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魔鋼のレライエ 前編

放浪編その11

錬金術が盛んな街、アルステイツに到着したマヤたち。その時、ちょうど完成した金属人間が悪魔の憑依を受け、魔族となった。

 工業都市、アルステイツには腕利きの錬金術師アルケミストがいた。名はモーガン。娘のように可愛がっている助手はサラ。人造人間ホムンクルスだが、そうと言われないと人間としか思えない、モーガンにとっても最高傑作の一つだ。

 そして、工房に新しい弟子がやって来た。ケインは魔力量が多く、魔法使いになることを望まれていたが、物理的に何かを作り出す魅力にハマり、モーガンの工房の門を叩いた。

「しかし、オメーも変わり者だな。普通は魔力量が少ないやつが錬金術を始めるもんなんだがな」

「師匠。俺は魔法より錬金術のほうが興味あったんですよ。自分のこの手が作り出した物が生命を得る。そこに魅力を感じたんです」

「ふふふ、ケインは才能があるわ。必ず錬金術師として大成する。そうですよね、マスター?」

 モーガンとケインの前にコーヒーのカップを置き、人造人間のサラがニッコリと笑う。

「おう。この間ケインが出した案。生体金属ライブメタルを使った人形の造形。あれは面白そうだ。オメーの初仕事としては悪くない」

「師匠にそう言ってもらえて何よりです。必ず成功させてみせますよ!」

「金属製の人造人間。成功したら勲章ものだぜ。ヘリオン公国は軍事力が弱いからな。金属兵士メタルアーミーの量産が出来たら、後は左うちわだぜ」

「ふふふ、師匠はまだまだ引退なんてしないでしょう?」

 サラが苦笑する。

「おうよ。まだまだ作ってみたいアイデアはたっぷりある。そのためにも金属兵士のアイデアは実現しなきゃならねえ。パトロンのガルド侯爵も期待なさってる!ケイン、気合い入れろよ」

「分かってますよ、師匠。俺は魔力を注ぎながら懸命にやってます。必ず成功させますよ!」

「おう、期待してるぜ!」

 モーガンの工房の中に笑い声が溢れた。


 ガタゴトと馬車に揺られて、上級剣士のマヤ・カリバー、同じく上級剣士のユキマル、魔導士のビャクヤはボードゲームに興じていた。

「次の街、アルステイツは錬金術師たちの工房が乱立する、工業都市ですね。楽しみですな、姫様」

 そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!しかし、錬金術は馴染みがないからな。確かに興味深くはある」

「僕もまだ見たことありません!姉上、錬金術とは魔法とどう違うのですか?」

「うーん、魔法ではなく優れた技術と素材で、生活に役立つものを生み出すものだな。文字通り、鉛を金に変える技術もあるとか」

「他に代表的なものと言えば人造人間ですな。不老不死をもたらす賢者の石を使って作られるとか」

「賢者の石?それって幻の素材って聞いてるけど」

「ざっと二千年前には当たり前に手に入る素材だったようですぞ。ただ、その後の千年戦争でその鉱山が閉ざされ、入手は難しくなったらしいですが」

「千年前かー。アンドレア殿なら今でも在りかを知ってそうだけど」

「千年戦争を経験した者など、今ではザルカス国王陛下か、剣聖ラルカス殿、聖魔導士アンドレア殿くらいだな」

 永き時を生きるエルフでない限り、当時のことを知る者はいない。

「まあ、百聞は一見に如かずだ。アルステイツの街が見えて来たぞ」

 幌をめくって改めると、高い壁に囲まれた工業都市、アルステイツの門が見えてきた。

 いつものごとく、上級者のブローチを見ると、衛兵は敬礼して通行を許可した。

「おー、流石は工業都市!高いビルが立ち並んでいるぞ!」

 前に立ちよった街、パルカナと比べるとその建築技術は数世代先を行ってる感じだ。

 馬車乗り場に到着すると、馬に引かれず、自分で操縦する自動走行車が停まっていた。

「凄いな。帝国の軍事技術にも引けをとらない感じだ」

「ヘリオン公国は小国ですからな。錬金術で兵力を増強しようと考えても、不思議はありません」

「うむ。前に聞いた空飛ぶ船。もし実用化されたら「忘れられた森」を飛び越えて、帝国が他国に攻め込むことが出来るようになる。ロウランド王国のような大国ならともかく、ヘリオン公国のような小国では、今までのような剣や矢で戦う戦術が通じない、恐るべき侵略者となるだろうな」

 ギルド支部を目指しながら話し合っていると、

「小国で悪かったな、勇者パーティーのみなさん!」

 頑固そうないかにも職人風な男が、腕を組んで話しかけて来た。

「ああ、悪いな。あくまでロウランド王国と比較しての話だ」

「へっ、その大国でも未だに剣や魔法に頼った昔ながらの戦術だろう?俺たちが研究している金属兵士の構想が現実化すれば、戦争の概念が変わるぜ」

 男は得意気に言うと、組んでいた腕を解いて親指ですぐ隣の酒場を示した。

「勇者パーティーなら是非聞いてもらいたいね。俺たちが起こす技術革命を」

「ああ、それは願ってもない話だ。是非聞かせてもらおう」

 快諾するマヤの耳元で、ユキマルが静かに囁いた。

「よろしいのですか?このような胡散臭い者の話など・・・」

「いや、右目に眼帯をしたやたらデカイ男。錬金術師のモーガンに違いない」

「ほう、勇者パーティーのみなさんにも知られてるとは!俺も案外有名人だな!」

「なあに、知らない間に有名になってしまった者の苦労は知っているからな。是非、ご高説を賜ろう、モーガン殿」

「殿は要らねえよ、堅苦しい。モーガンと呼んでくれ。その代わり俺もあんたたちを呼び捨てにするがな」

「ああ、構わない。二人もそれで良いな?」

 刀の柄に手を置いていたユキマルは、そっとその手を下ろした。

「分かりました。マヤ様がそう仰るのなら」

「僕は子供だからどうだって良いよ!」

「よし、決まりだ!行くぜ!」

 大股で歩くモーガンの後を追って、マヤたちは酒場に入店した。


「あらまあ。カリバーさんたちがアルステイツに入ったようですわ」

 小さな読書カフェのオーナーであるミルファは、カウンターの上に置かれた魔力水晶に語りかけた。

『なら、急いで俺の依り代を用意しろ!受肉しなければ何も出来ないからな』

 水晶に宿った存在が催促をする。ミルファはニッコリと笑う。

「ええ、あなたは運が良いですわ。アルステイツなら人造人間の肉体が選り取り見取りですからね」

『ふん。俺の魔力を活かせる肉体があるのか?』

「ええ、まだ製作中のようですが、生体金属を使った特別製の身体がもうすぐ完成するようですわ。すでに魔法でその身体とあなたの幽体をペアリングしてます。心配は要りません」

 悪魔は精神生命体。物質界に干渉するには仮初めの肉体に受肉しなければいけない。そうして受肉した者が魔族となるのだ。

『ルキフェル様、直々の要請だからな。勇者パーティーのことなら聞いている。最高の肉体が手に入れば恐るるに足りん』

「そういえば、あなたは元々加工された肉体に受肉していたのでしたわね。千年戦争の間にその肉体を失ったとか」

『ああ。だが、今は戦時下ではない。平和ボケした連中の目を覚まさせてやる!』

「ふふふ、頼もしいですわ、レライエさん」

 ミルファはかつての千年戦争の英雄の名を呼んだ。


「ふむ。核心コアとなる心臓部は、生体金属に魔法をかけて強靭な物にしないとな」

 肉体はほぼ完成している金属人間の心臓部を、いよいよ内蔵する段階に至った。

「あら?魔法使いにはならないのに、魔法を使って良いの?」

 人造人間のサラが意地悪く指摘する。

「自分の持ってる技術の全てを注ぎ込む。最高傑作を作るには半端なことは出来ないだろ?」

「うふふ、冗談よ。遂に完成するのね」

「ああ、これが次世代最高の錬金術。金属人間の誕生だ!」

 ケインは核心となる丸い金属を心臓部に埋め込んだ。そして胸の部分を生体金属で覆ってゆく。

「よし、電流を流すぞ!」

 雷を作る機械はあるが、ケインはあえて魔法により雷を生み出し、素体の全身に行き渡らせた。工房の中にイオン臭が漂い、金属人間の目の部分が光った。

「よし、成功だ!この素体はアダムと名付けよう!」

 アダムはゆっくりと上半身を起こし、自らを創造した錬金術師のほうを向いた。

「気分はどうだ、アダム?」

「・・・ああ、最高だ」

 金属製でありながら、アダムは口角を上げて笑った。


「てな具合でな!全身が金属で出来ている人造人間を製作してるのさ!」

 モーガンはビールのカップを傾け、ほろ酔い加減で得意そうに言い放った。

「ほう、確かに興味深い。完成したら頑丈な兵士が出来そうだな」

「おうよ!量産が出来るようになれば金属兵士の軍隊が造れるぜ!」

「錬金術の技術だけで本当に造れるのか?」

「あー、弟子のケインは元々魔法を習ってたからな。要所要所で魔法も使ってる。なあに、この街にもギルド支部がある。必要なら魔法使いを借りれば良い。バックのガルド侯爵は金属兵士の話に乗り気だったからな。いざとなればギルドの連中に手伝ってもらえば良い!」

「それで、その金属人間はいつ完成するんだ?」

 マヤの問いにモーガンは声を上げて笑った。

「なあに、そろそろだ!今日辺り、完成しそうだぜ!」

「なら、工房に戻ったほうが良いんじゃないか?我々もそろそろギルド支部に行かねばならないからな」

「そうか。じゃあ、お開きにするか」

 モーガンは立ち上がり、テーブルに銀貨を置いて歩き出した。その足元はふらついている。

「おいおい、大丈夫か、モーガン?足元が頼りないぞ?」

「はっはっは!心配はいらねえよ!それじゃあな、勇者パーティーの旦那方!」

 店先で別れたマヤたちはギルド支部を目指して歩き出した。

「しかし、金属兵士とは。我々の刀も刃が入らないかもしれませんな」

「ああ、正に技術革命だな」

「魔法なら通用しますよ。金属性なら火属性の魔法で攻撃も防御もお手のものです」

 ビャクヤは胸を反らせて得意気だった。

「この街には人造人間も多い。もしもの時は頼むぞ、ビャクヤ」

「大丈夫です!大船に乗ったつもりでいてください!」

 ビャクヤは小さな胸を叩いて請け負って見せた。


 作業台から降りたアダムはゆっくりと立ち上がった。

「よし、アダム。歩いて見せてくれ」

 ケインが命じるとアダムは、金属人間とは思えない滑らかな動きで、部屋の中を歩き回った。

「成功ね、ケイン!」

 人造人間のサラが小さく拍手する。

「ああ、だがこれから色々教えて知性を磨いてやらないといけない。少なくとも君のように、人間社会に馴染むくらいにね」

 ケインがそう言うと、アダムはゆっくりと振り向いた。

「ふふふ、その必要はない。この身体は最高だな。これなら以前のように存分に力を発揮出来そうだ」

 そういうと、アダムは机の上に置いてあった金属の装置を握り潰した。

「何をする、アダム!?」

 焦るケインに金属人間は高らかに笑いかけた。

「アダムではない!俺の名はレライエ!魔王軍の幹部だ!この身体は有りがたく頂戴するぞ!」

「バ、バカな!?作ったばかりの金属人間の身体に魔族が憑依したのか!?」

 ケインは水晶端末を取り出し、作成者権限を発動させた。埋め込んだ頭の装置にはセーフティが掛けられており、外部から強制的に行動を制限することが出来る。だが、いくら作動をオフにしても金属人間は笑みを湛えて仁王立ちしていた。

「無駄だ!無駄無駄!この身体は完全に乗っ取った!お前には最初の犠牲者になってもらおう!」

 その時、間の悪いことに師匠のモーガンが帰って来た。

「おーい、ケイン!成功したのか?」

「師匠!金属人間の身体に悪魔が受肉した!危ないから逃げてください!」

「ああん、悪魔?何を言ってんだ、ケイン?」

 足音が作業場へ近づいてくる。

「くそっ!サラ、師匠を連れて逃げてくれ!」

 そう呼び掛けるのだが、サラは動こうとしない。

「どうしたんだ、サラ!?急がないと・・・!」

「どうして、私がお前の頼みを聞かねばならない?」

 サラの顔には邪悪な笑みが刻まれていた。

「サラ!?まさか君まで!」

「私はアール。レライエ様の忠実な部下さ!」

 そこに、モーガンがふらつきながらやって来た。

「おー、金属人間は完成してるじゃねえか。流石だぜ、ケイン!」

 そう言って、モーガンは気軽にレライエとサラに近づいてゆく。

「危ない、師匠!」

 ケインが駆け寄る前に、モーガンの胸にレライエの右腕が突き刺さった。ポカンとしたモーガンはケインを振り向いた。

「おい、ケイン。早速戦闘用にブラッシュアップしたのか?」

 その口から血の塊が吐き出された。

「あー。なんだこりゃ?俺の胸に腕が入り込んでるぞ?」

「お前は俺の最初の犠牲者となる。光栄に思え!」

 残った左腕が伸びるとモーガンの頭を掴み百八十度回転させた。骨の砕ける音が鳴り響き、モーガンはその場に崩れ落ちた。

「次は貴様だ!ケイン!」

 レライエの顔がケインの方に向けられる前に、四十センチほどの杖を持ったケインが、その場で魔法を発動させた。地面に魔方陣が生じ、それが消えるとケインの姿はその場から消え去っていた。


「ふん。ただの錬金術師ではなく、魔法使いだったのか」

 レライエは工房の扉を破壊し、アールを伴って外に出た。

 そこには、悪魔が憑依した人造人間の集団が片膝をついて控えていた。

「この街にはおよそ千体の人造人間がいる。それが全て魔族になれば、魔王軍の完成だ!」

 その言葉を受け、悪魔の憑依を受けた人造人間たちは立ち上がり、右の拳を胸に当てた。

「さて、まずはこのアルステイツを掌握するところから始めるぞ!」

 魔王軍となった人造人間たちは、一斉に鬨の声を上げた。


 ギルド、アルステイツ支部は勇者パーティーを歓迎した。支部長のスタインは敬礼までしてのけた。

「普通に接してくれ。私たちも同じ冒険者なのだからな」

 マヤは苦笑しながら謙遜するが、他の冒険者たちも興味津々で周りを取り囲む。

「パルカナではサラマンダーの大群を退けたとか!下位とはいえ、ドラゴンを何体も倒すとは流石は勇者パーティー!」

「それを使役していた魔族も退けるとは、正に勇者に相応しい実力だ!」

 アルステイツの支部には挑戦してくる跳ねっ返りはいないようだ。

「スタイン支部長。隣の宿舎に空きはあるか?」

「ええ。旅の冒険者は皆、利用してます。最上階の二部屋を使ってください。おい、キム。案内してくれ」

「分かりました。どうぞこちらに」

 理知的な女性職員が先に立って案内する。

「実は私は人造人間なのです。よろしくお願いいたします」

 どう見ても人間にしか見えないキムがあっさりとカミングアウトする。

「ほう。これは大したものだ。普通の人間にしか見えないな」

 マヤは素直に驚嘆したが、ビャクヤは何やら顔をしかめていた。

「おかしいな、この感じ。どこかで覚えが・・・」

「どうかしたのか、ビャクヤ?」

「いえ、きっと気のせいでしょう。行きましょう、姉上」

 様子のおかしい弟にマヤは首を捻るが、ユキマルは通常運転だった。

「心配ありませんよ、姫様。ビャクヤ様も人造人間が珍しいのでしょう」

 その頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!だが、うむ。確かに普通の人間にしか見えんな」

「しかし、人造人間は人間の作業を肩代わりさせることが多いので、タフで力も強いらしいですぞ」

「ふむ。だが安全措置はされているのだろう?」

「ええ、作成者権限がありまして、端末を使って強制的にフリーズさせることが出来るようです。最も、今までそうしたトラブルはなかったようですが」

「まあ、そんなことが頻発するようでは実用化はされてないだろうな」

 話し合っている間に部屋の前に到着した。

「では、こちらの二部屋を使ってください。こちらがキーになります」

 番号札の付いた鍵を受け取り、マヤたちはそれぞれの部屋に入る。

「後で街に出掛けよう。モーガンの工房に見学に行きたいしな」

 荷物を置いた後、マヤたちは食事を摂り、モーガンの工房に向かった。あらかじめ住所は聞いていたが、初めての街では土地勘がないので探すのに一苦労だった。ようやく辿り着いた時、工房の中の惨事を発見する羽目になる。

「モーガンが殺されている!一体何があったんだ?」

 マヤは刀の柄に手を置き、工房の中を調べて回った。

「聞いていた金属人間の素体も見つからない。まさかこれはそいつの仕業なのか?」

「分かりませんが、弟子のケインもいません。行方を探す必要がありますな」

「ギルドの冒険者にも手伝ってもらおう。支部に戻るぞ!」

 マヤたちが工房から出ると、そこには鎧を着たような金属製の身体を持つ人形が、集団を引き連れて待っていた。

「ようこそ、勇者パーティー!お前が煙幕のカリバーか?」

 武骨な外見に似合わず、金属人間は滑らかな口調で問い質してくる。

「ああ、そうだ!モーガンを殺したのはお前だな、金属人間!」

「ふはは!俺の名はレライエ!かつて千年戦争で殺人機械キリングマシーンと呼ばれた英雄だ!」

「!、聞いたことがある。物理的攻撃も魔法攻撃も跳ね返し、エルフと人間の連合軍に甚大な被害をもたらした、殺人機械、レライエ!」

「ふはは、歴史を良く勉強しているな。ならばこれから先の展開も分かるだろう?」

 レライエの背後に展開している、人造人間の大群が全てを表していた。

「この街の人造人間、全てに悪魔を受肉させる気か!?」

「人造人間というのは便利だな。ほぼ人間に近い構造になっているが、人格は希薄だ。実に簡単に受肉出来るぞ!」

 マヤとユキマルは刀を抜き、ビャクヤは杖を構えた。

「戦闘で大事なのは量より質だ。数を増やしても我々の敵ではないぞ!」

「それはどうかな?試してやろう!」

 レライエが手を上げて、振り下ろすと、剣や斧で武装した人造人間が展開しながら包囲する。

 第一波が襲いかかって斬り込んで来るが、マヤとユキマルの剣術、ビャクヤの拡散攻撃魔法で全て地面に倒れ伏した。

「行くぞ、レライエ!」

 マヤは一気に距離を詰め、顔面目掛けて突き技を繰り出す。レライエが両腕で顔面をカバーすると、がら空きの胴に二刀流で斬り込む。だが、刀は頑丈な魔鋼鉄の身体に跳ね返された。

「むっ?胡蝶剣が通じない!?」

 レライエはマヤの攻撃をまるで無視して、魔鋼の拳で攻撃を加えて来る。マヤは身体を煙幕状にしてそれをいなす。

「今度は私だ!影縫死斬かげぬいしざん!」

 レライエの背後を取ったユキマルは袈裟斬りに刀を振るうが、魔鋼製の身体は丸っきり刃が通らない。後ろ回し蹴りが飛んで来て、ユキマルは水の動きで辛くもかわした。

「マヤ様!これはもう究極奥義を出すしかありません!」

 その時、レライエの上腕に複数の銃身が現れ、鉄の弾丸が連射された。

「アーカム!」

 ビャクヤは一般魔法の結界を張り、三人は難を逃れた。

「ふはは!その結界がいつまで保つかな?」

 レライエの腹部が左右に開き、太い光の束が放出された。高出力の魔法の光線が三人を襲う。

「ヴァルサイド!」

 流石に不味いと思ったのか、ビャクヤは最強結界を張った。巨大な建物さえ倒壊しそうな強力なエネルギーは、結界によって拡散する。

「姉上!次は僕が試します!」

 ビャクヤは杖をレライエに突き付け、最強攻撃魔法を発動させる。

「ジャルバローダ!」

 杖の先に積層魔方陣が展開し、全てを滅する白い光の束が発射された。

「むうっ!」

 ここで初めてレライエは魔族らしい動きを見せた。両腕を突きだし結界を張る。流石の金属人間も最強の魔法攻撃の直撃を避けた。光が弾けて視界が開けると、両手を前に付き出したレライエの姿が見えた。

「なるほど。流石の金属の身体も、最強魔法の直撃は避けたか」

「ふん!魔族は元々、魔法を使って戦う。基本に基づいただけだ」

 マヤはそれが強がりであると見抜いたが、剣の究極奥義が通用するかは試さないと分からない。

「よし、次は剣の奥義を受けてもらおうか!」

 マヤは闘気を解放した。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 レライエは鉄の弾丸を発射するが、闘気の結界で全て弾かれる。マヤの二本の刀が白い光を放ち始めた。本来なら広範囲攻撃の万花爆砕ばんかばくさいを打ち込むのだが、街中では周囲に甚大な被害を出すため、そのエネルギーを一体だけに集中した超究極奥義を繰り出す。

「食らえっ!一輪殲滅いちりんせんめつ!」

 凝集された光のエネルギーは、太さ一メートルほどの破壊光線となって直進する。

 レライエはまた結界を張ろうとするが、防ぎきれないと悟ったのか、その場から姿が消え失せた。マヤの放ったエネルギー波は奇しくもモーガンの工房を直撃して、粉々になってしまった。

「逃げられたか!ビャクヤ、後は追えそうか?」

「魔力パターンは記憶しました。しかし、新たな問題が発生しています!」

 それは、いうまでもなく悪魔が受肉した人造人間のことだ。ざっと街を見渡しても、あちこちで火の手が上がっていた。

「仕方ない。一旦ギルド支部に戻ろう。冒険者たちと協力しあって今後の対策を考えねばな」

 マヤたちは急いでギルド支部に向かった。


 その頃、モーガンのパトロンであるガルド侯爵の屋敷内に空間転移したケインは、直ぐに侯爵に報告するため、屋敷の玄関をノックした。程なく扉が開いたが、そこにいたのは意外な人物だった。

「し、師匠!?」

 そこにいたのは、隻眼の大男、モーガンその人だった。

「な、何故生きてるんです?俺は師匠が殺されるのを、この目で見たんですよ!」

「はっはっは!ケイン、すまなかったな!殺されたのは俺の人造人間だったんだ。ある魔法使いが悪魔の一斉受肉が起こるから、身代わりを用意しろと予言してな。で、俺は自分の人造人間を用意しておいたのさ!」

「・・・なんで教えてくれなかったんですか!?危うく殺されるところだったんですよ!」

「いや、その魔法使い曰く、お前は魔法が使えるから、何とか逃げ出すだろうと踏んでたのさ」

「しかし、本当に危なかったんですよ!俺も殺されてたかもしれない!」

「あはは、ボクの弟子がそう簡単に殺されたりしないさ」

 その聞き覚えのある声に振り返ったケインは、肩を落として脱力した。

「まさか、あなたが侯爵と繋がっていたとはね」

 ケインの視線の先には、両耳の尖った十四、五歳の美少女の外見のエルフが、皮肉な笑みを浮かべていた。

「ボクは自由な旅人さ。あちこちにコネがあるんだよ」

「それなら、何故事前に警告しなかったんですか?あちこちから戦闘音が聞こえる。何故、悪魔の受肉を放置したんですか!?」

「それは止めようがなかったからさ。魔界からやって来る悪魔を止めるのはボクたちエルフでも不可能なんだよ」

「アリエス殿。その者が弟子ですか?本当に魔王軍になった人造人間たちを始末出来るんでしょうな?」

 屋敷の主、ガルド侯爵が神経質そうな、しかつめらしい顔で問い質してくる。

「この街には人造人間が増えすぎた。だから間引きしたいと言ったのはあなたですよ、ガルド侯爵」

「しかし、まさか悪魔が一斉に憑依してくるなんて!市長から連絡がありましたが、すでに魔王軍が構成され、市長を始めとした貴族たちは脅威に晒されてるのですぞ!」

「心配は要りません。今、この街には勇者パーティーが逗留しています」

「おお!あの無敵と称された勇者パーティーが!?」

「ボクは彼らと接触して、魔王軍の討伐を始めようと思っています。ケイン、君も同行してくれ」

「冗談でしょう、先生?俺はあなたから魔法の基礎しか習ってませんよ!」

「魔法は基本が大事なんだよ。君は魔力量が豊富だ。一般魔法でも十分役に立つ」

 自信満々に言い放つアリエスに、ケインは大きく肩を竦めた。

「全く・・・あなたの狙いは分かりませんが、この街にいる千体の人造人間が魔王軍になったと聞いたら、協力するほかないでしょう?」

「ふふふ、内に秘めた魔力が膨大な君は立派にボクの助手を努めてくれると信じてるよ」

 アリエスが杖の先を床に向けると、魔方陣が現れた。

「さて、ケイン。中に入りたまえ。ギルド支部に空間転移するよ」

「魔法使いの人生は捨てたはずなのに・・・この世は皮肉に満ちてますね」

「父君のフレア公爵の許可は得ている。次男坊である君には家を守る必要はないからね。だから、貴族なのに魔法の修行をしたり、錬金術を学んだり、自由に出来たんだよ。有り難く思いたまえ」

「ええ、でしょうね。俺はいつまで経っても半端者のままですよ」

「だから、今回の戦いで覚悟を決めたまえ。君の秘めた魔力量は膨大だ。腐らせるのは惜しい」

「・・・まさか、先生。そのために悪魔の受肉を放置してたんじゃないでしょうね?」

「ははは、考えすぎだよ。犠牲が多く出る今回のような事件を、放っておくわけがないだろう?貴族のお偉方には事前に人造人間の使用人を解雇するよう助言してるし、ギルド支部にも通達している。やれることはちゃんとやったさ」

 アリエスは自信たっぷりに請け合うが、ケインはこのエルフの魔法使いは底が知れない脅威に思っている。その言葉を全面的に信用は出来ない。

「それじゃあ、行きましょうか、先生」

 魔方陣の中に入ったケインは、封印した己の魔力が解放されてゆくのを感じ取った。

「それでは侯爵、モーガン。行って来るよ」

 気軽な調子のエルフに、二人は敬礼をして見送った。やがて一際大きな光が生じると、アリエスとケインの姿は消えていた。



放浪編その11でした。かつて、千年戦争で英雄と呼ばれた魔族、レライエが金属人間の身体を手に入れ、さらに街の全ての人造人間が悪魔の憑依を受け、魔王軍が形成されつつあった。マヤたちは早速ぶつかるが、その硬い魔鋼の身体に苦戦する。一方、事前に悪魔の一斉受肉をを予知していた旅のエルフの魔法使い、アリエスは弟子だったケインを連れて魔王軍との戦いに備える。果たして勝算は如何に?また次回でお会いしましょう

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