爆弾魔キメイヤ 後編
爆弾魔編、後編。
触れたものを爆弾に変えることしか出来ないキメイヤ。だが意外にも強かな魔族だった。
マヤたちは魔力を探って階段を上っていた。どうやら屋上に向かったらしい。
「魔法使いたちが結界で身を守りながら、追って行ったと言っていたな」
「ええ、セーガルはそう言ってました」
護衛のユキマルは刀の柄に手を掛けたまま、先程の英雄の言葉を確認する。
「ビャクヤ。屋上のほうはどうなってる?」
「魔族の他に複数の魔力反応があります。おそらく魔法使いたちでしょう」
「よし、急ぐぞ!」
三人は大急ぎで屋上に向かい、鉄の扉を開け放った。
そこには、夥しい数のアルヌスが魔法使いたちを取り囲み、剣で攻撃を加えている光景が広がっていた。
「これは究極奥義しかありませぬな」
ユキマルは抜刀した。マヤも刀を抜いて中央で身動きの取れない、魔法使いたちに呼び掛けた。
「おーい、聞こえるか!」
結界を維持している魔法使いたちは、その呼び掛けに反応した。
「今から究極奥義で魔族を殲滅する!お前たちが巻き込まれないように今から最強結界を張るぞ!ビャクヤ!」
「了解です!ヴァルサイド!」
ビャクヤの杖から出た光は魔法使いたちを包み込む。
マヤとユキマルは闘気を解放した。その強烈さにアルヌスの大群は一斉にマヤたちに照準を変えた。
刀が白く光輝く。殺到してくるアルヌスの大群に向けて、上段から一気に刀が振り下ろされた。
「「万花爆砕!」」
全てを滅する闘気のエネルギーが奔流となって前方に打ち出された。アルヌスの大群はホロホロと崩れ始めた。そのうちの一体が飛び上がり逃げ出そうとする。
「おっと、させないよ!ジャルバローダ!」
ビャクヤが最強魔法をぶちこみ、その一体も消滅する。やがて、煙が晴れると屋上の端に座り込んている、キメイヤの姿を確認した。
「爆弾魔!観念しろ!」
マヤたちはキメイヤに向けて歩を進めた。すると魔法使いたちが突然、マヤたちに攻撃魔法を仕掛けてきた。
「おい、お前たち!何をトチ狂ってる!?」
マヤは煙幕になることで攻撃は無効化されたが、魔法使いたちはみんなマヤたちに杖を向けている。
「わ、悪い、煙幕のカリバー!俺たちはすでに爆弾化してる。あんたを倒せば解除してやると言われて!」
「ゴメンなさい!でも、私たち、死にたくない!」
魔法使いたちの懇願を聞き、マヤは無意識に闘気を解放していた。
「キメイヤ!貴様は許せん!一太刀で楽にしてやるから、この連中を解放しろ!」
屋上の端に座り込んでいるキメイヤは首を振った。
「解除したら問答無用で殺されるんだろ?じゃあ、解除はしない。このまま逃げさせて貰うよ」
「何!?待て!逃げるな!」
マヤは両手に刀を持って駆けた。魔法使いたちがその進路を防ぐ。
「邪魔をするな!冒険者としての誇りを忘れたか!」
「私たちはあなたほど強くな:いの!許して!」
速度が鈍ったところで、キメイヤは空間転移で姿を消した。
「くそっ、逃がしたか!」
次の瞬間、四人の魔法使いの身体が爆発した。血飛沫が舞い、肉塊が辺りに飛び散った。
「・・・キメイヤ!貴様は必ず討伐してやるぞ!」
マヤは怒りの表情で空に向かって吠えた。
「ヤバかった!今度こそ殺られると思った!」
ミルファの魔道具店に逃げ込んだキメイヤは、奥の部屋に入ると疲れきって腰を下ろした。
「あらあら。アルヌスさんはどうしたのですか?」
「殺られたよ。あんなの反則だろ!剣術と魔法の会わせ技だ!」
「だからこそ、カリバーさんは賞金首になっているのですよ。でも、困りましたね。あなた一人ではカリバーさんに勝てるとは思えませんし」
ミルファは頬に手を当てて、小首を傾げた。
「いっそのこと、姿かたちを変えたらどうだい?」
カウンターの上に寝そべった黒猫のジルが、ダルそうな口調でアイデアを述べる。
「そうですねえ。今の姿は知られてしまっているから、それはありかもしれませんね」
「別人になって接近しろってのか?あんな抜け目のないやつらじゃ、直ぐに見破られるんじゃないか?」
「それと、透明化のスキルを使えばよろしいのですわ。勿論、魔力を最小限に抑えての話ですけど」
「上手くいくかなあ?」
「どのみち、このままではルキフェル様に粛清されてしまいますわよ?」
痛いところを突かれると、キメイヤは口を閉ざした。カリバーたちは厄介だが、ルキフェルの怒りを買うのは更に不味い。
「分かったよ。それで、どんな風に化ければ良いんだ?」
「そうですねえ。いっそのこと、性別を変えましょうか。髪も金髪のロングにしましょう」
「お、女に化けるのか?何だか抵抗あるなあ」
「ルキフェル様に粛清されますか?」
「あー、もう!分かったよ!好きにしてくれ!」
ミルファは小さい杖を取り出し、キメイヤに向けた。
「それでは、飛びきりの美人さんになって貰いましょう」
光が放たれキメイヤの全身を包んだ。銀髪だった髪は金色になり、腰のところまで長くなる。身長は低くなり、顔も天使のごとく美しくなる。
「さ、姿見でご覧になってください」
ミルファに言われて鏡を見たキメイヤは、甲高い驚きの声を上げた。
「こ、これが俺!?元の要素が全く残ってない!」
「俺ではなく、私と言って下さい」
「そ、そうだな。お・・・私もビックリだわ!」
「その調子です。そして服もこんな感じで」
ミルファが再び杖を振ると、今度はキメイヤの服がヒラヒラのドレスになった。
「こ、これは流石に恥ずかしいんだけど」
「いえ、ここまですればカリバーさんも疑いを持たないでしょう。名前は・・・そうですね。メイとでも名乗ってください。後はこれですね」
更に杖が振られると、キメイヤの左手首に腕輪が嵌められた。
「この腕輪は?」
「魔力の認識を阻害する道具ですわ。これで爆発を起こしてもあなたから魔力が放たれたことは秘匿されます」
「おお、凄いよ!これならカリバーたちを出し抜くことが出来るかもしれない!」
「それと、この杖も差し上げますわ。基本的な魔法は使えるようになります。あなたは旅の魔法使いで、今回の事件で協力することにしたという設定です」
「何か出来る気がしてきたよ!それじゃ行ってくる!じゃなくて、行って来ますわ!」
「はい。今度こそ上手くいくよう祈ってますわ」
店を出ていったキメイヤを、黒猫のジルは目を細めて見送った。
「上手くいくと思うかい?」
「上手くいってくれないと困りますわ。魔族のサポートを任されてる私としては」
「あの臆病者がどこまでやれるか。取りあえず見物ではあるね」
「ジルも祈ってくださいな」
「僕らは神には祈らない」
「ええ、ですから、ルキフェル様に祈りましょう」
黒猫は目を閉じ、顎を前足に乗せて居眠りを始めた。
アトラス教の教会で、犠牲になった冒険者たちを追悼する儀式が執り行われていた。
マヤとユキマルは黙祷を捧げ、ビャクヤも両手を合わせて祈っていた。生き残った比較的軽傷の冒険者たちは、キメイヤを必ず討伐すると誓いを立てていた。
祭壇に捧げる花を入り口で受け取って、列に並んでいる者たちの中に見知らぬ人物を見つけた。どうやら魔法使いらしいが、ロウランド王国の者ではないようだ。
マヤはゆっくりとその人物に歩みよった。長い金髪で黒いドレスを着ている。
「失礼。あなたは旅の方だろうか?」
声を掛けると一瞬ビクリと身体を震わせたが、穏やかな笑みを浮かべて首肯する。
「はい。私は旅をしている魔法使いです。ロウランド王国の諸国を回っていたのですが、爆弾魔の噂を聞いて、花を手向けに来ました」
「そうですか。私はマヤ・カリバー。名前を尋ねても良いだろうか?」
「私はメイと申します。魔法使いとしては、まだランクが低いですが」
「実は生き残った冒険者たちと王宮騎士団が爆弾魔の捜索をするのだが、あなたも協力して貰えないだろうか?」
「え、と、はい。私で良ければ協力させてもらいますわ」
「ありがとう。それでは後程、教会前で」
マヤはその場を離れて教会の前に集っている冒険者と騎士団の前に移動した。
「みんな、集まってくれてありがとう。天に召された仲間たちも見守ってくれているだろう」
マヤは騎士団長のルークの隣で皆に呼び掛けた。王宮騎士団三百名、冒険者四十八名の精鋭たちだ。
「今まで爆弾魔の凶行を止められなかったのは残念だ。だが、魔導士である弟のビャクヤが、爆弾化したものを見極める道具を開発した!」
その言葉に場は騒然となる。それを手を上げて静止すると、マヤはビャクヤに説明を任せる。
「いやーかなり独特の術式でね。解析するのに時間がかかったけど、爆弾化したものが近くにあると、水晶端末がアラートを鳴らす仕組みをようやく開発したよ。端末を持っている人は僕のところに来てね。持ってない人は騎士団長のルーク殿のところに集まって。人数分配布するから」
ビャクヤの言葉でぞろぞろと人の波が動く。
(俺の魔法の術式を解明しただと!?あの小僧、何者だ?いや、それよりこれからどうするか・・・今まで爆弾化した物は無害化されるとなると、、新たに仕掛けなければ)
自分の番になり、水晶端末を受け取る。今は魔力を抑えているので、端末は反応しないが、かなりやりにくくなったのは確かだ。
(なら、いっそのこと爆弾化した物を派手に爆発させてやるか)
キメイヤは王都以外の街に仕掛けた爆弾を、次々に起爆した。その爆発音はこの教会前にまで響いて来た。
「何だ!?」
「爆弾魔は王都以外の街も爆弾化させていたのか!?」
冒険者たちは端末を手に、慎重に移動を開始した。もし爆弾化した物に近づくと赤く点滅するという。そして、かなり正確にその位置を特定出来るという。忌々しい話だ。
「おーい、メイさん。良かったら我々と行かないか?旅の者なら道も分かりづらいだろう?」
さらにカリバーが同行を申し出てきた。これは断りにくい。
「え、ええ。お願いしますわ」
キメイヤは素早くビャクヤの様子を伺った。腕輪の効果か、今、爆発させたことに気づかれてはいないようだ。これなら上手く立ち回れば、カリバーたちを含めた敵を殲滅出来るかもしれない。キメイヤは口角を上げて、マヤたちと共に爆発現場へと向かった。
王都の近くのセリナという街で爆発騒ぎが起こっていた。街の警備兵が慌ただしく走り回っている。
マヤは水晶端末を見た。街の地図に爆弾化した場所が赤く光っている。
「いつの間に王都以外の街にも仕掛けていたんだ?」
「王都で爆弾魔の騒ぎが起こったから、王都の中だけを警戒しておりましたが、それ以前に他の街にも仕掛けられていたと考える他ありませぬな」
ユキマルが端末を見ながら、マヤたちの前を歩く。護衛であるユキマルは率先して歩いてゆく。
「おっと、この石畳も爆弾化している」
ユキマルは注意深く周りこんで避ける。
「結界を張っていても、足元で爆発されると、衝撃が響きますからな」
マヤとビャクヤ、メイが後に続く。他の騎士団や冒険者たちも足元だけは気をつけて進んでゆく。
(うー、苦労してあちこちに仕込んだのに、こうもあっさりと無力化されるなんて!)
キメイヤは内心忸怩たる思いだったが、突然、頭の中に声が響いた。
『キメイヤさん。ミルファですわ。爆弾化した場所を移動させることは出来ませんの?』
念話だった。
(え!?そんなことしたことないよ!?)
『では、試してご覧あそばせ。カリバーさんを倒す機会を作ることが出来るかもしれません』
(わ、分かった。やってみるよ)
キメイヤは自分の仕掛けた、爆弾化させた場所を確認した。そして、その場所を移動するように念を込める。すると、途端に冒険者たちが焦った声を出した。
「うおっ!何だ!?爆弾が次々に移動を始めたぞ!」
騎士団は慌てて槍を地面や壁に突き刺し始めた。
(ふふふ、そんなことをしても無駄だよ!)
建物の壁が爆発して、数人が吹っ飛ばされた。だが、マヤたち同様、魔力を感知すると自動的に結界を張るブレスレットを付けてるので、死傷者は出なかった。
爆弾が縦横無尽に動き回って、捜索者たちが一ヶ所に集められつつあった。
「不味いぞ!みんな、散らばれ!爆弾が一ヶ所に集中すると威力が上がる!結界で防げないかもしれんぞ!」
「そ、そうは言われても!」
「爆弾が足元に来たら逃げるしかない!」
騎士団と冒険者たちは巧妙に集められた。そして、大爆発が起こる。少し離れていたマヤたちも飛ばされて、地面を転がった。煙が晴れてゆくと怪我人が大量に転がっているのが確認出来た。
「くそう!爆弾魔め!」
「しかし、今のでこの辺一帯の爆弾は無くなりましたぞ!」
ユキマルの言葉でキメイヤは歯噛みする。
(よし、倒れているこの隙に、また爆弾化させて翻弄してやる!)
キメイヤは地に着いた手から魔力を流し、離れた箇所を爆弾化させる。それをマヤたち三人の所に動かしてゆく。
「何だ!?まだ爆弾が残っていたのか?メイさん!早くこっちに!」
マヤがキメイヤを招くが、キメイヤは怪我をした風を装い、わざと緩慢な動きで立ち上がる。
周辺で爆弾化したものが、次々に集結してくる。
「なんて数だ!さっきの爆発で全部消えたはずだが!」
マヤとユキマル、ビャクヤは地面が大爆発して、派手に飛ばされた。地面に叩きつけられ、三人とも動く様子がない。
(よし、今だ!)
キメイヤは素早く動き、マヤとユキマルの腕からブレスレットを奪い、自らの手首に装着する。
「一体、何をしてるのさ?」
その声に振り向くとビャクヤが杖をついて立ち上がるところだった。
「ははは、無防備になるこの時を待っていた!」
キメイヤは自然な動きでビャクヤの杖に触れた。
「さあ、どうだ!魔導士の小僧!お前の杖も爆弾化したぞ!」
キメイヤは素早く距離を取った。
「お前も肉塊になるが良い!」
キメイヤは心の中で起爆スイッチを押したが、杖は爆発しない。
「な!?何故爆発しない!」
「お前の術式は解明したと言っただろ!掛けられた魔法は直ぐに解除した!」
「ふん、そうか。だが、カリバーとユキマルは結界のブレスレットを付けてないぞ!」
キメイヤはミルファから貰った小さい杖を構えた。魔法を飛ばし、マヤとユキマルの倒れている地面を爆弾化する。
「しまった!姉上!」
ビャクヤは振り向いてマヤたちを結界で保護する。その隙にキメイヤは空間転移で飛んだ。
「むう、不覚にも気を失っていたとは」
「それで、ビャクヤ。あれは女に化けた爆弾魔だったんだな?」
「はい。魔力の認識を阻害する魔道具でも使ってるのでしょう。あいつがキメイヤだと全く気付きませんでした」
「それで、今はどこにいる?」
「キメイヤ自身の魔力は探知出来ませんが、王都の中が再び爆弾化したもので溢れてます」
「そうか。おーい、動けるものは王都に戻るぞ。爆弾魔は再び潜伏した!」
被害の少なかった騎士団と冒険者たちは、端末を見てギョッとしていた。王都の至るところに爆弾が仕掛けられているからだ。
「王都で決着をつけてやる!」
マヤは立ち上がって刀の柄に手を置いた。
インビジブルを使ってキメイヤは再び王都に戻った。王都も騎士団たちが守っていたが、魔力の認識を阻害する腕輪のお陰で、宮廷魔法使いにも気づかれず行動出来た。
(ふふふ、さあ来い、カリバーたちめ。この王都で決着をつけてやる)
キメイヤは城の離宮の屋上にいた。ミルファのくれた杖のお陰で直接触らなくても、遠距離の物も爆弾化させることが出来る。
やがて、マヤたちを先頭に冒険者と騎士団が王都に戻ってきた。端末で爆弾化した場所を避けながら歩いてくる。
(ふふん、精々頑張れ。撹乱してやる)
キメイヤは爆弾の位置を動かして翻弄しに掛かる。しかし、数名の冒険者たちが杖に乗って宙に浮いた。マヤたちも空飛ぶ絨毯で空中に浮かぶ。
(ちっ!その手があったか!しかし、俺の居場所は特定出来まい)
キメイヤは屋上の壁に背中を預けて座り込み、しばらく様子見を決め込んだ。
「宙に浮いたのは良いが、ビャクヤ。これでは爆弾化をどうにも出来ないぞ?」
「安心してください、姉上。僕はキメイヤの魔力術式を解明してます。空中から魔法を撃ち込んで、爆弾化を無効化します」
ビャクヤは杖を地上に向けて魔法を飛ばす。すると、マヤの持つ端末から赤い点が一つ消えた。
「ほう、大したものだ。全ての爆弾化を解除するのに、どれだけかかる?」
「広範囲に広がってますから少し時間が掛かります」
「そうか。その間にキメイヤを探したいところだが」
魔法使いほどではないが、マヤやユキマルも魔力探知は使える。そうして探ってはいるが、ビャクヤにも探知出来ないので、やはり無理がある。
「己れ!どこに潜伏している!?」
「姫様、やつはどこかに潜んで事の成り行きを見ているはずです!」
間髪いれず、ユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!しかし、そうだな。ビャクヤ、我々に空中歩行の魔法を!」
「了解です!」
マヤとユキマルのブーツが光り、そのまま二人は空中に歩き出す。
「ユキマル、良く探せ!」
「御意!」
そうして、ビャクヤが爆弾を無力化している間に、マヤとユキマルは空中を駆けてキメイヤの姿を探し回る。
(くそう!空中を飛ばれたら爆弾も役に立たない!やつらを再び地上に引き付けるには・・・)
インビジブルで姿を消したまま、キメイヤは離宮の屋上から地上に戻り、騎士団や冒険者たちの目を掻い潜り、今度は教会を爆破した。
「大変だ、教会が!?」
「仲間を弔う場所をよくも!」
冒険者たちは憤慨して、キメイヤの姿を探すが、見つけられるわけもない。そして、地面が爆発する。
「見つけたわ!」
魔法使いの一人がこちらを指差していた。インビジブルは所詮スキルだから、魔法使いの目を完全には誤魔化せなかった。キメイヤは手近にいた二人の騎士の首を掴んだ。
「動くな!お前らは爆弾化した!死にたくなければ逆らうな!」
キメイヤはインビジブルを解いて姿を露にする。そこに絨毯が降りてくる。
「キメイヤ!この卑怯者が!」
マヤとユキマルが地に降り立った。
「うるさい!俺のような下位悪魔はこんな手でも使わなきゃ、お前らみたいな化け物に勝てないんだよ!」
キメイヤは二人の騎士の身体を盾に、空中に石をばら蒔いた。
「まさか、あれも爆弾化してるのか!?」
大小、様々な石が空中で爆発する。皆、結界を張っているが、視界が遮られる。煙が晴れると爆弾化された騎士二人を残し、キメイヤは逃走していた。
「だ、誰か助けてくれ!」
「まだ死にたくない!」
残された騎士たちが真っ青な顔で訴える。
「心配は要らないよ!僕は爆弾の術式を解明してる。すぐに魔法を解くよ!ニュートラライズ!」
ビャクヤの杖から光が飛び出し、二人の騎士を包み込む。黒い霧のような物が騎士たちの身体から抜け出し、ビャクヤはニッコリと微笑んだ。
「オーケー!魔法は無力化したよ」
それを聞いて騎士たちはその場に座り込んだ。
「た、助かった!」
「礼を言いますぞ、ビャクヤ殿!」
事の成り行きを見守っていた騎士や冒険者たちが歓声を上げた。
「スゲーぞ!流石は天才魔導士!」
「ビャクヤ殿がいてくれたら、爆弾化されても助かるってもんだ!」
「みんな、気を抜かないで!キメイヤはまだ討伐してないよ!」
ビャクヤの警告で、場は再び緊張に満たされた。
「流石にビャクヤだな。だが、やつを見つける手立てはないものか」
「安心してください、姉上!やつが騎士を盾にしている隙に、魔力の込めた針をやつの身体に縫い付けておきました!」
「おお!流石だな、ビャクヤ!お前は私の誇りだ!」
マヤはビャクヤを抱き締めて、くるくると回転した。
「め、目が回ります、姉上!」
「おっと、すまん。それで?やつは今どこにいる?」
多少ふらつきながらも、ビャクヤはゆっくりとその方角を指差した。半壊した教会の中からスーッと姿を現したのはキメイヤだった。マヤとユキマルが刀を抜いた。
「散々振り回してくれたな。だが、お前もこれで終わりだ」
キメイヤは杖を構えて魔法を行使しようとするが、その時にはマヤの姿は背後にあった。
「影縫死斬!」
「はっ!?」
キメイヤは杖を持った右腕を斬り飛ばされた。
「ぐわあー!」
後ずさったキメイヤは、冷や汗をかきながら、最後の抵抗に出た。残った左手で自分の胸を叩き、狂気の笑みを浮かべた。
「はっはっは!最後は俺だ!俺自身が爆弾になったぞ!威力は今までで最高だ。ここにいるやつらは全員、道連れにしてやる!」
その狂気に満ちた目を捉えて、マヤは闘気を解放した。
「裏奥義、明鏡反水!」
膨大な闘気が結界となってマヤの全身を包む。
「ビャクヤ!他に被害が出ないように結界を張るんだ!」
「分かりました!エアシェルト!」
マヤの言葉を受けてビャクヤが広範囲最強結界を張る。
「さて、キメイヤ!引導を渡してやる!」
上段に構えられたマヤの二本の刀が白く光輝く。
「一輪殲滅!」
刀が振り下ろされると、キメイヤ一人だけに凝集したエネルギーが放たれた。
キメイヤの身体が爆発したが、その被害は強烈なエネルギー波で押さえ込まれ、他に影響は出なかった。
マヤは闘気を消し刀を鞘に納めた。大歓声が都に轟いた。これで王都を騒がした爆弾魔事件も幕を下ろすことになった。
その夜は死んでいった仲間たちを送る葬送の宴が設けられた。今回、犠牲になった者たちのリストが作成されている。後に慰霊碑を建立するためだ。
「今回は随分と苦戦したようだな、カリバー」
エルフの聖魔導士、アンドレアがワインを片手に現れた。
「ああ、結果的には他の魔族よりも多くの犠牲者が出た。触れたものを爆弾化する魔法なんて、と思っていたが、使いようによっては上位悪魔より厄介な存在だった」
「だが、魔族とは本来そういうものだ。目的のためなら手段を選ばない」
「ああ、痛感したよ。これからは戦い方も考えなければな」
「心配には及びません!私が姫様をお守りしますゆえ!」
ユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!不謹慎だぞ!」
「はっ!失礼しました!」
「旅に出たら行く先々で魔族が襲ってくるぞ。君たちは魔族たちの賞金首になっているからな」
「長い旅になる。暇潰しにはなるな」
「姉上も不謹慎ですよ」
ビールのカップを持ったビャクヤが、ほんのり顔を赤くして嗜めてきた。
「おい、ビャクヤ。お酒は程ほどにしておけよ」
「大丈夫です。聖王国ザルカスでは水代わりに呑んでました」
「やれやれ、ザルカス陛下にも困ったものだな」
マヤはカップのワインを呑み干した。
「それで?まずはどこに行くのかね?」
「とりあえずは北を目指す。港町のラグーンを訪ねるつもりだ」
「なるほど。あそこは海鮮物が旨い。しかし、海を隔てて魔王領のセイタンズがあるから油断しないことだ」
「ああ、でもあそこはシーク辺境伯が二万の兵士を常駐させて守らせているのだろう?」
「魔族は空間転移でやってくる。わざわざ二万の兵士と正面からやりあう気は、流石のルキフェルも持ち合わせていないだろう」
「ああ、それに元々、大陸のあちこちに棲みついている魔族もいるしな」
マヤは新しいワインのカップを取り上げ、頭上に掲げた。
「まあ、魔族や魔物との遭遇も旅の醍醐味だ。今夜は前夜祭と行くか!」
その時、エルフの剣聖ラルカスがカップを手に現れた。
「カリバー。新しい技を開発していたな。あれは万花爆砕の応用か?」
「ああ、そうだ。万花爆砕は広範囲攻撃だが、一輪殲滅は限られた対象だけを滅する技だ」
「そうか。では私も身につけておかねばな」
剣士としての性が疼いているようだ。
「ラルカス殿ならあっさりと身につけそうですな」
「全くだな」
マヤとユキマルとは剣士としての経験が違いすぎる。長命種のエルフだがザルカスとアンドレア、ラルカスは別格だ。
「さて、それでは旅の安全を祈って乾杯をしようか」
アンドレアが酒杯を持ち上げる。すると近くにいる冒険者たちもカップを持ち上げた。
「マヤ・カリバー一行の旅の安全を祈って」
「「「かんぱーい!」」」
その日は夜更けまで宴が続いたのだった。
「姉上、絨毯で行けばひとっ飛びなのに、どうして馬車で移動するのですか?」
二日酔いにもならず、ビャクヤは荷物を馬車の荷台に乗せた。
「それが良いんだよ!ゆったりと馬車に揺られて街から街に移動する。国ごとに習慣や名物も違うからな。楽しいぞ」
「そうなんですか?僕は馬車の旅は初めてなので、少し楽しみです」
「実際、絨毯での移動は聖王国ザルカスとロウランド王国だけでしか普及してませんからな。これから旅の先々で新しい移動法として啓発してゆくのも一興ですな」
ユキマルは荷物を積み込み、マヤとビャクヤの横に並ぶ。ロウランド王国の騎士団や冒険者たちが、見送りのために集まってくれたのだ。
「それじゃあ、みんな!縁があればまた会おう!」
マヤの言葉に皆が口々に別れの挨拶を寄越してくる。次に会えるのは数年後かもしれない。
「それでは道中、安全であることを祈る」
「サラバだ。また来るが良い」
二人のエルフの言葉に押されてマヤとビャクヤ、ユキマルは馬車に乗り込んだ。歓声がいつまでも鳴り止まなかった。ビャクヤは幌の後ろから身を乗りだし、いつまでも手を振っていた。さて、今回の旅には何が待ち受けているか。三人は期待を胸に王都から旅立ったのだった。
爆弾魔編、後編でした。触れたものを爆弾化させる魔法しか使えないキメイヤですが、ミルファのサポートもあり、意外に手強い敵となります。弱い者でもアイデア次第で格上の相手を翻弄することが出来る。今回はそんな教訓めいたお話でありました。そして、マヤたちはいよいよ旅に出ます。鬼が出るか蛇が出るか次回もお楽しみに。




