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炎上のアバリウス 前編

放浪編その9

ヘリオン公国の最初の街、パルカナで奇妙な連続発火事件が発生。マヤたちが解決に乗り出す。

 ローリーはヘリオン公国の伯爵、マクドール家の長男で次期跡取りであった。その日も学校が終わった後、問題児のグレンに絡まれてしまった。

「よう、御曹司。今日も奢ってくれよ」

 取り巻きを引き連れて、いつものように声をかけてくる。

「僕だってそんなに小遣いをもらってるわけじゃない。勘弁してくれよ」

「おいおい、聞いたか?俺たち庶民とは付き合いたくねえってよ!」

 取り巻きたちが笑い合いながら親指を下に向ける。

「それなら、また勝負するか?使うのは両腕だけ。当てて良いのは頭とボディだけ。負けたら奢れよ」

「無茶苦茶言わないでくれ!勝てるわけないだろ!」

「ちょっと、何やってるの、グレン!」

 そこに割り込む者がいた。ローリーの幼なじみのシンディだ。

「また、そうやってローリーを苛めて!いい加減にしないとお父様に言いつけるわよ!」

 シンディの父親は侯爵だ。ローリーの父より上の立場になる。

「へっ、情けねえよな、貴族様ってのは!喧嘩一つするのにイチイチ親が出てくるのかよ」

 流石にカチンと来たローリーは、肩に下げていたカバンを放り出し、ファイティングポーズをとった。

「やってやるよ、グレン!」

「へっ、そうこなくっちゃな!」

 グレンもカバンを放り出し構えた。グレンは魔力量が少ないので剣士を目指して修行している。普通なら勝てるわけがない。

「ローリー、止めなさい!相手をする必要はないわ!」

「へっへ!もう遅いぜ!」

 素早く接近してきたグレンの顔目掛けて、夢中でパンチを繰り出す。それはあっさりとかわされ、みぞおちに重い一撃を食らう。

「ぐふっ!」

「そらそらー!」

 最早、ローリーはサンドバッグ状態だった。グレンは遠慮なくローリーを叩きのめしてダウンさせた。腕を天に突き上げ勝利をアピールする。

「大丈夫、ローリー!?」

 シンディに抱き起こされ、グレンの取り巻きたちに笑い者にされた。ローリーの中で不意にある感情が沸き上がった。それは怒りであり、憎悪であった。

「グレン!お前を殺してやる!」

 ローリーはバネのように身体を跳ね上げた。

「へっ、出来るものならやってみろ!俺はお前のような親の七光りででかい顔をしてるやつが気にくわねえんだよ!」

 そう吠えるグレンだったが、何故か身体のあちこちから煙が上がっていた。

「あ?なんだこりゃ?」

 次の瞬間、グレンの上半身が勢い良く燃え上がった。

「う、うおー!助けてくれ!?」

「グレン!」

 取り巻きたちがグレンの身体を倒して、地面の上を転がす。それでも火の勢いは衰えることがない。

「ぎゃああー!」

 取り巻きたちが上着を脱いで、グレンの身体に掛けてゆくが、火は全く小さくならず、グレンも動かなくなった。最早、消し炭のようになったグレンを見て、取り巻きたちはローリーを指差し叫んだ。

「ま、魔法だ!ローリーのやつがグレンを魔法で焼き殺したぞ!」

「バ、バカな!違う!僕は魔法なんて使えない!」

「おい、逃げるぞ!俺たちも焼き殺されるぞ!」

 取り巻きたちが走り去ってゆく中、シンディはローリーの腕にすがり付いた。

「ローリー!本当にあなたじゃないの!?」

「当然じゃないか!魔法が使えるほど魔力量が多いなら、僕は今頃、魔法学校に通ってるよ!」

 あまりの惨状に、ローリーの声は震えていた。

「おい、そこの者!動くなよ!放火の現行犯で捕縛する!」

 やって来た警備兵たちは、遠巻きにローリーたちを包囲し、魔法使いが来るのを待った。


 ロウランド王国に戻り、試験を受けたマヤたちは無事にBレベルを取得した。剣士は剣の形を模した金色のブローチに赤いラインが一本入り、ビャクヤは金色のホウキに赤いラインが一本入っている。Aレベルになれば赤い線が二本になるが、とりあえず今はBレベルで充分だった。

「それにしても、ヘリオン公国の国境がやけに厳重になっていたな。何かあったのか?」

 馬車に揺られながらマヤとユキマル、ビャクヤは無事にヘリオン公国最初の街、パルカナに到着した。馬車を降りてギルド支部に向けて歩く。異国人の珍しさと、胸に光る上級者のブローチが、衆目の関心を集めていた。

「何だか以前よりも注目度が高いですな、姫様」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!まあ、上級者でBレベルとなると、大陸でもそうはいないからな。物珍しいのだろう」

「姉上、何だか妙な魔力を感じます」

 魔導士のビャクヤはしきりに辺りを見渡している。

「魔族か?」

「うーん、というより、これから発芽する種のような・・・とにかく妙な感じです」

「国境が警戒厳重だったのもそのせいか?」

「分かりません。とにかく、この妙な感じを探ってみます」

 三人は連れだって、ギルド支部に向かった。露店が立ち並ぶ市に着くと、やたらと警備兵の姿が多いことに気がついた。

「何だか警戒厳重だな。事件でも起こったのか?」

 市を通り過ぎるとギルド支部のビルに到着した。酒場を併設している入り口の扉を開くと、中にいる者たちが一斉に視線を向けて来た。どうやら何らかの事件が起こってるのは間違いないようだ。

 マヤは受付嬢にIDカードを示し、この街で何か事件が起こっていないか尋ねた。

「その質問には私が答えましょう」

 スーツを着た如何にも有能そうな女性がカウンターの向こうから出てきた。

「失礼ですが、あなたは煙幕のカリバーさんですか?」

「ああ。後の二人はユキマルとビャクヤだ」

「私はパルカナ支部の支部長、レイラです。実は今、街で妙な現象が起こってまして」

「妙な現象?」

「はい。苛めを受けたり、犯罪に巻き込まれた人が、相手を焼き殺してしまうという事件が多発しています」

「犯人は魔法使いではないのか?」

「誰もが最初はそう考えました。しかし、犯人とおぼしき者を魔法使いが念入りに調べても、魔法が使えるほどの魔力量がないことが判明しました。一件だけではなく、今まで起こった二十七件の事件で同じ結果が出たのです」

「やはりそうか!姉上、妙な感じの正体が分かりましたよ!」

「えっ!?そんなあっさりと?」

「弟は魔法の天才なんだ」

 マヤは苦笑してビャクヤに尋ねた。

「それで、この街で起こってる妙な事件の正体は何なんだ?」

「感染魔法です!」

 その言葉に酒場にいる魔法使いたちが騒ぎ始めた。

「つまり、この街全体に、ある魔法が掛けられているのです。恐らく怒りや憎しみなどのマイナスの感情でしょう。その感情に支配された者は対象の相手に、知らずに魔法をかけてしまうのです!焼き殺したということなので、発動するのは炎熱魔法でしょう!」

「す、凄い!来て早々に謎を解明するとは!流石に勇者パーティーですね!」

「ただ、問題なのは犯人が特定しにくいということです。犯人は街全体に感染魔法をかけているのでしょう。そうなると、事件が起こった後にその現場に駆けつけても、魔法が発生しただけなので、後を追いにくいということです」

「うーん、ビャクヤ。現場に出くわしたらどうだ?そこから魔法をかけたやつを追えないか?」

「そうですねー。魔力パターンさえ掴めれば後を追えるかもしれません」

 ビャクヤは忌憚なき意見を述べてるだけだが、魔法使いたちは羨望の眼差しで見つめている。

「魔法使いのみんな、集まってくれる?もし現場に出くわした時に使える追跡魔法を教えるよ」

 目がハートマークになっている女性魔法使いは、あっという間に集まったが、男の魔法使いは何だか懐疑的なようだ。

(万人に指示されるヒーローなんていないってことだな)

 ビャクヤの魔法講座を、マヤは複雑な気持ちで見つめた。


 ローリーは証拠不十分ということで、警備局から釈放された。それは親である伯爵が、裏で話をつけたからだ。警備局から出ると豪華な馬車が待っていた。勿論、マクドール伯爵が手配したものだ。そして、窓から手を振っているのはシンディだった。

「良かったわね、ローリー。無罪放免になって!」

「拘束されないってだけだ。警備局はこれから僕に監視をつけるだろう。例え貴族でも罪を犯したら収監される」

「でも、あなたがやったんじゃないんでしょ?」

「勿論だよ!でも証明が出来ない」

「大丈夫!今日から私はあなたの屋敷に泊まるわ。あの現象についてはある程度、目星がついてるわ」

 シンディは不自然なくらい乗り気だった。馬車に乗り込むとゆっくりと進み始めた。

「あの時、あなたはどんな感情を持ってた?」

 シンディの奇妙な質問に、ローリーは大いに戸惑った。

「私は魔法学校には通ってないけど、家庭教師に教えてもらってるわ。あの時、確かに魔力を感じたのよ」

「あの時は、そりゃ怒りだよ。グレンの横暴に大いに腹が立った。でも、それくらいで・・・」

「感染魔法というのがあるのよ。ある特定の条件を満たしたら発動する、術者を特定しにくい魔法」

「え、じゃあグレンが狙われたわけじゃないのか!?」

「恐らく、街全体にかけられてる魔法ね」

「でも、いくらなんでも殺すかな?それじゃ魔法使いじゃなく魔族の仕業のような気がする」

「魔族!そうかもしれない!最近は魔族が現れたなんて聞いたことないけど・・・」

 シンディは我が意を得たりとばかりに、その言葉に飛び付いた。

「だってね、ローリー。今、ヘリオン公国に勇者パーティーが旅にやって来てるらしいのよ!」

「勇者パーティー!?じゃあ一連の発火事件は・・・」

「そう、魔族の仕業かもしれないのよ」

 貴族の若者たちは相談し、勇者パーティーに会いにギルド支部に行くことを計画し始めた。


 商店街の一角、魔道書とカフェを併設した店で、カウンターに座った赤い髪の女性が店主と話し合っていた。

「それにしても思い切ったイメチェンだな。店の形態も違うがお前の姿も別人だ」

 鮮やかな金髪の美女が肩を竦めた。

「勇者パーティーの皆さんに身バレしましたからね。サポート役を続けるには、イメチェンするしかなかったのですよ」

 店主であるミルファは以前と違い、白とピンクのフリル付きのワンピースを着ており、歳も少し若くなっていた。

「それで、首尾のほうはどうですか、アバリウスさん?」

「ああ、人間というのは余程感情的な生き物らしいな。街のあちこちで発火事件が起こってる。このまま何もしなくても無人の街になりそうだ」

「でも、気を付けたほうが良いですよ。勇者パーティーが街に入りました。ビャクヤさんなら真相に気づいてもおかしくありません」

「ふふん、所詮は子供の魔導士なのだろう?」

「ヘリオン公国に入る前にBレベルを取得したそうですよ。年若いからといって侮ると手痛いしっぺ返しを食らいますよ」

「上級者のBレベルだと!?随分と破格なやつだな!」

 パフェを食べる手を止めて、アバリウスは顔を歪めた。

「我々の常識が通用しない。だからこそ勇者パーティーと呼ばれてるのですから」

「しかし、感染魔法は術者の特定がほぼ不可能。それに、いざとなればサラマンダーを使わすさ」

「火竜ですか。しかし、あのフェルネクスさんが倒されたのですから、下位ドラゴンでは荷が重いかもしれませんね」

 ばんっとアバリウスはカウンターを叩いた。

「えーい、お前はどっちの味方なんだ!さっきから勇者パーティーのほうを持ち上げ過ぎだぞ!」

「それはそうですよ。失敗は死に繋がる。魔族の方なら誰よりもご存じのはず」

 アバリウスは席に座り直し、ため息をつく。

「全く、相変わらずのらりくらりと。性格の悪いやつだ、ミルファ」

「おっと」

 ミルファは唇に人差し指を当て、

「その名前は人前では使わないでくださいね」

 ウインクを決めてそう言うのだった。


 ローリーはしばらく学校を休学することになった。連続発火事件の疑いを持たれた状態で学校に行っても、騒ぎになるだけで何の得もないからだ。

 家庭教師を派遣してもらい、学業のほうは問題なかった。しかし、グレンの取り巻きたちがローリーを狙っているとの噂もあり、剣術の教師もつけてもらった。貴族の嗜みに必要だと

父を説得したのだ。

 一朝一夕に身に付くものではないが、何もしないよりはマシだろう。そして、たまにシンディによる診断を受けた。魔法を学んでいる彼女は、連続発火事件に大いに興味があるようで、杖を突きつけてローリーの中の魔力を探る。

「シンディ、あれは感染魔法なんだろ!?僕をいくら調べても何も出ないよ!」

「うーん、あなたを調べたらこの街にかけられた魔法の術者が分かるかもしれないと思ったんだけど」

「実際に術が発動する時じゃないと分からないんじゃないか?」

「ええ、それで護符タリスマンを作ったのよ。私も持ってるから、ローリーも持ってて」

 シンディは懐から手の平大の木製の護符を渡してきた。

「もう聞いてると思うけど、街では連続発火事件が頻発してるわ。相手に怒りや憎しみの感情を持ったら燃え上がる。これは魔族の仕掛けたものに間違いないと思う。そして人間を疑心暗鬼にして楽しんでる。魔族ってそういう存在らしいからね」

「どちらにせよ、僕たちにどうにか出来る問題じゃないよ、シンディ」

「ええ、そこで勇者パーティーと接触しようかと思ってるの」

「前にも言ったが、そりゃ難しいんじゃないか?連続発火事件を起こしてる魔族よりは接触出来そうだけど」

「とりあえず、ギルド支部に行ってみるわ。ローリー、あんたも来るのよ」

「おいおい、僕は屋敷に軟禁状態なんだぜ。一緒に行けるわけないじゃないか」

「私は最近、認識阻害の魔法を覚えたわ。それを使えば屋敷を抜け出せるわよ」

「いや、でもなー」

「あのね、ローリー。あんたの冤罪を晴らすためなのよ。もっとやる気を見せなさいよ!」

 憤慨するシンディにローリーは首を縦に振るしかなかった。


「とりあえず、街をパトロールしてるわけだが・・・」

 マヤはビャクヤの後について、パルカナを歩き回っていた。

「それらしい場面には遭遇しませんな、姫様」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!まあ、感情なんて目には見えないからな。誰が誰に怒りを覚えてるか、憎しみを抱いているか。そんなのは神のみぞ知る、だ」

「しかし、姉上。実際にこうやって歩き回らないと事件に遭遇も出来ませんよ」

 杖を使って辺りの魔力を探っているビャクヤが苦言を呈した。

「まあ、それはそうなんだが・・・うん?」

 マヤの水晶端末が震えた。ギルド、パルカナ支部のレイラからだった。

「私だ。何かあったのか?」

『連続発火事件の犯人とされた伯爵のご子息と侯爵のご息女が訪ねて来たのですが』

「何?容疑者がわざわざギルド支部に来たのか?」

『カリバーさんたち勇者パーティーに会いたがっています。どうしますか?』

「ふむ。今のところ手掛かりが全くないからな。会ってみよう」

 マヤはそう返答し端末をしまった。その途端、街の一角で怒鳴り合う連中を見かけた。

「俺たちハウズのボスを殺したのはテメーらだろうが!」

「バカ言ってんじゃねーよ!俺たちカムズにとって、テメーらなんか取るに足りないぜ!」

 どうやら不良チーム同士のいざこざのようだ。

「むっ、止めたほうが良いか、ビャクヤ?」

「双方とも威嚇し合ってるだけで、本物の怒りや憎しみじゃないですね」

「しかし、ビャクヤ様。あのままでは本当の怒りにすり変わるのも時間の問題かと」

 ユキマルがそう言った時、ビャクヤの杖が魔法を感知した。

「感じた!?姉上!ユキマル!止めてください!」

「うむ、承知!」

「お前たち、止めるんだ!」

 突然割り込んだ上級者に、不良チームの連中は気が逸れた。だが、一人の不良の服から煙が出始めた。

「うおおー!身体が、身体が熱いー!」

氷結フリーズ!」

 マヤはスキルの一つで鎮火を試みるが、炎熱魔法のほうが強力だった。

「ダメだ!ビャクヤ、頼む!」

「はい!アイシングラート!」

 ビャクヤの氷結魔法で、身体が燃え上がりそうだった不良は事なきを得た。

「お前たち、いい加減にしろ!よりにもよって感情で発動する炎熱魔法が街全体に掛けられているのに、争っている場合か!?」

「街全体に!?そ、それはどういうことですか、あ、姐さん」

「魔族がこの街にやって来ている。そいつは街全体に感染魔法をかけて、怒りや憎しみの感情が表面化すると、炎熱魔法で対象を焼き殺すように仕組んでいる」

「そ、それじゃ俺たちも死んでいたかもしれなかったのか?」

「それじゃあな。くれぐれも感情を高ぶらせるなよ」

 背を向けて去ろうとするマヤたちだったが、連中は目の前に回り込んで来た。

「お前ら・・・私の言ったことを理解出来なかったのか?」

「いえ、理解したからこそ、俺たちは姐さんの手伝いをしたい!俺はハウズの副リーダー、ノーティです!」

「俺はカムズのボスであるガンツです!是非俺たちにも手伝わせてください!」

「テメー!俺が先に頼んだんだぞ!」

「うるせー!早い者勝ちなんて、誰が決めた!?」

 早速揉め始める連中を、マヤは一喝した。

「いい加減にしろ!怒りや憎しみの感情は感染魔法が発動すると言ったばかりだろうが!」

 それを聞いて、二つのチームのリーダーは頭をかいた。

「すみません、姐さん!改めます!」

「少なくとも、この事件が解決するまでは休戦協定を結ぶぞ」

「おうよ」

 ノーティとガンツは握手をした。皆年若い。考え方が柔軟でやり易くはあった。

「よーし、それじゃ、ノーティとガンツ。街中をパトロールしていざこざが起きてたらすぐに鎮圧してくれ。もし手に負えないようならすぐに私の端末に連絡を入れてくれ」

「おお、あの勇者パーティーのカリバーさんの連絡先が!」

「まさか手に入るなんて!」

「・・・言っておくが、事件に関することだけだぞ。下らない用事なら斬り捨てるからな」

「押忍!分かってます!」

「それじゃあ、早速街の中を探索するぜ!」

 ハウズとカムズの連中はそれぞれ反対方向に向かった。

「ふー、とりあえず事件が起こるのを未然に防いだな」

「知りませぬぞ、姫様。素人を味方につけるなど」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!どちらにせよ街は広いからな。人材が確保出来て良かったくらいだ」

「あんな不良たちが役に立ちますかね?」

「人手は多いほうが良い。街一つを我々だけで捜索するのは無理があるからな」

 話し合っているうちにギルド支部に着いた。扉を開くと受け付けカウンターの端に支部長のレイラと、年若い男女がいた。

「支部長、その二人が?」

「はい、マクドール伯爵のご子息のローリーと、ポラリス侯爵のご息女、シンディです」

 紹介された二人は、緊張した面持ちで頭を下げる。

「ローリー・マクドール?確か被疑者の一人だな」

 マヤが確認のためにそう声をかけると、隣にいるシンディがオーバーアクションで否定に努めた。

「誤解です!ローリーに落ち度はありません!あれは感染魔法ですから!」

「へえ、僕以外に答えを導き出せる魔法使いがいたとは驚いたよ」

 ビャクヤは素直に驚いていたが、シンディのほうも驚いていた。

「えっ!?あくまで仮定だったのですが、本当に感染魔法だったんですか!?」

「そうなんだ。今のところ事件の関係者に会えてなかったからな。来てくれて助かったよ」

 マヤは落ち着かせようと声を掛けるが、ビャクヤは杖をローリーに突きつけ、魔力を探っていた。

「調べなくてもローリーの魔力は弱いですよ。魔法使いに適性無しとお墨付きをもらったんですから」

「シンディ、何気に酷いことを言ってるよ」

 若者たちの会話が耳に入ってないのか、ビャクヤは目を閉じて何かを探っていた。

「相手が燃え上がった時、君はどんな感情を抱いていた?」

「い、怒りです。でも、まさかあんな事態になるなんて!」

「殺したいと思えるほどの怒りだったのかな?」

「まさか!ただ単純に腹が立っただけで!それが、あんなことに・・・」

 話し合っていると、突然ビャクヤが大声を上げた。

「見つけた!」

 ギルド酒場の全ての注目を集めるほどの大声だった。

「どうしたんだ、ビャクヤ?何か分かったのか?」

「ローリーの脳内に接触した魔力の跡がありました!恐らく感染魔法を街に仕掛けた魔族です!」

「跡を辿れるか?」

「いえ、魔力パターンは分かりましたが、魔法が発動しないと詳しい位置は分かりません」

 ビャクヤは緩やかに首を振った。

「それなら、僕が囮になります。グレンが僕に殺されたと思ってる連中がいるから、僕が街を歩いていると接触してくるかもしれません!」

「しかし、それは危険だぞ。その連中が君に憎しみを抱いていたら、君は焼け死ぬかもしれない」

「か、覚悟の上です!無実の罪で投獄されている人もいる。僕に出来ることなら、何でもします!」

「ローリー・・・」

 シンディがローリーの腕に抱きつくが、ローリーの顔には澄んだ笑顔があった。

「良し。ローリーの覚悟は分かった。囮になってもらおう。ノーティとガンツからも報告があるかもしれないしな。街のパトロールに出よう」

 マヤはローリーとシンディも引き連れ、再び街に出た。


 街の中央にある噴水広場で、突然悲鳴が上がった。

「た、助けてくれー!」

 若者たちが集まる中、一人の身体が炎に飲まれていた。

「ビャクヤ!」

「はい!アイシングラート!」

 ビャクヤの杖の先から超低温のシャワーが吹き出す。炎に包まれた者は一命を取り留めた。

「見つけた!そこか、魔族め!」

 ビャクヤが杖を突きつけた先に、赤い髪の美女が突っ立っていた。

「な、何故私だと特定した!?」

「お前の魔力パターンは覚えたよ!魔法が発動したタイミングでお前の位置を割り出した!」

「なるほど、勇者パーティーか。侮れないやつらだな!」

 マヤとユキマルは刀を抜いた。

「連続発火魔!姿形も知られたぞ!もう逃げ場はない!」

「ふふん、それはどうかな?この街には感染魔法を掛けてある。私の相手だけしてられないんじゃないのか?」

「ふん、お前を倒せば感染魔法も消える。街の事件は他に任せて、私たちはお前の討伐に専念出来る。生憎だったな」

「ふん、そう上手くいくかな?私の名前はアバリウス!炎上のアバリウスだ!」

 アバリウスが手の平を天に掲げると、そこから小型のドラゴンが現れた。

「火竜のサラマンダーだ!この街を焼き付くしてやる!」

 背中に翼を生やした巨大なトカゲのような下位ドラゴンが、大口を開けてブレスを発射した。炎の帯が襲って来る中、ビャクヤは広範囲結界を張った。

「エアシェルト!」

 炎の帯は阻まれて逸れてしまう。そして、群衆たちの注意がサラマンダーに向いている間に、アバリウスの姿は消えていた。空間転移で逃走したようだ。

「とりあえず、サラマンダーを倒すか。ビャクヤ、空中歩行の魔法を!」

「はい、姉上!エアウォーキン!」

 マヤのブーツが光り、見えない階段を駆け上がってゆく。サラマンダーは炎のブレスを吐くが、マヤの身体が煙幕状になり、攻撃を無効化する。そして、サラマンダーの背後に、いつの間にか移動していた。

影縫死斬かげぬいしざん!」

 サラマンダーの翼を、二刀流で斬り捨てた。

「グギャアー!」

 翼を失ったサラマンダーは地上に落下し、本能のままにブレスを辺りに撒き散らした。だが、ビャクヤの広範囲結界で被害は出ない。

「ユキマル!」

 マヤが呼び掛けると、

「はっ!」

 ユキマルが刀を握り直し、サラマンダーに肉薄する。

百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 一の太刀が百の斬撃になる奥義で、サラマンダーは細切れになって地面に散らばった。

 空中を降りてきたマヤは辺りを見渡した。

「本丸には逃げられたか?」

「心配ありません、姉上!やつの魔力パターンは完全に把握しました。まだ街を出ていないようなので、追いかけましょう!」

 ビャクヤが提案した時、マヤの端末が震えた。

「ノーティか?どうした?」

『姐さん、街の東にいるんですが、火を吐くドラゴンが現れましたぜ!』

「何?アバリウスめ、撹乱させようとしてるのか?分かった、すぐにそちらに向かう!」

 マヤが端末をしまった時、明確な悪意を感じとり、その方向を見た。

「あっ、お前ら!?」

 ローリーが声を上げた。そこには木剣で武装した三人組がいた。

「やられる前にやってやるぜ、ローリー!」

 どうやらローリーを苛めていたグレンというやつの仲間らしい。こうした悪意の連鎖はどうにも止めようがない。

「ビャクヤ、用意しておいてくれ!おい、お前たち!ローリーには手出し無用だ!」

 怒鳴ったマヤに三人の悪意が向けられ、身体が熱くなって来た。アバリウスの感染魔法はまだ街にかけられている。次の瞬間、マヤの身体が燃え上がった。


放浪編その9でした。今回は感染魔法という犯人を特定しにくい魔法が登場します。希代の魔導士、ビャクヤはすぐに感染魔法だと看破して、その魔力を追います。貴族の子供であるローリーとシンディも事件に巻き込まれ、勇者パーティーに助けを求めてきます。そして、悪意を向けられたマヤの身体も燃え上がります。果たしてマヤは?・・・また、次回でお会いしましょう。

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