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幻影のカージン 前編

放浪編その14

ヘリオン公国の最後の街、トカレフではマーブと呼ばれる麻薬が蔓延し、都市機能にも影響が出ていた。

 トカレフの港に大きな帆船が係留していた。屈強な男たちが船に積まれた荷物を降ろしている。豪華な馬車の中で酒を呑んでいるアムラ辺境伯は、書類に目を通していた。

`「今回は随分と多く仕入れたのだな」

 その言葉に、執事のガーフが答える。

「最近はロウランド王国やルータス王国にも販路を広げていますので」

「うむ。安く仕入れて高く売る。正に濡れ手に泡だな」

 アムラ辺境伯はほくほく顔で、酒をあおった。

「グースに連絡を取りました。今回もブツを全て買い取りたいとのことです」

「ふん。やつめ、どれだけの値で売り捌いているのだ?まあ、屋敷に置いておく訳にはいかんからな。買ってくれるに越したことはない」

 その時、馬車の扉をノックする者がいた。用心棒のダンがそれに応える。

「誰だ?」

「俺だ。グースだ」

 その返答を受け、扉が開かれる。

「おう、グースか。今回は馬車四台分だ。上手く捌けるかね?」

「辺境伯、俺たちは玄人ですぜ。今までだって上手く売り捌いてきたでしょうに」

「ふむ、そうだな。ガーフ、商談は任せるぞ」

御意ぎょい

 執事のガーフは馬車を降りて、港に積み上がっている荷物のほうに移動した。

 アムラ辺境伯はタバコを取り出し口にくわえた。ただのタバコではなく、麻薬のマーブを紙巻きにしたものだ。火を点けて煙を吸い込み、満足そうに頷く。

「うむ。やはり帝国製のマーブは品質が良い」

 アムラは酒を呑んでいたので、相乗効果で精神的にハイになる。

「くくく。これだから密輸は止められん」

 一見、平和そうな港町のトカレフだが、麻薬の温床となっている、危険な街だった。


 ゴトゴトと馬車が進むに連れ、潮の匂いが強くなってきた。

「新鮮な魚を使った刺身が恋しいですな、姫様」

 そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!しかし、そうだな。刺身や寿司をまた食べたいものだ」

「前にも聞きましたが、そんなに美味しいのですか、姉上?」

「ああ、ブラックスピアの大トロは頬っぺたが落ちるぞ」

「マヤ様、トカレフのギルド支部は海に近いようです。お望みなら私が捌きますよ」

「ユキムラ師匠の身の回りの世話をしている時に、魚を捌いたことがあると言ってたな。今度こそ期待して良いんだな?」

「はい、お任せください!」

「わー、僕も楽しみになってきました、姉上!」

 ビャクヤはヨダレを垂らしそうな面持ちだ。ヤマト国の名物料理を久しぶりに食えるということで、マヤも顔を綻ばせていた。


 馬車乗り場に到着し、三人は荷物を下ろしてギルド支部を目指した。港は活気があったが、市街地に入ると妙に静けさが気になった。その原因は路上に寝転び、たむろしている連中が原因と分かった。

「なんだ?酒を呑んでるわけではなさそうだが、どいつも幸せそうな顔をして寝転がってるぞ?」

「これがアルステイツで聞いた、マーブという麻薬の症状かもしれませんな」

 マーブは主に帝国で作られた合成麻薬だ。自然の麻薬であるリーフより遥かに効果が高く、諸国で中毒患者を増加させている。しかし、依存性が高く道徳心を麻痺させることから、全ての国で違法となっているのだが、どういうわけか密輸ルートが特定出来ずに、半ば野放し状態だった。

「これは刺身どころではないかもしれませんな」

 ユキマルは中毒患者たちを遠回りして避けて歩いた。そうして到着したギルド支部のビルの隣は宿舎になっており、その一階は食堂になっていた。しかも、看板には海鮮料理と書かれている。

「後で昼食代わりに寄ってみるか」

 マヤは後ろ髪を引かれながら、ギルド支部のほうに向かった。扉を開くといつものように視線が集まってくる。そして、胸に輝く金のブローチに赤い線が入っているのに気づく。

「おい、煙幕のカリバーだ!」

「もう一人の上級剣士はユキマルか?」

「すると、あの小さいのが魔導士のビャクヤか!」

 好奇の目に晒されながら、マヤは受け付けのカウンターにIDカードを置いた。

「剣士のマヤ・カリバーだ。支部長に会いたいのだが?」

「は、はい!しばらくお待ちください!」

 何故か顔を赤らめた受付嬢は、奥に引っ込んだ。毎度お馴染みの反応なので、マヤも慣れたものだ。

 やがて、靴音を鳴らしながら現れたのは、やや険のある美女だった。

「私がトカレフ支部長のソーニャだ。ようこそ、勇者パーティー。歓迎する」

 言葉とは裏腹にあまり歓迎してないのが分かる。

「ソーニャ支部長、何やら含む物がありそうだな?」

「貴殿らも来る途中に目にしただろう?トカレフはマーブの蔓延で街の機能が麻痺している。魔族より麻薬のほうが厄介な街なんだ」

「密売グループがあるのだろう?警備局は捜査していないのか?」

「そこに問題があるのだよ、カリバー殿」

 ソーニャ支部長はため息をついて腕を組んだ。

「警備局が密売グループのアジトを突き止めても、魔法で翻弄されて、逃げられてしまうんだ。我々が協力を申し入れても、警備局の長官は冒険者は魔物の討伐だけしておいてくれと、けんもほろろに突き返されてしまう」

 どこの街でもある、縄張り根性というやつだ。

「魔法が絡んでいればギルドも動けるだろう?むしろ得意分野だ」

「アムラ辺境伯が横やりを入れるんだ!犯罪ならば警備局の仕事だ、ギルドは動かせないと強硬に主張してね。あげくが今の街の現状だ。冒険者たちも憤懣やる方ないところだが、貴族の意向には逆らえない。全く、腐ってる!」

 ソーニャ支部長は美しい顔を歪めて、カウンターに拳を振り下ろした。

「そういうことなら、我々が動こうか?」

 マヤは親切心で言ったのだが、ソーニャに睨まれてしまった。

「ここはギルド、トカレフ支部だ!問題があれば我々で解決する!」

「そうは言うが、動きたくても動けないのだろう?私たちは旅の者だから、何の制約もなしに動けるぞ」

「それは・・・」

 ソーニャは二の句が継げない。トカレフ支部にとっても、願ってもない話のはずだ。

「支部長、手伝ってもらえるなら、そうすべきと思いますよ」

 冒険者の中の一人が立ち上がって意見を述べる。

「勇者パーティーの皆さんなら、貴族どころか、国王にすら謁見出来るでしょう。辺境伯も口出しは出来ないはずです」

 腰に剣を帯びてるので剣士なのだろう。だが聡明な男のようだ。

「そうそう。私は勇者パーティーの皆さんと一緒に仕事したいわ!」

 杖を持った魔法使いの女性も賛同する。

「噂の勇者パーティーの実力を、一度見てみたかったしな」

 長い柄の斧を持った、筋肉質な男が参加を表明する。

 ソーニャは腕を組んでしばし黙考していたが、やがて肩を竦めてため息をついた。

「そうだな。大陸に名を馳せた勇者パーティーのカリスマに、少しばかり頼らせてもらうか」

 話がまとまると、三人のパーティーが近づいて来た。

「僕は剣士のクレイです、よろしくお願いします」

「私は魔法使いのナーヴァよ。よろしくね」

「俺は戦士のゴードンだ。よろしく頼むぜ、勇者パーティーの旦那方」

 とりあえず、それで話はまとまった。しかし、マヤたちには目的があった。

「よし、とりあえず隣の食堂でお昼を摂りながら、詳しい話を聞かせてくれ」

 そう。マヤたちには刺身を食べるという目的があったのだ。

ユキマルは目を光らせて腕をぶんぶん振っている。

「ヤマト国の名物を貴殿らにもご馳走しよう」

 ユキマルは意気揚々と隣の食堂に乗り込んだ。


 市庁舎街の中にある廃墟となっている屋敷が、密売グループのアジトになっていた。灯台もと暗しとはこのことだ。

「はあん、今日は随分と多いね、グース?」

「隣国にも密売ルートを確保しているからな。全部捌いてもまだ足りないかもしれねえ」

 グースは、仕事の片腕で恋人でもあるアニタに、入荷したマーブを渡した。

「どれどれ」

 アニタは紙巻きを口に咥え、火を点けた。大きく吸い込み、大量の煙を吐き出す。

「うーん、いいねー。流石は帝国製。純度百パーセントだ」

 グースたちはこれに混ぜ物をし、半分はタバコの葉でかさ増ししたものを売り捌く。儲けは二倍以上になる。

「よし、早速奴隷たちに作業をさせるか。隣国からの需要も高まっているからな」

「オーケー。じゃあ、あんたら。ブツを作業場に運びな。奴隷たちには作業を急がせるんだよ」

 密売グループの幹部たちはやることは分かっているので、台車に乗せたマーブを奥の作業場に運んで行く。

「また、たんまり儲けられそうだね」

「ああ、だが、勇者パーティーがトカレフに入ったと情報屋から知らせが入った」

「勇者パーティー?冒険者だろ?だったら手は出せないんじゃないのかい?」

「上級者には特権が認められてる。魔物の討伐だけでなく、犯罪者の摘発にも手が出せるんだ」

「大丈夫だよ。あたしらにはカージン様がついてるんだからね」

「そう思いたいがな。勇者パーティーの活躍を聞く限りでは、常識の通じない、規格外の連中らしい。だから今回の積み荷も、半分はもう一つのアジトに隠しておいたんだ」

「ははは、抜け目がないね、グース」

「この用心深さで今まで生き残ってきたんだ。必要なら傭兵も雇わなきゃな」

「今の用心棒だけじゃダメなのかい?」

「敵は上級剣士二人に、魔導士だぞ。用心に用心を重ねなきゃな」

 その時、部屋の中に小さなつむじ風が吹いた。

「良いねー、その用心深さ。君をボスにした私の目に狂いはなかった」

 洒落た黒いタキシードを着た、二十代半ばに見える美青年の姿が現れた。

「これはカージン様!お越しを歓迎します」

 アニタは素早くカップにワインを注いで、カージンの前で片膝をついて差し出した。

「ありがとう、アニタ。今日も綺麗だな」

 カップを受け取ったカージンは、ワインを一口飲んだ。

「カージン様、今日はどうされたんですか?滅多にお越しにならないのに」

 グースの問いかけに、カージンは口角を上げる。

「もう、聞いているだろう?勇者パーティーのことだ」

「それなら聞きました。それで荷の半分はもう一つのアジトに運ばせてます・・・」

「素晴らしい!」

 カージンは芝居がかった調子でグースに人差し指を突きつける。

「上級者は警備局はおろか、貴族にまで口出し出来る特権が与えられてるからね!聖王国ザルカスと大国、ロウランド王国が中心となって始まったギルド制度には、結構思いきったルールが適用されてるのさ」

「では、カージン様。アジトを変えたほうが良いですかね?」

 グースはそう進言するが、洗練された美しさを持つカージンは、それには首を振る。

「その必要はない。この屋敷にはあちこちに罠が仕掛けてある。一流の魔法使いでも避けることが出来ない罠をね」

 ワインを一息で呑んだカージンはカップをテーブルの上に置く。

「アジトではなく、販路のほうが気になるのさ。私の魔法で隠蔽はしてあるが、上級の魔導士なら見抜くことが出来るだろう」

「つまり、勇者パーティーがブツを運んでいる馬車に気がつくかもしれないと?」

「そうだ。ギルド支部にも我々の存在は知られてるからね」

 グースは水晶端末を取り出した。

「運び屋には注意を促しておきます。後はこの街の売人にも」

「うん。打てる手は全て打ってくれたまえ。勇者パーティーと戦闘になっても負ける気はしないが、あえて火中の栗を拾うことはあるまい」

 カージンは夢見る表情でそう語るのだった。


 ギルド支部の宿舎の一階は食堂になっていた。ユキマルは上級者のブローチで無理を通し、食堂の厨房に入り込んだ。

「さて、マヤ様、ビャクヤ様。そして冒険者の諸君。ヤマト国の名物料理を味わってもらいましょう」

 ユキマルは巨大なブラックスピアを包丁で捌き始めた。見事な手際で三枚に下ろし、大トロと中トロの部分を中心に、全ての部位を刺身にして皿に盛り付けてゆく。

「さあ、出来ましたぞ!存分に堪能してください!」

 マヤたちのテーブルに刺身を盛り付けた大皿が、所狭しと並べられた。

「うーん。しかし、肝心な醤油がありませんな。ヤマト国に取りに行きますか?」

 ユキマルの冗談をビャクヤが引き取る。

「心配無用だよ!僕は脱国した時、醤油を固有結界エアポケットに収納してきたからね」

「流石はビャクヤ様!これで最高の刺身が堪能出来ます!」

 小皿に醤油が垂らされ、各自の前に置かれた。だが、クレイもナーヴァもゴードンも手を出そうとしない。

「どうしたんだ?毒は入ってないぞ」

 マヤは箸を手にして大トロを掴んで醤油に漬け、口の中に放り込んだ。流石は大トロ。口の中で溶けてゆく。

「いやー、我々は生の魚を食べる習慣がないもので」

 クレイは苦笑を浮かべて躊躇しているが、ナーヴァは箸で刺身を突き刺し、醤油に漬けて口の中に放り込んだ。

「!、これは!?生の魚ってこんなに美味しかったの?」

「そんなに旨いのか。むむ、上手く使えん」

 ゴードンは箸を上手く使えず、ナーヴァと同じように突き刺して刺身を食した。

「ほう!これは確かに美味だ!クレイ、お前も食べてみろ!」

「むっ、それじゃ遠慮なく」

 クレイは器用に箸を使い、大トロを口に含んだ。

「これは!口の中で溶けてゆく!しかも旨い!」

 三人の冒険者は勿論、ビャクヤも初めての刺身に顔が蕩けていた。

「本当に美味しいです、姉上!」

「ああ、捌いてくれたユキマルに拍手だ!」

 店内に拍手の渦が起こった。他のテーブルに着いている客も興味深そうに覗き込んでいる。

「この赤い身のところもなかなか!一匹の魚でこんなに色んな味が楽しめるとは!」

 クレイたちもすっかり虜になっていた。 そんな様子を見ていた料理人たちが、おずおずとユキマルに近づいて来た。

「あのー、お客様。出来れば我々にも調理法を教えて頂きたいのですが」

「うん?いいとも!トカレフの名物料理にすれば良い!この国には醤油がないから、そうだな。塩を漬けて食べれば良い!」

 ユキマルは意気揚々と再び調理場に消えた。

「ふう、堪能しました。ヤマト国には旨い料理があるのですね」

「ああ、これからはこの店で味わうと良い」

 マヤはビールのカップを掴むと、一気に胃袋に流し込んだ。

「さて、仕事の話をするか。マーブの密売グループの所在は掴めてるのか?」

「それなんですが、本拠地は何度探しても掴めないんです。ギルド支部の近くにあるのは確かなんですが」

「ふーん。魔法で隠されているのかもな。警備局のほうはどうなんだ?」

「同じ見解ですよ。ここだと思って突撃しても、もぬけの殻だったことは一回や二回じゃありません」

「ふむ。これは魔法だと思うか、ビャクヤ?」

「そうですね。恐らく幻影魔法でしょう。掛けられると目の前にいる人間の姿にも気づかなくなります」

「なるほど、それは厄介だ。お前なら突き止められるか?」

「ふっふっふ、姉上。僕はBレベルの魔導士ですよ!その程度の小細工はすぐに見抜けます!」

「頼もしいな。では街に出て密売グループのアジトを探そう。恐らく一つや二つじゃないはずだ」

 マヤの言葉に全員が立ち上がった。


 マヤたちは警備局の建物にやって来た。ギルドが相手にされなかったということだが、密売グループについて何か知ってるかもしれない。

 受け付けでギルドのIDカードを示して、マヤは用向きを伝えた。

「密売グループが捕縛されないのは、魔法で隠蔽されているからだ。捜査を担当している責任者を呼んでくれないか?」

「ゆ、勇者パーティーであろうと、我々の職務が妨害されるような真似は・・・」

「これが見えないのか?上級者のブローチだ。警備局の捜査に協力出来る。逆に言えば口を出す権限があるということだ」

「やれやれ、勘弁して欲しいですな。マーブの蔓延を憂いてはいるが、我々だって仕事はしている。手柄を横からかっさらわれたら、あなた方も腹が立つでしょう?」

 帯刀した如何にも頑固そうな中年男が現れた。

「あなたがマーブの捜査の責任者か?」

 マヤの問いに、男は太い眉を吊り上げた。

「ええ。これでもBレベルの騎士ですよ。猟犬マードック、何て呼ばれてますがね」

「それは大したものだ。Aレベルになれば王都の騎士団にも入れる」

「はっはー。中央は窮屈なんでね。こうして警備局で犯罪者を取り締まるのが性にあっている」

「ともあれ、我々には捜査に協力する権限がある。密売グループについて、詳しい話を聞きたい」

 マードックは大袈裟に肩を竦めると、両手を広げて見せた。

「仕方ない。大陸に名を馳せた勇者パーティーの頼みを、断ることは出来ませんからな」

 マードックは一瞬だけ鋭い視線を向けて来たが、すぐに笑顔を顔に貼り付けて、冒険者たちを警備局の中に招き入れた。


「おや、勇者パーティーが警備局に入り込んだか」

 中空に視線をさ迷わせ、洒落者のカージンは口の端に笑みを刻んだ。

「あらあら。今までギルドと警備局は犬猿の仲だったでしょうに」

 商店街の中の一件、読書カフェのカウンターでカージンとミルファは密談していた。

「勇者パーティーの威光だな。大陸のあちこちで、我々魔族を討伐してきた実績は確かだ。国王に謁見することが出来るほど、勇者パーティーの実力は抜きん出ている」

「今回はマーブの取り締まりに協力ですか。ひょっとすると事件の影に魔族あり、と考えてるのかもしれませんね」

「別に構わないさ。私の幻影魔法の使い道は無限だ。勇者パーティーにも、アジトの場所は割り出せまい」

「勇者パーティーには魔導士のビャクヤさんがいます。幼いながら魔法の天才ですよ。用心なさったほうが・・・」

「私の幻影魔法が見破られるというのか!」

 顔を歪めたカージンがカウンターに拳を振り下ろす。

「いいえ、とんでもない。ただ、舐めてかかって返り討ちにあった仲間を沢山見てきました。あなたにはそうなってほしくないのです」

「おー!ミルファは優しいね。だが、心配は無用だ。私の魔法を見破れるのは、魔王ルキフェル様だけだ!」

 気位の高いカージンが唯一忠誠を誓っているのはルキフェルだけだ。

「勇者パーティーが捜査に協力するというなら、お手並み拝見といこうか。トカレフにはもしもの時のために四ヶ所にアジトがある。それを見つけだせるかな?」

 カージンはビールのカップを傾け、中身を胃袋に流し込んだ。


「ここがマーブの捜査本部ですよ」

 マードックが両手を広げて、広大な部屋を紹介する。部屋の中央にはアジトとおぼしき場所に、ピンを差してある。中で働く警備兵たちは、訝しげな目でマヤたちに視線を送ってくる。

「この街の中にも複数のアジトがあるはずなんだが、いつガサ入れをしてももぬけの殻なんだ。勇者パーティーの皆さん。やつらは今、どこにいるか分かりますかね?」

 マードックはどこか試すような口調で尋ねる。どこかしら値踏みするような目だ。

「オーケー。まずアジトはここと、ここ、こことここ、の四ヶ所だね」

 ビャクヤが杖を突きつけると、該当箇所が赤い点になって光る。

「そして、売人はこれ。緑でマーキングするよ。やつらは常に動いているからね」

「こいつは驚いた!貴族の廃屋をアジトにしているとは!」

 そして、もう一つはこの警備局の目と鼻の先にあった。

「おいおい、ウソだろ?こんな近くにアジトがあるだって?」

 マードックは半笑いで尋ねてくる。

「疑うなら我々と一緒に踏み込んでみるか?マードック殿」

「ふふん、良いでしょう。おい、一斑から三班まで付いてこい!ゴーストの正体が掴めるかもしれない」

「ゴースト?」

 マヤの疑問にマードックが答える。

「場所を特定してもいつも、もぬけの殻だから、我々は密売グループをゴーストと呼んでるんですよ」

 総班長のマードックは簡単に種明かしした。

「踏み込んで誰もいないし、マーブもないから、ガサ入れが失敗したと思い込んでるんだね。今日はその謎を明かして見せるよ」

「坊や・・・いや、ビャクヤ殿。この赤い点の場所は我々がすでにガサ入れした場所だ。ここに居るとは思えないんだがね」

 マードックはどこか小馬鹿にしたような口調で指摘するが、ビャクヤは自信満々に身を翻す。

「とにかく、行ってみようよ。現場についたら細かい説明が出来る」

「やれやれ、分かりましたよ。行ってみましょう」

 マードックは部下を引き連れ、マヤたちの後ろから付いてくる。

「ビャクヤ殿、大丈夫ですか?さっきの赤い点は商店街の中にある。そんなところで麻薬の保管や運搬などしてるとは思えませんが」

 剣士のクレイがそっと耳打ちしてくる。

「大丈夫。みんな幻影魔法に翻弄されてるだけだよ。現地に着いたらそれを証明して見せるから」

 ビャクヤが自信満々に請け負うので、クレイもそれ以上は何も言わなかった。


「さて、ここだね」

 立ち止まり、杖でビャクヤが示した場所は、寂れた公会堂だった。今は使われてないようで、建物の回りは雑草が生い茂ってる。

「おいおい、ここは以前も調べたが、ただの廃屋だぞ!?」

 マードックが呆れて声を上げるが、ビャクヤは余裕の笑みを崩さない。

「魔力探知の出来ない人ならそう言うだろうね」

 ビャクヤは杖を突きつけ、

「ハガ・セイル!」

 呪文を唱えた。

 すると、雑草は消え、公会堂も苔やカビが無くなった。

「なんてこった!どういうことだ!?」

「幻影魔法だよ。それもかなり上位の魔法だ。この麻薬密売グループのバックに魔族がいるはずだよ」

「魔族だって!?それなら確かに、あんたら冒険者の管轄だな!」

 マードックは妙な縄張り根性は捨てて、目の前の光景を見つめていた。そして、

「一斑から三班は建物の反対側を押さえろ!正面からは勇者パーティーの皆さんと一緒に俺が行く!」

 マードックは剣を抜いた。

「おっと、総班長!そこはダメだ、ドライド!」

 ビャクヤが攻撃魔法を打ち込むと、ごっそり地面が抉れて、穴の中に無数の槍が突き立っていた。

「うん。他にも罠が仕掛けてあるね。僕が先頭を歩くよ」

 ビャクヤが杖を構えて慎重に進む。そして、何もない場所の前で再び呪文を唱えた。

「ハガ・セイル!」

 杖の先から光が飛び、公会堂の隣に小さな建物が出現した。

「公会堂の方は保管庫と作業場みたいだね。こっちの建物に人が・・・」

 ビャクヤが言いかけた時、銃声が響いた。

「アーカム!」

 結界の表面で銃弾が弾ける。

「これは帝国製の武器だ!一般人でも魔法並みの攻撃が出来る!」

「マーブは帝国製の麻薬だ!武器も帝国から仕入れているらしいな」

 マヤとユキマルは闘気を解放した。

「「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」」

 そうして、マヤとユキマルは自動小銃ライフルを撃ちまくる連中に、正面から挑んだ、  

 闘気が結界の役割を果たし、銃弾は弾かれる。密売グループの連中は、次々と峰打ちを食らって無力化された。

「おいおい。俺の仕事が無くなっちまったよ」

 マードックは苦笑しながら、気絶した連中に縄を打ってゆく。

 銃を持った連中が全員倒されると、マヤたちは公会堂のほうに踏み込んだ。中でマーブを紙巻きにする作業をしていた連中は、無言で手を上げて恭順の意思を示す。

「こっちにいる連中は奴隷のようだな。マードック殿。保護官たちを寄越してくれ」

「ああ、分かった」

 マードックは水晶端末を取り出し、連絡を取った。

「どうやら、こちらは囮のアジトのようですね。魔族の魔力反応がありません」

「うむ、そうか。では本丸のアジトを調べに行くか」

 ビャクヤの報告を聞いてマヤは、魔族がいるはずのアジトを落とすことにした。


「おのれ、勇者パーティーめ!」

 読書カフェのカウンターに座っていたカージンは、憎々しげに拳をカウンターに打ち付けた。

「だから、言ったでしょう、カージンさん。勇者パーティーは舐めてはいけないと」

「私の幻影魔法で隠されてたアジトがあっさり見つかるとは!あのビャクヤという小僧は反則的なやつだな!」

 カージンの端正な顔が怒りに歪む。

「よし、ならばもう本陣のアジトで迎え撃ってやる!あちらのほうが人数も装備も揃ってるからな」

 カージンはカウンター席から立ち上がり、空間転移で姿を消した。

「あらあら。カージンさんは大丈夫ですかね?」

 ミルファは頬に手を当て、小首を傾げた。

「カージンは普通の人間相手なら、有能なんだがね。マヤやユキマルみたいな剣士や、魔導士のビャクヤ相手にどこまで戦えるかな?」

「元々、人間たちを堕落させるために派遣されたカージンさんですからね。どうなることやら」

 白とピンクのロリータ服を着たミルファは、カウンターに肘を着き、物憂げな表情を浮かべるのだった。

放浪編その14でした。帝国から密輸された麻薬、マーブのために都市機能が麻痺する事態となっていた。警備局もギルドも密売グループのアジトを掴めないまま、手をこまねいている状態だった。勇者パーティーが捜査に乗りだし、アジトを割り出してゆくが・・・実力が未知数のカージンが遂にマヤたちの前に姿を現します。それではまた次回でお会いしましょう

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