翼竜フェルネクス 前編
放浪編7
港町を有する街ルピアに到着したマヤたちは、エルフの奴隷売買をしている者がいるとの情報を得る
海に面した港町のある都市、ルピアに巨大な帆船が到着した。積み荷は食料や資源、そしてエルフの奴隷たちだ。貴族の馬車の中でルピアを統治しているカルロス辺境伯は、荷が下ろされるのを眺めていた。
「奴隷制度は廃止されたが、こんな旨味のある商売を簡単に辞められるものか」
檻が現れて、中にいるエルフたちが次々と馬車に仕分けされて乗り込んでゆく。
「上客だった西方連邦が聖王国ザルカスと条約を結んで、裏の商売から撤退した時は慌てたものだが」
美しいエルフたちが何台もの馬車に仕分けされて、ゴトゴトと動き出した。
「まさか、南の帝国と取り引き出来るようになるとは。これも全てあのお方のお陰だ」
カルロス辺境伯はニヤリと笑うと馬車を発車させた。
馬車の中でマヤたちはボードゲームに興じていた。
「次の街、ルピアでロウランド王国ともお別れか」
「ルピアは港町で新鮮な海鮮が味わえますからな。折角ですから海の幸を堪能しましょう、姫様」
ユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!しかし、まあ、土地の名物を味わうのも旅の醍醐味だな」
マヤは以前に食したレッドクラブの味を思い出し、顔を綻ばせた。
「しかし、ヤマト国と違って海鮮を生で食す習慣がないのが残念ですな」
「うむ。刺身や寿司は美味しいのに、もう何年も食べてないからな」
「生の魚はそんなに美味しいのですか?」
ビャクヤが興味津々で聞いてくる。幼くして脱国したビャクヤは食したことがないようだ。
「ああ、美味しくて頬っぺたが落ちそうになるぞ」
そう説明すると、ビャクヤはまだ見ぬご馳走に想いを馳せて、涎を垂らしていた。
「港町なら新鮮な魚が手に入るでしょう。私が捌いて見せますよ」
ユキマルは胸を叩いて請け負った。
「ほう。ユキマルは料理の経験があるのか?」
「師匠の身の回りの世話をするのも修行でしたから。その中には海鮮もありましたぞ」
「そうか。なら新鮮なブラックスピアの大トロが食いたいな。あれは絶品だった」
思い出すとマヤも口の中に唾が沸いてきた。
「お客さん、ルピアが見えて来ましたぞ」
御者の言葉に幌を捲ると、高い塀で囲まれた街が見えてきた。その向こうには広大な海が見える。
関所ではいつも通り、胸に光る上級者のバッヂが効いた。衛兵に敬礼されながら街の中に入ってゆく。馬車は乗り合い所で止まり、三人は勢いよく外に飛び出した。
「さて、まずはギルド支部を探しますか?」
「そうだな。一応挨拶をしておこう。宿舎があれば良いんだがな」
荷物を持って歩きだした三人だが、ある場所に差し掛かると、いきなり、裏路地から声をかけられた。
「おっと、待てよ。命が惜しければ金と荷物を置いてゆけ。これを食らいたくなければな」
暗がりで見にくいが、その手には回転拳銃が握られていた。
「強盗か。私たちが誰か分かって声をかけたのか?」
暗がりにいる人物はフードをすっぽり被っていたが、その目がマヤたちの胸に輝く上級者のバッヂを認めると、舌を鳴らした。
「上級剣士と魔導士か!でも、このリボルバーの弾は音速で飛ぶぜ。魔法より早い」
「魔法を使うまでもない。疾走状態というスキルを知ってるか?霊力を全身に行き渡らせると、音速より早く動ける」
しばらく無言だった強盗はニヤリと口角を上げた。
「ハッタリだ」
「では、試してみるか?試しに撃ってみろ」
ユキマルは刀の柄に手をかけて腰を落とした。強盗との距離は三メートル。普通なら絶望的な距離だが、サナダ流剣術免許皆伝のユキマルには、十分射程距離だ。
「くそう!やられてたまるか!」
強盗は初弾を放つと同時に身を翻して逃走に移った。音速で飛ぶ鉛弾を見切ってかわし、ユキマルの刀は強盗のフードを切り裂いた。するとそこには大きく尖った耳があった。
「エルフ!?ユキマル、殺すな!」
マヤが警告を放つと強盗は出鱈目に弾をばら蒔き走り去った。
「驚きましたな。エルフ王朝とは真逆の位置にあるこの街に、エルフがいたとは!しかも強盗紛いのことをしているとは!」
「これは、何か裏がありそうだな。急いでギルド支部に向かうぞ!何か情報があるかもしれない!」
マヤたちは急ぎ足でギルド支部に向かった。
ギルド、ルピア支部長のサラは報告を受けてため息をついた。
「ええ。最近、回転拳銃で武装したエルフが強盗をしていると報告を受けました。いくつかのパーティーに討伐を依頼しましたが、あの回転拳銃は厄介です。下手な剣や魔法より質が悪い。このルピア支部には上級者はいないので、ロウランド王国の王都に連絡を入れようとするのですが、カルロス辺境伯が王都に恥を晒すような報告はするなと横やりを入れて、未だに王都とは連絡を取れず仕舞いでいるのです」
「エルフが対極にあるこのルピアにいること自体、不自然なのに回転拳銃を使って強盗を行っているんだぞ?どう考えても王都に報告する案件じゃないか」
マヤたちはギルドのルピア支部に報告に来たのだが、辺境伯が放任しているのが気にかかった。
「私たちは辺境伯に意見出来る立場にありません。カリバー殿。是非ともお願い出来ませんか?」
サラ支部長は両手を合わせて懇願した。
「仕方ない。袖すり合うのも多生の縁。我々から辺境伯に事情を聞いてみよう」
王都付近のギルド支部なら、かなりの権限が付与されているが、ルピアのような小さな街では必ずしもそうではない。ここは大陸中に名を馳せた勇者パーティーの出番だ。
「カルロス様。先ほどギルドのサラ支部長から連絡がありました。煙幕のカリバー一行が面会を申し出ているとのことです」
初老の執事バートが慇懃な態度でそう報告する。
「なにっ!?勇者パーティーが!?」
執務室で三時のティータイムを楽しんでいたカルロスは、執務椅子から転げ落ちそうになるが、何とか踏み止まる。
「ま、まさか、裏の商売に気付いて王都から派遣されたのではないだろうな!?」
「いえ、別件のようです。例の拳銃強盗の件で聞きたいことがあるとか」
「むっ?そっちのほうか。あれも大っぴらになっては不味いのだが・・・」
しばらく考え込んだカルロスだが、醜悪な笑みを浮かべてバートに命令した。
「ケイの仕事を止めさせて監禁部屋に閉じ込めておけ!そしてジーの居所を吐かせるのだ。少々手荒なことをしても構わん!」
「かしこまりました」
初老の執事は顔色一つ変えずに命令された仕事をこなすために出ていった。
「表沙汰になっては困るからな。勇者パーティーには適当なことを言って誤魔化しておくか」
カルロス辺境伯は執務室を出て、メイドたちに茶の用意をさせるため、階下に降りていった。
一目見て信用ならない相手だとマヤは見抜いた。海千山千の古狸。そんな感想を抱いた。
「いやー、あの高名な勇者パーティーの御一行様が、私のような辺境の貴族にどんな御用ですかな?」
応接室の上座に座ったカルロス辺境伯は、愛想笑いを浮かべて茶と菓子を勧めてくる。
「街中で回転拳銃を持った強盗が出るようですな。しかもエルフだとか」
「エルフ!?サラ支部長からはただの強盗だと聞いてますがね?」
「我々は先ほど遭遇した。ハッキリこの目で見たのだから間違いはない。どうにもこの一件は根が深そうだと思いましてね」
マヤの遠慮のない言い種が、カルロス辺境伯のこめかみを震わせた。
「まず、エルフ王朝以外の場所にエルフがいること。後は回転拳銃だ。あれは帝国が科学とやらを使って作り出した兵器だ。言っては何だかこんな辺境にまで流れて来ているのがおかしい。この街に存在しないものが二つも揃うのは、偶然と言うにはあまりにも出来すぎな気がしましてね」
「エルフに関しては、あくまでエルフ王朝にいなければならないというだけで、中には旅に出る者もいるとお聞きしてますが?」
「ふむ。では回転拳銃については?」
「それはそれこそ私のほうが知りたいくらいですよ。何故、帝国の武器がこんな田舎にあるのかをね」
カルロス辺境伯はかなりの役者だ。今のところ怪しいところはない。だが、マヤの勘はカルロスを黒と断定していた。何しろ、魔導士のビャクヤは、先ほどエルフらしきオーラを感じとっていたからだ。
くわえて、この応接室に待機している護衛たちも臭かった。貴族の護衛にしてはガラが悪そうな連中ばかりだ。地下組織の人間だと言われても不思議はないくらい、品格に欠けていた。
「とにかく、我々はギルドから調査を依頼された。あちこち嗅ぎ回ることになるが、辺境伯にはそれをお許し願いたい」
「ええ、それはもう!勇者パーティーの皆様の邪魔は致しませんよ」
カルロス辺境伯は案外あっさりと許可を出した。本当に無関係なのか、芝居が上手いのか、今のところは判然としない。
「では、我々は一度ギルド支部の宿舎に戻り、捜索を開始します。そちらのほうで何か分かれば、ギルド支部に連絡をお願いします」
「ええ、分かっております!エルフは要保護対象。何か分かれば連絡いたします」
「よろしくお願いします。それではこれで失礼」
マヤは長居することなく、すぐにカルロス邸を後にした。
街の商店街に古びた魔道具店があった。二十代半ばくらいの女店主が、机の上に紅茶を置いた。席に着いているのは、筋骨隆々の鎧を着た若い男だった。
「ようやく帝国との取り引きが軌道に乗ってきたのに、エルフ王朝にカルロスとアンドレアが来やがった」
「あらあら。それは大変ですね。でも、エルフ王朝の里を何度も襲えば、剣聖と聖魔導士が出張ってくるのは分かっていたでしょう?」
魔道具店の店主、ミルファは対面に腰掛け魔王軍の幹部と顔を合わせる。
「ああ、カルロスの屋敷に何人かエルフを住まわせている。本来ならマルコシアスのやつに、エルフの分身を作らせる予定だったのだが、先日、勇者パーティーに討伐された」
「それは惜しかったですね。でも、マルコシアスさんも魔王ルキフェル様のご命令には逆らえませんからね」
「後は他の魔法で分身を作るしかない。なあに、美しければ本物だろうと偽者だろうと構いやしない。そのためにカルロスの屋敷に数人のエルフを軟禁してあるのだからな」
「でも、フェルネクスさん。それで帝国と取り引きするのは無理がありませんか?」
「エルフの不老不死の因子を解明する必要があるな。あの勇者パーティーがルピアに到着したと連絡があったし、ミルファ。お前に頼めないか?」
「あらまあ。私はただの魔道具店の店主ですよ」
「ただの魔道具店の店主が、ルキフェル様に特別扱いされるわけがなかろう?」
魔王軍の幹部のバックアップを勤める者が、ただの魔族であるわけがない。
「流石にドラゴンの系譜に連なる者は察しが良いですね」
「お前は抑えてるつもりだろうが、視界を切り替えれば我ら幹部に劣らない魔力量がある。その力でエルフの増産計画に協力して欲しい」
一応、依頼という形を取っているのはルキフェルに対する遠慮からだろう。さもなければ力付くで従えようとするはずだ。
「分かりました。でも、上手くいくかどうかは保証出来ませんよ」
「なあに、帝国の目を誤魔化せればそれで良い。美しくて不老長寿ならば、連中に区別などつかんさ」
フェルネクスはニヤリと笑い、獰猛な牙を覗かせた。
所変わって大陸の最西端にある、エルフ王朝に剣聖ラルカスと聖魔導士アンドレアの二人が調査に赴いていた。
エルフ王朝の王、カーマーンは困った表情で同胞を向かえた。
「半年ほど前からあちこちの里で行方不明の者が出始めた。大抵は一人二人なのだが、そのうち里もろとも全員が行方不明になる事件に発展した。そこでそなたらに来てもらったのだ」
「半年もの間、何の対策も取らなかったのか?何故ロウランド王国に連絡をしなかった?」
カルロスは鋭い眼光でカーマーンを睨んだ。エルフ王朝の王は顔を背け、疲れたような声で反論した。
「今までにも外の世界に憧れて旅に出る者はいた。今回もその類いと思ったのだ。おかしいと気付いたのは翼竜が姿を現してからだ」
「翼竜だと?ドラゴンの下位存在ではないか。では、そいつが里を襲ってエルフたちを誘拐したのだな?」
「うむ、恐らくは。多分、奴隷商人と繋がりがあるはずだ。どこの街の者かは分からんが、ロウランド王国の中にいることは間違いあるまい」
「何故そう思う?」
「二人も良く分かっているだろう?我々エルフは魔法が使えなくとも、念話で意志疎通が出来ることを」
「すると、国内にいるエルフから助けを呼ぶ念話が聞こえたのだな?」
「うむ。繋がりが強固なら詳しい場所が特定出来るが、今のところは東側の街だということくらいしか分からない」
「東側か。そういえば、ルピアから盛んに南に向けて商人が行き来しているらしい。何か関係があるかもな」
ラルカスはアンドレアに目配せをして、王宮の外へと移動した。水晶端末を取り出し王都とやり取りをすると、アンドレアに向き合った。
「ルピアのギルド支部から連絡があった。どうやら勇者パーティーが到着したらしい」
「やれやれ。また顔を合わせることになるのか。いい加減嫌われそうだな」
アンドレアは口角を上げて、ため息をついた。
「エルフは大陸中で要保護対象になっている。あの三人なら協力をしてくれるはずだ」
「協力はしてくれるだろうが、この間別れの宴をしたばかりだ。いい加減、疎まれても仕方ない」
「少なくとも剣士の二人は分かってくれるだろう。義を見てせざるは勇無きなり、と」
「まあ、ビャクヤも面白がって協力してくれるだろう。ロウランド王国での最後の仕事を」
二人のエルフは心を研ぎ澄まし、微かに聞こえる念話の解析を始めた。
カルロス邸の監禁部屋では、銀髪の少女のエルフが両腕を鎖に繋がれ、ぐったりとしていた。
「おい、起きろ!誰が寝て良いと言った!」
破落戸の一人が少女の顔を掴んで上向けた。
「ゆ、許して・・・私は何も知らない・・・」
部屋の壁際には何人かのエルフが座り込み、恐怖に震えていた。
「あの回転拳銃を盗み出して脱走したジーってやつは、お前の兄貴なんだろ?お前らエルフは魔法を習わなくても念話で会話が出来るって聞いてる!お前の兄貴をここに呼び寄せろ!さもないと、もっと痛い目に遇うぞ!」
「む、無理。罠だと分かっているから、兄さんは来ない・・・」
「だったら、お前が死ぬことになるぞ」
破落戸の一人が剣を抜いて、エルフの少女、ケイの喉元に突きつける。
「さあ、さっさと呼び出せ!」
ケイの背後に立つ破落戸は、傷だらけの背中にさらにムチを振るう。
「あうっ!ああ、兄さん!」
ぐったりとしたケイの喉元に突きつけられた剣は、ゆっくりと動いて白い肌に傷をつけてゆく。
「ケイっ!」
今は使われていない霊廟の中に潜んでいるジーは、痛みに満ちたケイの念話で目を覚ました。
「くそっ!あの貴族め!俺の妹や仲間をさらっただけでなく、さらに痛めつけているのか!?いったい俺たちが何をしたってんだよ!」
エルフ特有の尖った耳を真っ赤にして、ジーは憤慨していた。軍資金を集めて少しずつ反撃のための用意をしていたが、もう悠長なことは言っていられない。工事現場で使われる発破、すなわちダイナマイトを詰め込んだリュックを背負い、ジーは回転拳銃を改めた。魔法は使えないジーだが、何故かこの武器の弾丸はそう願えば何発も出現した。今ではなくてはならない相棒だ。
霊廟を出たジーは気配を察し、両手で掴んだ回転拳銃を構えた。
「誰だ!?あのクソ貴族の手下か!?」
「はっはっは!軟禁してるエルフを拷問にかけてるようだが、俺たちの手柄になりそうだな!」
霊廟を取り囲むようにして、剣や鈍器で武装した破落戸どもが姿を現した。
「くそっ!街の捜索も続けていたのか!?」
ジーは銃口をあちこちにさ迷わせていたが、正面に立っている男が回転拳銃を取り出した。
「はっはー!旦那は帝国と取り引きしてるからな!この銃とかいう兵器もたっぷり在庫があるぜ!」
ジーは背負っていたリュックを正面に構えた。
「この中にはダイナマイトが入ってる!下手に撃ったらお前たちも死ぬぞ!」
破落戸たちは一瞬、動揺を見せた。その隙にジーは正面の男目掛けて発砲し、懸命に走り出した。
「野郎!逃がすな!」
発砲音が鳴り響き、ジーの左手を掠めた。
「あうっ、くそう!」
裏路地に逃げ込んだジーは、地の利を生かして巧妙に逃げ回った。追って来る連中が闇雲に発砲するが、弾はあらぬ方向に飛んで行く。人数が増えたところでジーはダイナマイトの一本を取り出し、後方に投げた。両手で構えた回転拳銃を発射すると、ダイナマイトが爆発して追っ手は見えなくなった。
ジーはフードを被り、拳銃を隠した。盛況な露店が立ち並ぶ市を横目に、公園の噴水のところでジーはぐったりと座り込んだ。地図を取り出し辺境伯の屋敷の位置を確認する。
その時、破落戸どもを従えた鎧を着た男が姿を現した。ジーは慌ててリュックを背に、回転拳銃を取り出した。
先頭に立っているのは明らかにただの破落戸ではない。
「貴様!魔族か!?」
「そうだ、魔王軍の幹部、フェルネクスだ。何も学んでいないエルフでも、ここまでやれるとは驚きだ」
「捕まってたまるか!俺は必ずケイと同胞を助け出す!」
「ふふふ、この俺が出てきた時点でお前に勝ち目はない」
フェルネクスの身体が巨大化してゆき、その肌は硬い鱗で覆われ、背中にはコウモリのような羽が生えた。
「なっ!?お前は里を襲った魔族!?」
「翼竜のフェルネクスだ。冥土の土産に覚えておけ」
「いいのか?俺を殺して。商品が一つ減るぞ!」
「はっはっは!お前こそ良いのか?妹が拷問で殺されそうになっているぞ!」
「!?、くそう!極悪非道な悪魔野郎!」
ジーはやけくそで回転拳銃を連射した。しかし、翼竜の硬い鱗は鉛弾を弾き返す。
「サンプルはカルロスの屋敷に何人かいるからな。お前はここで始末してやる!」
「畜生!」
大口を開けてブレス攻撃に移ろうとした刹那、斬撃が勢い良く飛んできた。フェルネクスは咄嗟に鱗で覆われた背中を向けたが、その斬撃は硬い鱗を貫通して傷をつけた。
「ぐおうっ!何者だ!?」
エルフが目を向けると、そこにはマヤたちがいた。
「あ、あんたら!」
「安心しろ!我々は君を保護しに来た!今回の件には奴隷売買が絡んでいるのだろう?」
精悍な剣士と二刀流の女剣士。そして、ブカブカの魔導士服を着た魔法使いがいた。
「ちっ、勇者パーティー!流石に嗅ぎ付けるのが早いな!」
「フェルネクスといったか?翼竜といえど、ドラゴンに違いあるまい!誇り高きドラゴンが何故、魔族の手先になっている?」
「ふん、誇り高いか・・・それは上位のドラゴンだけ!我々のような翼竜は精々使いっぱしりだ!だが魔族は幹部として迎えてくれた!だから俺は魔族として仕事をする!」
周りに散っていた破落戸たちが隙をついて襲ってくるが、ユキマルは峰打ちで次々に無害化してゆく。ビャクヤはエルフの近くで結界を張り、破落戸たちの放つ銃弾を弾き飛ばしていた。
「それで終わり?じゃあ今度はこっちから行くよ!」
ビャクヤは杖を突きつけた。
「ドライドルーバ!」
拡散攻撃魔法で破落戸たちを、次々無害化してゆく。
「おのれ!舐めるなよ!」
フェルネクスは口を開けてドラゴンブレスを放出した。
「ヴァルサイド!」
ビャクヤは最強結界を張り、強烈なドラゴンブレスを無害化した。
「今度はこちらから行くぞ!」
マヤは闘気を解放した。
「裏奥義、明鏡反水!」
闘気の膜は結界となり、ドラゴンブレスも方向を変えられてしまう。
同じく闘気を解放したユキマルがフェルネクスの背後に周り、奥義を繰り出した。
「百花爆裂!」
一の太刀が百の斬撃になる広範囲攻撃だ。街中であるため究極奥義は使えない。しかし、不意をつかれたフェルネクスはマトモに食らい、鱗を散らしながらズタズタになる。
「うぐあー!忌々しい勇者どもめ!」
フェルネクスは地面に向けてドラゴンブレスを放った。すると、地下のマグマが吹き出し、小さな噴火が起きた。
「不味い!ビャクヤ、広範囲結界だ!」
「はい!エアシェルト!」
街全体が結界に覆われ、噴火による被害を未然に防いだ。
「姫様!翼竜が空間転移で逃げましたぞ!」
そういうユキマルの頭に拳骨を落とす。
「姫と呼ぶな!しかし、フェルネクスめ!まんまと逃げ仰せたか!」
呆然と座り込むエルフの前で膝を折り、目線を合わせてマヤが語りかける。
「もう、大丈夫だ。誰にも君を傷つけさせないし、同胞も助けだそう」
「あ、あんたら何者なんだ?あの翼竜を退けるなんて・・・」
しかし、ようやく頭が働き始めたのか、エルフは黒髪黒目、上級者のブローチをつけた存在が何なのか悟った。
「あんたたち、勇者パーティーだったのか!?」
「今頃気づくなんて、遅すぎだよ」
ビャクヤがコロコロと笑う。
「そ、それならお願いがある!どうか妹と同胞たちを助けるのに手を貸してくれ!この通りだ!」
エルフは土下座をして額を地面に擦りつけた、
「止めろ。そんなことする必要はない。我々は最初からエルフ救出のために動いている。君の妹も助け出して見せよう」
「ありがとうございます!この恩は一生忘れません!」
「さ、立って」
ビャクヤに促され、エルフは顔を上げた。その顔は涙と土で汚れていた。マヤはハンカチを取り出し、見た目十五歳程度のエルフの顔を拭く。とんでもない美少年だが、エルフだから何歳かは分からない。
「君の名は?」
「俺はジーです!妹はケイ!今ごろ拷問を受けてるはずだ!助け出さないと!」
「念話で繋がってるのだったな。それで、エルフたちは何処に囚われているんだ?」
「カルロス辺境伯の屋敷です!多くの同胞が南のラクナンという街に連れて行かれました。何でも帝国と取り引きしているとか!」
「なるほど。破落戸たちが全員、回転拳銃で武装してた謎は解けたな。カルロスはエルフの奴隷を差し出す代わりに、最新の兵器を仕入れていたわけだ。戦争でもするつもりか?」
「やつの真の狙いは分かりません。でも、同胞を助け出さないと!」
「そうだな。あのタヌキめ。屋敷にエルフを監禁してることを黙っていたな。それだけで罪は成立する!よし、急いでカルロス邸に行くぞ!」
「時間短縮のため、絨毯で行きましょう!」
ビャクヤは絨毯を地面に広げた。三人が乗り込むがジーは尻込みして動こうとしない。
「ジー、大丈夫だよ。これは空飛ぶ絨毯だから!」
「で、でも」
その手を掴んだビャクヤは無理矢理、絨毯の中に引っ張り込んだ。
「よーし、出発進行ー!」
絨毯は宙に舞い上がり、一直線にカルロス邸を目指して飛んだ。
カルロス邸では皆が慌てて荷造りして、馬車に荷物を積んで行く。
「ど、どういうわけなのですか、フェルネクス様!急に高飛びなど!」
「勇者パーティーに感づかれた!先行させている馬車の後を追って急いで南へ向かえ!ラクナンに到着したら、帝国の使者に亡命させてもらえるよう頼むのだ!」
「ぼ、亡命!?しかし、今はそれほどの金は屋敷に残ってません!」
「勇者パーティーだけではない!ラルカスやアンドレアももうすぐやって来るだろう。どちらにせよ、お前は亡命する以外に選択肢はない」
「ああ、上手くいっていたのに!勇者パーティーめ!よくも!」
「悔しがってる暇があったら、さっさと出発しろ!もうすぐ勇者パーティーがやって来る!俺が食い止めてる間に行くが良い!」
「わ、分かりました!感謝します、フェルネクス様!」
「今度こそ雌雄を決してやる!ミルファ、カルロスとエルフたちを頼むぞ!」
「ええ、分かっておりますわ。それではご武運を」
幌が閉じられ馬車は走り出した。その時、絨毯に乗った勇者パーティーがやって来るのを感じた。
「ドラゴンの意地を見せてやる!」
空っぽになったカルロス邸で、フェルネクスは迎撃のため空を睨んだ。
放浪編その7でした。エルフの奴隷売買で私腹を肥やす貴族と、ドラゴンの下位存在である翼竜が登場します。たった一人逃げ出したエルフのジーは回転拳銃とダイナマイトで武装して仲間を助け出そうとしますが・・・。次回はいよいよ話題の帝国の人間が登場します。お楽しみにお待ちください




