魔鋼のレライエ 後編
放浪編その13
手強い金属人間レライエだが、弱点の炎熱攻撃を受け、サポート役のミルファから液体金属になる秘薬を授かる。
二千度の炎熱攻撃に晒され、レライエは怒号を上げた。
「おのれ!卑怯者め!」
「違う、ボクがやらせたわけじゃない!おい!カリバーさん!手出し無用と言ったはずだ!」
アリエスが怒りも露に怒鳴る。
「遊びじゃないんだ!我々はどんな手を使っても魔族を討伐しなければいけない!個人的な恨みはこの際、捨てて貰おう!」
二千度の炎に包まれたレライエの身体は表面が溶け始めた。
「ゼロクルス!」
炎は遮断したが、十分熱を吸収した身体はドロドロと溶けてゆく。
「おのれ!覚えていろ!この卑怯者めらが」
レライエは空間転移でその場から消え失せた。後に残ったのは激おこのエルフだった。
「もう少しで倒せたのに、何故余計な真似をした!?」
アリエスはまな尻を吊り上げ、杖を突きつけてくる。
「生憎だが、実力は拮抗していた。ならば確実に倒しに行くのが冒険者だ。我々も遊んでるわけではないからな」
急激な魔力の高まりを感じたが、それは徐々にしぼんでゆく。
「ふん、食えないやつだな、カリバーさん。あなたは武闘派だと思っていたのだが」
「魔族相手なら手段は選ばない主義でね。冒険者ならそれが常識だ」
「ボクは冒険者じゃない!差し出がましい真似は止めてもらおう!」
「レライエはサポート役のところに転がり込んでいるはずだ。魔力探知を惑わす工夫がされてるので、正確な場所は分からないが、これから捜索に向かう。あんたはどうする、アリエス殿?」
「ふん!ボクたちは別に仲間じゃない。勝手に捜索でもしててくれ。さあ、ケイン。行くよ」
ケインは少し罰の悪い顔になりながら、地面にある魔方陣の中に入る。
「もう、こうなったら早い者勝ちだ。レライエは必ずボクが倒す!」
忌々しげにそう吐き捨てると、アリエスたちは空間転移で姿を消した。
「ふう、やれやれ。協力すれば今回の事態も早く解決すると思うんだがな」
マヤは少しげんなりしながら、そう呟いた。
「ビャクヤはレライエの魔力を探って、分かったら直ぐに知らせてくれ。ユキマル、地上に戻って魔王軍の討伐に加勢するぞ!」
「御意」
二人の剣士は宙を駆け降りていった。
魔王軍の誕生で、市民は家に立てこもるように通達が出されていた。その中の一件。店を閉めた読書カフェの中に半分溶かされた金属人間がいた。
「あらあら、レライエさん。随分派手にやられましたね」
ミルファの軽口にレライエは不機嫌な声で応じる。
「魔法の属性攻撃でこのザマだ。あまりにも基本的なやり方だったから、マトモに食らってしまった!」
「うーん、レライエさん。今の状態で戦えますか?」
「口惜しいが難しいな。金属人間としての攻撃手段も使えなくなっている。ドロドロに溶かされたので、動きにも支障がある」
「なるほど。今のままでは戦闘は困難だと」
「相手がアリエスや勇者パーティーじゃ勝てないな」
千年戦争の英雄は状況判断も的確だ。ここで変に強がったりはしない。
「分かりました。ならばいっそのこと、二つの属性を持つことにしましょう」
「ん?どういう意味だ」
レライエの疑問にミルファは謎の液体が入った瓶を、カウンターの下から取り出した。
「これを飲めばあなたは金属性と水属性の二つを獲得出来ます。念のために回復薬もどうぞ」
二本の瓶がカウンターの上に置かれた。
「おお、これはすまんな!有り難く頂くぞ!」
二本の瓶の中身を飲み干したレライエの身体が、ぐねぐねとうねり、やがて元の金属人間の姿に戻る。
「ふむ。まるで液体の金属のようだ」
「火属性に耐性がついただけなので、炎熱攻撃には注意が必要ですよ」
「分かっている!火属性ならあの使い魔が有効だ。何匹か連れてゆくか」
レライエは立ち上がり、魔方陣を地面に顕現させる。
「健闘を祈りますわ、レライエさん」
「ああ、今度こそ皆殺しにしてくる」
目映い光が発生し、収まるとレライエの姿は消えていた。
「さて、リターンマッチですか。勝つのはレライエさんか、カリバーさんか、それとも旅のエルフでしょうか?」
ミルファは夢見るような表情で、リターンマッチの結果を予想するのだった。
日が明けた。
王都から援軍の兵士が到着し、アルステイツに蔓延る魔王軍は確実に数を減らしつつあった。中には市民を装い逃亡を図る人造人間もいたが、頭に埋め込まれた金属の有無で、識別は容易だった。人造人間は遠慮なく首を跳ねられ、集められて火あぶりにされた。まるで疫病に汚染された街のようだった。
「街の北側ではまだまだ魔王軍が活発だ。レライエが現れる可能性が高い」
絨毯に乗ったマヤたちは魔力を探りながら、慎重に空を飛んでいた。そこに炎の帯が何本も伸びてマヤたちを焼き殺そうとする。
「アイシングラート!」
ビャクヤは杖を向けて氷結魔法を繰り出す。炎の帯は氷となり、バラバラと地面に落ちてゆく。周りを見渡すと下位ドラゴンのサラマンダーの群れが空中に展開していた。
「なるほど、火には火か。・・・ん?何だと!?人造人間がサラマンダーの姿になってゆく!」
地上に目をやると、劣勢になっていた魔王軍の人造人間たちが、サラマンダーに変身し、辺りに炎のブレスを撒き散らして、状勢は混乱していた。
「なんだ、あれは!?人造人間が下位ドラゴンのサラマンダーに変身するとは!あり得ないことだ!」
「姉上、正確に言うとあれはサラマンダーもどきですね。本物のサラマンダーではありませんが、衛兵や冒険者たちにとっては脅威になっています!」
「うむ。魔王軍といっても剣や斧で武装していただけだが、これからは炎のブレスにも気をつけなければならない」
マヤは水晶端末を取り出し、ギルドのスタイン支部長を呼び出した。
「・・・というわけで、残った魔王軍が次々にサラマンダーに変身している!冒険者たちに水属性か氷結魔法で対応するように通達を出してくれ!」
『幹部のレライエはまだ討伐出来ていないのですか?』
「今、行方を探している。レライエ討伐まで、何とか踏ん張るように冒険者たちに伝えてくれ!」
『分かりました、ご武運を!』
連絡が終わった途端、ビャクヤが声を上げた。
「姉上、翼を生やしたサラマンダーもどきが、どんどん増えています!」
「よし、ビャクヤ!空中歩行の魔法を!」
「はい!」
マヤとユキマルのブーツが光り、空中へと駆け出した。
魔法の師であるアリエスが転移した場所に、少し形状が変化した金属人間、魔王軍の幹部であるレライエがいた。
「突き止めるのが早いな。これだからエルフの魔法使いは油断ならない」
貴族の屋敷も多い市庁舎街。アリエスは重厚な装甲になった、レライエと対峙していた。
「レライエ!今度こそ雌雄を決するぞ!」
アリエスとケインが杖を構えて、レライエとサラマンダーに変身した人造人間の集団に
宣戦布告をする。
「エンダローダ!」
「ドライドルーバ!」
師匠と弟子が同時に攻撃に移る。 サラマンダーたちが吹き飛ばされてゆく中、レライエは音速でアリエスに肉薄する。
「ヴァルトレス!」
アリエスは咄嗟に究極結界を張った。
「オーバージェノサイド!」
レライエの全身から攻撃魔法が打ち出される。結界に阻まれるが、レライエはさらに物理攻撃で畳み掛ける。
「キルドレッドフィスト!」
レライエの魔鋼鉄の拳が次々に打ち込まれ、流石の究極結界にもヒビが入る。
「エンダローダ!」
アリエスは自分の結界ごと、究極攻撃魔法でレライエを狙う。結界が砕けてレライエに破壊のエネルギーが迫るが、
「ゼロクルス!」
レライエの張った結界でエネルギーは止められた。
「キルドレッドフット!」
結界が消えたタイミングで、レライエは物理攻撃に移る。だが、今度は結界ではなく、アリエスは宙に舞って攻撃を凌いだ。そして頭上から、
「エンダローダ!」
究極攻撃魔法を打ち出した。
結界を張るのが遅れたかのように見えた。攻撃魔法は確かにレライエの身体を捉えたが、ぐにゃりとその外見が変化し、何事も無かったかのように元に戻る。
「液体金属!?レライエめ、この短時間で新たなスキルを身に付けたのか?」
「今度はこちらから行くぞ!」
レライエの両腕が流動し、何十もの尖った槍が襲いかかってくる。アリエスは結界を張って防御したが、半分以上はケインに向けて殺到する。
「しまった!ケイン、結界を張れ!」
警告が遅れ、ケインが串刺しになりそうな刹那、
「危ねえ!」
ケインを突き飛ばしたのはモーガンだった。何十もの金属の槍は、モーガンの全身を貫く。
「師匠!何で外に出てきたんですか!俺の代わりに、こんな!」
ケインは慌ててレライエの腕に向けて攻撃魔法を放った。
「ドライドルーバ!」
槍は引っ込み、ケインはモーガンの身体を抱き上げた。
「ぐふっ!へへへ、やっぱりオメーは魔法使いのほうが似合ってるぜ・・・」
「しっかりしてください、師匠!どうしてこんな無茶を!」
「死ぬなら年寄りのほうが先だ。オメーはまだ若い。魔法の修行をして魔法使いになれ」
「今、俺が魔法を使ってるのは非常事態だからです!終わったらおれはまた錬金術の修行をします!」
モーガンは血の塊を吐き出し、ニヤリと笑った。
「やれやれ、頑固者だよ、オメーはよ。なら、引導を渡してやる!ケイン、オメーは破門だ!今日限り、もう師匠でも弟子でもねえ!」
「し、師匠!どうして!?」
「ほら、また攻撃が来たぞ!ボサッとしてんじゃねえ!」
また金属の槍が伸びてくるが、
「アーカム!」
ケインは一般結界で攻撃を防ぐ。
「そうだ。そうして・・・オメーは・・・魔法使いになるんだ・・・」
モーガンの全身から力が抜けて、呼吸も鼓動も止まった。
「師匠ー!・・・おのれ、よくも!」
モーガンの身体を地面に横たえたケインは、宙に浮いているレライエに憎悪の目を向けた。
「バラバラにしてやる!ドライドルーバ!」
ケインは一般攻撃魔法を放った。レライエは結界を張り、その攻撃を凌いだ。はずだったが、結界は壊れて液体金属の表面を波立たせた。
「むっ!?一般攻撃魔法で何故、俺の結界が破られた?」
その疑問に、同じく宙に浮かんだアリエスが答えた。
「魔法はイメージの世界だ。時に激怒は魔法使いの能力を底上げすることがある。ケインには才能があるしね」
ケインは地を蹴って飛び上がった。その身体は上昇し、アリエスの横に並んだ。
「驚いたな。飛行魔法はまだ教えてなかったはずだが」
「魔法はイメージの世界なんでしょう?俺は自分が飛ぶところをしっかりイメージ出来ましたよ!」
「流石は我が弟子だな。レライエ!二対一だが卑怯だとか言うなよ。お前がケインを怒らせたのが原因だ」
アリエスは杖を突きつけて、そう宣言する。
「良かろう!新しい身体と能力で、まとめて片付けてやる!」
戦闘は佳境を迎えつつあった。
マヤたちは、サラマンダーもどきになった人造人間の、炎のブレス攻撃に手を焼いていた。宙を駆けてマヤとユキマルはサラマンダーもどきの首を跳ねてゆき、ビャクヤは拡散攻撃魔法で数を減らしてゆく。
ギルドの魔法使いたちも、空中から氷結魔法を放ち、サラマンダーもどきを確実に仕留めてゆく。
「かなり減ったな。みんな!やつらとの戦いには慣れたな?」
魔法使いたちは誰もが大丈夫と、オーバーアクションでアピールしてくる。
「姉上、強力な魔力反応!レライエです!
「よし、レライエが気掛かりだ。我々は討伐に向かうから、後は頼んだ!」
その言葉を受けて絨毯は、猛スピードで市庁舎の方角に向けて飛行する。やがて、市庁舎近辺に到着するが、かなり激しい戦闘だったようで多くの建物が崩れている。
「姉上、レライエとアリエス殿が戦闘中です!ケインの姿も見えますね」
「ほう。ケインはこの短時間でかなり魔力量が増えたな」
「その原因はあれでしょうな」
ユキマルが指差す先、地面の上に、モーガンの串刺しになった身体が横たわっていた。
「この戦時下に、錬金術師では対処出来ないだろうに、何故のこのこ出て来たんだ?」
「恐らく、ケインが心配で出て来たのでしょう。そして殺され、それに怒ったケインが一時的に魔力量が増大したのでしょうね」
ビャクヤは状況からそう分析した。
「しかし、レライエのほうも魔力が増大してるぞ。オマケにあの身体、まるで液体金属だ。アリエス殿の攻撃魔法を液体のように、ぬるりとかわしている。どうやら、サポート役に新しい能力を授かったようだな」
「どうします、姫様?」
そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!仕方ない、しばらく傍観するか。アリエス殿がピンチになれば我々が出よう」
「御意」
マヤたちは絨毯の上に腰を下ろし、観客に徹することにした。
アリエスの究極攻撃も、レライエには通じなかった。そこで、ようやく属性魔法の使用に踏み切った。
「ラピッドファイア!」
アリエスの杖から二千度の炎が発射された。だが、レライエは結界を張り、炎を遮断する。
「くそっ、属性攻撃ではやつの結界は破れない!」
「先生!俺がやつの結界を破ります。そこに炎熱魔法を!」
「うん、それしか手はないか」
拮抗する今の状況を打開するべく、アリエスはケインの提案に乗ることにした。
「ドライドルーバ!」
ありったけの魔力を込めて発射された攻撃魔法は、レライエの結界を破壊する。
「今だ!ラピッドファイア!」
アリエスの杖から二千度の炎の帯が伸びる。そして、レライエの身体がドロドロに溶けたように見えた。
「よし、温度上昇!」
アリエスがさらに畳み掛けようとした時、炎の下に隠れていた金属の槍が腹に突き刺さった。
「しまった!レライエめ、最初からこれを狙っていたのか!」
アリエスは血を吐き出し、忌々しげに怒鳴った。
炎の帯の下から移動してきたレライエは、再び人型に戻った。もう一本の槍はケインの足に突き刺さっていた。
「これで終わりだ、アリエス!」
レライエは拳を握り、振り上げた。
「エンダローダ!」
ビャクヤは杖を構え、究極魔法を発動した。解析を終え、究極魔法を使えるようになっていたらしい。マヤは我が弟ながら、戦慄するほどのビャクヤの才能に思わず唸った。
攻撃魔法はレライエの突き出した腕を吹き飛ばした。驚愕の表情を浮かべ、空中で後ずさった。
「むうっ、魔導士のビャクヤか!貴様は人間の癖に、エルフの究極魔法を会得しているのか!?」
「ふふーん、ついさっきだけどね」
言葉の意味が理解出来なかったようだが、レライエは改めてマヤたちを真なる敵と認定したようだ。
「なるほど、勇者パーティーと呼ばれるだけのことはある」
気を失ったアリエスとケインの身体を、ビャクヤは自身の固有結界に収納した。治癒魔法を掛けておくのも忘れない。
「では、改めて戦うか、勇者パーティー?」
戦闘用に装甲した身体で、レライエが宣戦布告する。
「ああ、三対一だが卑怯とか言うなよ、レライエ。冒険者は元々パーティーで戦うものだ」
「ふん、よかろう。千年戦争で英雄と呼ばれた俺の実力を思い知らせてやる」
「では、勝負だ!」
空中歩行の魔法でマヤは、レライエに肉薄する。
「百花爆裂!」
一太刀が百の斬撃になる奥義を繰り出すが、レライエの身体は細かく刻まれてもまた癒着して、元の姿に戻る。
「キルドレッドフィスト!」
レライエは機関銃のような、連続突きを放ってくる。マヤは身体を煙幕状にして攻撃を避ける。
「今度はこっちの番だ!」
ユキマルが一息に距離を詰め、奥義を繰り出す。
「千手孔刺!」
人体にある七百八ある経絡秘孔を突く連続突きの技だが、液体金属のレライエには何のダメージも与えられなかった。
そして、レライエは両腕の指先を尖らせて伸ばし、槍のように突いてくる。
「桜花流水!」
その攻撃を、ユキマルは水の動きで全て捌く。
「ラピッドファイア!」
交戦中を狙ってビャクヤが炎熱魔法で攻撃するが、
「ゼロクルス!」
レライエは結界で防御する。やはり、炎熱魔法の攻撃はしっかりと防御するようだ。
「仕方ない。ユキマル、究極奥義で攻撃するぞ!」
「やれやれ、それしかありませんな」
マヤとユキマルは闘気を解放する。
「裏奥義、明鏡反水!」
接近してきたレライエが拳と蹴りで攻撃するが、闘気の結界はびくともしない。
「むっ?剣士がオーラを使って結界を作るとは!やはり、ただ者ではないな!」
レライエは距離を取り、上腕と胸から銃身を伸ばし、鉄の弾丸を撒き散らすが、闘気の結界はびくともしない。その隙にマヤは身体を煙幕状にして、密かにレライエの背後に回った。
そして、ユキマルの刀が白い光を放ち始めた。このまま振り下ろせば広範囲攻撃の万花爆砕になるが、周囲に甚大な被害を出すのでエネルギーを凝集し、一点に狙いを定めて放射する。限界までエネルギーが高まった一輪殲滅だ。
「食らえっ!」
ユキマルが刀を振り下ろした。強力な破壊のエネルギーがレライエ目掛けて飛んでゆく。
流石に不味いと思ったのか、レライエは、
「ゼロクルス!」
魔族の最強結界でエネルギー波を受け止める。しかし、あまりに強力な攻撃に結界が軋んでいる。そこに、
「エンダローダ!」
ビャクヤがエルフの最強攻撃魔法を放った。辛うじて耐えていた結界も粉々に砕けた。そこに、すでに闘気を解放していたマヤが、白く輝く二刀流を振り下ろす。
「一輪殲滅!」
波状攻撃で対処が遅れたレライエは、全てを滅する超究極奥義をまともに受けた。
「ぐうおあー!」
エネルギー波が液体金属をバラバラにする。そこにビャクヤは最後の攻撃を加える。
「ラピッドファイア!」
二千度の炎の攻撃で、細かく分散したレライエの欠片を、丁寧に溶かしてゆく。
勇者パーティーの見事な連携に、千年戦争の英雄も塵も残さず完全に消滅した。
「どうだ、ビャクヤ?」
「レライエの魔力は完全に消えました!我々の勝利です!」
「ふう、手強いやつだった。一人では倒せなかったかもな」
「いえ、姫様ならばあの程度余裕で討伐出来たでしょう」
そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!客観的に今の戦いを振り返って見ろ。私たち三人の連携があってこその勝利だ」
「そうですな。剣の攻撃、魔法の攻撃だけでは難しかったでしょう」
ユキマルは刀を鞘に納めてため息をついた。
「姉上、人造人間の魔王軍もほぼ鎮圧されたようです。ギルド支部に戻りますか?」
「そうだな。アリエス殿とケインを治療しないとな」
「治療自体は終わってます。アリエス殿は流石にエルフ。もう完全に傷は消えてます」
「ふむ。さて、どんな罵詈雑言を浴びせられるか分からないが、帰るとしよう」
「はい!」
ビャクヤは絨毯をギルド支部に向けて飛行させた。
千年戦争の英雄、レライエと人造人間の魔王軍を討伐したことを記念し、ヘリオン公国の王都で盛大な宴が催された。主役は勿論、勇者パーティーとアリエス、ケインだった。
あちこちで巨大なキャンドルが灯され、迎賓館とその周辺は大いに盛り上がっていた。露店も立ち並び、市民たちもちゃっかり、おこぼれに預かっている。
しかし、このめでたい宴の中で機嫌が悪い者が約一名。
「余計な手出しをしてくれたものだ。レライエはボクが討伐するはずだったのに」
何杯もワインをあおって、愚痴をこぼすアリエスだ。
「しかし、アリエス殿。ピンチだったことは間違いなかろう?人は手を取り合ってこそ、大きなことを成し遂げられる」
「ボクは人間じゃない!」
ワインのカップを勢いよくテーブルに叩きつけたアリエスは、酔いも相まって完全に目が据わっていた。
「先生、落ち着いてください!エルフでも、致命傷を受けたら死んでしまう。正直、勇者パーティーの皆さんが居なかったら・・・」
「ケイン、君はどっちの味方なんだ!?」
「俺は中立ですよ。少なくとも今回の戦いにおいては」
「はっはっは!相も変わらず、どっちつかずの野郎だな!」
姿を見せたのは串刺しになって死んだはずのモーガンだった。
「し、師匠!どうして!?」
「錬金術師も抜け目がないな。死んだのはまた人造人間だったのか?」
流石に呆れたマヤは肩を竦めて、大柄の錬金術師に問いかけた。
「本物の俺はずっとガルド侯爵の屋敷に籠ってたんだ。そこから人造人間を操っていたって寸法よ!」
呵呵大笑する錬金術師を、ある者は称賛の目で、ある者は呆れた目で見ることになった。
「人間というものは本当に信用がならないな」
アリエスは侮蔑を込めた目をモーガンに向けるが、本人はどこ吹く風だった。
「まあ、そう言いなさんな、エルフさんよ。あんたにはケインを預かって欲しいからな」
「討伐は終わったんだ。もうボクに師事する必要はないだろう?魔法使いになりたければギルドに登録すれば良い」
「いや、俺は先生に教えを受けたいです!どうせ魔法を学ぶなら、Aレベルの魔導士である先生から教えを受けたいんです!」
「君はあれほど魔法使いになるのを嫌がっていたじゃないか!?」
「師匠からは破門されたし、サラもいなくなったので俺は身軽です。先生の旅のお供に連れて行ってください!」
「うー、何故そうも簡単に心変わりするのかな?人間というのは全く度しがたい」
アリエスは再びワインのカップを掴み、一息にあおった。
「分かったよ。勝手についてくるがいいさ。でも、自分の面倒は自分で見るんだ。ボクはそこまで博愛主義じゃないからね」
「大丈夫です!何があっても離れませんよ!」
ここに新たな師弟関係が生まれた。祝ぐべきなのだろう。
「よーし、みんな!みんなが証人だ!新たな師弟関係に、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」
冒険者や市民がカップを掲げて一斉に声を上げる。
「しかし、君。ビャクヤといったか?見ていただけでエルフの究極魔法を盗んだとは、かなりの規格外だな」
目の据わったアリエスは、今度はビャクヤに矛先を向けた。
「僕の解析魔法は特別製だからね。エルフのでも魔族のでも、魔法なら術式を解析して使えるようになるんだよ!」
「それが規格外というんだ。数少ないエルフの魔法使いでも、そんなことが出来る者はいなかった。勿論、アンドレア殿を除いてだけどね」
「実をいうとザルカス陛下から教えてもらったんだ!」
「ザルカス・・・あのご老体なら確かに何でもありだな」
「アリエス殿。ザルカス陛下をご老体というのは、いささか言葉が過ぎないか?」
マヤは四~五十代に見える、豪快なエルフの英雄を頭に浮かべて苦言を呈した。
「ボクから見れば十分、ご老体だよ。ボクは千年戦争から参加してるけど、ザルカス陛下は旧支配者との長きに渡る戦いから英雄と呼ばれてた存在だったからね」
かつて、大陸を支配していた異形の神々。旧支配者の邪神たちとの戦いは二~三千年続いたと言われている。マヤたちからすればもう神話に近い話だ。
「それだけの存在だからこそ、南の帝国の動きを牽制することが出来ている。ご老体がいなかったら、帝国はとうにロウランド王国辺りまで支配していただろう」
「何だか聞けば聞くほど、ザルカス陛下は伝説級の存在なのだな」
マヤは素直な気持ちを吐露しただけなのだが、アリエスはふんっと、鼻息を荒くする。
「後、二千年もすればボクも伝説級になれるさ!その時は模擬戦をしてもらうよ、カリバーさん!」
「・・・いや、悪いがその頃には我々は全員死んでいる。エルフのスパンで語らないでくれ」
マヤとユキマルは笑いを堪え、ビャクヤは目を輝かせていた。
「修行期間が二千年もあったら、僕は聖魔導士になれるよ!」
「ビャクヤ様。感化されないでください。エルフと人間では寿命が違う。あくまで我々は人間の冒険者なのですから」
「だったら魔人にでもなれば良い。人間より遥かに長生き出来るぞ」
アリエスの熱っぽい視線を、マヤは身体を割り込ませてビャクヤから逸らす。
「無責任なことは言わないでくれ、アリエス殿。私は弟を魔人にする気はない!」
マヤの鋭い視線にアリエスは肩を竦めて笑った。
「ははは、冗談だよ。我々エルフにとって人間は、ただ通り過ぎていく存在。だから人間社会にはあまり干渉しないのさ」
アリエスはワインのカップを掴み、一息に飲み干した。
「私にとってはエルフは良き友人だよ。ザルカス陛下、剣聖ラルカス殿、聖魔導士アンドレア殿。そしてあなただ、アリエス殿」
それを聞いてアリエスは吹き出した。
「友人?止してくれ。ボクたちは会って間もないじゃないか」
「旅を続けていたら、また会うこともあるだろう。その時にはまた一緒に呑もうじゃないか!」
アリエスはため息を漏らしたが否定はしなかった。
「そうだな。また会うことがあればね。その頃にはそっちはヨボヨボになってるかも知れないが?」
「それでも良い。また巡り会えたら酒を酌み交わそう」
マヤのあまりにも真っ直ぐな言葉に、アリエスもすっかり毒気を抜かれてしまった。
「やれやれ。分かったよ、カリバーさん。魔王を討伐する時は、是非ボクも呼んでくれ」
「そんなことがあるか分からないが、もしあれば呼ばせてもらうよ、アリエス殿」
こうして、マヤとアリエスは水晶端末の連絡先を交換したのだった。
宴の次の日、目を覚ましたマヤは、ベッドで身体に抱きついて眠るビャクヤに口付けて、起床を促す。
「うーん、おはようこ'ざいます、姉上」
寝ぼけ眼のビャクヤの頭を撫でて、マヤはベッドから滑り降りた。寝間着を脱ぎ捨て、いつもの黒い和装に身を包む。洗顔と歯磨きを済ませ、二本の刀を腰に差して部屋を出た。
いつものことだが、ユキマルはすでに旅支度を済ませて、廊下の壁に背中を預けていた。
「おはようございます、姫様」
挨拶をするユキマルの頭に拳骨を落とす。
「姫と呼ぶな!何度言わせたら気が済む?」
「これはもうルーティンワークですからな。止めることが出来ませぬ」
「まったく、マゾめ」
着替えて出てきたビャクヤは、相変わらずのボケとツッコミにはあえて触れなかった。
「姉上、早く朝食を済ませて次の街に行きましょう」
「やれやれ。ビャクヤはお前よりよっぽど大人だな」
話しながら宿舎の一階にある食堂に行くと、アリエスとケインが朝食を摂っていた。
「おー、お早う。アリエス殿、ケイン」
「あ、おはようございます!」
「・・・・・・」
ケインは挨拶を返してくれたが、アリエスはチラリと視線を動かしただけで無言だ。
「先生、挨拶くらいは返さないと」
ケインは苦言を呈するが、アリエスは面倒臭そうに手を軽く上げただけだった。
「ま、大体予想通りかな」
空いているテーブル席に着くと、それぞれ注文をする。
「ところで、アリエス殿。次の旅の予定は決まっているのかな?」
マヤは返事を期待してなかったが、意外にもこの質問には反応した。
「そういう君たちこそ、決まっているのかい?」
「このまま大陸の北側を東に向けて進むつもりだ」
「そうか。ならばボクは南側を進もう」
どうやら、徹底的に勇者パーティーとは違うコースを選ぶつもりらしい。
「やれやれ、嫌われたものだ。しかし、南側を進むなら気をつけたほうが良い。帝国が空を飛ぶ船を建造してるという情報がある。「忘れられた森」の抑止力がなくなる可能性があるんでね」
「空を飛ぶ船?そんなものが実用化されたら、確かに脅威だな。精々気をつけて行くとしよう」
アリエスはテーブルに銀貨を置き、そのままケインを伴って食堂から出ていった。
「随分と嫌われたものだ」
マヤは苦笑して、朝食に手をつけた。
馬車乗り場で荷物を積み込んでいると、ギルド支部の冒険者たちがぞろぞろと見送りにやって来た。
「やれやれ。永遠の別れでもあるまいに、みんなで見送るのは止めてくれと言っただろう?」
マヤが肩を竦めると、スタイン支部長が寄ってきて、マヤに耳打ちしてきた。
「次の街、トカレフでヘリオン公国は最後になるでしょうが、是非ともカリバーさんに調べて欲しいことがあるんです」
「ほう、支部長直々とは。何か困った案件か?」
「詳しいことはトカレフの支部長に聞いて欲しいのですが、港を仕切っているアムラ辺境伯が、海路を使って帝国からマーブという麻薬を密輸しているとの噂があるのです」
「マーブ・・・聞いたことがある。他の街でも流行ってるハイになる麻薬だな」
「ええ。トカレフに到着したら支部長から詳しい話を聞いてください」
「分かった。麻薬の密輸、密売は重罪だからな。協力させてもらおう」
「お願いします!」
ゴトゴトと馬車が動き始めると、冒険者たちは口々に旅の安全を祈願していた。
「さて、次の街で早速、仕事をすることになりそうだな」
「しかし、麻薬グループの摘発など、警備局の仕事だと思いますぞ」
ユキマルはあまり乗り気ではなさそうだ。
「そうだな。ひょっとしたらこの件は魔族が絡んでいるのかも知れないな」
マヤは馬車の幌をめくり、 次の街での仕事に思いを馳せるのだった。
放浪編その13でした。かつての千年戦争で英雄と呼ばれたレライエは強敵でした。因縁の相手である、エルフのアリエスとレライエとの戦いは熾烈を極めます。だが、アリエスはレライエの罠に嵌まり戦闘不能に。勇者パーティーは連携プレイでレライエを倒します。そして、マヤたちの旅は次の街に移ります。若干の不安要素を孕みながら。それではまた次回でお会いしましょう。




