屍役神アンドラス 前編
放浪編その1
旅の道中記で立ちよった街ラグーン。そこのギルド支部のパーティーが助っ人を頼んできたが・・・
馬車はゆったりとした速度で進んでいた。マヤ・カリバーは二本の刀を幌に立て掛け、ユキマルと向かい合って座していた。弟で魔導士のビャクヤはマヤの身体に寄りかかって夢の中だった。
「そろそろ、ラグーンに到着しますな、姫様」
そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!しかし、そうだな。いくつか村を回ったが久しぶりに大きな街だ。色々と見て回ろう」
「今のところ野良の魔物ばかりで、腕が鈍りそうです」
「何なら、私と模擬戦でもするか?」
「ご冗談を。私はマヤ様の護衛です。そのマヤ様と剣を交えるなど、とんでもない」
まあ、実際その通りだ。二人ともサナダ流剣術の免許皆伝、大陸剣術協会の試験にも合格した上級剣士だ。模擬戦が本気の戦いになったら、辺り一帯が焦土と化す。下手な魔族と戦うより余程、被害が大きくなるだろう。
「お客さん方、ラグーンに着きましたぞ」
御者の言葉で前方の幌をめくり、自分の目で確かめる。高い塀でぐるりと囲われている街、ラグーンにいよいよ到着した。
門番はマヤとユキマルの胸に輝く上級のプローチを見ると、敬礼して門の通過を許可した。
「さて、そろそろ起きろ、ビャクヤ。ラグーンに着いたぞ」
「うーん、着いたのですか、姉上?」
ブカブカの魔導士服を着たビャクヤがあくびをして立ち上がる。王都から馬車や徒歩で三日かけてようやく到着した。馬車を降りるとマヤは二振りの刀を腰に差した。
「さて、まずは宿を探さないとな。その後に街を散策しよう」
馬車から荷物を下ろし、三人はまずは酒場に向かった。二階が宿になってることが多いからだ。
早速見つけた酒場に入ると、中にいる荒くれ者たちが、訝しげな目で探るように見つめてくる。
「黒髪に黒目、異国人だぜ」
「異国人のパーティーは珍しいな」
「見ろよ、胸に上級のプローチを付けてるぞ」
「すると、あの女は煙幕のカリバーか!?」
ざわつく店内の様子は歯牙にもかけず、マヤはカウンターの向こうにいるバーテンダーに声を掛けた。
「宿を探してるんだが、この上には泊まれるのか?」
「ああ、一泊銀貨五十枚だ」
「高いな。三十枚に負からないか?」
「オーケー。上級の旦那方だから特別に負けよう」
「ありがとう、風呂はついてるのかな?」
「刻印魔法と元素魔法を応用したシャワーならあるよ」
「十分だ。どの部屋だ?」
「二階のいちばん奥とその隣を使ってくれ」
「分かった、ありがとう」
マヤたちは階段を上がって二階の部屋に向かった。一番奥はマヤとビャクヤが使い、隣にユキマルが泊まることになった。
荷物を置くと三人は早速街の散策に出掛けた。
街に出るとやはり異国人であるマヤたちは目立つようだ。敵意ではなく、純粋な好奇心が湧くようで、皆ひそひそと話し合っている。
「さてと、まずは腹ごしらえをするか。どこか美味しそうな店はあるかな?」
「姉上、任せてください。僕の魔法でこの街の評判などを探ります」
「そうか、任せたぞ」
マヤは可愛い弟の頭を撫でた。杖で辺りを探っていたビャクヤは、唐突に顔を輝かせた。
「姉上!良い店を見つけました!早く行きましょう!」
長い髪を揺らしてビャクヤは小走りに先頭を歩く。そうして辿り着いたのは、スイーツの専門店だった。
「いや、ビャクヤ。甘いもので腹を膨らませるのはなあ」
「姫様、私なら大丈夫ですぞ」
そう言うユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!ユキマル、お前は甘党だったのか?意外だな」
「旅の道中でたまにしか食べられませぬゆえ、こういう機会を逃すのはどうかなと思いまして」
「ふーむ、まあ、それもそうだな。美味しい料理は夕食に取っておくか」
話が決まって三人はスイーツ店の中に吸い込まれた。テーブルに着いて、やって来たウェイトレスにそれぞれ注文をする。
やがて運ばれて来たパフェやパンケーキは旨かった。旅の間、滅多に食べられない甘味は予想以上に美味だった。
そうしてマヤたちがスイーツを堪能していると、三人の冒険者らしき者たちが入店してきた。その三人は真っ直ぐにマヤたちのテーブルに向かって歩いてくる。
「失礼。不躾で申し訳ないが、あなたは煙幕のカリバー殿だろうか?」
腰に剣を差した金髪の男が慇懃に尋ねてくる。
「ああ、そうだが?」
「すると、こちらは上級剣士のユキマル殿と魔導士のビャクヤ殿だな。食事中失礼した。僕は剣士のオリウス。後ろにいる魔法使いはシーラ。戦士はガイアスという」
穏やかな物腰だが、このパーティーはかなりの腕利きであることを、マヤは見抜いていた。
「ふむ。それでオリウス殿、我々に何の用かな?」
ユキマルが刀の柄に手を置いているのを見ながら、マヤは連中の思惑を探る。
「実は隣街のミライアに魔族が出現してね。討伐依頼がここラグーンのギルド支部に来ているんだ」
「ふむ。それでは討伐に向かわれたらどうかな?貴殿たちの実力なら問題はないと思うが」
そうマヤが返すとオリウスは仲間のほうを振り返り、何やらやり取りをしていた。
「すでにAランクのパーティーが二組、討伐に向かった。しかし、一週間経っても戻って来ない。水晶端末で連絡を取ろうとしたが、出来なかった」
「私たち冒険者だけじゃないわ。ラグーンからミライアの市長に連絡したけど、これも繋がらないのよ」
赤い髪の魔法使い、シーラがそう補足する。戦士のガイアスは腕を組んで頷いている。
「つまり、街自体が未曾有の危機に晒されてる可能性があると?」
マヤは慎重に言葉を選んだが、オリウスはそれを肯定した。
「街の周りは塀で囲まれているし、連絡もつかないとなると、すでにミライアは魔族によって侵略された可能性が高い」
オリウスは憂いを含んだ瞳でマヤを見つめる。
「ふむ。それでオリウス殿は我々に何の用なのかな?」
分かりきってはいるが、必要な段取りを踏む必要がある。
「我々の討伐に手を貸して欲しい。ラグーンのギルド支部では報酬は金貨二千枚にまで膨らんでいる。それを山分けということでどうだろうか?」
「金貨千枚か。それは豪気だな」
マヤはユキマルとビャクヤに視線を走らせたが、二人とも頷いて見せる。
「話は分かった。協力させて貰おう」
「有り難い!あなた方が一緒なら心強い」
マヤは差し出された手を握った。ラグーンに着いたばかりではあるが、義を見てせざるは勇無きなりという。単純にこのところ、強力な魔物と戦っていないので、暴れられる機会を得て願ったり叶ったりといったところだ。
店を出て早速、馬車の手配をしようとするオリウスを止めた。
「聖王国ザルカスや西方連邦では一般的な移動方法になっているんだが」
ビャクヤが巨大な絨毯を出すと、オリウスたちは驚愕していた。
「空飛ぶ絨毯か。そういえば旅人に聞いたことがあったが、見たのは初めてだ」
「ねえ、ビャクヤ殿。あたしにもこの魔法教えてくれないかな?」
魔法使いのシーラは目を輝かせていた。
「うん、良いよ。でもまずは仕事が先だよ」
「本当にこんなものが飛ぶのか?」
戦士のガイアスは恐る恐る絨毯の上に乗る。そうして全員が乗り込むと、
「よし、ビャクヤ。出発だ!」
「了解です、姉上!」
絨毯はすーっと宙に浮かび上がり、ミライアの方角に向けて飛んだ。
「おう、これは凄い!」
「この移動方は広めたほうが良いわね!」
「ふむ、尻の下もフカフカで、馬車より遥かに快適だ!」
オリウスたち三人は初めての魔法に興奮気味だ。ビャクヤは鼻高々でご機嫌な様子だ。
「オリウス殿。そもそも、最初はどんな討伐依頼だったんだ?」
マヤの疑問にオリウスが答える。
「最初は血を操る魔族が現れたという話だったんだが、やがて、そいつの眷属がどんどん増え始めたらしい」
「魔王軍ということか?」
「いや、それなら最初から集団で現れそうなものだが、あくまで最初は一人だったらしい」
「ということは、屍鬼の可能性が高いな」
「ああ、だがどうも昼間でも活動可能らしい。アンデッドは昼間は動けないはずなんだが」
「魔族が使役してるなら、昼間でも現れておかしくない」
「うむ。とにかく、気を引き締めて行かないと我々も仲間にされてしまうだろう」
「アンデッドなら戦ったことがある。集団で来られたら厄介だが、広範囲攻撃で吹っ飛ばせば良い」
ユキマルは刀を握り、肩を竦める。
「ユキマル殿、魔法使いならともかく、我々剣士に広範囲攻撃など・・・」
「ふむ。それでは現地でサナダ流剣術の奥義をお見せしよう」
話している間にミライアの街が見えてきた。ぐるりと高い塀で囲まれ中の様子は分からないが、門の前に衛兵が立っている。
「バカな!連絡もつかない状態なのに、何故門番がいるんだ!?」
「うーん、オリウス殿、取りあえず正面から堂々と門を通過しよう」
マヤの提案で絨毯は近くの森の中に降下し、全員で門の前まで移動する。
「失礼!我々はラグーンのギルド支部から来たパーティーなのだが」
オリウスがギルドのIDカードを示しながら門番に呼び掛ける。門番の二人は何事か話し合ってこちらに向き直った。
「ご苦労様です。それでどのようなご用件でしょう?」
「魔族が現れたので討伐依頼がラグーンに寄せられた。だからこうしてやって来たのだが」
「ああ、その件ですか。すでに先に来た冒険者の方々が討伐されたようですぞ」
門番の言葉に困惑したオリウスはマヤを振り返った。
「しかし、ラグーンから全く連絡が取れなくなっていると聞く。そもそも冒険者たちは何故戻って来ないんだ?」
マヤの問いに門番は笑みを浮かべた。
「魔族を倒して下さったお礼に街を上げて宴を開いているのです。お疑いなら中に入ってくださって結構ですぞ」
門番の一人が門に手を掛け、重厚な門が開かれてゆく。何か違和感のようなものを感じるが、とにかく、中に入らないと始まらない。
「よし、それでは行こう」
オリウスを先頭に冒険者一行はミライアの街に足を踏み入れた。中は石畳が敷かれた街道になっており、市が立ち並んで盛況な様子だ。子供たちの走り回る光景を目にして、まるで狐に摘ままれたような気分を味わった。
「平和そのものだな。本当に魔族の襲撃を受けたのか?」
マヤは油断なく辺りを見渡すが、どこにも異常はないように思えた。だが、ビャクヤが警告を発した。
「みんな、気をつけて!奇妙な魔力を感じるよ!」
ビャクヤは杖を構えて周辺を調べている。シーラも魔力探知で探っているが、やはり怪しげな魔力を感じるようだ。
「どこ、とは断言出来ないけど、魔族に似た魔力を感じるわ」
「よし、とにかく、その魔力を辿ってくれ」
マヤも刀の柄に手を置いて、探索を開始する。街の中を歩いていると、立ち並ぶ店と客で街道は活気に満ちているように見える。しかし、何か違和感のようなものが拭えない。
「この先は街を治めるスタイナー市長の屋敷があるはずだ」
オリウスは警戒しながら歩を進め、貴族たちの屋敷が立ち並ぶ地域に入った。衛兵の姿がぐんと増えたが、貴族たちの屋敷が集まる地域なら当然の光景だ。
その時、衛兵を連れた身なりの良い年配の男が秘書を連れて現れた。
「やあ、冒険者の諸君。ようこそミライアへ。私は市長のスタイナーだ」
ビンビンに魔力を感じ、マヤは刀の柄に手を掛けた。
「お出迎え感謝します、市長。ですが、先に訪れたはずの冒険者たちの姿が見えませんが?」
「ああ、魔族を討伐してくれたお礼に宴を催しているからね。良かったら君たちも来ないか?歓迎するよ」
にこやかに対応する市長だが、まだ違和感は消えない。
「ラグーンの市長から連絡を入れてるのに、返事がないのはどうしてです?」
「ははは、疑い深いな。冒険者はそうでないとな」
その時、ビャクヤがこっそりマヤに耳打ちしてきた。
「姉上、違和感の正体が分かりました。この者たちから生体反応がありません」
「市長と衛兵がか?」
「市長と秘書からは強烈な魔力を感じますが、それだけじゃありません!この街の衛兵も住人たちからも生体反応が感じられないんです!」
「ということは、つまり」
マヤとユキマルは刀を抜いた。
「どうしたんだ、カリバー殿!市長に向かって刀を抜くとは!」
「オリウス!見た目に騙されてたわ!この街の住人はみんなすでに死んでる!」
「何だって!?」
すると、賑わっていた市が静まり返り、住人たちが手に刃物やこん棒を持って迫って来ていた。
「典型的なゾンビのようなアンデッドじゃなく、魂だけを奪われた死者たちよ!」
すると、スタイナーが声を上げて笑った。
「はっはっは!今度の冒険者たちはなかなか鋭いじゃないか!」
「スタイナー市長!いや、お前は魔族だな?正体を現せ!」
マヤは刀の切っ先を突きつけてスタイナーに迫った。すると、その頭に二本の角が生えてきた。秘書の女性の頭にも一本の角が生えている。
「魔族は二人いたのか!?」
オリウスは剣を抜いた。シーラとガイアスは背後に迫る住人たちを警戒する。
「はっはっは!俺は魔王軍の幹部、アンドラス!こいつは右腕のキースだ!」
洗練された服を身につけているが、こいつらは人間を食う化け物だ。
「ふふ、賞金首の煙幕のカリバーが来るとはこれは僥倖!さあ、みんな!やるが良い!」
市長に成り済ましていた魔族、アンドラスの一声で住人たちが皆、武器を手にして襲いかかって来る。
「くっ!これは本当に死人なのか?生きている人間にしか見えない!」
オリウスは怯んでいるが、ユキマルは容赦しなかった。迫ってくる住人たちの首を次々に跳ねてゆく。
「オリウス殿!目の前にいる連中はすでに魂を食われたアンデッドだ!腹を括るんだ!」
魔法使いのシーラは結界を張って住人たちを押し留め、戦士のガイアスは斧を振るってその身体を斬り裂いてゆく。
「うむ、分かった!僕の剣で安らかな眠りにつかせてやる!」
オリウスも剣を振るい迫ってくる群衆たちの首を跳ねてゆく。
「さて、アンドラスとキースと言ったか?尋常に勝負と行こう」
しかし、次々に衛兵たちが集まり魔族たちとの距離が離れる。
「ふふふ、カリバーよ!この先の屋敷の屋上で待っているぞ!」
アンドラスとキースは宙に浮かび遠ざかってゆく。
「数が多いから有利だとでも思っているのか!」
マヤとユキマルは同時に奥義を繰り出した。
「「百貨爆裂!」」
一太刀で百の軍勢を斬り飛ばす奥義で、集まってくる衛兵たちを次々に吹き飛ばす。
「二人とも凄い技を使っているな!まるで魔法だ!」
オリウスは驚嘆の声を上げるが、衛兵たちは数が多く一向に前に進めない。
「ドライドルーバ!」
ビャクヤの拡散攻撃魔法で、大量に焼き付くされ、三人は市長の屋敷を目指して駆け出した。そこに、宙に浮かんだキースが、自らの血を大量の剣のような形状に変えて地上に攻撃を加えてくる。
「アーカム!」
ビャクヤの結界で防ぐが、その間にまた衛兵たちが集結してくる。
「オリウス殿!ミライアの人口はどれくらいだ?」
「ざっと二千人くらいだ!」
「やれやれ、なかなかうんざりする数だな!だが、アンデッドなら・・・」
「はっはっは!そう、屍役神の俺を殺せば、アンデッドたちは死体に戻る!だが、果たせるかな?」
「ちっ、忌々しいやつだ!千里一刀!」
マヤは斬撃を飛ばした。その斬撃を血で作った剣で受け止めるアンドラス。
「はっはっは!色々と手品を使えるようだな!もっと試してみろ!」
その言葉でマヤは逆に手の内を隠すことにした。群がる衛兵を百花爆裂で吹き飛ばすことに専念する。
「マヤ様!ここは私が受け持つゆえ、ビャクヤ様と一緒にアンドラスの討伐をお願いいたします!」
百の斬撃で衛兵を吹き飛ばしてユキマルがそう進言する。
「よし、分かった!オリウス殿たちを頼む!ビャクヤ!空中歩行の魔法を!」
「はい、姉上!」
マヤのブーツが光り、空中を階段のように駆け上がってゆく。そこにキースの血の剣が殺到してくる。
「ドライドルーバ!」
ビャクヤの拡散攻撃魔法で、血飛沫が辺りに飛び散る。キースがさらに攻撃しようとした時、マヤの姿がその背後に移動していた。
「影縫死斬!」
「はっ!?」
マヤの刀はキースの片腕を斬り飛ばした。
「ぐああ!」
血液が滝のように降り注いで、マヤは距離を取った。
「この程度で勝ったと思うなよ!我々のペットを紹介しよう!」
キースが左手を大きく振ると空中で魔方陣が展開し、一体のドラゴンが召喚された。しかもそれは暗黒の瘴気をまとった死之竜だった。
ドラゴンは口を開けて黒い瘴気を吐き出した。あらゆる物を腐らせる死の炎だ。
「ヴァルサイド!」
ビャクヤは最強結界を貼った。アンデッドになってもドラゴンは上位の魔物。その攻撃は強力無比だ。翼を広げて向かって来たところで、マヤは再び背後を取った。
「影縫死斬!」
そして広範囲攻撃を繰り出す。
「百花爆裂!」
ドラゴンの硬い鱗で覆われた身体の三分の一が吹っ飛んだ。
死之竜は硬い角の生えた尻尾で攻撃してくる。マヤは身体を煙幕状にしてその攻撃をやり過ごす。死之竜はドラゴンだけに手強く、欠損した部分はすでに再生されている。
一方、ビャクヤとキースの間でも激しい攻防が続いている。血液が大きな膜となって結界を飲み込むが、ビャクヤの放つ攻撃魔法で血液は四散する。
「むー、視界を遮ってこちらの攻撃を逸らすのが目的か!それなら!ドライドルーバ!」
ビャクヤは拡散攻撃魔法で血液の膜を、片っ端から破ってゆく。
ユキマルたちは街の中央にある、広大な広場に移動していた。互いに背中を合わせて、背後の安全を確保する。
「くそう!何てやりにくい!子供たちが集団で襲ってくるが、攻撃がし辛くて仕方ない!」
一見、無邪気な子供たちの集団だが、その手には不釣り合いな包丁が握られている。
「オリウス!割りきるんだ!カリバー殿たちがアンドラスを倒すまで、持ちこたえなければいけない!」
ガイアスは手にした斧で、遠慮なく子供たちの集団をたたっ斬っている。オリウスは冒険者としては優しすぎた。魔法使いのシーラですら、攻撃魔法で老若男女の区別なく吹っ飛ばしているのに。
「オリウス殿!」
油断したオリウスを庇うように、ユキマルは広範囲攻撃でアンデッドたちを吹き飛ばした。
「例え見た目は人間でも、アンデッドは魂を持たぬ化け物!そう割りきれば良かろう!」
「くっ、分かってはいるが、可憐な姿を見ると、どうにも手が鈍る!」
「そうか、では後は私に任せて貰おう」
ユキマルは闘気を解放した。その威圧だけでアンデッドたちが倒れてゆく。
「裏奥義、明鏡反水!」
膨大な闘気が結界の役割を果たし、アンデッドたちは近づいて来れない。やがて、ユキマルの刀が白く輝き始めた。
「究極奥義、万花爆砕!」
上段に構えられた刀が振り下ろされると、とんでもないエネルギーの奔流が巻き起こり、ユキマルたちの前にいたアンデッドたちは綺麗さっぱり消滅していた。
「・・・何とも凄まじいな。これがサナダ流剣術の奥義なのか?」
オリウスは勿論、シーラもガイアスも仰天していた。
「下手な魔法より、よっぽど強力ね」
「あんたらが味方で良かったぜ!」
手放しで喜ぶオリウスたちに釘を刺すのを忘れるユキマルではなかった。
「この奥義は莫大なエネルギーを消費する。打てて後一回か二回が限界だ」
「だろうな。住人たちのほとんどを吹き飛ばしたからな」
オリウスは辺りを見渡し、衛兵たちが集結してくるのを確認した。
「今度は衛兵たちか。あれなら罪悪感を抱かずに済みそうだ」
オリウスは剣を握り直した。
ビャクヤは宙に浮いた状態で四方八方から飛んでくる血の剣を、局所結界で弾き、攻撃魔法を打ち込んでゆく。それも血で作られた結界に弾かれる。
「随分、戦い慣れてるね。今までどれだけの魔法使いを倒したんだか」
「ヒャッハッハー!あたしの血液魔法にこれだけ耐えられたのは何百年ぶりかな?気にいったわよ、坊や」
「坊やじゃない!ビャクヤだ!」
「ふふふ、ビャクヤ。お前を記念すべき百人目の魔法使いと認めてやる!」
「そう、光栄だね。でも僕はお前より強い魔族たちを葬ってきたよ」
その台詞は気に入らなかったのか、キースは顔を歪めた。
「もう少し遊んでやろうと思ったが、もう十分だ!息の根を止めてやる!」
キースの血がビャクヤの頭上に集まってゆく。
「食らえ!ブラッドレイン!」
先の尖った血の剣が無数に降ってくる。
「最後にしてあげるよ、ジャルバローダ!」
ビャクヤの杖の先に積層魔方陣が展開し膨大な光のエネルギーが発射された。キースは血液を集めて結界化させるが、今度の攻撃は無効化出来なかった。
「なにいっ!?」
光のエネルギーはキースの左半身を綺麗に吹き飛ばした。一方、ビャクヤは最強結界のヴァルサイドを張っていたので全くの無傷だ。
「こ、これが・・・勇者のパーティーの・・・実力か」
キースの残った身体もホロホロと崩れてゆく。
「何だって!?僕たちは勇者なんかじゃないよ!」
「魔王ルキフェル様がそう認定したのだ。お前たちの旅の道程には、これからも我々、魔族が待ち受けていることを覚悟しておけ」
そこでキースの身体は完全に塵となって消え失せた。
死之竜は辺り構わず黒い瘴気を撒き散らしている。人間だけでなく、家屋や壁までが腐食してゆく。
「仕方ない。奥の手を出すか」
マヤは闘気を解放した。膨大なエネルギーが結界の役割を果たし、死之竜の瘴気も届かない。マヤの上段に構えた二本の刀が白く輝き始める。
「食らえ!万花爆砕!」
刀が振り下ろされると、莫大なエネルギーの奔流が死之竜を捉え、焼き付くしてゆく。あれだけ巨大でしぶとかったドラゴンが骨も残さず消え去った。
「何とも凄まじいな。流石は勇者だ」
突然、背後から声が聞こえてマヤは空中で後ずさった。
「しかし、その技は大量のエネルギーを消費するようだ。後、何発も使えんだろう?」
「確かにその通りだが、貴様一人を討伐するのに、究極奥義を使う必要はあるまい」
アンドラスは両手を上げた。すると地上に、鎧をまとった兵士たちの姿が現れた。その数はざっと千は下らない。
「はっはっは!俺は自分が殺した相手を従わせることが出来る。この五百年で集めた死の兵隊たちがお前たちを葬る。そして、俺の手駒になるが良い」
突如現れた軍勢が、ユキマルやオリウスのパーティーを取り囲んでいる。
「ちっ!あの数、究極奥義を使わずに片付けるのは骨が折れそうだ!」
地上に戻ろうとするマヤの前に、血の剣が複数現れ、串刺しにしようと肉薄してくる。だが、マヤは身体を煙幕化させて攻撃をやり過ごす。
「お前の相手は俺がする!そして、従えてやるぞ!」
「やれるものならやってみろ!」
マヤは二本の刀を構えた。
死を操る魔族、アンドラスとの死闘は始まったばかりだ。
放浪編その1。屍役神アンドラス、前編でした。自らの血液を自在に操る魔族はアンデッドを操るアンデッドマスターでもあった。圧倒的な数で攻めてくる敵にマヤたちもてこずります。果たして勝負の行方は?次回でまたお会いしましょう




