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増殖のマルコシアス 後編

放浪編その6

圧倒的な物量作戦に苦戦するマヤたち。しかし、ノーマは意外な才能を持っていた。


 すでに半時は戦いつづけている。マヤとビャクヤ、ユキマルはまだ余力を残しているが、キールとライナ、ダンクァンは肩で息をしている。

(突破されるのも時間の問題か・・・)

 絨毯に乗り、空中から攻撃魔法を撃ち込んでいたライナは水晶端末を取り出した。誰からの通信か分からないが、その目が大きく見開かれた。

「大変よ!マルコシアスの分身が中央や南にも現れたわ!」

 それを聞いてビャクヤは膝を叩いた。

「おそらく、予め自分の血でも塗りたくっていたんだ!後は細胞分裂させて分身を増殖させる!まんまと術中にハマリました、姉上!」

「ということは、ここだけ守ってても無意味ということか!?」

「今すぐピックアップします!」

 絨毯はスピードを上げ地面に向かった。マヤとユキマルは器用に飛び乗ったが、キールとダンクァンは絨毯の上にひっくり返っていた。

「ビャクヤ!何とか本物の位置を割り出せないか?」

 十分に高度をとってから、マヤは問い掛けた。

「これを見てください!」

 ビャクヤは空中に巨大な地図を映し出した。ルキノアの地図で、赤くて小さな丸が街の至る所で増殖していた。

「街はほとんど占領されているようですが、ここに」

 ビャクヤは杖の先で街の商店街の一件を指し示した。

「緑色に光っているのが、本物のマルコシアスだと思われます」

「なにっ?やつは最初から戦闘に参加してなかったのか!?」

「そのようですね。魔力量は当然、分身より多いですが、その分身のコントロールに魔力を相当使っています。それで発見することが出来ました!」

「良くやった、ビャクヤ!やはりお前は自慢の弟だ!」

 マヤはビャクヤを抱き締めて頬擦りする。

「あ、姉上!息が出来ません!」

「おっと、こりゃすまん」

「それではこの魔力を辿って一気に攻め込みます!」

「よし、行けー!」

 空飛ぶ絨毯は猛スピードで目標に向けて飛翔した。


 魔道具店では、水晶球で分身を操るマルコシアスと店主のミルファがいた。

 気配を察したミルファは、黒猫のジルを抱いて立ち上がった。

「マルコシアスさん。少し仕入れがあるので、お店を任せてもよろしいですか?」

「うん?すでにこの街は俺の分身で溢れてる。何を仕入れに行くのだ?」

「魂集めですよ。すでにかなりの犠牲者が出ているのでしょう。回収に行ってきます」

「ふん、好きにしろ。後で山分けだぞ」

「ええ、分かってますわ」

 ミルファは店を出て大きくため息をついた。

「すでに居場所が特定されてることに気付いてないようですね」

「放っておけば良い。仮にも魔王軍の幹部なんだから、戦いは望むところじゃないのかい?」

 黒猫のジルは既に関心はないと言わんばかりに大きなあくびを漏らした。

「あらあら。そうですわね。それでは私たちは次の街に移動しましょうか。次の幹部の方に顔を繋いでおかないと」

 辺りは増殖したマルコシアスと警備兵、冒険者たちが戦っているが、誰もがミルファのことを構わない。失認結界で存在を消しているからだ。こうして魔族のサポート役はルキノアから姿を消した。


「見つけました、姉上!あの魔道具店です!」

 絨毯の上でビャクヤは杖で指し示す。

「魔道具店か・・・まさか、またあの店主がいるんじゃないだろうな?」

「魔力反応は一つだけです。分身体とほぼ同じパターンの、それでいて強力な魔力を感じます!」

「よし、降りてみよう」

 絨毯が降下してゆくと、黒い鎧に身を包んだマルコシアスが、慌てた様子で店から飛び出してきた。

「き、貴様ら!どうやってここを突き止めた!?」

「さあな?それより覚悟しろ!ギルドの依頼に基づき、お前を討伐する!」

 マヤとユキマルは刀を抜いた。キールたちも戦闘態勢に入る。

「ちっ!こんなこともあろうかと、この店の周りにも血を垂らしておいた!数の有利で蹂躙してやろう!」

 言下に、店の横の路地や背後から大量の分身体が現れた。

「えーい、姑息な手がいつまでも通じると思うな!幻影慚鬼げんえいざんき!」

 マヤとユキマルはそれぞれ三体の分身を生み出し、本物のマルコシアスの退路を断つ。

「後はこれで十分だ!百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 一の太刀で百人を斬る奥義で分身体を確実に削ってゆく。

「お、おのれ!忌々しいやつらめ!」

 マルコシアスの顔に疲労の色が浮かんでいた。流石に強力な分身体を何百と生み出し、コントロールするには相応の魔力が必要になるだろう。

 マルコシアスは分身体に紛れて撤退を図った。だが、既にビャクヤの魔法により、本物の背後には消すことの出来ない緑のオーラがまとわりついている。

「逃げても無駄だぞ、お前はマーキングされている!」

 マヤは周りの分身体を全て斬り捨て、斬撃を放つ。

千里一刀せんりいっとう!」

 斬撃は分身体を始末しながら、本体の左腕を斬り飛ばした。

「ぐわあっ!」

 二刀流で群がる分身体を斬り捨てながら、マヤは本体に向けて駆ける。

十字連破じゅうじれんぱ!」

 マルコシアスは剣を抜いてマヤの斬撃を受け止める。

「おのれー!分身体を集めて串刺しにしてやる!」

 分身体が集まって剣で攻撃してくるが、マヤは身体を煙幕状にして攻撃を無効化する。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 マヤは闘気を解放して結界を張る。溢れる分身体は剣で攻撃してくるが、マヤの身体には届かない。

「またヒンシュクを買いたくないからな。万花爆砕ばんかばくさいは使えないが、超究極奥義で本体を仕留めてやる!」

 上段に構えたマヤの刀が白い光を放ち始める。

「食らえ!一輪殲滅いちりんせんめつ!」

 凝集されたエネルギーがマルコシアスを襲う。軌道上にいた分身体ごと、まとめて消滅していった。すると、あれだけいた分身体が跡形もなく消え去った。

「やった!流石カリバーさん!一撃で仕留めちまった!」

「はー、攻撃魔法を使いすぎて疲れたわ」

「ギルド支部に戻ろう。勝利を祝って乾杯だ!」

 キールたちはすでに勝利を確信しているが、マヤはユキマルのほうを振り向いた。

「どう思う?」

「いささか最後が呆気なさすぎますな。ひょっとするとまだ完全には討伐出来ていないのかもしれません」

 ともあれ、六人はギルド支部に戻ることにした。


「ユキマル様!」

 ギルド支部の扉を開いた途端、ノーマがユキマルに抱きついた。

「ご無事で良かったです!ここも沢山の魔族の分身が押し寄せて、とても怖かったです!」

「もう心配は要らん。大丈夫だぞ、ノーマ」

 その光景を見て、マヤは何だか胸がざわついて視線を逸らした。

「流石は勇者一行!魔族を討伐してもらい、感謝する!」

 支部長のクレインの差し出す手を、マヤはとりあえず握った。

「いや、何だか嫌な予感がする。やつはまだ生きてるかもしれない」

「君の究極奥義とやらで消滅したのではないのか?」

「あくまで予想だが、攻撃が当たる直前に魂を他の分身体に移した可能性がある」

「なに!?するとまた攻撃してくるかもしれないのか?」

「あくまで予想だ。一応、警備兵や冒険者に注意喚起しておいてくれ」

「ふむ、分かった。直ぐに手配しよう」

 クレインはカウンターの向こうに姿を消した。

「さて。本当に終わったかどうか、しばらくは様子見だな」

 マヤたちは手近なテーブル席に座り、ビールを注文した。


「おのれ、煙幕のカリバーめ!あんな高出力の攻撃など食らったことがない!」

 マルコシアスは分身体に魂を移したばかりで、まだ安定しておらず、魔道具店の奥の部屋で魔力の回復に努めていた。

「それにしてもミルファのやつ、こうなることを予想してたのか、さっさと姿をくらましおって!」

 マルコシアスは悔しげに壁を殴る。回復薬が大量にあるので、それを片っ端から飲んで、回復を図る。

「今までほどではないが、まだ分身体を作ることは出来る。やつらが勝利の美酒に酔っている間に仕留めてやる!」


「まさか、こんなに早く再会するとはな」

 エルフの聖魔導士、アンドレアが口角を上げて肩を竦める。

「私もこんなつもりはなかったんだが・・・」

「それにしても、市長から救援要請が来たのに、すでに倒していたとはな」

 同じくエルフの剣聖ラルカスが拳を突き出してきたので、マヤも拳をぶつける。

「だが、まだ完全に倒せていない可能性がある。ビャクヤがマーキングした個体がまだ存在してるようなんだ」

「ふむ、街は今夜、宴を開くのだろう?その隙を狙ってくるかもしれないな」

「だから、貴殿たちも今夜は宴に参加して欲しい。万が一ということがある」

「ふむ。報告では石鹸の泡の如く無限に分身を生み出す魔族と聞いているが」

「ああ、でも被害が出るので万花爆砕は使えなかった。今回はちゃんと報酬を受け取りたいのでね」

「ふむ。旅を続けるにも路銀が必要だからな」

 二人のエルフはマントを翻して市庁舎のほうに向かった。

「一応、他の報告も聞いておきたい。また夜に会おう」

 マヤがその背中を見送っていると、後ろから激しい呼吸音が聞こえた。

「す、凄い!あれが剣聖のラルカス様と聖魔導士のアンドレア様なんですね!」

 ビャクヤがノーマを羽交い締めにして動きを抑えているが、今にもエルフたちに駆け寄りそうな勢いだ。

「落ち着け、ノーマ。どうせ今夜の宴でまた会える」

 隣に立つユキマルが頭を撫でて落ち着かせようとしている。

「やれやれ。ノーマがこんなにミーハーだったとは。てっきりユキマル一筋だと思っていたんだが」

 マヤは意地の悪い笑みを浮かべてノーマを揶揄する。

「そ、それはそれです!エルフの英雄など、普通は一生会うことなど出来ませんから!」

「なるほど。それもそうか」

「でも、私の純潔はユキマル様のものです!」

 ノーマは今度はユキマルに抱きついた。忙しいことこの上ないが、イラッとしたマヤはユキマルの頭に拳骨を落とした。

「ひ、姫様!一体、何故!?」

 もう一発お見舞いして、マヤはギルド支部の隣の宿舎に向かった。汗をかいたのでシャワーを浴びたい。ついでにこのイライラを洗い流したい気分だった。


 日が落ちて、市庁舎の周りに露店が広がっていた。冒険者たちや市民たちが大いに呑み、大いに食べまくっていた。

「カリバー御一行様!どうかウチのワインを試してください!」

「ウチの串焼きもイケますよ!」

 マヤたちが歩くだけで、みんなタダで酒や料理を勧めてくれる。マヤとユキマルは酒を楽しみ、ビャクヤとノーマは美味しい料理に舌鼓を打っていた。

「ビャクヤ、魔力反応はあるか?」

「いえ、今のところありません。姉上とユキマルはこの腕輪をしてくだい」

 赤い石と緑の石があしらわれたシンプルな腕輪だ。

「分身体が現れたら赤い石が、本体なら緑の石が光ります。正しい位置は後で僕がマップを出しますから」

 実に頼もしい弟だ。マヤはビャクヤの頭を撫でるが、横ではノーマがユキマルの腕にぶら下がっていた。

「・・・・・・」

「ど、どうしたんですか、姉上?鬼神のような顔になってますよ!?」

「いや、なんでもない。考えてみればユキマルは単なる護衛。ここまで気持ちを乱すのも妙な話だ」

「刀の柄から手を離してください、姉上。殺人犯になりますよ」

 ビャクヤは何とか気持ちを逸らそうと、必死になっている。これ以上は流石に大人げない。そう思った時だった。腕輪の赤い石が突然光った。

「!ビャクヤ、マップを!」

「はいっ!」

 ビャクヤは宴に参加している者たちにも分かりやすいよう、空中にルキノアのマップを出現させた。

「な、なんだあ!?」

「見ろ、この街の地図だ!」

「赤い小さい点が、周りを取り囲んでいるぞ!」

 市民たちの間で動揺が広がる。

「貴殿の考えが正しかったようだな、カリバー。既に周りを固めていた警備兵との間で戦闘が始まってるようだ」

 いつの間にか近くに、ラルカスとアンドレアが立っていた。

「ああ。だが、昼間ほどの勢いがないな。相当魔力を消費したようだからな」

「空中から行きましょう!フライヤード!」

 ビャクヤは空飛ぶ絨毯を地面に広げた。マヤとビャクヤが乗り込むが、ユキマルと一緒にノーマまで乗ってきた。

「おい、何をしてるんだ!これは遊びじゃないんだぞ!ノーマ、すぐに降りるんだ!」

「わ、私も攻撃魔法が使えるようになりました!援護として連れて行ってください!」

「姉上、ノーマは僕と一緒に空から援護しますので心配は要りません」

「そうは言っても・・・」

「良いではありませんか、姫様!彼女に実戦の経験を積ませてあげましょう!

 とりあえずユキマルの頭に拳骨を落とし、ノーマと向き合った。

「自分の身は自分で守るんだぞ!人の力を当てにするなよ」

「わ、分かっています、マヤ様!」

「よし、出発だ!今度こそマルコシアスを討伐するぞ!」

 絨毯は舞い上がり、本体を探しに出発した。


 腕輪の緑の石が点滅した。

「ビャクヤ!どうやら近くにいるようだぞ!」

「はっはっは!その通りだ!」

 黒い角を生やし、背中にコウモリのような羽を生やしたマルコシアスが、大群を引き連れてやって来た。

「昼間とは随分姿が変わったな」

 マヤとユキマルは立ち上がり、刀を抜いた。

「ふふん、店にある強化用の薬をたっぷり飲んだからな!今は地面だけではなく、空中も支配した!貴様らを蹂躙してやる!」

「ビャクヤ、空中歩行の魔法を!」

「分かりました、姉上!エアウォーキン!」

 マヤとユキマルのブーツが光り、絨毯の上から飛び出す。

「ビャクヤ!ノーマを頼む!」

 マヤは迫ってくる分身体を斬り捨てながら前進する。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 ユキマルは殺到する分身体を、水の動きでかわし一体ずつ確実に斬り捨ててゆく。

 ビャクヤは最強結界を張り、ノーマと一緒に攻撃魔法で数を削ってゆく。

 混戦状態の中、マヤの腕輪の緑の石が光った。分身体の中から本体が姿を現し、剣を振り上げる。

「串刺しになって果てるが良い!カリバー!」

 数十の剣が一斉に突き立てられたが、マヤは身体を煙幕状にして、その全てをやり過ごした。

「ここは空中だ!墓穴を掘ったな、マルコシアス!」

 マヤは闘気を解放し、結界状態にする。群がる分身体を歯牙にもかけない。そして、ユキマルも闘気をまとって刀を振り上げていた。

「マヤ様!ここは完全を喫するために同時に打ち込みましょう!」

「よし、行くぞ!」

「「万花爆砕!」」

 凄まじい破壊のエネルギーの奔流が全ての分身体を塵に還してゆく。

 しかし、打ち込んだ瞬間、空間転移の気配を感じた。振り向くと、緑のマーキングをされているマルコシアスの本体が、剣を振るってノーマに襲いかかるところだった。

「ノーマ!」

「ドライド!」

 ノーマは三十センチほどの短い杖を突き付け、攻撃魔法を放った。マルコシアスの左半身が吹っ飛ぶ。

「なっ、にぃー!?」

「良くやった、ノーマ!ジャルバローダ!」

 ビャクヤは最強魔法を放った。積層魔方陣が展開し、全てを滅する光のエネルギーが発射される。

「ぐぅおわー!」

 マルコシアスの全身が白い光に飲まれて消滅してゆく。

 しばらく気配を探っていたビャクヤだったが、完全に討伐したことを確信すると、両手を上げて宣言した。

「やった!魔族は完全に討伐したよー!」

 地上で戦闘していた警備兵や冒険者たちも、マルコシアスの分身が全て消え去ったことを確認し、勝ちどきの声を上げた。

「やった!流石は勇者御一行様だ!」

「ルキノアは救われたぞ!」

「完全勝利に乾杯だ!」

 マヤたちが乗った絨毯が地上に舞い降りると、みなが握手を求めて殺到した。

「勝利したのは、最後まで諦めないルキノアの民のお陰だ。全員、杯を持ってくれ!行くぞ、乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 戦闘が終わって市民たちが皆、声を揃えて勝利を称えた。

 こうして宴会モードに再び戻った後、聖魔導士アンドレアがやって来た。

「見事だ。流石は勇者のパーティーだ」

 アンドレアを前にして、再び興奮状態になったノーマだったが、

「ところで、その娘は冒険者なのか?」

「ああ、今日登録したばかりなんだ」

 そう言われてマヤに背中を押され前に出された。

「君は才能がある。良かったら王都の魔法学校に通わないか?」

「え、わ、私がですか!?そ、そんな恐れ多い!」

「いや、魔族に一発打ち込んだ攻撃魔法は見事だった。魔法学校で学べば無条件でBランクに昇格する。冒険者になっても良いし、宮廷魔法使いになることも出来る」

 随分と豪気な話だ。魔法使いのエリートを育てる魔法学校に誘われるとは。

 何やら迷っているノーマの肩をビャクヤが叩いた。

「そうしなよ。僕も魔法学校で学んだ。寮もあるし基礎から学べるから冒険者よりも強い魔法使いになれるよ」

「ビャクヤは強くなり過ぎたけどね」

 アンドレアは苦笑を漏らした。

「本来なら卒業まで六年かかるが、たった二年で上級試験に受かり魔導士になった。ビャクヤは凄すぎるから、あまり参考にしないほうが良い」

 アンドレアはノーマに手を差し出した。躊躇したノーマだったが、両手で握り返してブンブンと振った。憧れの聖魔導士と握手して、ノーマはすっかり舞い上がっていた。

「しかし、学費はどうするんだ?確か六年間で金貨六百枚必要なはずだが」

「とりあえず、マルコシアスの討伐で君たちに金貨二千枚が支払われる。後は君たち次第だ」

 アンドレアは口角を上げて、楽しそうに両手を広げた。

「報酬が金貨二千枚とは。マルコシアスはそれほど被害を出していたのか?」

「他にいくつかの村や街が襲われ、被害の報告が相次いでいたんだ。そこで王都では賞金をかけることにした」

「ん?クレイン支部長。我々はルキノアのギルド支部からの依頼と思ってたんだが?」

 話を振られたクレインは金貨の詰まった袋を差し出して来た。

「勿論、我が支部の要請でもあった。これは報酬の金貨三百枚だ」

 袋を受け取り、マヤはため息をついた。

「分かった。金貨が二千三百枚もあるんなら、六百枚くらいは払おう」

 それを聞いてノーマはわたわたと手を動かして、慌てていた。

「そ、そんな悪いです!私はただの村の娘にすぎないのに!」

「言っただろう?君には才能がある。だったらそれを生かすチャンスを逃すべきじゃない。今は幸いパトロンもいるのだし」

「アンドレア殿、その言い方はいささか不謹慎なのでは?」

 苦言を呈するマヤなど、どこ吹く風のアンドレアは魔法学校の案内をノーマに手渡していた。

「何だか夢のようです!ユキマル様!私が一人前になるのを待っててくださいね!」

「あ、ああ。楽しみにしている」

 背後からのマヤの視線を感じとったのか、ユキマルは当たり障りのない返答を返した。

「さて、では学費を差し引いた報酬をいただけるかな、アンドレア殿?」

「ああ、受け取ってくれ」

 露店の隣の空きスペースに、どどんっと金貨が積み上がる。

 市民も冒険者も度肝を抜かれ、やがて盛大な拍手が巻き起こった。

「しまった。どこか建物の中で受け取るべきだったな。ビャクヤ、固有結界エアポケットの中に収納しておいてくれ」

「分かりました!」

 ビャクヤが杖を振ると、山積みの金貨が消え失せた。

「あー、もう少し見ておきたかった!」

「ビャクヤ様!もう一度拝ませてください!」

「えー、仕方ないなー。幻影魔法でしばらく見られるようにしておくよ」

 そうして、再び現れた金貨の山を肴に、今夜はみんな盛大に盛り上がったのだった。


 翌朝、マヤが目を覚ますと両手にビャクヤとノーマが抱きついていた。

「暑い・・・」

 独り、ベッドを滑り降りたマヤがシャワーを浴びて汗を流していると、ノーマがシャワールームに入って来た。

「おはようございます、マヤ様」

「ああ、おはよう。良く眠れたか?」

「はい!バッチリです!」

「そうか。それは重畳」

「でも、これからが不安です。魔法学校に入ってついていけるかどうか」

「アンドレア殿のお墨付きだ。心配は要らない」

「ところでマヤ様。あなたはユキマル様に好意を持ってらっしゃるのですか」

 突然の爆弾発言にマヤは吹き出した。

「な、何なんだ、その質問は!?」

「ユキマル様はマヤ様に特別な想いを抱いているように見えます。マヤ様はどうなのですか?」

 冗談として流してしまいたかったが、ノーマの真剣な眼差しを前にすると、曖昧に誤魔化すのも憚られた。

「ユキマルは私を唯一仕える姫として見ている。私は戦場で背中を任せられるのはユキマルとビャクヤだけだと思っている」

「ビャクヤ様はご姉弟ですから当然として、マヤ様もユキマル様を特別な存在として見ているのですね」

「ま、まあ、あくまで護衛としてだ!あいつ以上の護衛など他に存在しない」

 マヤは視線を泳がせながらも、正直な気持ちを吐露したつもりだったが、ノーマはクスクス笑っている。

「な、何がおかしいんだ?」

「いえ、まだ私にもチャンスがあるんだなと思いまして」

 身体を洗いながらノーマは屈託のない笑顔を浮かべた。


 朝食を終え、馬車乗り場に赴くと冒険者たちと、二人のエルフが待っていた。

「ラルカス殿、アンドレア殿。大袈裟な見送りは丁重にお断りしたはずだが」

「我々もそのつもりだったが、皆が勝手に集まって来たんだ。追い払うわけにもいくまい」

 相変わらず口許に笑みを浮かべたアンドレアは、集まった冒険者たちを手を広げて示した。

「勇者ご一行様!どうかお気をつけて!またこの街を訪ねてください!」

 剣士のキールが代表して送り出してくれる。

 アンドレアの横にいたノーマは、走り出してユキマルの元にやって来た。

「ユキマル様、ご武運をお祈りしています!」

 差し出された手を、ユキマルはぎゅっと握った。

「ああ、ノーマも頑張るんだぞ。次に会うときには魔導士になっていると良いな」

「はい!頑張ります!」

 そして、マヤたち三人が乗り込み、馬車が進み出すと拍手が巻き起こって街の門を出るまで続いた。

「ユキマルさまー!」

 一際元気な声に、幌を捲ったユキマルは手を振って応えた。

「良い子だったな。お前は残っても良かったんだぞ、ユキマル」

 いつもの軽口にユキマルは遅れて反応した。

「いえ、私は姫様の護衛ですから、そういうわけにもいきませぬ」

 いつものように、頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!む?そうか。このやり取りもお前がいないと出来ないんだな」

「はっ、忠臣である私でないと出来ないのです」

「ふん。今しばらくはこの関係は続くということだな。まあ、それも悪くない」

 マヤは馬車の幌の窓から外を眺めた。さて、次の街ではどんな冒険が待っているのか。想いを馳せるマヤなのだった。


増殖のマルコシアス後編でした、敵の魔族もかなり手強くなってきました。そんな中、意外な才能を秘めていたノーマ。彼女は魔法学校でどんな修行をするのか?先が楽しみです。さて、次は魔族だけでなく人間の悪党も登場予定。お楽しみにお待ちください。

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