慌てて飛び出して来た。
「た、大変です!ダンジョンの扉から魔王軍が現れました。どんどん数が増えてます!」
「そうか、ダンジョンの扉はまだ残っていたな!よし、みんな!中から現れたやつを仕留めてゆくぞ!」
ミンフィスの街は、これから戦場と化す。
宴の次の日から、早速修行は始まった。午前中は呼吸法と瞑想に専念し、午後はユキムラ師匠との手合わせだ。
木刀を持ったマヤとユキマルは、緊張した面持ちで師匠と向き合っている。
「それでは、いつでも、どちらからでも良いから、攻めてくるように」
ユキムラ師匠は穏やかに述べると、木刀をだらんと下げた無防備な状態で立つ。すると、未だかつてない緊張状態に襲われた。構えもしない師匠に打ち込むことが出来ない。
(何だこれは?明鏡反水に似ているが、荒々しい闘気の結界じゃない。しかし、遥かに濃密なエネルギーの流れを感じる)
「来ないなら、こちらから行きますぞ」
ユキムラ師匠がすり足で移動すると、膨大な白いエネルギーの塊が、ゆっくりと近づいてくる。
「くっ!ユキマル、行きます!」
ユキマルが痺れを切らして、師匠に向かって木刀を打ち込んでゆく。そして、次の瞬間には派手に吹っ飛ばされて地面に転がった。
(何だ!?今、何が起こった?)
ユキマルが倒れたので、師匠の身体がこちらを向いた。何とも言えない抑圧と攻撃の意志が漂ってくる。
(ええいっ!打ち込むしかない!)
マヤは覚悟を決めて、無防備な師匠に向けて木刀を振り上げ、突っ込んで行った。その瞬間、師匠の木刀が胴に向けられる。マヤは咄嗟に防御しようとしたが、次の瞬間には脳天目掛けて木刀が振り下ろされて来た。
「くぅっ!」
しかし、上から攻撃は来ず、籠手を打たれて木刀が地面に落ちた。
マヤとユキマルは両膝をつき、
「参りました!」
敗北宣言をした。
「ふむ。反応は良い。だが良すぎてもダメだ。敵の戦略に陥るだけだ。この最終奥義、虚心無双は水になることを重視するサナダ流の真骨頂。これを身に付ければ荒々しい攻撃を柔らかくいなし、静かな攻撃には同じく柔らかく包み込んで倒す。見た目は派手ではないが、これがサナダ流の最終奥義。敵はいても自分は動かない。次の瞬間には敵は倒れている。それが理想形です」
「はいっ!もう一度お願いします!」
マヤとユキマルは木刀を拾い上げ、再び師匠と向かい合った。
その頃、ビャクヤは一人でシュゲン連峰を登っていた。おあつらえ向きな平らな岩盤に辿り着くと、魔力探知を最大限に使ってミンフィスの状況を探る。思った通り、海と地上の両面から魔王軍の侵攻が始まっていた。
「待っててよ、みんな!すぐに助けに行くから!」
ビャクヤは身体の向きを変えると、遥か遠くの岩山に向けて最強攻撃魔法を打ち込んだ。
「エンダローダ!」
杖の先に積層魔方陣が展開し、太さニメートルの光のエネルギーが放出され、遥か彼方の岩肌に命中し、土石流が発生した。
エルフの最強攻撃魔法。しかし、ビャクヤは独力で身に付けたので、本物に比べれば威力が落ちる。
「必ず!必ずこの魔法を完成させるからね!それまでみんな、待っててよ!」
ビャクヤの孤独な修行が始まった。
海からやって来る魔王軍は、ロナルド辺境伯の擁する二万の兵士によって、上陸を阻まれていた。一方、ギルド支部の地下からやって来る軍勢は、冒険者たちの決死な戦いにより、何とか均衡を保っていた。だが、そこに、筋肉隆々の赤い髪をした魔族が現れただけで、一気に戦局が傾いた。
「はっはっは!あくまで戦おうとするその意気や良し!このアモンが根絶やしにしてくれよう!」
「お、おい!あいつがアモンなのか!?」
「勇者パーティーを退けた魔王軍の幹部!?」
「みんな、怯むな!幹部でもどこか弱点があるはずだ!それを探るためにも戦いを継続するぞ!」
ルノー支部長が檄を飛ばすが、冒険者たちの動揺は拭うことが出来ない。これで終わりかと思った矢先、街の門から完全武装した一団が入り込んで来た。
「私は王都の聖騎士団、団長のリューンだ!助っ人に駆けつけたぞ!」
先頭にいる騎士が名乗りを上げた。圧倒的不利な状況に一筋の光明が見えた。
「ほう。ユータスの聖騎士団の噂は聞き及んでいるぞ!なかなかの強さだそうだな?このアモン様が直々に確かめてやる!」
ミンフィスの戦いはますます激しさを増してゆく。
アラハタ村に帰郷して、一ヶ月。修行は連日行われているが、マヤもユキマルも、未だに最終奥義の片鱗も掴めていない。
「むうっ!」
マヤは木刀を握ったまま地面に転がった。師匠の動きにどうしてもついてゆけない。ユキマルも反撃に会い、派手に地面に倒れた。
(普通の心構えではダメだ!攻撃に躍起になればなるほど、反撃も激しくなる!水の境地。サナダ流の真髄は水になるが如し!ということは!)
木刀を手に立ち上がったマヤは師匠と同じように、木刀の切っ先をだらりと下げた状態で、ひたすら無心になることを心がけた。すると、不思議なことに身体の奥底から膨大なエネルギーが湧き出してきた。
(これか!?これが霊力の高まりか?)
すると、ユキムラ師匠はマヤに向き直り、静かなエネルギーの塊を送り出す。二つのエネルギーがぶつかった瞬間、ユキムラ師匠の攻撃が雨あられと襲いかかってくる。だが、これは自分の心が生み出す幻だ。慌てず無心の状態を保っていると、無数の攻撃が減ってゆき、無防備に立つユキムラ師匠と対峙していた。
無意識に動いた木刀の突きを、ユキムラ師匠は緩やかに捌いた。
「やりましたな、姫様。それが虚心無双の極意です!」
すると、背後にユキマルが迫っていた。白いエネルギーに包まれ、無心の状態で近づくユキマルに、師匠は突きを放った。すると、緩やかな動きでユキマルの木刀が突きを受け流す。
「ふむ、よろしい。ユキマルも無心の境地で動けるようになったな」
師匠が木刀を下げたので、マヤとユキマルは大きく息を吐き出して、その場に座り込んだ。
「虚心無双の極意は攻撃は動かず、防御も動かない。白いエネルギー、即ち霊気に全てを委ねること。その初歩にようやく到達しましたな」
「最初は意味が分からなかったが、実際に霊気に全てを任せると攻撃も防御も、自動的に動く感覚だ。これが頭で考えず肌で感じとる極意か!」
「言うは易し行うは難し、ですな。この境地に至るのには骨が折れましたぞ」
「よし、早速手合わせと行こう。ユキマル、木刀を持て!」
「御意!」
木刀を持った二人の剣士は、身に付きつつある極意を確かなものにするべく、模擬戦を繰り返すのだった。
ミンフィスの街は八割がた、魔王軍によって制圧された。数が多いだけの軍勢より、圧倒的な強さを誇る一人の魔族に翻弄されていた。
「はっはっは!モアジェノサイド、マグナム!」
両手から魔力弾をばら蒔く魔族、アモン一人のせいで戦局はどんどん悪くなってゆく。全く桁外れの化け物だった。
他の魔王軍は衛兵や聖騎士団の活躍で何とか抑え込んでいるが、アモンが大暴れすると、その均衡も危うくなってくる。
「話には聞いていたが、あのアモンという魔族は桁外れだな。私は数合、打ち合っただけだが、その力量は図れないほどに強大だった。あれでは勇者パーティーが敗北したというのも頷ける」
「リューン殿!街の領土が次々に魔王軍に占領されてゆく!海からの攻撃は食い止められたようだが、街の中はもうギルド支部のある周辺以外はほぼ制圧されたのも同然だ!」
「むう。こんな時にルーパスたちが居てくれれば!」
「英雄パーティーですか?ふた月になるのにやって来ません!どんな強敵と戦ってるのかも分からない状況です!勇者パーティーもいつ戻ってくるやら」
「はっはっは!他力本願が過ぎるな、この街の冒険者たちは!」
よりにもよって、今一番聞きたくない声が辺りに響いた。赤い髪をした筋骨隆々の男が再び姿を現した。
「この俺と戦う気骨のあるやつはいないのか?」
アモンの後ろにはオーガやオークで構成された魔王軍が控えていた。
「この街は落ちたも同然。最後の抵抗をすると良い。派手に散るほうが潔いぞ!」
リューンとルノー支部長は剣を構えて徹底抗戦の構えだが、そこに能天気な声が響いた。
「あらあら、何をやってるの?冒険者や聖騎士団が魔族の軍門に下るつもりかしら?」
姿を現したのはミンフィスの市長で公爵のバルドー。そしてその娘のジョセフィーヌだった。
「うん?何のつもりだ、女。折角見逃してやったのに、わざわざ殺されに来たのか?」
「ひと月の間、隠れ住んでたけど、もうその必要はないわ!修行を終えた勇者パーティーが帰って来たんだから!」
その言葉を証明するように、ジョセフィーヌの後ろからマヤとユキマル、ビャクヤが現れた。途端にその場にいた冒険者たちから歓声が上がった。
「何だ、お前たちか。敗北から僅か一ヶ月。このひと月の間に何が変わったと言うんだ?」
「それはお前自身の身体で分からせてやる」
勇者パーティーの三人と、アモンに連れられた魔王軍が睨み会う。
「カリバーさん!魔王軍の連中は我々が引き受けます!そのアモンという魔族をお願いします!」
向かい合った軍勢の動きが慌ただしくなる中、アモンはマヤたちを見て警戒を露にした。
「ほう。どんな修行をしたか知らないが、まるで別人のようなエネルギーで包まれているな」
マヤとユキマルは刀の柄に手を置き、ビャクヤは飛行魔法で宙に浮き、魔王軍に向けて開戦の狼煙を上げた。
「エンダローダ、リフレイン!」
エルフの究極奥義が次々に連射されてゆく。ビャクヤはひたすら己の魔力量を増大させ強化する修行に明け暮れた。魔王軍の軍勢は瞬く間に消し飛ばされてゆく。
「それではこちらも始めようか」
マヤとユキマルはゆっくりと刀を抜いた。だが、切っ先は地面に向けて構えない。
「ぬうっ!構えもせんか!?どんな修行をしたか知らんが、まとめて消し炭にしてやる!」
アモンは両手を上げて攻撃を開始する。
「モアジェノサイド、マグナム!」
両手の平から放たれる魔力弾。だが、到達する前に白いエネルギーが僅かに揺らぎ、攻撃を受け流す。
「むうっ!新しい手品を仕入れて来たか!ではこれでどうだ!モアジェノサイド、アルファ!」
アモンの上半身から放たれた強烈なエネルギー波は、やはり白いエネルギーに軌道を逸らされてあらぬ方向に飛んでゆく。
「ちいっ!放出系がダメなら、直接この手で打ち砕いてやる!」
アモンは痺れを切らしマヤに向かって駆けた。
「ハンドレッドフィスト!」
両手の豪腕が目にも止まらぬ早さで打ち込まれて来るが、マヤの姿勢は変わらず、逆にアモンのほうが変幻自在に繰り出される剣撃に肝を冷やした。
「うおおっ!?何故だ?全く動いてないはずなのに、反撃がやってくる!」
その背後にはユキマルの姿があった。切っ先をさげたまま、緩やかに移動し、身体に任せた予想不可能な剣撃がアモンを襲う。
「ふんっ!俺の身体は多重結界で守られている!刀ごときに斬られることはない!」
アモンは両手を上げてわざと剣撃を受けたが、上半身が瞬く間に傷だらけになってゆく。
「ぐああー!何故だ?聖剣でもないただの刀が、何故俺の身体を傷つけられるのだ!?」
「霊力が刀全体に行き渡っている。どんな聖剣よりも強力だ」
マヤは注意が逸れたアモンの左腕を斬り飛ばした。
「ぐぅおわー!?」
アモンは背中から翼を生やし、上空へと逃れた。だが、その視線の先には杖を構えたビャクヤの姿があった。
「モアエンダローダ!」
修行でより強力になったエルフの最強攻撃を、究極にしたエネルギー攻撃だ。積層魔方陣が展開し、太さ二メートルの光のエネルギーがアモンを襲う。
「くっ、ゼロクルスファイド!」
アモンは魔族の究極結界を張るが、それは見事に打ち砕かれ、右半身を失った。地上に落下したアモンをマヤとユキマルが追い詰める。
「ま、待て!俺は見逃してやったろう?戦いはこれで終わりにしよう!」
白いエネルギーに包まれたマヤとユキマルは、無防備な状態のまま、死刑判決を言い渡す。
「街を乗っ取ろうとしたやつが、何をとぼけたことを言っている?我々冒険者にとって、貴様たち魔族は討伐する対象だ」
「・・・そうか。ならば俺の正体を見せてやる!」
アモンの身体が流動的になり、その身体が徐々に巨大化してゆく。
「むっ!?こいつはドラゴンだったのか?」
「道理で強いわけですな。形態は翼竜に似ているようですが」
「はっはっは!魔王軍に入る前の俺の名はヴィーヴィルだ!」
「中位のドラゴンか。翼竜だったフェルネクスより上ということだな」
「二人とも捻り殺してやる!」
「お前の正体がドラゴンであろうと、虚心無双は関係ない」
ヴィーヴィルは口を開けて炎を吐くが、白いエネルギーは全ての属性攻撃を無効化する。
「さて、引導を渡してやろう」
無防備な状態で近づくマヤとユキマルのエネルギーが合体し、ヴィーヴィルはその間に挟まれて逃げることも出来なくなった。
「むうっ!?何故だ!こんなエネルギーは知らんぞ!何故ドラゴンである俺が囚われている!?」
「簡単なことだ。西のドラゴンは炎がその源だが、東の龍は水を源にしている。そして、炎は水で消すことが出来る!」
マヤとユキマルは白いエネルギーで捕縛したヴィーヴィルを、閃光乱打で斬り刻んでゆく。
「ぐうおわー!」
ヴィーヴィルは断末魔の叫びを残して細切れになった。その圧倒的な強さに敵も味方も動くことが出来なくなっていた。
「みんな!呆けてる場合じゃないぞ!魔王軍を掃討するんだ!」
マヤの言葉で冒険者たちは我に帰って、戦いを再開した。大将を失った魔王軍は烏合の衆だった。戦況は再び変化して魔王軍の兵隊たちは、次々と冒険者と聖騎士団によって討伐されてゆく。虚心無双を解いたマヤとユキマルも、魔王軍が制圧していた地域に斬り込んでゆく。
半日をかけて魔王軍はあらかた片付いた。冒険者たちはオーガやオークの角や牙を収集している。後で換金するつもりなのだろう。
「姉上、終わりましたね」
空から降りてきたビャクヤは少し疲れた様子だが、まだまだ戦えそうだ。
そこに市長のバルドー公爵がやって来た。
「いやー、良くやってくれた、勇者パーティーのみなさん!あなた方には特別な報酬をお支払いしよう!」
「いや、冒険者として当然のことをしたまでですよ」
「でも、敵の首領はドラゴンだったわ。あんな化け物を倒すなんで凄い!」
公爵の娘、ジョセフィーヌが熱っぽい視線をユキマルに向けている。いつものパターンだった。
「そうだ、お父様!今夜は宴を催しましょう!他の冒険者や聖騎士団の方々にもお越し願って!」
「うむ、そうだな。ミンフィスを守ってくれた者たちに礼をせねば」
こうして、ミンフィスは街を上げての宴に酔いしれることになった。
閉店した読書カフェのカウンターに、ミルファは肘をついてワインを呑んでいた。
「やはりカリバーさんはただ者ではありませんね。あのアモンさんを翻弄して一方的に倒したのですから」
「推しが勝ってなによりかい?本当にルキフェル様に粛清されるよ?」
カウンターの上に寝そべった黒猫のジルは、気だるげに相棒に声をかける。
「正直、今回はいよいよカリバーさんも年貢の納め時かと思いましたが・・・」
ミルファはワインのグラスを揺らしながら、楽しげに語る。
「あれは凄いですね。ヤマト国の人間にしか使えない霊力という力。やはり魔王軍にとって厄介なのは英雄パーティーより勇者パーティーのようですね」
「それはどうかな?英雄パーティーにはあの「魔法殺し」がいるんだよ?」
「ええ。そうですが、英雄パーティーには、恐れるのは「魔法殺し」くらいですわ。でも勇者パーティーのほうは三人が全員とも驚異的な存在です」
「ふむ、魔王ルキフェル様の前に立ちはだかるのはどちらだろうね?」
「それは勿論、おっとこれ以上は不敬ですわね」
「もう十分不敬だと思うけどね」
こうして、ミンフィスの街から一つの店が消えたのだった。
放浪編その18でした。遂に最終奥義を身に付けたマヤとユキマルは次元の違う強さとなりました。実はドラゴンだったアモンも霊力という未知の力に翻弄され倒されました。さて、「煙幕のカリバー」はこれで一旦終了です。またお会いしましょう。




