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死之王アモン 中編

放浪編その17

地価四階までダンジョンを進めたマヤたち冒険者。そして、過去最強の敵との戦いが始まる

 死之王デスキングアモンは千年ぶりに高揚していた。かつて多くのエルフと人間の連合軍を葬ったダンジョンで、四階に辿り着いた者は少数だった。そして千年ぶりに四階のフロアボスと戦うパーティーがやって来た。

「ふはは。俺のところに辿り着けるかな、勇者パーティーは?まあ、まずは四階のフロアボスを倒さねばならんが、俺のところまでやって来るが良い。久しぶりに本気で戦える見込みのあるやつらだからな」

 アモンは玉座に座り、ワインのカップを手にマヤたちを待ち受けていた。


 地下四階に辿り着いたマヤたちは、マッピングしながら慎重に先に進む。

 飛び出す矢に底無し沼、ゴーレムと、他の階と変わらないトラップばかりだった。

「やれやれ、このまま順調にフロアボスのところに辿り着けそうだな」

 剣士のシウマが気を抜いた瞬間、その身体が宙に舞った。

「うおっ!?」

 ジャイアントスパイダーが糸を使ってシウマの身体を持ち上げ、自らの蜘蛛の巣に絡めてゆく。

「ちいっ、この階はAランクの魔物もいるのかよ!」

 コルトは駆け寄ると、ウォーハンマーを振り回して蜘蛛の巣を潰してゆく。

「ドライド!」

 アナが一般攻撃魔法を打ち込んで、シウマの身体は蜘蛛の巣から落ちてきた。

「動くなよ、シウマ!」

 ユキマルは抜刀すると、眼にも止まらぬ早さで刀を繰り出す。

閃光乱打せんこうらんだ!」

 ジャイアントスパイダーの糸は全て断ち切られて、シウマは地面に転がる。

「はあ、助かりました、ユキマルさん」

「お礼を言うのはまだ早いようだぞ」

「えっ!?」

 廊下にはジャイアントスパイダーの他にハンドレッドフット、スコルピオなどの魔物がひしめいていた。

「よーし、殲滅するぞ!全員油断するな!」

「「「おおーっ!」」」

 フロアボスの部屋の前の廊下で、力を上げての殲滅戦が始まった。


「さあ、皆さん!賭けてください!死之王デスキングアモンが倒されるか、それとも勇者パーティーが敗北するか?今のところ六:四で勇者パーティーの勝利が、勝っています!」

 読書カフェの店頭で、ダンジョンの戦いが賭けの対象となっていた。勿論、このような賭けは違法なのだが、市民の多くはこの手の賭けに目が無い。店頭のテーブルには銀貨や金貨が積み上がっていた。

「やれやれ。同胞が仕事中だというのに、不謹慎だね、ミルファ」

 店主の腕に抱かれた黒猫のジルが苦言を呈する。

「あらあら、ジル。これはアモンさんに頼まれてたのですよ。あの方も賭け事に目が無いお方ですから」

「だとしても、こんな公然と賭け事を催して良いのかい?」

「失認結界を張ってますわ。普通の市民の方は入ってこれますが、警備局やギルドの関係者は入って来れません」

「まあ、人を堕落させるのも魔族の仕事。これもありなのか」

「ええ。サポート役だけでは私も物足りないですからね。今回はダンジョンということで、賭けの対象としては悪くないですわ」

 ミルファが見上げると、空中に巨大なスクリーンがあり、ダンジョン内の様子を写し出していた。

「カリバーさん、期待してますわ」

「やれやれ。また危険なワードを」

 ジルは呆れてあくびを漏らした。

「アモンさんとカリバーさんの戦いではさぞ、盛り上がることでしょう」

 ミルファは飛びっきりの笑顔で、賭けの受け付けを楽しんでいた。


 あれだけいたAランクの魔物も、マヤたちとシウマのパーティーが全て討伐した。

「これがジャイアントスパイダーの牙、と。後でギルドに提出して報酬をもらわなきゃね」

 アナは嬉々として魔物たちの身体の一部を固有結界エアポケットに収納していた。

「もういいか、アナ?フロアボスの部屋に入るぞ」

 半ば呆れ気味のマヤが声をかける。

「あ、はい、すみません!私たち平均的なパーティーは、魔物を倒したらその証拠が必要なので」

 アナは立ち上がり、杖を構えた。全員が臨戦態勢になったところで、マヤはフロアボスの部屋の扉を蹴破った。

 黒い瘴気に満ちた部屋の奥。玉座に座っていた人物が立ち上がる。灰色の肌の黒い司祭服に身を包んだ人物が口を開いた。

「ようこそ、地下四階へ。勇敢なる冒険者の諸君。私は死之司祭デスプリーストのハンクと申す者。ここを通る資格があるか、審査させていただく」

 ハンクは手にした魔導書を突きだし、呪文を唱える。

「コリドーインフェルノ!」

 その途端、炎の道が顕現しマヤたちを捉えようとうねりながら接近してくる。

「アイシングラート!」

 ビャクヤは氷結魔法を発動し、炎の廊下をカチカチに固めてしまう。

「ほう。私の魔法を無効化するか」

 ハンクは今度は背後に無数の剣や槍を顕現させる。

「ソードホールウェイ!」

 数百に及ぶ剣が猛烈な勢いで飛び出すが、

「ヴァルサイド!」

 ビャクヤは最強結界で全員を包み込み、とんでもない勢いで飛んでくる剣や槍を弾き飛ばす。

「ビャクヤ、勝てそうか?」

 マヤの問いにビャクヤは両手を使って丸印を作った。

「最強魔法で終わらせます!ジャルバローダ!」

 ビャクヤの杖の先に積層魔方陣が展開し、太さ一メートルの光のエネルギーが迸る。

「ゼロクルス!」

 ハンクは魔族の最強結界で攻撃を防いで見せる。

「ふむ、久しぶりの強敵の訪問か。これは本気を出さねばなるまい!」

 ハンクは漆黒の杖を持ち上げ、暗黒魔法を繰り出す。

「モアジェノサイド!」

 放たれた暗黒のエネルギーはビャクヤの最強結界にぶつかり、表面にヒビが入る。

「最強結界にダメージを与えるとは!こいつは強いですよ、姉上!」

「私とユキマルも出ようか?」

「いえ、これは魔法使い同士の真剣勝負!僕にやらせてください!」

 ビャクヤは杖を突きだし、魔力を注いで結界を強化する。

「ならばこれでどうだ?モアジェノサイド、マグナム!」

 ハンクの手の平から連続して魔力弾が発射される。強化された結界も魔力弾の連続攻撃を受け、砕けてしまった。

「くっ!ヴァルトレス!」

 ビャクヤはエルフの最強結界を張り、魔力弾の連射も余裕で受け止めて見せた。

「むう、エルフの魔法を使うか!?規格外のやつめ!」

 ハンクの攻撃が止まったので、ビャクヤは機を逃さず、エルフの最強攻撃魔法を使う。

「エンダローダ!」

 積層魔方陣が展開し、太さ二メートルの光のエネルギーが迸る。

「むうっ!ゼロクルス!」

 ハンクも咄嗟に結界を張るが、それは砕かれ光のエネルギーを一瞬だけ浴びてしまった。左腕から煙が上がり、ダメージを与えることに成功した。

 しかし、既に多くの戦いをこなしてきたビャクヤは、エネルギー切れ寸前で片膝をついた。

「ビャクヤ!もう無茶はするな!後は私とユキマルに任せろ!」

 完全にギャラリーと貸していたシウマたちは、全員が深く頷いて賛同の意を示した。

「「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」」

 二人は闘気を解放して刀を構えた。

「むう、剣士たちよ。私の魔法に挑むか?」

 ハンクは両手を上げ、

「モアジェノサイド、マグナム!」

 魔力弾が両手から発射されるが、マヤとユキマルは地を駆けて二手に別れた。魔力弾は闘気によって流されて、直撃はしない。

 そして、ユキマルはハンクの背後を取った。

影縫死斬かげぬいしざん!」

「なにいっ!?」

 背後からの斬撃をかわせず、ハンクは左肩からザックリと刀で斬り裂かれた。

「むうっ、マグナム!」

 魔力弾が発射されたので、ユキマルは距離を取った。そして、マヤはハンクの死角から攻撃した。

十字連破じゅうじれんぱ!」

 しかし、右腕に握られた杖が攻撃を無効化する。

「ちっ!流石にアンデッドは不死性が高いな!」

「食らえっ!モアジェノサイド!」

 ハンクの杖から攻撃魔法が放たれるが、闘気の壁が結界となり、エネルギーはあらぬ方向に飛んでゆく。

「閃光乱打!」

 マヤの二刀流が縦横無尽に斬りかかるが、ハンクは結界を張り、全ての攻撃をいなした。

「マヤ様!横方向なら放出系の技も使えます!」

「よし、ユキマルに譲るぞ!」

御意ぎょい!」

 ユキマルの上段に構えた刀が、白い光を放ち始めた。

「行くぞ!一輪殲滅いちりんせんめつ!」

 マヤのほうに気を取られていたハンクはかわせなかった。凝集された破壊のエネルギーはハンクを飲み込み、遥か先の廊下の壁に穴を穿った。

「うおあー!」

 断末魔の叫びを残して死之司祭は滅びた。

 座り込んだビャクヤは拍手を送り、ある提案をする。

「姉上。魔力の消費が激しいです。期限まで三日残してますし、今日はここで休みませんか?」

 ビャクヤの疲労の色が濃い。シウマたちもダンジョン攻略で疲れているようだ。

「そうだな。結界を張り中にテントを立てるか」

「敵のダンジョンの中に泊まるんですか!?」

「流石に危険じゃないかしら?」

「うーん、まあ疲れてるのは確かだが」

 シウマたちは不安のようだ。

「大丈夫だよ。僕の張るフォートレスは核撃魔法でもビクともしないよ」

「まあ、ビャクヤさんがそう言うなら・・・」

 三人は不承不承ながら、提案を受け入れた。

 頑強な結界の中に二つの大きなテントが張られた。

「それじゃ、カリバーさん、ユキマルさん、ビャクヤさん、お休みなさい」

 アナがテントの外から声をかけてくる。

「ああ、君たちもゆっくり休んでくれ」

 マヤは挨拶を返して二人に向き直った。

「さて、残るは死之王、アモンだけだが」

「その配下だけでもかなりの強さでした。アモンの実力もかなり高く見積もったほうが良いでしょうな」

 ユキマルは刀を置き、忌憚ない意見を述べる。

「うむ。あのレライエと同じく千年戦争の頃の古株かもしれない」

「シウマたちは見学に回すとして、やはり我々三人がかりで当たったほうが良いですね」

「うむ。とりあえず四階層のフロアボスを倒したから、人質は返してくれるはずだが・・・」

「魔族の言葉にどれだけの信憑性があるのか疑問ですが」

「まあ、全ては明日だ。ゆっくり休んで英気を養わないとな」

 マヤは早々に膝枕で眠りに就いたビャクヤの頭を、愛おしそうに撫でた。


「ふん。勢いに任せず一旦休養を挟むか」

 ダンジョン内を映し出すスクリーンを見つめて、アモンはワインのカップを傾ける。

「用心深いやつらだ。それでこそ俺の敵として相応しい」

 アモンは空中に浮かぶ透明の球体に視線を移した。ジョセフィーヌは怒り疲れて眠っている。

「四階のフロアボスを倒してダンジョンをクリアしたから、これは返さんといかんな。まあ、ことここに至っては、もう人質は必要ない」

 アモンは玉座に背中を預けた。魔族に睡眠は必要ない。

「ふふふ、脆弱な人間が修行次第で我々、魔族と戦えるようになるのだからな。面白いものだ。だが、俺を楽しませてくれるかな?」

 アモンは牙を覗かせて凄惨な笑みを浮かべた。


 マヤは目を覚ましてブランケットをめくった。ビャクヤはマヤの身体に張り付いて眠りこけている。

「ビャクヤ、起きろ。朝だぞ、多分」

 何分、ダンジョン内にいるので今が朝か昼かも判然としないが、体内時計は朝だと告げていた。すると、ユキマルのほうが先に目を覚まして身体を起こす。

「おはようございます、姫様」

 挨拶をするユキマルの頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!今日はいよいよ魔王軍の幹部、アモンとの戦いだぞ」

「承知してます。その前に食事が必要ですな」

「うーん。おはようございます、姉上」

 ようやくビャクヤが目を覚ました。食事をするにはビャクヤの協力が必要だ。

「すぐに用意しますね」

 ビャクヤは杖を振るってテーブルや椅子を用意する。次いで調理用のテーブルと竈を用意する。そして食材が山と積まれた。

「後は任せるよ、ユキマル」

「はい、お任せください!」

 ユキマルは元素魔法と刻印魔法で作られたキッチンに立ち、まずは手を洗った。

「牛魔と野菜でスープを作ります。後はパンを焼きましょう」

 匂いに釣られたか、シウマとアナ、コルトもテントから出てきた。

「食事の用意も出来るのですね。私も手伝います」

 アナは手を洗って野菜類を使ったサラダの盛り付けを始めた。そうしてあっという間に朝食の用意が出来上がった。

「ダンジョンやクエストの食事となると、干し肉とパンが定番なんですが、こんな豪勢な朝食は初めてです!」

 シウマは感激した様子で感想を述べた。

「何よ、シウマ。私に言いたいことでも?」

 アナの鋭い視線から、さりげなくシウマは顔を背ける。

「いやー、何も言いたいことはないぜ。こんな朝食は初めてだから感激してただけだ」

「分かったわよ!次のクエストの時に目にもの見せてやるわ!」

 何だか分からないが、アナがやる気に満ちていた。

「さて、いよいよ今日は死之王、アモンとの戦闘だ」

 食事があらかた済んだところでマヤは口を開く。

「君たちは悪いが見学に回ってくれ。人質を返してくれるはずだから、その保護も頼む」

「それは異論ありませんが、四階層みたいに魔物がいる可能性もありますね」

「ああ、それは君たちにお願いしたい。魔王軍の幹部との戦いは熾烈を極めるからな」

 食事が済むと、軽い打ち合わせをし、全員がフロアボスの玉座の前に整列した。

「さて、それでは行くぞ!」

 マヤは刀を抜き、玉座を破壊した。すると扉が現れ、ユキマルがそれを蹴破る。

 そこは何も存在しない場所だった。地下ではないようだが、見上げても空も太陽も存在しない。そんな中に玉座が存在し、筋骨隆々の赤い髪を逆立てた人物が尊大そうに足を組んでいた。

「質問させてもらおう。貴殿が死之王、アモン殿かな?」

 マヤは刀の柄に手を置き、慎重に質問する。

「ああ、そうだ。俺がアモンだ」

 アモンはゆっくりと立ち上がる。背丈は二メートルはありそうだ。

「早速だが、人質を解放してもらおう」

「ん?ああ、そうだったな。お前たちは四階層を突破した。約束は守らねばな」

 アモンは空中に浮いていた球体を掴み、マヤたちに向けて放り投げた。シウマが慎重にそれをキャッチすると球体が破裂し、バルドー公爵の娘、ジョセフィーヌが現れた。

「本物のようです、姉上」

 ビャクヤの解析魔法は一瞬で答えを弾き出した。

「ふふん、約束は守るさ。ところで後ろの連中は加勢するのか?」

「いや、私とユキマル、ビャクヤの三人で戦う」

「ふん、賢明だな。あの程度では数分も保たないだろう」

 シウマたちは悔しそうな表情を浮かべながら、後ろに下がってゆく。

「さて、そろそろ始めるか?」

 アモンは腕を回し、余裕の笑みを浮かべている。

「姉上、あいつはとんでもない魔力量です!あのレライエと互角か、それ以上です!」

 ビャクヤは杖を構えて警告を発する。

 マヤとユキマルは刀を抜いた。一目見ただけで危険な存在であることは分かっていた。たが、あの悪の英雄レライエと互角以上となると気は抜けない。

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤも遊ぶ余裕などなく、いきなり最強攻撃魔法を打ち込んだ。積層魔方陣が展開し、太さ一メートルの光の束が直進する。

「ゼロクルス!」

 アモンは魔族の最強結界を張った。普通なら破壊出来るはずだが、アモンの魔力量が桁違いなので結界はビャクヤの攻撃を跳ね返した。

「やるな!今度は私が行くぞ!」

 ユキマルは摺り足で接近し、刀を振るった。

「閃光乱打!」

 最速の剣技に対しても、アモンの余裕の表情は崩れない。全ての剣撃を素手で弾き返して、反撃に転じる。

「ハンドレッドフィスト!」

 アモンの拳が音速で何発も繰り出される。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 流れる水の動きでアモンの攻撃を流すが、素手で刀を捌くアモンは桁外れの存在だ。

「ビャクヤ!あれは多重結界か?」

「はい!常時発動型であらゆる物理攻撃、魔法攻撃を無効化します!」

「ちっ!やはりとんでもない化け物のようだな!」

 マヤはアモンの背後に回った。無音で接近し刀を振り上げるが、アモンは振り向いてニヤリと笑う。

「俺に死角はないぞ!」

 アモンは両手から魔力弾を発射し、マヤとユキマルは闘気を解放してその攻撃に対抗する。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 闘気による結界を張るが、アモンの魔力弾はその結界を破って侵入してくる。

「なっ!?」

 刀で魔力弾を受け止めるが、長くは保たない。

「マヤ様!ここは私が!」

 ユキマルの刀が白く輝き始めた。

「この場所なら気を使う必要はないな!」

 上段から一気に刀が振り下ろされた。

万花爆砕ばんかばくさい!」

 凄まじいエネルギーの奔流がアモンに迫る。流石に素手では対処不可能のようで、両手を持ち上げて結界を張った。

「ゼロクルスファイド!」

 暗黒のエネルギーが凝集し、アモンの身体を包んだ。それは魔族の究極結界だ。そこに破壊のエネルギーが襲いかかるが、結界によって全て散らされる。

「はーはっはっは!なかなかの攻撃だ!俺でなければ防げなかっただろう!」

「バカな!万花爆砕が通じないだと!?」

 ユキマルは愕然としながらも、摺り足で後退してゆく。

「ならば、さらに威力のある攻撃を使うまで!」

「待て、ユキマル!無茶をするな!」

 マヤの言葉が届かないようで、ユキマルの上段に構えた刀が白く光り始める。

「食らえ、一輪殲滅!」

 万花爆砕の広範囲攻撃のエネルギーを、一点に集中する技だ。当然、万花爆砕より威力がある。

 太さ一メートルほどの白い光のエネルギーが、一直線に迸る。

「ゼロクルスファイド!」

 アモンは再び究極結界を張る。一輪殲滅のエネルギーがぶつかるが、ヒビ一つ入らない。

「なっ!?」

「今度は俺の番だな!モアジェノサイド、アルファ!」

 アモンは片手を上げ、暗黒のエネルギーを発射した。

「ヴァルサイド!」

 ビャクヤが咄嗟に最強結界を張るが、脆くも破壊され、ユキマルは直撃を食らって後方に吹き飛ばされた。

 全身から出血し、ピクリとも動かない。

「ユキマル!」

 マヤが呼び掛けるが返事がない。

「くっ!」

 マヤはアモンに視線を戻し、刀を上段に構える。

「カリバー。今のがお前たちの最強の攻撃と分かっている。それが破られてもまだ挑むか?」

「私はまだ破れてはいない!」

 アモンには大声でそう返すが、近くにいるビャクヤには小声で撤退命令を出した。

「私が一輪殲滅を打ち込んだら、全員を空間転移でミンフィスのギルド支部に連れて行くんだ」

「姉上は?」

「勿論、私もだ。勝機がない戦いで犬死にする気はない」

「・・・今回は完全に敗北というわけですね」

「生きていればまた挑戦出来る!やつも私たちを放ってはいないだろう。とにかく、一旦退却するぞ!」

「分かりました、姉上がそういうなら」

 小声でのやり取りを終え、マヤは前に出た。

「アモン!今から私が超究極奥義で攻撃する!」

「はっはっは!それはさっき破られただろう?」

「確かに破られた。だがユキマルは一刀流だが、私は二刀流だ!」

「ふん。さっきの攻撃の二倍の威力か?それは確かに全力で防御しなくてはな」

 口ではそう言うが、アモンにはまだまだ余裕がありそうだ。

 マヤの振り上げた二本の刀が白く輝き始める。闘気をありったけ込めて一気に振り下ろす。

「一輪殲滅!」

 太さ二メートルに及ぶ光のエネルギーが打ち出された。間髪入れず合図を出す。

「ビャクヤ、今だ!」

「はいっ!」

 ビャクヤは杖を振るって六人全員を空間転移させた。


「むうう、確かに凄まじいエネルギーだ!だが、結界も破れず耐えきったぞ!」

 エネルギーの奔流がなくなった時、マヤたちは全員姿を消していた。

「ちっ!謀られたか!最初から逃走するつもりだったとはな!」

 ほんの少しの怒りが収まった後、アモンは大声で笑い始めた。

「はっはっは!勇者パーティーとは誇大広告だな!さて、それではミンフィスの街は俺のものだ。煙幕のカリバーが破れた今、ギルドの冒険者で俺に勝てるやつはいない!」

 アモンはパチリと指を鳴らした。すると、その姿はミルファの店の前に移動していた。

「はっはっは!ミルファ、俺が勝ったぞ!賭けのほうはどうなってる?」

「多くは勇者パーティーに賭けてました。胴元の私は損をしませんが・・・」

 ミルファの顔にはなんとも言えない哀愁が漂っていた。

「何だ、冴えない顔をして。そうか、お前は煙幕のカリバーを推していたのだったな!」

「魔族としては喜ぶべきなのでしょうが、今の私は何だか心にポッカリ穴が空いたようです」

「やれやれ、薄情なやつだ。俺は煙幕のカリバーを破ったのだぞ?もう少し盛り上がったらどうだ?」

「カリバーさんは一時退却しただけですわ。あなたに完全に負けたわけじゃありません」

「ふん。やつらの最強の技を潰したんだ。カリバーも俺には勝てんさ」

 アモンは店の奥に引っ込み、連絡用の通信水晶の前に座った。念を込めると魔王領のセイタンズに繋がった。

『誰かと思えばアモンか。計画は上手く行ったのか?』

「これはベルゼバブ様。勇者パーティーも恐れをなして逃げ出しました。このミンフィスの街を占拠するので魔王軍を動かして頂きたいのです」

『ほう、流石は千年戦争の猛者よな。すぐに魔王軍を派遣させよう』

「ありがとうございます。それでは、俺はミンフィスの市長に無条件降伏を突きつけて来ます」

『うむ。その調子で他の街も落としてゆけ』

「はっ!言われるまでもなく」

 通信が切れ、アモンは街を掌握するために行動を開始した。


「というわけで、勝負に負けた。やつらはすぐに魔王軍を送り込んで来るだろう」

 ギルドのミンフィス支部で、みんなの前で発表をした。途端にギルド酒場は騒然となった。

「まさか、勇者パーティーが負けるなんて!」

「いや、相手は魔王軍の幹部。いつかこうなるとは思っていた」

 ルノー支部長は頭を振ってため息をついた。

「勇者パーティーが負けたんだ。やつらはすぐにでも魔王軍を派遣してくるだろう」

「バカな!この街の冒険者や王都の騎士団だけでは守りきれないぜ!」

「勇者パーティーも噂ほどではなかったということか!」

「カリバーさんよう!どう責任を取ってくれるんだ!?」

 怒りの矛先がマヤたちに集まり始めたが、ユキマルは刀の柄に手をかけて周りを睨んだ。

「ここはお前たちの街だろう!責任転嫁してる暇があったら戦の準備でもしろ!自分たちの力で街を守って見せろ!」

 ユキマルの鋭い視線を向けられると、誰もが目線を逸らした。自分たちが無茶を言ってることを改めて認識したようだ。

「そうよ!勇者パーティーの皆さんは私を助けるためにダンジョンを攻略した!あなたたちに同じことが出来るの?感謝こそすれ、恨み言を言うのは筋違いよ!」

 バルドー公爵の娘、ジョセフィーヌは大声で捲し立てた。冒険者たちは誰もが恥じ入り、下を向いてしまった。

 そのタイミングでマヤは口を開く。

「我々は最東部のアラハタ村に行く。師匠からまだ学んでいない最終奥義を習うつもりだ。どれだけの期間かかるか分からないが、必ずや身に付けアモンを倒す」

「その間は我々だけで戦わないといけないわけですね」

 ルノー支部長は肩を落としてため息をつく。戦力不足なのは明らかだからだ。

「我々がいない間に英雄パーティーが来てくれるかもしれない。すでに応援要請はしてあるのだろう?」

「はい。しかし、一月経ってもなしのつぶてですよ。あちらにも手強い魔族がいるらしくて」

「ふむ。では応援が来るまで何とか持ちこたえてくれ。我々もなるべく急ぐつもりだ。最悪の場合はロウランド王国に救援要請を出せば良い」

「ロウランド王国は確かに同盟国ですが、剣聖と聖魔導士は動いてくれるでしょうか?」

「あのお二方は直接は動かないだろう。その代わり援軍を送ってくれるはずだ」

 マヤは背を向けギルド酒場を後にした。敗北の味は苦かったが、これを糧にして更なる高みを目指すのだ。師匠のユキムラからは万花爆砕までしか学んでいない。最終奥義は経験を積み剣士としての成長が見られたら授けると言われている。マヤたちはこれまで数々の敵と戦い、生き残ってきた。剣士として成長はしているはずだ。

「さて。師匠は我々を認めてくれるかな?」

 ギルド酒場を出たマヤは、地面に敷かれたビャクヤの絨毯に乗り、一路、東へと向かった。





放浪編その17でした。まさかのマヤたちの敗北。ミンフィスは魔王軍の脅威に晒されることになります。そして、マヤたちは師匠のユキムラから最終奥義を学ぶため、アラハタ村に向かいます。次回、いよいよアモンとの最終決戦になります。お楽しみに!

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