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死之王アモン 前編

放浪編その16

貴族の娘を誘拐した魔族は、ダンジョンへの挑戦を迫った。ダンジョンをクリアしないと人質は帰って来ない。多くの冒険者のパーティーが挑戦するが・・・

 剣士、シウマは群がるアンデットを片っ端から斬り捨ててゆく。魔法使いのアナは拡散攻撃魔法で軍勢を削り、戦士のコルトはウォーハンマーで死者を片っ端から吹き飛ばす。

「このまま、下の階を目指すぞ!」

 シウマは最奥部の扉を目指した。百体はいるアンデッドを全部倒す必要はない。扉さえ抜ければ地下二階に進むことが出来る。アンデッドたちはこちらを消耗させるために配置されている。宝箱があるわけじゃなし、地下一階はスピードが命だ。

 三人が扉を潜り抜けると、自動的に背後は壁に変わり、下に降りる階段の前に到着した。

「地下二階。ここまでは前回も来れたが・・・」

「マップを出すわ」

 魔法使いのアナが空中に地図を出現させる。

「この階は矢が飛び出る部屋と、底無し沼ね。後はゴーレム」

 アナがマップの情報を読み取る。

「矢と沼は何とかなるとして、問題はゴーレムか?」

「タフなやつだからな。でも、ゴーレムを倒さないと、この階の守護者、死之剣士デスナイトへの挑戦権が得られない」

 シウマとコルトはもう何度も戦っている土人形を思い出し、げんなりとしていた。

「ほら、二人ともしゃんとして。ゴーレムは私が何とかするわ」

「頼もしいね。ゴーレムは土属性だから、木属性の魔法を使うのか?」

「その通り!多分、上手くいくわ!」

「しかし、この階はフロアボスが洒落にならんからな」

「もう、弱気になってどうするのよ!?ほら、行くわよ!」

 三人の冒険者は未だ誰も攻略出来ていないダンジョンに、果敢に挑んでゆく。


 国境の関所をほぼフリーパスで通ったマヤ・カリバー、ユキマル、ビャクヤの三人は、ようやくユータス王国に入った。この国の最東部には、異国人の村、アラハタ村がある。マヤたちの今回の旅の一応のゴールだ。

「村長のゲンゾウやユキムラ師匠は元気にしているかな?」

 馬車の中でボードゲームに興じながら、マヤは懐かしい名前を口にした。

「ゲンゾウはタフだし大丈夫でしょう。師匠に関しては心配する必要はないかと」

 対面に座っているユキマルは、口許に笑みを浮かべながら言わずもがなな返事を返す。

「僕はアラハタ村は行ったことありません。どんな人たちがいるんですか?」

 マヤの弟で、十歳で魔導士になったビャクヤがキラキラしながら疑問を表する。

「一応、みんな農民なんだが、誰もが武術の心得がある」

「冒険者なのですか?」

「いや、違う違う。ヤマト国では元々、農民でもいざという時に戦えるように武術の修行もしていた。脱国者で構成されているアラハタ村はその名残で全員が武術の修行をしているんだ」

「へー、面白そうですね。到着するのが楽しみです」

 会話をしている間に、馬車は乗り合い場に到着した。そして、馬車を降りた三人は何とも言いがたい違和感に気づいた。

「何だかやけに冒険者の数が多いな。冒険者の街と言われるスラッシュには、まだ遠いんだが・・・」

 街の中を剣や武具、魔法の杖を持った連中が行き合っている。そのうちの何人かがマヤたちの胸に光る上級者のブローチに気づいた。

「失礼、あなた方は勇者パーティーの方々ですか?」

 通りかかった剣士がそう声をかける。

「ああ、その通りだが、この街にはやけに冒険者が多いな」

「この先にギルド支部があります。そこで詳しいことを聞いてください。ああ、これでこの街にも光が戻るかもしれない」

 剣士はウキウキとした様子で去ってしまった。

「どういうことだ?」

「とりあえずギルド支部に行ってみましょう、姫様」

 そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!しかし、気になるな。とりあえず行ってみるか」

 三人は期待に満ちた視線を受けながら、ギルド支部に向かった。


 ギルド支部は酒場を併設した、ごく普通のビルだった。隣には宿舎もある。ギルド支部の扉を開くと、一瞬の沈黙があり、次いで大歓声が沸き起こった。

 マヤは首を傾げながら受け付けにIDカードを示した。

「失礼、マヤ・カリバーだ。支部長に会いたいのだが」

「は、はい!しばらくお待ちください!」

 受付嬢は顔を赤らめながら、カウンターの奥に消えた。再び戻って来た時には、随分と若いイケメンの男が急ぎ足でやって来た。

「し、失礼ですが煙幕のカリバー様ですか?」

「ああ、その通りだが」

「すると、そちらはユキマル様にビャクヤ様ですね!?ようこそギルド、ミンフィス支部へ!」

 マヤが指し出された手を握ると、ぶんぶんと上下に揺すられた。

「僕はミンフィス支部の支部長、ルノーです!英雄パーティーを待っていたのですが、同じく大陸に名を馳せた勇者パーティーの皆様なら、申し分ありません!」

「ルノー支部長。聞かせて欲しいのだが、何故この街は冒険者が多いんだ?それに我々の歓迎ぶりが過剰だ。一体何があったんだ?」

 マヤに指摘されると、ルノー支部長は慌てて手を離し、手近なテーブルを指し示した。

「それでは説明させていただきますので、どうぞこちらに」

 マヤたちがテーブルに着くと、ルノー支部長は口を開いた。


 およそ三ヶ月前です。この街に魔族が現れました。もちろん魔族自体は珍しくないのですが、その魔族、死之王デスキングのアモンは市長でもあるバルドー公爵のご息女であるジョセフィーヌ様を拐いました。そして挑戦状を叩きつけてきたのです。「我がダンジョンに挑戦し、クリアすれば俺と戦う権利をくれてやろう。地下四階に達すれば人質は解放される。さもなくば街は常に魔物の脅威に晒されるだろう。期限は三ヶ月だ!」と。その宣言通り、ミンフィスの魔物の出現率が高まりました。街に冒険者が多いのは、魔物討伐のため、他の街に応援要請したからです。しかし、未だダンジョンをクリアした者はおらず、街には魔物が溢れています。そこで英雄パーティーに協力を要請したのですが、あちらでも手強い魔族が出現しているらしく、要請から一月経っても未だ来てもらえない状況なのです。そこに運良くあなた方、勇者パーティーが来られた。これが運命でなくて何でしょう?どうか、お願いします!ダンジョンを攻略し、バルドー公爵のご息女、ジョセフィーヌ様を助け出して欲しいのです!


 一気に語ったルノー支部長は、受付嬢の差し出すカップの水を、一息に飲み干した。

「なるほど、事情は分かった。それで今までダンジョンを制覇した者はいないのだな?」

「はい、残念ながら。しかもふざけたことに、ダンジョンの中で死んだ者は、入り口に転移して生き返るのです。アモンという魔族は我々冒険者をコケにして喜ぶサディスト野郎です!」

「しかし、生き返られるのなら、マップを使って再チャレンジ出来るのだろう?かなり有利に思えるが、それでも制覇出来ないのか?」

「罠の類いは通常のダンジョンと変わりません。厄介なのは各フロアに数体いるゴーレムとフロアボスですね。これはAランクの冒険者でも骨が折れる強敵で、地下四階までのうち二階でリタイアする者が続出してます」

「その地下二階のフロアボスとはどんなやつだ?」

死之剣士デスナイトです。生前は剣の達人だったのでしょう。善戦したのは我が支部のAランクのパーティーです。おーい、シウマ!」

 ルノー支部長の呼び掛けに応じてやって来たのは、剣士と戦士、魔法使いの三人組だった。

「どうも、煙幕のカリバーさん。お噂はかねがね聞いてますよ」

 三人組は罰の悪そうな顔で、マヤたちの元にやって来た。

「ふむ、なかなかの実力者のようだな。君たちでもダンジョンの攻略は難しいのか?」

「そこらにあるダンジョンが初心者向けに思えるほどですよ。最も、この街にあるダンジョンは生き返られるので、その点は気持ちが楽ですが」

「ふむ、危険だな」

「え?」

「死んでも生き返る。それが当たり前になると、本物のダンジョンやクエストで無茶なことをやりかねないからな。死之王アモンという魔族の狙いはそれかもしれない」

 マヤの言葉に冒険者たちは、ざわざわと騒ぎだした。思い当たる節があるのか、下を向いてしまう連中もいる。

「確かにその通りです。Aランクにも満たないパーティーも、どんどんダンジョンに挑戦し

ています。今後はそうならないよう、お触れを出すことにしましょう」

 ルノー支部長は受付嬢に指示を出して掲示板に、ダンジョンに挑戦出来るのはAランク以上のパーティーに限るという、お触れ書きを貼り出した。

「カリバーさん。俺たちのパーティーも一緒に行って構いませんか?」

「勿論構わないが、命がけという境地は忘れるな。殺されたらそれで終わりと思うんだ」

「分かってます!アナ!コルト!今度こそはクリアを目指すぞ!」

「ええ、私もありったけの魔力を使うわ!」

「俺のウォーハンマーでアンデッドたちは全員吹き飛ばすぜ!」

 シウマたちの戦意も上がっている。

「それで、ダンジョンの入り口はどこにあるんだ?」

 マヤの問いに、ルノー支部長は困った笑顔を見せた。

「それがですね・・・実はここの修練場にあるんですよ」


 マヤとユキマル、ビャクヤはルノー支部長に続き、シウマたちはさらにその後ろを歩いてゆく。汗の匂いのしそうな修練場の片隅に、重厚な黒い扉が存在感を主張していた。

「この扉を開けるとすぐに地下への階段があります。地下一階はアンデッドの群れがひしめいてます」

「物量作戦か。まあ、Aランクのパーティーなら通り抜けるのはそう難しくはあるまい。とはいえ、全員油断するな!」

 マヤは扉を開いた。護衛のユキマルが先導し、シウマたちが後に続く。ダンジョン攻略が始まった。


「ほう。噂の勇者パーティーがダンジョンに挑戦するようだぞ。さて、攻略出来るかな?」

 ミンフィスの商店街の一角、読書カフェのカウンターに筋骨隆々の男が座っていた。

「あらあら。英雄パーティーより先に到着しましたか」

「残された期限は後三日。勇者パーティーが評判通りの連中なら、地下四階も突破出来るかもな」

 邪悪な笑みを浮かべるアモンの横に、拘束魔法で自由を奪われた女性がいた。

「ちょっと!いつまでこうして拘束する気よ!?いい加減お家に帰して!」

 バルドー公爵の娘、ジョセフィーヌが噛みつかんばかりの勢いで怒鳴る。

「ふん。誰もダンジョンを攻略出来てないからな。悪いが後三日は、そうしててもらう」

「冗談じゃないわよ!」

「ミルファ、すまんが後三日。この娘を預かっててくれ」

 アモンの頼みでミルファはパチリと指を鳴らした。すると、ジョセフィーヌの姿が消え、手の平大の透明の球体に閉じ込められた。

「あまり騒がれると店にとって迷惑ですからね。この状態ならあなたが持ち歩くことも出来るでしょ、アモンさん?」

「はっはー。器用な魔法を使うな。よし、これを持ってダンジョンの最終ステージで待つとするか」

 アモンは球体を手に取った。

「ところで、この中で娘は三日間も大丈夫なのか?」

「魔法の球体ですよ。飲食も睡眠も取らなくて大丈夫です」

「よし。俺は約束を守る男だ。地下四階のフロアボスを倒したやつには返してやらなきゃいかんからな」

「それにしてもあのダンジョンは難攻不落ですね。私も挑戦はしたくありませんわ」

「はっはっは!ミルファ、よく言うな。魔王ルキフェル様のお気に入りのお前なら、半日もあれば攻略出来るだろう?」

「買い被りですわ。私はただのサポート役です」

 ミルファは肩を竦めるが、アモンは不敵な笑みを崩さない。

「まあ、そういうことにしておこう。じゃあ、行ってくる」

「ええ、ご武運を」

 アモンの足元に魔方陣が現れ、その姿は瞬く間に消え去った。

「流石に千年戦争の経験者は実力者揃いですわ。流石のカリバーさんも今回は苦戦するかもしれませんわね」

 すると、カウンターの上に寝そべる黒猫のジルが呆れた様子で口を利く。

「なんだい?カリバー贔屓の君にしては珍しいね」

「英雄と呼ばれたレライエさんの影になって目立ってないだけで、アモンさんも確実に敵を倒す実力者ですわ。まあ、ダンジョンを利用する策略家のイメージが強いですけどね」

「ふむ、ダンジョンをクリアする頃には、パーティーも疲労困憊だからね。今度こそカリバーの命運が尽きるかもね」

「あらまあ。そうなると推しがいなくなってしまいますわ。カリバーさんの健闘を祈らないと」

「ルキフェル様に聞かれたら粛清されるレベルだね、ミルファ」

「あら、大丈夫ですよ。ルキフェル様でもこんな離れた場所にいる、私の思考は読めませんわ」

「やれやれ、確信犯だね」

 ジルはあくびを漏らすと、前足の上に顎を乗せた。


 地下一階は百体のアンデッドがひしめいていた。

「カリバーさん、扉まで一気に駆け抜けますよ!」

「分かっている!全部倒す必要はないからな!」

 シウマたちの後を追う形で、マヤたちも群がるアンデッドたちを、鎧袖一触で突き進んでゆく。

「あの扉です!」

「よし、露払いは任せろ!」

 マヤとユキマルは前方に蠢くアンデッドたちを、

百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 一太刀が百の斬撃になる奥義で大量に吹き飛ばしてゆく。

「凄い!これが上級剣士の技か!」

 全員が扉を通り抜けると、背後は壁に変わった。

「ここまでは多くのパーティーが突破してるのですが」

 シウマはアナに目配せをする。

「ここから先は飛び出る矢や、底無し沼があるわ」

「ふむ。ダンジョンの定石だな」

「地下二階までは何度か来てるので、マップもある程度完成してます。後ろから付いてきてください」

 シウマとコルトが先行し、アナがマップを確認しながら後に続く。

「ここから先に沼が・・・うん?」

 曲がり角から岩で出来たゴーレムが姿を現した。

「ゴーレムです!こいつにはいつも消耗させられてるんです!」

「よし、ここは私とユキマルで行こう」

 マヤは両手に刀を持ち、ユキマルは刀の切っ先を下げたまま、ゴーレムと対峙する。

 急激に動き出したゴーレムは、両腕を広げて襲いかかってくる。次の瞬間、ユキマルはゴーレムの背後を取っていた。

「影縫死斬(かけ'ぬいしざん)!」

 ユキマルは刀を振り下ろすが、岩で出来ているので抉れはしたが、剣撃は跳ね返された。

「普通の斬撃ではびくともしないか!」

 マヤは素早く接近し、破壊に特化した奥義を繰り出した。

岩盤両断がんばんりょうだん!」

 振り下ろされた二刀流は、ゴーレムの身体を三つに分断した。崩れ落ちた岩人形は、ピクリとも動かなくなった。

「凄い!一撃でゴーレムを仕留めるなんて!」

「ああ、流石は勇者パーティー!」

 盛り上がっていると、もう一体ゴーレムが現れた。

「よーし、次は僕がやるよ!」

 杖を構えたビャクヤが前に出る。

「ま、魔法で倒せるの!?私の攻撃魔法じゃビクともしなかったけど!」

「それじゃアナ。最強魔法を見せて上げるよ」

 勢いを上げて突進してくるゴーレムに、ビャクヤは杖を突きつけた。

「ジャルバローダ!」

 杖の先に積層魔方陣が展開し、太さ一メートルの光のエネルギーが発射された。そして頑強なゴーレムはバラバラに吹き飛ばされる。

「す、凄い!これが最強魔法・・・」

 アナは呆然としてその威力に見入っていた。

「このフロアに他にゴーレムはいるのか?」

 マヤが尋ねるとシウマは呆然としながら首を振った。

「いえ、このフロアには二体しかいません」

「凄まじいな。これが勇者パーティーの実力か」

 シウマとコルトも呆然としていたが、アナが気持ちを切り替えてマップを広げた。

「二人とも先に進むわよ!これでフロアボスの死之剣士デスナイトと戦えるわ!」

「お、おう!だがフロアボスには一度も勝ててないぜ?」

「そこは勇者パーティーの皆さんにお任せしましょう!」

「丸投げかよ・・・」

 呆れるシウマだったが、勝てないことは事実だから、ここは頼るしかない。

「この廊下の先にある部屋に、フロアボスの死之剣士がいます」

「よし、アンデッド系の魔族とは何度か戦ってる。任せてくれ」

 六人は途中の罠を掻い潜ってフロアボスのいる部屋に到達した。扉を蹴破ると、奥の玉座に座る鎧をまとったアンデッドが静かに立ち上がった。

「よくぞここまで辿り着いたな!歓迎するぞ!」

 アンデッド特有の灰色の肌をしているが、身につけた装備は伝説級のものだった。

「私は死之剣士のモザクだ!尋常に勝負!」

 モザクは剣を抜き、ゆっくりと歩み寄って来る。

「マヤ様、ここは私が出ます!」

 ユキマルは刀を握り直し、モザクと対峙する。

「行くぞ!」

 モザクの動きは素早く上級者レベルだった。数合斬り結んだだけでそのその強さが分かる。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 ユキマルは流れる水の動きで、モザクの激しい剣撃の全てを受け流す。

「やるな!では、これはどうだ!ブルータルウォール!」

 モザクの強烈な連続突きはユキマルの奥義を侵食し、いくつか突き技をもらってしまう。血が吹き出すが、ユキマルは突然姿勢を低くして、激しい剣撃をやり過ごす。そして、そこから上に向けて次の奥義が炸裂した。

天破昇龍てんぱしょうりゅう!」

 下から上に走る斬撃をモザクはまともに食らった。腹から左肩に渡ってザックリ切り裂かれる。

「むうっ!まだだ!これしきで・・・」

 だが、次の瞬間にはユキマルはモザクの首を跳ねていた。首を失った身体が滅茶苦茶に剣を振り回すが、

「これで終わりだ、死之剣士!」

 ユキマルは、地面に転がったモザクの頭部を刀で突き刺し、止めを刺した。首も身体も黒い塵となって消えてゆく。

「ふう。久しぶりに手強い剣士だった」

「ユキマル、治療魔法を掛けるよ。モアヒール!」

 ビャクヤの杖の先から光が流れだしユキマルの全身を包む。

「良くやった、ユキマル!私が出る幕がなかったな」

「はい、しかし、手強い剣士でした、姫様」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!さて、ここから先が前人未踏の地下三階になるわけだな」

「そうですね。我々も初めて入ります」

 シウマが頭をかいて部屋の奥の玉座の前に立ち、剣で真っ二つに切り裂いた。すると壁に扉が出現する。

「地下三階への階段です。ユキマルさんは大丈夫ですか?」

「ああ、ビャクヤ様に傷を治してもらった。支障はない」

「よし、降りようじゃないか、前人未踏の階に」

 マヤは自ら先頭に立ち、階段を下り始めた。


「ほう。初めて二階を突破されたか。これは興味深い」

 アモンは地下五階の玉座に座り、目の前に出現したスクリーンを興味深そうに眺めていた。

 すると、球体に閉じ込められたジョセフィーヌが拍手喝采していた。

「あれは勇者パーティーじゃない!あんたたちもこれでお仕舞いね」

 アモンはじろりと球体を睨んだ。

「ふん、いくらやつらが少しばかり強くても問題ない。三階層のフロアボスはやつらでも苦戦するだろう。その前に罠にやられる可能性もあるがな」

「ふん、あんたなんか勇者パーティーにやられたら良いのよ。やーい、バーカ」

 アモンは球体を睨み、ため息をついた。

「やれやれ、これで公爵の娘か?とんだお転婆娘だ」

「魔族に言われたくないわよ!この唐変木!」

「音声を切っておくか。うるさくて敵わん」

「あんた、ちょ・・・」

 音声をオフにしてアモンは再びスクリーンに目を戻した。

「さて。俺のところまで来られるかな、勇者パーティー?」

 アモンは玉座に背中を預け観戦を続けた。

 

 地下三階に辿り着いた一行は、マッピングしながら各部屋を調べて回った。途中、様々なトラップがあったが、ビャクヤがいち早く気づいて、迂回するか罠そのものを潰して回る。すると、この階にもいたゴーレムが行く手を遮った。後ろにも一体現れて挟み撃ちの形になった。

「時間節約といこうか!ユキマル、後ろを頼む!」

「はっ!承知しました!」

 それぞれ、破壊に特化した奥義を繰り出し、ゴーレムもひとたまりなく、岩の欠片になってしまった。こうなってくると、脅威となるのはフロアボスくらいになってくる。

「この階もほぼマッピングは終わりました、姉上」

 後は奥にあるフロアボスの部屋だけだ。

「さて、行くぞ。みんな覚悟は良いな?」

 マヤが振り返ると、シウマたちは緊張の面持ちでそれぞれの得物を握りしめていた。

「いつでも大丈夫です!」

「ここまで来たらやるしかないわよね」

「Aランクの名に懸けて!」

 それぞれの覚悟を見定め、マヤは扉を蹴破った。すると、黒い瘴気が流れ出した。

「むっ、まさかこの階のフロアボスは!」

 部屋に入ったマヤは上を見上げた。そこには黒い瘴気を放つ巨大な死之竜デスドラゴンが禍々しい姿を晒していた。

「ドラゴンとは!しかし、マヤ様。放出系の奥義は使えませんぞ。天井が崩れ落ちてきます」

「分かっている。さて、どうするか・・・」

 死之竜は唸り声を上げると、こちらに向けて黒いブレスを放った。触れるもの全てを腐らせる死のブレスだ。

「ヴァルサイド!」

 ビャクヤが素早く最強結界を張ったので、ブレスは届かない。

「よし、ユキマル!出るぞ!」

御意ぎょい!」

 マヤとユキマルは結界を出て、奥の手を出す。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 漲る闘気を解放し、死之竜の黒いブレスも跳ね返す。

「放出系の奥義が使えないとなると、あれしかないな!」

「はい!先に行きます!」

 宙を舞いながらブレス攻撃してくる竜目掛けて飛んだ。

「百花爆裂!」

 一太刀が百の斬撃になる技が繰り出された。死之竜は鎌首を上げたが、胸にまともに食らった。石より硬い鱗が飛び散り、血と肉片も舞った。死之竜は翼をはためかせて暴風を生み出し、ユキマルを吹っ飛ばす。

 そして、注意の逸れた死之竜目掛けてマヤも飛んだ。

「百花爆裂、二刀流!」

 マヤは両手の刀を交差させて、二倍の威力を秘めた奥義を繰り出した。今度はまともに顔面に食らった死之竜は、断末魔の叫びを上げた。そのまま地面に落下する。

「それ、トドメを刺すぞ!」

「ああ、分かってる!」

 シウマとコルトは得物を振るって、痙攣している毒竜にダメ押しの攻撃を加える。

「ふう、何とか凌いだな」

「はい。しかし、やはり姫様の二刀流は威力がありますな」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!おい、あまり死之竜に近づくな。死んでも毒を吐き続けるからな」

 マヤの呼び掛けで、シウマとコルトは慌てて死骸から遠ざかる。

「さて、これを破壊すれば良いんだな?」

 マヤは部屋の奥にある玉座を、二刀流で破壊した。すると、目の前に地下四階への階段が姿を現す。

「さて、いよいよ最終階か」

 マヤが先頭に立ち、ユキマルとビャクヤが後を追う。

「さあ、行くよ!」

 ビャクヤに促されてシウマたちも階段を下りてゆく。

「まさか、最終階まで辿り着けるとは!」

「まあ、俺たちがやったことは少ないがな」

「良いのよ。見ることも勉強になるわ。ここは勇者パーティーの戦いを見学して、学ばせてもらいましょう」

 シウマたちが階段を下りると、ビャクヤは既に杖を構えてマッピングを開始していた。

「みんな、用心して!この階には強力な魔力が溢れてる!油断するとやられるよ!」

 ビャクヤはいつにも増して真剣な表情になっていた。すると、壁が突然動き出してサンドウィッチにされかける。

「みんな、走って!ぺちゃんこにされるよ!」

 全員が懸命に駆けて廊下を飛び出すと、背後の壁が音を立てて閉まった。

「ふう。良い運動になるな」

 シウマが安心しかけるが、今度は天井が下がって来た。

「みんな、これに乗って!」

 ビャクヤの出した絨毯に全員が飛び込み、勢いよく宙を滑空してゆく。天井が下がりきる前に絨毯は廊下を飛び出し、次の廊下でも速度を下げずに飛んでゆく。

「マ、マッピングが追いつかないわ!」

 アナがマップを作成する暇もあらばこそ、絨毯は縦横無尽に飛び回る。

「マッピングは僕の解析魔法でやってるから心配いらないよ!とにかく、フロアボスの部屋を探さないと!」

 次々と姿を変えてゆく地下四階は、普通の魔法使いでは突破は難しそうだ。すると、突然に廊下の変化が収まり、四体のゴーレムが現れた。

「「岩盤両断!」」

「ジャルバローダ!」

 三体のゴーレムは瞬く間に石くれになり、残った一体は、アナの木属性の魔法で拘束し、シウマとコルトが力を合わせて何とか無力化した。

「よし、みんな良くやった!最後のフロアボスの部屋に入るぞ!」

 マヤは部屋の扉を勢い良く蹴り飛ばした。






放浪編その16でした。これまて出てこなかったダンジョンですが、今回は宝を持ち帰るためではなく、人質の解放をかけて多くの冒険者が挑みます。クリアするパーティーがいない中、大陸に名を馳せた勇者パーティーが多くの期待を背負ってダンジョンに挑みます。果たしてクリア出来るのか?人質は解放されるのか?魔族の死之王アモンとの戦いの行方は?また次回でお会いしましょう。

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