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幻影のカージン 後編

放浪編その15

幻影魔法に翻弄されるマヤたち。密売グループと魔族を捉えることが出来るのか?

 その屋敷は市庁舎街の貴族の屋敷が立ち並ぶ一角に存在した。使われなくなって久しいが、元は貴族の屋敷なので今でも不思議な圧倒感がある。

「前の公爵が使われてた屋敷だ。本当にこんなところに密売グループの本拠地が?」

 警備局の捜査班長、マードックは信じられないといった顔で、屋敷の内部を食い入るように見つめている。

「今、見えているのがそもそも幻影だからね。さて、本性を現してもらおうか。ハガ・セイル!」

 ビャクヤの杖から伸びる光は、元公爵の屋敷が改造されて、マーブの保管と製造を行っているアジトであることを白日の元に晒した。出入り口には自動小銃ライフル回転拳銃リボルバーで武装した見張りたちがいたが、突然、不可視の壁が消え去り、マヤたちの姿を認めて意表を突かれていた。

「マードック殿!部下たちを建物の裏に!但し、銃で武装してるので慎重に対応するように!」

「あ、ああ、分かった」

 マードックは水晶端末を用意し、部下たちに指示を飛ばして自らはやはり正面に残った。

「姫様、私も裏側から潜入しますか?」

 そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!よし、ユキマルは捜査班と一緒に裏を固めてくれ!」

 突然、偽りの壁が消え去り、マードッグの姿を確認した見張りたちは、慌てて自動小銃を構えて撃ち始めた。

「エアシェルト!」

 ビャクヤは広範囲結界を張り、仲間が無事なのを確認して飛行魔法で宙に浮いた。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 マヤは闘気を解放して周囲に結界を張る。

「私が銃を無効化するから、クレイたちは後を頼む!」

 マヤは一番近い場所にいる見張りの背中を取った。

影縫死斬かげぬいしざん!」

「はっ!?」

 峰打ちを食らった見張りが倒れる。他の見張りの注意がマヤに向くと、クレイたちは一気に畳み掛けた。

「うりゃあー!」

 クレイは素早い剣筋で、ゴードンは重い斧を軽々と振り回して見張りたちを無力化してゆく。

「おう、なんてこった!俺の仕事がなくなっちまった!」

 一応、剣を抜いているマードッグが大仰に肩を竦めていた。

 だが、その時。屋敷の広大な庭の一部が陥没し、巨大な生き物が姿を現した。手足がなく、それでいてびっしりと牙が生えている口を開け、耳障りな咆哮をあげた。

「土竜!ワームだ!」

 ワームは再生能力が高く、下位ドラゴンの中でも最強クラスだ。クレイたちのパーティーが討伐に動くが、ワームは何度首を跳ねられても、すぐに新しいのが生えてくる。

 絨毯に乗って宙に浮いたビャクヤは警告を発した。

「みんな、今から空爆をするからワームから離れて!」

 首を落としたばかりのマヤは、一気に後ずさった。

「ボムナパム!」

 黒く丸い玉を量産してビャクヤはそれをばら蒔く。爆発が連続して、地上は惨憺たる有り様だが、今は廃墟なので問題はないだろう。しかし、肝心のワームは身体が欠損する傍から再生し、空爆攻撃も通用しないようだ。

「ビャクヤ!ワームは私が倒す!超究極奥義を放つが、それでも仕留めきれない場合は頼む!」

「分かりました!」

 マヤは闘気を解放し、両手に持った刀を上段に構えた。頭部を中心に破壊すればワームも再生出来ないだろう。

 刀が白い光を放ち、マヤは一気に振り下ろした。

一輪殲滅いちりんせんめつ!」

 本来、広範囲攻撃の万花爆砕ばんかばくさいを、一体に合わせて凝集し、放つ技だ。当然、一輪殲滅のほうが破壊力がある。白い光がワームの頭部を捉え真っ直ぐ延びて行く。エネルギー波で塵に還ってゆくが、直撃を免れた部分がビクビク動いている。

「ビャクヤ!」

「はい!ジャルバローダ!」

 ビャクヤは残った胴体の部分を最強魔法で焼却してゆく。

「片付いたか。しかし、下位ドラゴンとはいえ、またもや使い魔にしているとは。やって来る魔族も段々、強敵になって来たな」

 マヤがそう呟いた時、

「そうだとも」

 突然、背後から声が聞こえた。マヤは振り向き様に跳躍して距離を取る。

「貴様!魔族だな!?」

 マヤは戦慄していた。何の気配も魔力も感じなかった。いつ背後を取られたのかも分からない。タキシードを着た優男が大仰に礼をする。

「その通り。私はカージン。異端の魔法使い。煙幕のカリバー。尋常に勝負といこうじゃないか」

 カージンは手に細剣レイピアを持ち、その切っ先をマヤに向けてくる。しかし、その時にはマヤはカージンの背後を取っていた。

影縫死斬かげぬいしざん!」

 マヤは躊躇なく刀を振り下ろしたが、カージンの身体はその場から消えていた。

「なにっ!?」

 無防備になったマヤの背中を、カージンの細剣が切り裂いた。

「むうっ!空間転移でも瞬間移動でもない!何だこれは!?」

「姉上!落ち着いてください!それは幻影魔法です!」

「幻影魔法?すると私は最初から幻を相手にしていたのか?」

「ハガ・セイル!」

 ビャクヤが幻影魔法を消滅させると、密売グループがマーブを抱えて屋敷から逃げ出しているのが見えた。

「マードック殿!密売グループのほうを頼む!」

「わ、分かった!」

 マードックは裏から侵入してきた部下たちを連れ、密売グループを追う。

「おっと、そうはいかないぞ」

 カージンがくいっと指先を下ろすと、捜査班の行く手を遮る壁が出現した。

「こりゃあ、一体どうなってる!?」

 マードックたちが足止めを食らっている間に、マヤはカージンに接近して連続突きを顔面に放った。注意が上に向いた後、すかさずがら空きの胴を薙ぐ。

「胡蝶剣!」

 だが、この奥義には全く手応えがなかった。

「また、幻影か!?」

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤの最強魔法攻撃が、マヤの背後を焼きつくした。

「なるほど。幻影魔法も使いようによっては、ここまで手強くなるのか」

 ビャクヤが幻影を消した傍から新たな幻影が生まれる。とんだいたちごっこだ。

「マヤ様!裏にいた連中は全て無力化しました!作業場も抑えましたぞ!」

 ユキマルが刀を手に駆けつけた。

「気をつけろ、ユキマル!相手はカージン!幻影魔法の使い手だ!」

「幻影魔法?すると、マヤ様が対峙しているその男がカージンなのですか!?」

 言われてマヤは強力な魔力を感知して、身体を煙幕状に変えた。いつの間にか接近していたカージンの細剣が空しく空を斬る。

「こいつは!どうして何の魔力も感じさせずに接近出来るんだ!?」

「姉上!右横です!ユキマルは後ろ!」

 ビャクヤの指示する場所に、いつの間にかカージンは現れ、攻撃を加えてくる。

「こいつは分身体を使うのか!?」

「正確には幻影魔法です!厄介なのはこちらの攻撃は当たらないのに、向こうの攻撃は当たるということです!」

「そんな、ご都合主義な魔法があるのか!?」

「カージンの魔力パターンを解析中です!もう少しだけ耐えてください!」

 警備局の捜査班たちは、何とか壁を壊し、屋敷から抜け出した密売グループを追って行った。


「畜生!まさかカージン様の魔法が見破られるなんて!」

「ぼやいても仕方ない。とにかく港に急ぐぜ!」

「グース、本当に帝国に亡命するつもりなのかい?」

 アニタは内面の不安を隠して、相棒のグースに問いかける。

「カージン様が勇者パーティーを倒したら、亡命する必要はない。だが、万一の時は亡命するしか手はない」

「あー、もう!目障りなやつらだね、勇者パーティーの連中は!」

 アニタが吐き捨てるように言った直後、マーブをたんまり積んだ馬車の幌に、次々に矢が刺さった。

「マードックの旦那か!早馬で追って来てやがる!おい、全員銃で武装しろ!新しい戦い方をやつらに見せてやる!」

 自動小銃を構えたグースは追ってくる早馬目掛けて乱射した。馬がひっくり返って警備兵は地面に投げ出された。

「へっ、流石に帝国製の武器は威力が段違いだな!」

「そうだ。そのまま攻撃を続けてやつらを皆殺しにしろ!」

 突然、背後から声が響いて、グースもアニタも度肝を抜かれた。

「カ、カージン様!屋敷に残ったのでは!?」

「ふふふ、今頃連中は幻影の私と戦っているさ。今までこれを見抜いたやつはいないからな」

 その時、グースの水晶端末が震えた。

「俺だ。他の二ヶ所のアジトは見つかってないだろうな?うん、ああ、分かった」

 端末を仕舞うとグースは連絡の内容をカージンに報告する。

「後の二ヶ所のアジトは無事なようです!カージン様、どうしますか?」

「ふむ、追手を巻いたら、アジトに行くことにするか。追って来ている捜査班の連中は皆殺しにしろ!」

「ドライド!」

 馬に乗った三人組の一人が魔法攻撃を加えてきた。自動小銃を持った手下が馬車から落ちた。

「ああ、勇者パーティーとは別のパーティーがいたな。こっちのほうに来ていたのか」

 カージンが指先を突きつけると、そこに偽者のカージンが現れた。

「ふふふ。精々、私の幻影と戦うが良い」

 偽者のカージンに釣られて、追手は大きくコースを外れた。

「ふふふ、それで良い」

 カージンは優雅に一礼して捜査班の馬車を見送った。

「よし、それでは手近なアジトに向かうとしよう」

 カージンの一声で馬車は進路を変更した。


 マヤたちは翻弄されていた。魔力も気配も感知させない相手が、どれだけ厄介か身に染みていた。

百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 一太刀が百の斬撃になる奥義。普通なら個人相手に使う技ではないが、幻影を消し去るにはちょうど良い技だ。

「姉上!、カージンの魔力パターンを解析しました!」

「でかしたぞ!それで、本物はどこにいる!?」

「その前に、ここに仕掛けてある幻影を全て消します!ハガ・セイル!」

 ビャクヤが杖を振るうと古びた公会堂の外で、密売グループの連中が縄を打たれて転がっている。

「景色まで変わった。幻影魔法とは使い方によっては脅威になるものだな」

 応援の警備局の班がやって来て、密売グループたちを引き立ててゆく。その中の班長らしき者が声をかけてきた。

「失礼、マードック総班長はどこに行ったかご存知ですか?」

 敬礼付きだ。上級者のバッヂは効果絶大だ。

「密売グループのボスと魔族を追って馬に乗って行った。我々もすぐに後を追う」

「では、我々の馬車に。まだ余裕があります」

「ご親切に有り難いが、我々はこれで追う」

 ビャクヤが地面に絨毯を敷いた。

「ほう、これが空飛ぶ絨毯ですか!こちらではまだ一般的ではありません」

 警備兵は目を輝かせていた。マヤたちが乗り込むと、絨毯はゆっくりと宙に浮いた。

「それでは、ここの始末はお任せする」

「はい!ご武運を!」

 高度を十分取った絨毯は北に向かって飛行した。


 そこは取り壊し寸前の霊廟だった。馬車を降りた密売グループのメンバーは、積んであるマーブを抱えて建物の中に入ってゆく。

「むっ!?」

「どうしました、カージン様?」

 アニタが声をかけると、カージンは眉間にシワを寄せて不機嫌そうだった。

「第一アジトの幻影が全て消された。あの魔導士の小僧か!」

「幻影が消されただけなら問題ないのでは?」

「いや、あの小僧はすでに私の魔力パターンを把握しているだろう。こうなったら、盛大に出迎えてやろう」

 カージンは端正な顔に醜悪な笑いを張り付けた。


「むっ?」

 絨毯から下を眺めていたマヤは、マードックと警備兵、クレイのパーティーたちが偽者のカージンと戦っているのを確認した。

「ビャクヤ、あれは偽者だな?」

「そのようですね。ジャルバローダ!」

 ビャクヤは躊躇いなく最強魔法を打ち込んだ。カージンの姿は塵となり、マードック総班長が仰天した顔で絨毯を見上げていた。少しだけ下降してマヤは声を掛けた。

「マードック殿、残念ながらさっきのは偽者だ」

 それを聞くとマードックはその場に腰を下ろした。

「ウソだろ!?あんな手強かったやつが偽者だって!?」

「マヤ殿!僕たちも冒険者!連れていってください!」

 剣士のクレイが声を上げた。

「良かろう。絨毯に乗ってくれ。マードック殿。我々は今から本物の討伐に向かう。その気があるならついてきてくれ」

 マヤがそう言い残すと絨毯は再び上昇し、猛スピードで飛行を始めた。


 密売グループの潜む霊廟は、アトラス教の聖堂にカムフラージュされていた。

「カージン様の魔法は本当に大したものですね」

 マーブを咥えたグースが感嘆の声を上げた。

「本当にね!これなら誰も不審には思わない!」

 アニタも追従する。

「いや、あの魔導士の小僧、私の魔力パターンを突き止めたようだからな。このアジトもすぐにバレる」

「カージン様、それではすぐに逃げましょう!」

「いや、魔力パターンを掴まれた以上、どこに逃げても無駄だ。ここで迎え撃つしかない」

「では、手下たちにありったけの弾薬を集めさせます!」

 グースとアニタは聖堂の中に入っていったが、カージンは空を見上げて待ち受けていた。

「ここで決着をつけるつもりですか?」

 背後に現れたミルファは幻影使いに声をかけた。

「ミルファか。あの勇者パーティーの連中は面白い」

「油断すると手痛いしっぺ返しに会いますわよ」

「ふはは。この私に本気を出させる敵は久しぶりだ!全力を持って叩き潰す!」

「そう、上手く行けば良いのですが。それでは私はもう行きますわ。カリバーさんたちに見つかりたくないので」

 背後のミルファの気配が消えた。全く不思議な女だった。

「さて、早く来い、勇者パーティー」

 カージンは空を見上げて、口元に笑みを浮かべた。


 絨毯が急制動をかけたので、みんな前のめりになって倒れそうになった。

`「どうしたんですか、ビャクヤ殿?急に止まって」

「あのアトラス教の聖堂。真っ赤な偽物だよ。カージンの幻影魔法だね」

 ビャクヤは杖を聖堂に突きつけると、

「ハガ・セイル!」

 幻影を無効化する魔法を発動した。すると大きな聖堂は消えさり、慎ましい霊廟が露になる。

 絨毯はゆっくり降下し、待ち受けていたカージンの十メートル手前に着地した。

「魔族め!遂に観念したか!」

 剣士のクレイが剣を抜いて前に出る。その横にゴードンが並び、ナーヴァは杖を構えて後方支援に回る。

「ん?ただの冒険者か?お前たちに用はない」

 言下に、霊廟に身を隠していた密売グループが、自動小銃を発砲し始めた。ナーヴァが結界を張り、じりじりと霊廟に近づいてゆく。

「あっちは任せるとしよう。カージン!尋常に勝負しろ!」

「ふん、その前にこいつと遊ぶが良い!」

 カージンが指をくいっと上に上げると、土の中から巨大なワームが姿を現した。

「まだ土竜がいたのか!?」

「マヤ様!ここは私が相手をします!」

「姉上!ここは僕とユキマルに任せてください!」

 巨大で細長い身体には手足も翼も目もない。鋭い牙を持ったワームは、まるで巨大ミミズだ。

「よし、カージン!一騎打ちと行こう!」

「ふふふ、私の姿が捉えられるかな?」

 辺りに霧が立ち込めてきた。密売グループと戦っているクレイとナーヴァ、ゴードンの姿も見えなくなってゆく。

「むっ!また幻影魔法か!?」

 マヤは刀を構えたまま、魔力探知を初めとした、あらゆる方法でカージンの居場所を探る。

 すると、前触れなく背後に魔力を感じた。マヤは身体を煙幕状にして細剣による攻撃を無効化する。

「ちっ、厄介なスキルを持っているな!」

 再び身体を戻し、動きの止まったカージンに向けて斬りつける。だが、その身体は透明になって消えてゆく。

「本体と同じ魔力量の偽者か!倒すのに苦労しそうだ」

「倒されるのはお前だ、カリバー!」

 今度は前と後ろに同時に現れ、細剣で斬りかかってくる。どちらも同じ魔力量で、一瞬どちらが本物か判断がつかなかった。その時、

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤの最強攻撃魔法が背後を焼く。

「助かったぞ、ビャクヤ!」     

 マヤは目の前にいるカージンに攻撃を加えた。

十字連破じゅうじれんぱ!」

 渾身の一撃だったが、刀は何の抵抗もなく振り切った。

「くうっ!本物のカージンはどこだ!?」

 すると、霊廟の裏から密売グループたちが馬車で逃げ出した。中にはカージンも乗り込み、馬ではなく魔力で動かしているようだ。

「ビャクヤ、絨毯の用意を!」

 そう命じたがビャクヤは動かず、背後からユキマルが斬りかかってきた。

「ちいっ!カージンのやつ、とんだ幻影を残していったな!」

 マヤは闘気を解放して結界を張った。そして良く見定めると、ビャクヤとユキマルはワームと戦闘中だ。

「カージンめ!趣味の悪い罠を張るやつだ!」

 迫りくる偽者のユキマルとビャクヤは奥義を出す必要もなく、どちらも一刀の元に斬り伏せた。やはり、実力までは真似出来ないらしい。

 刀に闘気を漲らせてマヤは、ワームと戦うビャクヤとユキマルの元まで瞬間移動し、ワームの頭部を切り落とした。

「今だ、ビャクヤ!焼き尽くせ!」

「はい!ラピッドファイア!」

 二千度の炎の帯が辺りを舐め尽くし、ワームは消滅した。

「カージンを追うぞ!ビャクヤ!」

「はい!フライヤード!」

 地面に広がった絨毯に乗り、三人はカージンたちを追った。


「カージン様!まだ追って来ますぜ!」

 グースは空飛ぶ絨毯を確認して報告する。

「分かっている。アジトが知られるのも面倒だ。ここで迎え撃つぞ」

 カージンはそう言うと、念動力で動かしていた馬車を止めた。

「お前たちは隙を見てやつらに銃で攻撃しろ!私の幻影魔法でやつらを撹乱させるからな!」

 馬車を降りたカージンは、再度勇者パーティーと合間見えることになった。

「面倒だ。この際、念ずることが出来る物は全て使おう」

 すると、土中からワームが再び姿を現した。カージンの姿も複数現れる。

 飛行してきた絨毯の上で連中は、さぞ肝を冷やしているだろう。だが、降下してきた絨毯の上には誰もいなかった。

「なにいっ!?どういうことだ!」

「幻影魔法はお前の専売特許じゃないってことさ!」

 反対方向から現れた絨毯の上ではユキマルがすでに刀を振り上げていた。


 ユキマルの刀は白く輝き始めた。

「行くぞ!万花爆砕!」

 ユキマルが振り上げた刀を振り落とすと、膨大なエネルギー波が発生した。ワームもカージンの偽者も本物も、まとめて焼却し、吹き飛ばした。

「うあああー!」

 カージンの本体も塵に還ってゆく。いくらか他の建物に被害を出したが、幻影ごとカージンを倒すには万花爆砕しかなかった。

「やったな、ユキマル」

「はい、完全勝利です、姫様」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!さて、後は密売グループの連中だな」

 万花爆砕の影響で馬車は倒れているが、中にいる人間は無傷だった。

「うう、くそったれ!」

 近づいたマヤにグースの回転拳銃が向けられたが、手刀を食らって銃は吹っ飛ばされた。そして、腹部に発勁を食らって二メートルは吹き飛んだ。

「ど、どきな!撃つよ!」

 アニタの前にはビャクヤが杖を構えて待ち受けていた。

「ドライド!」

 至近距離から攻撃魔法を食らってアニタも吹っ飛び、気絶してしまった。

「終わったな。マードック殿に後は任せるか」

 マヤは水晶端末を取り出した。


 密売グループは警備局とクレイ、ナーヴァ、ゴードンの活躍により、ほとんどが捕縛された。

「いやー、あなた方のお陰ですよ。勇者パーティーのみなさん」

 手柄を上げたマードックはほくほく顔だった。

「いや、今回は警備局と冒険者の協力の賜物ですよ」

 密売グループは摘発され、全てのアジトから大量のマーブが押収された。これで少しでも大陸中に蔓延る中毒者が減れば良いのだが。

「ところで、グースと言ったか?お前たちはマーブを精製して売り捌くのが仕事だ。マーブを密輸している黒幕は誰だ?」

「けっ!誰がチクるかよ!俺たちにも悪党としての矜持があるぜ!」

「つまらんプライドだ」

 マヤは刀を抜いてグースの喉元に突きつけた。

「黒幕が誰か吐け。言っておくが我々は旅の者だ。少々やり過ぎたところで、すぐに次の街に出発する。マードック殿は目を瞑るし、お前の首を跳ねたところで、誰にもお咎めはない」

 ゴトゴト動く馬車の中で、マードックは目蓋を閉じ、他の警備兵も見てみぬふりをしていた。マヤの刀がグースの喉の表面を斬り裂いてゆく。

「わ、分かった、吐くよ!アムラ辺境伯だ!五年ほど前から帝国と取り引きして、マーブを国内に持ち込んでいるんだ!」

「聞きましたね、マードック殿。辺境伯の屋敷は近い。さらに手柄を上げますか?」

 マヤは気軽に尋ねたのだが、マードックは天を仰ぎ顔を手で覆った。

「そうしたいのはヤマヤマなんですがね、カリバーさん。相手が貴族となると我々の手に余るというか・・・」

 他の警備兵もあらぬ方向に目をやって、聞こえていないふりをしている。

「なるほど。では、我々の独断専行という形で話をつければ良い。おい、行き先をアムラ辺境伯の屋敷に変更してくれ」

 御者を勤める警備兵はマードックのほうを伺うが、総班長は黙って頷いて見せた。

 密売グループとマーブで一杯の馬車からマヤたちは降り、ゆっくりと屋敷のほうに向かった。


「おい、グースからまだ連絡は来んのか?」

 アムラ辺境伯は執事のガーフを問い質す。

「はい、まだです。もうそろそろかと思いますが」

「辺境伯、連絡を取りましょうか?」

 用心棒のダンがお伺いをたてた時、応接室の扉が勢い良く開け放たれた。

「連絡を取る必要はない。グースは証拠品と一緒に表の馬車の中で、縄を打たれて待っている」

 現れたのは若い男と女、そして杖を持った子供だった。

「な、なんだ貴様たちは!貴族の屋敷に断りもなく上がり込むとは!不敬だぞ!」

「密輸をしている犯罪者は貴族の資格を剥奪される。違法なマーブと銃の密輸をしているあんたは、牢獄行きだ!」

 用心棒のダンが素早く回転拳銃を抜くが、いつの間にか女の姿はその背後に移動していた。

「影縫死斬!」

「ぐはあっ!」

 ダンは手刀を首に食らって、あっさりと倒された。

「ま、待て!黒髪黒目の異国人グループ!まさか、お前たちは!?」

「我々は巷では勇者パーティーと呼ばれている」

「ゆ、勇者パーティー!?」

 その時、執事のガーフがこっそりと銃を抜いたが、今度は男が背後に瞬間移動して、延髄に手刀を打ち込んだ。

「さあ、まだ抵抗するか?それとも大人しく縄を打たれるか?どちらか選ぶが良い」

「うう、はあ」

 立ち上がっていたアムラ辺境伯は、肥大した身体をソファーに逆戻りさせ、成り行きに身を任せるのだった。


 マードックと捜査班、クレイたち。そして、マヤたちも市長から感謝状が贈られた。そしてマヤたち冒険者には報酬も払われることになった。トカレフの支部長、ソーニャもすっかり相好を崩していた。

「感謝するわ、勇者パーティーのみなさん!それにクレイたちもお手柄よ!これでギルドも本来の業務に戻れるわ!」

 本来の業務。そう、魔物退治のクエストが滞っていたので、これから忙しくなるだろう。

「よし、今夜は犯罪グループの一斉検挙が成されたのを祝して、宴でもしようか?」

 マヤの提案にギルド酒場にいた冒険者たちが歓声を上げた。

「我々もヘリオン公国、最後の街だ。記念して大いに呑もう!」

「良いですな、姫様!」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!そんなことより、ユキマル!呑み比べといこうじゃないか!」

「良いのですか?私は酒に強いですぞ」

「じゃあ、僕が審判になります。まずは一杯目!」

 ビャクヤの合図で、テーブルにずらりと並んだカップを取り上げ、二人は一気に飲み干した。

「なかなかやるな!」

「勝負はまだこれからですぞ!」

 その夜、ギルド酒場は大いに盛り上がった。


 閉店した読書カフェの店内に空間転移してきた者がいた。

「あらあら。惨敗を喫したようですね、カージンさん」

 閉店業務を行っていたミルファは、チラリと顔を上げると、また集計業務に戻った。

「なんだ、あの剣士は?魔法使い並みの技を使っていたぞ!それにあの魔導士の小僧は私の幻影を全て無効化した!あんな破格なやつらだったとは!何故教えてくれなかった、ミルファ?」

「何故も何も魔族はそもそも相手の技量など気にしないものでしょう?」

 作業が一段落して、ミルファはようやく顔を上げた。

「あ、ああ、そうだな。今はもう魔力切れだ。力を蓄えて次は報復リベンジしてみせる!」

「次?」

 ミルファはゆっくりと立ち上がり、カージンを見下ろした。

「魔王ルキフェル様のやり方はご存知ですわね?一度目の失敗は多めに見る。けれど二度目に失敗した者は容赦しない」

「ま、待て!待ってくれ!本当に次こそは・・・」

 ミルファはパチンっと指を鳴らした。すると、手の平に乗るくらいの小さな球体が宙に浮かび、中にカージンが閉じ込められていた。中で何やら喚いているようだが、外に音は漏れない。

「あなたの役目は終わりましたわ、カージンさん」

 ミルファが再び指を鳴らすと、球体の中が高温の熱で荒れ狂いカージンの姿は消えていた。

「やれやれ、敗残者には手厳しいね、ミルファ」

 カウンターの上に寝そべる黒猫のジルが、あくび混じりに意見を述べる。

「あらまあ。仕方ありませんわよ。ルキフェル様の意向なのですから」

「次はいよいよユータス王国か。あそこには英雄パーティーもいる。魔族にとっては骨の折れる所だ」

「次の街ではあの方が来るみたいですわ。カリバーさんも苦戦するかもしれませんわね」

「やれやれ、カリバー贔屓も控えないと、それこそ魔王にお小言をもらうよ」

「ふふふ、やはり推しは応援したくなるものですわ」

 ミルファは口角を上げ、次の街に行く準備に取りかかるのだった。


放浪編その15。幻影のカージン後編でした。幻影に惑わされながらもカージンと密売グループを追い詰める勇者パーティー。そして、決着がつき大陸に蔓延する麻薬密売ルートの一角を崩すことか出来たのでした。次は大陸の東に位置するユータス王国に入ります。それではまた次回でお会いしましょう。

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