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炎上のアバリウス 後編

放浪編その10

怒りや憎しみで発火する、悪意ある感染魔法のため、パルカナの街は混乱していた。マヤ・カリバーとビャクヤ、ユキマルは感染魔法を仕掛けた魔族と対峙する。

 全身が炎に包まれ、黒い煙が立ち上ってマヤの姿が消えた。

「カリバーさん!くそっ、お前ら!何てことを!?」

 三人組は標的をローリーに変えて、木剣で襲いかかって来た。

「落ち着け、ローリー!マヤ様は無事だ!」

 刀を持ち変えたユキマルは襲ってくる三人組を、次々と峰打ちで倒してゆく。最後の一人が憎しみに満ちた目をローリーに向ける。すると、腰にぶら下げていた護符タリスマンが急に燃え上がった。

「わあっ!?とと!」

 ローリーは燃える護符を掴み、遠くに投げ捨てた。

「やったわ、ローリー!護符のお陰で焼け死なずに済んだわね!」

「ほ、本当に効果があるなんて!助かったよ、シンディ!」

 最後の一人もユキマルに一撃を食らい、地面に崩れ落ちた。

「マヤ様!無害化しましたぞ!」

 ユキマルの声に応えるように、空中に立ち上っていた煙が、地上に集まりマヤの姿に戻った。

「良かった、無事だったんですね、カリバーさん!」

「私は元々、煙幕化するスキルを持ってるからな。しかし、本当に効果のある護符を作れるとは、大したものだ、シンディ」

「は、はい!家庭教師に教えてもらっているので」

「よし、街の東側にサラマンダーが現れたらしいから行くぞ!」

「姉上!東側にはアバリウスの魔力は探知出来ません!」

「ああ、だがサラマンダーが現れたとなると放ってはおけない!急行するぞ!」

「分かりました!」

 ビャクヤは地面に絨毯を広げた。三人とローリー、シンディも乗り込んだ。

「よーし、行くよー!」

 絨毯は舞い上がり、東に向けて飛んだ。


 現場は入り乱れていた。ノーティたちハウズの連中は荒くれ者だが素人だ。ギルドから派遣されたらしい冒険者たちが、サラマンダーと攻防を繰り広げていた。

「下位とはいえ、サラマンダーはドラゴンだ。Aランクパーティーでも手こずっているようだな」

「ビャクヤ様!」

「分かってるよ!エアウォーキン!」

 マヤとユキマルのブーツが光り、そのまま空中を駆けてゆく。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 サラマンダーが炎のブレスを吐き出すが、闘気の結界をまとったマヤとユキマルには届かない。

影縫死斬かげぬいしざん!」

 背後を取ったユキマルはサラマンダーの翼を斬り飛ばした。

「グギャアー!」

「食らえ!百花爆裂ひゃっかばくれつ、二刀流!」

 一の太刀が二百になってサラマンダーを襲い、細かい肉片となって地面に飛び散った。

「す、凄い!これが上級剣士の実力か!」

 居合わせた冒険者たちや、ハウズの連中が呆然となっている。すると、マヤの水晶端末がまた震えた。

「私だ。何かあったのか?」

『姐さん、街の西側であちこちで火の手が上がってます!それに、火を吐くドラゴンも現れましたぜ!』

「むう、変わらず感染魔法の犠牲者が出ているのか!それにサラマンダーまで!」

『冒険者の連中が来て戦ってますが、苦戦してますぜ!俺たちも魔物相手じゃ手も足も出ません!』

「分かった、直ぐに行く!持ちこたえてくれ!」

 通信を終えたマヤはビャクヤを見た。敏い弟はすぐに絨毯の行く先を西に設定する。

「アバリウスの魔力も西側から感じます!上手くいけば一網打尽に出来ますね!」

「はてさて、どうかな?」

 直接戦闘が得意なやつなら自ら戦闘の前線に出るが、感染魔法のような直接戦わない魔法を使うやつは、直接戦闘が不得意なことが多い。

 急行する絨毯の上からでも、街の西側のあちこちで煙が上がってるのが確認出来る。

「あの辺はスラム街になってます。普段から怒りや憎しみを持っている連中が多そうですね」

 ローリーは奪った木剣を握り、そう説明する。

「普段から治安が悪いということか。気を付けろ!周りの人間の関心を買うような真似はするな!」

 マヤはそう警告し、サラマンダーと戦っている冒険者たちを眺めた。Aランクのパーティーのようだ。ブレス攻撃を良く防いでいるが、決定的な攻撃方法を持っていないようだ。

「よし、行くぞ、ユキマル!」

御意ぎょい!」

 まだ空中歩行の魔法は掛かっているので、マヤとユキマルはそのまま空を駆けてサラマンダーの元に向かう。それに気づいた下位ドラゴンは炎のブレスを吐き出した。

「裏奥義、明鏡反水!」

 闘気の結界がブレスを散らす。

「百花爆裂、二刀流!」

 サラマンダーは細切れになって、飛び散った。

「おい、あれは勇者パーティーじゃないのか!?」

「こんなスラム街に何しに来やがった?」

 サラマンダーの脅威が失くなった途端、住人たちは悪意を向けて来た。

「勇者パーティーと言っても、万人に歓迎されるわけじゃないようだな」

 マヤがため息をついた時、声を上げる者がいた。

「みんな、あの火のドラゴンを呼び寄せたのは勇者パーティーだよ!あいつらのせいでみんな死にかけた!」

 とんでもない言いがかりを付けてるのはアバリウスだった。やはり、直接戦闘に不向きな魔族は人間の疑心暗鬼を巧妙に利用するようだ。

「姉上!ユキマル!ローリーたちもこのブレスレットを付けて!」

 ビャクヤは水晶とアメジストで出来たブレスレットを配った。

「これは抗魔のブレスレットです!感染魔法を跳ね返せます!」

「流石は我が弟!もう感染魔法の対処法を編み出したのか?」

「あくまで感染魔法に対してだけです!他の魔法は防げないのでローリーたちは気を付けてね!」

「あ、はい!ありがとうございます!」

「凄い魔力!私の護符の何倍も強力だわ!」

 やがて、絨毯はスラム街の中へと降下してゆく。

「あいつらだ!あいつらのせいでみんな焼け死んだ!」

「この悪魔どもめ!みんな、やっちまえ!」

 疑心暗鬼に陥った群衆は目立ったものに責任転嫁をする。冒険者たちやカムズの連中も、サラマンダー退治より我を失くした群衆の対応で追われていた。

 襲いかかってくる群衆たちを、峰打ちで倒しながらマヤはビャクヤに指示を出す。

「魔法には魔法だ!ビャクヤ、この連中をどうにか出来ないか!?」

「分かりました!広範囲で試したことはありませんけど、昏睡魔法を試してみます!」

 殺到してくる群衆に向けてビャクヤは杖の先を突きつけた。

「モアスリープネス!」

 杖の先から虹色の光線が拡散しながら、群衆たちに降り注ぐ。すると、殺気だっていた連中がバタバタと倒れていった。

「流石だ、ビャクヤ!おっと!」

 マヤは背後から現れた暴徒の攻撃をいなし、峰打ちで打ち倒す。

「ビャクヤ、こっちも頼む!」

「分かりました!モアスリープネス!」

 虹色の光線が降り注ぎ、暴徒たちは鎮圧された。

「さあ、これでお前の持ち札は終わりか?」

 サラマンダーと群衆を失って、アバリウスは憎悪に満ちた目を向ける。

「まだだ!私は炎上のアバリウス!全てを焼き付くしてやる!」

 アバリウスの背後に炎の壁が出現した。そこから次々とサラマンダーが飛び出してくる。

「これは、見誤っていたか!これほどの数のサラマンダーを使役するとは!」

 冒険者たちは結界でサラマンダーの炎のブレスを食い止め、氷結魔法で仕留めようと試みる。だが、下位とはいえサラマンダーはドラゴンだ。非常にタフで、氷結魔法をブレスで溶かしてゆく。

「僕が行くよ!アイシングラート!」

 ビャクヤの高度な氷結魔法はサラマンダーたちのブレスを凍らせ、下位ドラゴンたちも動きを鈍らせる。

「今だ!一斉に攻撃だ!」

 冒険者たちが一丸となってサラマンダーたちを討伐してゆく。

「さあ、残るはお前だけだぞ!」

 マヤは刀を突きつけアバリウスを追い込む。

「おのれ!恐怖之炎ファイヤーインフェルノ!」

 アバリウスの足元から四方八方に炎の帯が伸びてゆく。

「裏奥義、明鏡反水!」

 マヤとユキマルは闘気の結界をまとい、ビャクヤたちは絨毯に乗って宙に舞った。

「カタをつけさせて貰うぞ!」

 マヤの上段に構えられた二本の刀は白い光りを放ち始める。

「他に被害を出すわけにいかんからな!超究極奥義でトドメを刺してやる!」

 膨大な闘気が凝集してゆき、直径一メートルはある光の帯が発射された。

一輪殲滅いちりんせんめつ!」

 巨大な白い光の束が、行く手にあるもの全てを飲み込んで、直進する。

「うあああー!」

 炎の欠片が飛び散り、アバリウスの姿が消えた。

「ビャクヤ!」

 マヤは弟の名を呼ぶ。

「痕跡は残ってます。技を食らう瞬間に空間転移で逃げたようです!」

「ちぃっ!幹部クラスになると逃げるのも上手いな!」

 マヤは刀を鞘に納めて戦闘終了の合図とする。

「この街にもミルファの魔道具店があるんじゃないだろうな!」

「この間、正体を見破ったので、同じような店をやってはいないでしょう」

 ビャクヤは事もなく言って、杖で魔力を探る。

「うーん、やはりミルファの魔力パターンは見つかりません」

「その魔力パターンを偽装することは出来るのか?」

「普通は不可能です。魔法を使う者は基本的に生涯同じ魔力パターンのままです。でも・・・」

「でも?」

「魔王クラスの者なら可能かもしれません。最も、ミルファは普通の魔法使い程度の魔力しかありませんでしたが」

「それなんだが、魔王クラスなら、自分の魔力量を少なく見せることも可能じゃないのか?」

「ええ、魔王クラスなら。ミルファは魔王軍の幹部のサポートをしていたようなので、他の魔族を凌駕する魔力を持っていても不思議はありません」

「その居場所は特定出来ないのか?」

「普通の魔法使い程度の魔力では、冒険者たちの魔力と混同してしまって、正確な位置は掴めません」

「では、アバリウスの魔力はどうだ?」

「そちらのほうは追えます。それ!」

 ビャクヤは空中にパルカナの街の地図を出現させた。

「どうやら、街の南側のようですね。ギルド支部とはちょうど正反対です」

「よし、行ってみよう。早く感染魔法を解除しないと、街の混乱は収まりそうにないからな」

「分かりました!」

 絨毯は宙に舞い上がり、一路、南を目指した。


「あの勇者パーティーは洒落にならんぞ!サラマンダーもあっさり倒すし、私の魔法の解析をして魔力結界のブレスレットを作ったり!」

 魔導書とカフェの店に戻ってきたアバリウスは文句たらたらだった。

「ふう。アバリウスさん。魔王ルキフェル様が勇者認定してるのですよ。手強いのは承知していたはずですが?」

 店主のミルファはイチゴのパフェをカウンターに置き、ため息をついた。

「街のほうは感染魔法のお陰で未だに混乱してます。この混乱に乗じて勇者パーティーを倒すのがあなたの役目です」

「実際に戦ったが、あの剣士たちも、魔導士も洒落にならないやつらだった!特にあの小僧、私の感染魔法を無効化する魔道具を作り出した。今後はそちらの方面では街を混乱させるのも難しくなるだろう」

「それでは急いで勇者パーティーを倒さねばなりませんね」

 ミルファは事も無げに言ってのけるが、実際に戦うアバリウスにとっては、うんざりさせる案件だった。

「ミルファ、何か良い手はないか?呼び出せるサラマンダーも限界があるし、感染魔法も最早、脅威ではなくなってしまった」

「あなた自身が灯火トーチになるしかないのではないですか?炎を自在に操れるのでしょう?」

「操れるが自分自身が燃え上がったら、自殺行為だ」

「これを予め飲み込んでおけば大丈夫ですよ」

 ミルファはカウンターの上に赤い宝石を置いた。

「魔力石ですわ。これを飲み込んでおけば、自身の身体を炎に変えても死ぬことはありません。いえ、むしろパワーアップ出来ますわ」

「サポーターのお前を疑いたくはないが、本当なのか?本当に身体を炎に変えることが出来るのか?」

「ええ、魔道具作りのプロである私の作品です。効果は保証しますわ」

 アバリウスは逡巡していたが、結局は魔法石を飲み込む決断をした。

「さあ、急いでください!カリバーさんたちがあなたの魔力を追っています。折角、新しい姿と店を作ったので身バレしたくないのです」

「ちっ、サポーターの癖に冷たいやつだ」

 アバリウスは立ち上がり、魔導書カフェを出ていった。

「さてさて、今度は上手くやりますかね、アバリウスさんは?」

 カウンターの上に寝そべる黒猫のジルはあくびを漏らした。

「やつには最初から荷の重い仕事だった。それだけさ。ダメならまた次の街で新しい相棒とやり直せば良い」

「ジルは気軽ですねー。私は毎度ルキフェル様のお小言を頂戴しているのですよ」

「それだけ魔王様の信頼が厚いということだろう?結構なことじゃないか」

「ふう、私も使い魔のほうが良いですわ。あなた、気楽そうですものね」

「いつでも代わってあげるよ」

 ジルは舌で毛繕いしながら呑気な口調で、飼い主をからかうのだった。


 アバリウスとサラマンダーが姿を消したので、後は疑心暗鬼の群衆を抑えるだけだった。マヤたちは絨毯で南に向かったため、ローリーたちは残って群衆の鎮圧に協力していた。

 悪意を持って打ちかかってくる棍棒を、ローリーが木剣で受け止め、シンディが攻撃魔法で仕留める。なかなかのコンビネーションだった。

「ローリー!なかなか剣が使えるようになったじゃない!」

「剣術の家庭教師がスパルタでね!攻撃はともかく、防御力は上がったよ!」

 二人の会話の合間に、隣にいた冒険者の身体が燃え上がった。

「うおおー、助けてくれ!」

氷結フリーズ!」

 シンディが杖の先から吹雪を打ち出し、鎮火に努める。

「私たちはブレスレットのお陰で大丈夫だけど、他の冒険者たちが被害を受けてるわ!」

「カリバーさんたちがアバリウスとかいう魔族を倒さないと、感染魔法は消えないようだし、今はとにかく群衆のパニックを鎮圧するしかない!」

「早くそうなることを祈るわ!このままじゃ魔力切れになる!」


 ローリーとシンディが冒険者たちと協力している間に、マヤたちは絨毯に乗って南の商店街に辿り着いていた。

「この店先でアバリウスの魔力の痕跡が消えています」

 ビャクヤは地に降り立ち、杖で辺りの魔力を調べている。

「この店は本屋とカフェを併設してるようだな。読書しながらスイーツを楽しめるってわけか」

 マヤは店の中を覗いて様子を伺う。店主は白とピンクのロリータ服を着た女の子のようだ。

 マヤは何となく気になり、店の中に入った。

「いらっしゃいませー!」

 明るい笑顔で年若い店主が出迎えてくれる。

「失礼。ここに赤い髪の女性が来なかっただろうか?」

 マヤの問いに十五歳くらいの若い店主は首を捻った。

「さあ?お客様は旅の方も多いし、ちょっと記憶にありませんね」

 マヤはビャクヤに目配せしたが、ビャクヤはゆっくり首を振った。

「そうか、失礼した。それではこれで」

 マヤは潔く退いて店の外に出た。

「どうだった、ビャクヤ?」

「妖術士程度の魔力しか探知出来ませんでした。アバリウスがたまたまこの店の前で空間転移しただけかもしれません」

「ふむ。以前もミルファの魔力は妖術士並みだった。今回はどうだ?何となく雰囲気は似ているが」

「一度、身バレしてるので、今は慎重に立ち回っているのかもしれませんが、証拠がないですからね」

 その時、何やら口論が聞こえて来た。職人風の二人が激しく言い争っており、一人の身体から煙が立ち上って来た。

「不味いな。ビャクヤ!」

「はい、姉上!」

 ビャクヤが杖を構えた途端、一人の男の身体が燃え上がった。

「アイシングラート!」

 ビャクヤの氷結魔法ですぐに鎮火され、火傷を負った男を仲間とおぼしき連中が連れてゆく。

「やはり、アバリウスを早く倒さないと、連続発火事件は収まりそうにないな」

 マヤがそう言った時、強大な魔力を感知した。振り向くと、魔力量が増大したアバリウスが、炎の壁を背に立っていた。

「アバリウス!」

「やれ!サラマンダー!」

 アバリウスの背後の炎の壁から、下位ドラゴンのサラマンダーが三体飛び出した。

「姫様!サラマンダーは私が!」

 そう言うユキマルの頭に拳骨が落ちた。

「姫と呼ぶな!だがそうだな、私はアバリウスを担当しよう。ビャクヤは後方支援を頼む!」

「分かりました、姉上!」

 空中歩行の魔法がかけられ、ユキマルは宙を駆け上がってゆく。

「灼熱弾!」

 アバリウスの手から炎の塊が発射される。マヤはそれを斬り裂き、闘気を解放する。

「裏奥義、明鏡反水!」

 飛んでくる灼熱弾は闘気に弾かれ燃え尽きる。接近したマヤは通常奥義を繰り出す。細かい突き技を顔面に放ち、意識を上に向けさせ胴を薙ぐ必殺技だ。

 しかし、胴を刀で薙いだ瞬間、アバリウスの身体が燃え上がった。

「うおっ!自らを灯火にするとは!」

 アバリウスの身体は炎に包まれて、灼熱の結界になっていた。

「はははー!全て燃やし尽くしてやる!」

 アバリウスは炎で作った二本の剣で反撃に出た。闘気をまとっているので被害はないが、周りに火が飛び散り延焼が発生している。

「百花爆裂、二刀流!」

 広範囲の奥義を繰り出すが、アバリウスの身体は完全に炎になっているようで、まるで手応えがなかった。悪戯に火が飛び散る結果となる。

「ちっ!何やら対策を講じて来たか?超究極奥義しかないが、後一回打つのが限界だ。ビャクヤ!やつの空間転移を封じる策はあるか?」

「それでは、強制魔法を使いましょう!相手の魔法に制限をかける魔法です!」

「良し、頼んだぞ!」

 マヤの二本の刀が白い光を放ち始める。このまま広範囲に打ち込めば万花爆砕ばんかばくさいだが、そのエネルギーを一点に集中すれば、他に被害を出さず威力を高める超究極奥義になる。

「はっはー、どうした?あの超究極奥義とやらは使わないのか?」

 誘っている。やはり直前で空間転移して逃げるつもりのようだ。

「ビャクヤ!」

「はい!強制魔法、ウェブアライズ!」

「うおおー、一輪殲滅!」

 直径一メートルほどの光のエネルギーが打ち出された。エネルギーの奔流を前にして空間転移しようとするアバリウスだったが、焦ったようにエネルギーの軌道上から逃れようとしているが上手くいかないようだ。

「おのれ!魔導士の小僧が何かしたのか!?」

「大人しく塵になれ、アバリウス!」

「うおあああー!」

 白い光のエネルギーがアバリウスを捕らえて、炎が拡散して消えてゆく。

「やったか!?」

 マヤは素早く辺りに視線を走らせた。ビャクヤも杖で魔力を探っていたが、ふうっと肩の荷を下ろした表情になった。

「成功です、姉上!アバリウスは完全に地上から消え失せました!」

 そして、複数のサラマンダーと戦闘を繰り広げていたユキマルも、最後の一体を百花爆裂で仕留めたところだった。

「姫様!サラマンダーは全て駆逐しましたぞ!」

 宙を駆けおりてきたユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!しかし、これで感染魔法は消えて失くなったんだな?」

「はい!アバリウスの魔力が消えましたから、感染魔法も解除されたでしょう」

「良し、それじゃあ街をパトロールしながらギルド支部に帰るか。ローリーとシンディもピックアップしないとな」

 マヤたちは絨毯に乗り、宙に浮かんで一路、街の西側を目指した。


 連続発火事件を解決した功績が認められ、ヘリオン公国の王都から金貨千枚の報奨が付与されることになった。

「流石、勇者パーティーの皆さんですね。僕も貴族でなかったら冒険者になりたいところです」

「そんなの無理に決まってるでしょ?あなたは伯爵の嫡男なんだから。その点、私は兄が跡を継いでくれるから、冒険者になろうと思えばなれるわ」

 大公の謁見が終わったら、そのまま迎賓館に移りパーティーが催された。勇者パーティーの歓迎と活躍を祝してのものだ。

「やはり、シンディはそう考えていたのか」

 マヤ・カリバーと弟で魔導士のビャクヤ、護衛のユキマルが酒杯片手にローリーとシンディと、話に花を咲かせていた。

「それにしても凄いですね、カリバーさん。パルカナに着いて早速、連続発火事件を解決するなんて!」

「本当よね。ギルドの支部長も困って、王都に応援を頼んでたほど、厄介な事件だったのに」

 ローリーたち若者は興奮気味で語るが、マヤたちは慣れてるのか、貴族たちのパーティーを楽しんでいるようだ。

「今回はゆっくり田舎の旅を楽しむ予定だったんだが、また王都に来ることになるとはな」

「我々には魔族の間で賞金を掛けられてるという噂も、あながち間違ってないかもしれませんな」

 ユキマルも気楽な様子で酒を楽しんでいる。

「ビールだと僕でも呑めるから良いよね」

 ビャクヤは既に顔が赤くなっていた。

 ハウズやカムズの連中も呼びたかったが、貴族のパーティーなので、不良たちは呼ばれなかった。今頃パルカナのギルド支部で宴をしてるはずだ。

「次はどこに行くのですか?」

「なるべくゆっくり旅をしたいからな。多分アルステイツに向かう」

「良いですね。あそこは鍛冶職人の工房が多い商業都市です。色々楽しめますよ」

「あーあ、私もギルド支部に登録して冒険者になろうかしら。何だかとっても楽しそう」

 シンディが口を尖らせるが、ビャクヤは苦笑を漏らした。

「冒険者も楽しいことだけじゃないよ。時には辛いことも悲しいこともある」

「そうだな。仲間の死に立ち会うことなど日常茶飯事だ。精神的にタフでないと勤まらないぞ」

 マヤに苦言を呈されるが、確かにその通りだろう。冒険者は常に死と隣り合わせだ。貴族が気楽になれるものではない。

「分かってますよ、カリバーさん。今回はちょっと冒険者気分を味わっただけ。分はわきまえているつもりです」

「なら結構。今夜は大いに呑もう!」

 こうして、王都での宴も盛り上がったのだった。


 魔導書カフェも閉店の時間だ。扉に施錠すると、ミルファはカウンター内でコーヒーを淹れ始めた。

「やれやれ、上手くいきませんでしたね。感染魔法のアイデアは悪くなかったのですが」

 カウンターの上で寝そべる黒猫のジルはあくびを漏らした。

「姑息ではあったけどね。しかし、アバリウスは直接戦闘に向いてなかったから仕方ない」

「あらまあ。そうですけど、またルキフェル様にお小言を頂戴することになりそうですわ」

「送り込む幹部を選んでるのは魔王様なんだから、気にすることはないよ」

「まあ、そうなんですが、次はアルステイツですか。あそこの担当は確か・・・」

 考え込んでいたミルファだったが、ニヤリと口角を上げた。

「次は直接戦闘が得意なあの方ですね。それに次回は魔王軍も投入されるとか」

「いよいよ、本気で勇者パーティーを潰すつもりなのかな?」

「さあ、どうでしょう?私はカリバーさんのファンでもあるので、楽しみですわ」

「魔族のサポーターが言う台詞じゃないね」

「ふふふ、さて、次の街へ向かいましょうか」

 その夜、パルカナから一件の店が姿を消した。



放浪編その10、炎上のアバリウスでした。感染魔法の定義は私が勝手に組み立てたもので、書物で記されているものとは異なります。人間の悪意を利用する質の悪い感染魔法ですが、天才魔導士のビャクヤのお陰で対策が講じられ、魔族の幹部、アバリウスは最後の戦いを仕掛けて来ます。次回では直接戦闘の得意な魔族が登場予定。それではまた、お会いしましょう。

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