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霊界大戦争

霊界編、最終話。

魔界からやって来た悪魔軍一万はR 地区に攻め込んで来る。マヤとユキマル、ビャクヤはそれを迎え討つが・・・

 マヤは宙を駆けて押し寄せる魔物たちを屠ってゆく。位の低い魔物たちは斬られただけで復活出来なくなるようだ。

 ビャクヤは絨毯で飛び回りながら、攻撃魔法で軍勢を削ってゆく。背中に翼を持つ衛士バトラーたちも果敢に戦っているが、やはり数の多さに押されている。

「仕方がない、百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 マヤの一太刀が百の剣撃となって魔物たちをまとめて吹き飛ばした。

「やれやれ。我々が散々食らった技だが、味方となれば頼もしいな」

 衛士の一人が複雑な顔でマヤたちを眺めている。

「休んでいる暇はないぞ!」

 マヤは衛士の背後に迫った魔物を斬り捨てた。

「ああ!我々も気合いを入れるとしよう!」

 衛士たちも一糸乱れぬコンビネーションで魔物たちを押し返している。

 その時、上位存在の悪魔が魔力弾を打ち出した。マヤはそれを剣で弾いた。

「魔族どものお出ましか」

 モロクとビーダ、エウリオールとバンパイアのセオ。食肉植物を操るフォラス。暗黒のクロウズと勢揃いだ。

 大量のカラスがまとまり、巨大な剣となって衛士たちを吹き飛ばしていく。

「ドライドルーバ!」

 ビャクヤが拡散攻撃魔法でカラスたちを焼いてゆく。

「ちいっ、面倒だ。万花爆砕ばんかばくさいで一気に削るか!」

 マヤがそう言った時、頭の中に直接言葉が響いた。

『止めろ!その技のせいでZ 地区は大きな被害が出た。使用を禁ずる!』

 長官ジブリールだった。すぐに元に戻せるとはいえ、他の霊たちが怯えて仕方がないらしい。

「むう、仕方ない。地道に倒すしかなさそうだ!」

 その時、巨大な緑の蔓がマヤの身体を絡め取ろうと近づいて来た。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 マヤは水の動きで近づいて来る複数の蔓を斬り捨ててゆく。

「カリバー!今度こそシャルマンテの養分にしてやる!」

 黒いドレスをまとったフォラスが忌々しげに吠える。

千里一刀せんりいっとう!」

 マヤは斬撃を飛ばしてフォラスの首を跳ねた。しかし、身体が動いて自分の首を掴まえ、元通りに引っ付いてしまう。

「万花爆砕が使えないとなると、やつらを倒す決定打に欠けるな!」

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤが最強攻撃魔法を放った。そして、フォラスは塵となって消えた。

「姉上!万花爆砕は広範囲攻撃技!それが使えないのなら、標的を絞れば良いのでは?」

「む?そうか。周りに被害を出さなければ、問題はないな!」

 会話の途中で黒い翼を生やし、短剣を両手に握ったクロウズが襲いかかって来た。眷属のカラスたちも群れをなして飛んでくる。

「カラスたちよ!敵を食らいつくせ!」

 暗黒のクロウズが命令を下す。

 魔物の軍勢に加えて大量のカラスがくちばしで衛士たちの身体を抉る。

「うああっ!この鬱陶しいカラスどもめ!」

 衛士たちが懸命にカラスの群れを、剣で斬り捨ててゆくが、一向に数が減る様子はない。

「やはり、元を絶たねばキリがないな」

 マヤの闘気が膨れ上がり、カラスたちは近づけなくなった。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 マヤの膨大な闘気に怯んだクロウズだったが、両手に短剣を握り特攻を仕掛けてきた。

(闘気を拡散させるのが万花爆砕。ならば一体に集中させれば!)

「行くぞ!名付けて!」

 振り上げたマヤの二本の刀が目映い光を放ち始める。そしてクロウズだけに照準を合わせて、振り下ろされる。

一輪殲滅いちりんせんめつ!」

 闘気のエネルギーが拡散せず、集中してクロウズの全身を包んだ。

「ぐおおーっ!」

 クロウズの身体が塵になってゆき、完全に消滅した。

「むう。凄まじい技だな。悪魔たちはあんたに任せた。我々は魔物の軍勢を担当する!」

「承知した!」

 マヤは軍勢を操る魔族の幹部に狙いを定める。


 ユキマルはエルに連れられ、戦場となっている場所にワープした。

「これは!正に戦争だな!」

 空を埋め尽くすほどの悪魔と魔物の軍勢が、R 地区の街に攻め込んでいた。

「よし、早速斬り込むぞ!」

 エルをその場に残してユキマルは宙を駆け上がってゆく。敵を前にした時、頭の中に直接言葉が響いた。

『ユキマル!お前もだ!被害が広がるから万花爆砕は使用禁止だ!』

 長官ジブリールから、いきなりのダメ出しを食らった。

「むう、それでは悪魔どもは消滅させることが出来ない!魔物たちは問題ないが」

 殺到してくる魔物の群れをユキマルは違う技で蹴散らす。

「百花爆裂!」

 オーガやゴブリン、オークやコボルトで編成された悪魔軍は、その圧倒的な数で衛士たちを追い詰めている。それをユキマルは広範囲攻撃で確実に削ってゆく。

「おい、ユキマルと言ったな!来てくれて正直助かった!」

 衛士の一人が敬礼をして見せる。

「うむ、だが油断は禁物だぞ!」

「ああ、分かっている!」

 衛士たちはフォーメーションを組んで、押し寄せる魔物たちを地道に倒してゆく。

 だが、その時。大量の水が溢れだし衛士も魔物も波に飲み込まれてゆく。

「これは・・・ビオラか!?」

 ユキマルが目を転じると、金髪の美女が宙に浮いて、水の流れを操作していた。

「はははー!ユキマル!人間界で殺された報復をさせてもらうぞ!」

 ビオラが手を上げると、巨大な津波が押し寄せて来た。

「千里一刀!」

 ユキマルは斬撃を飛ばしてビオラの首を跳ねたが、その首を掴むと自ら元の位置に戻し復活する。

「ちっ、人間界ならこれで勝負が決まるものを!」

「ふふふ、貴様らがのこのこと霊界に現れるとは思わなかったが、お陰で思ったより早く報復出来るというものだ!」

 ビオラは水の竜巻を複数生み出し、ユキマルと周辺にいる衛士たちを巻き込もうとする。

「百花爆裂!」

 ユキマルは広範囲攻撃で水竜巻を無害化するが、全てを潰すことは出来ずに衛士の何人かは、水に飲まれて地上に落ちてゆく。

 その隙に魔物の群れが一気に攻め込んでくる。

「百花爆裂、連打!」

 人間界では、エネルギー消費が激しくて出来ない無茶が出来るのが、霊界の利点だった。ごっそりと魔物たちや、ビオラの水の攻撃を吹き飛ばす。

「水竜巻を食らえ!」

 ビオラはいくつもの水竜巻を生み出し、こちらに向けて飲み込ませようとする。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 ユキマルは守りに特化した奥義で、水竜巻を無効化するが、万花爆砕が使えないとなると、この状態がいつまでも続くことになる。

(くそっ、悪魔を倒す決め手がない!)

『落ち着け、ユキマル!』

 不意に頭の中に懐かしい声が響いた。念話テレパシーだった。

(姫様!ご無事でしたか!)

『ちっ、今すぐ拳骨を落としたいところだが、後に取っておこう!それより、ユキマル。無事で良かった!単身、ダゴンと戦っていると聞いた時は・・・もう、会えないかと!・・´・思ったぞ!』

(ご心配おかけしました、マヤ様。マヤ様もご無事のようで安心しました・・・とても)

 しばし、二人は無言で涙を堪えていたが、マヤはそれを吹き飛ばすように激を飛ばした。

『よし、ユキマル!万花爆砕は使えないが、それを応用した技を編み出したぞ!』

(なんとっ!?)

『万花爆砕の広範囲攻撃を目の前の一体だけに集中させるんだ!それで周りに被害を出さずに悪魔を消滅させられる。名付けて、一輪殲滅だ!』

(流石はマヤ様、戦場において新たな技を生み出すとは!承知しました!やってみます!)

 ユキマルは膨大な闘気を解放した。それが結界の役割を果たし、水竜巻は消滅し雨のように地面に落下してゆく。ユキマルの刀が上段に構えられると、白く光輝き、闘気が凝集されてゆく。

「行くぞ、ビオラ!」

 輝く刀が振り下ろされると、万物を滅するエネルギー波が放出された。

「なああー!?」

 マトモに食らったビオラの身体が塵となり消滅してゆく。

「成功だ!悪魔だけを倒す技を身に付けたぞ!」

 周りにいる衛士たちも度肝を抜かれていた。

「これほどの使い手とは・・・」

「そりゃ、我々では抑えきれないわけだ」

「衛士たちよ、まだ終わったわけではないぞ!」

 ユキマルの叱咤に衛士たちも表情を引き締める。

「分かっている!我々は魔物たちを!悪魔はあんたが相手をしてくれ!」

「心得た!」

 そうして、ユキマルが参戦した一角は士気が向上した。


 マヤとビャクヤが参戦しているエリアでは、ようやく軍勢を押し返し始めたところだった。

 甲虫型悪魔のビーダは衛士たちの剣による攻撃を、硬い外骨格で跳ね返していた。

「くそっ、ダメだ!硬過ぎて剣が弾かれる!」

「みんな、離れろ!私が相手をする!」

 マヤの宣言に誰も文句はなく、そそくさとその場を離れた。

「マヤ・カリバー!この俺の身体を切り裂けるか?」

 ビーダは身体を丸め、猛スピードで飛んでくる。マヤは闘気を解放して刀にエネルギーを集中させた。白く輝き始めた刀を上段に構える。そして、振り下ろした。

「一輪殲滅!」

 膨大な闘気が凝集し、ビーダに向けて放出される。すると、剣をも弾く外骨格もバラバラになり、塵となってゆく。

「なああ、にいいー!?」

 断末魔の叫びを残してビーダは消滅した。

「凄まじいな」

「悪魔たちを完全に消滅させるとは」

 衛士たちは称賛と畏怖の念の籠った視線を、マヤに向けていた。

「さあ、悪魔たちは私とビャクヤが受け持つから、みんなは魔物の軍勢を片付けてくれ!」

「お、おう!」

「この戦は勝たねばならない!気合いを入れて行こう!」

 衛士たちはフォーメーションを組んで、押し寄せる魔物たちを押し返し始めた。


「全く・・・規格外ですな。あのマヤやユキマルというやつらは」

 長官室でモニタースクリーンを観ていたジブリールは、肩肘を立て、ため息をついた。

「当然であろう。あれは我らが認めし勇者の卵たちだからな」

 闇より黒い暗黒をまとった、黒いローブを着た冥界の王、ハーディスが、地獄から響くような低音の声を発した。

 そして、対照的に高貴な光に包まれた、三対の翼を持つ大天使アルカンフェルが微笑んでいた。

「人間界になくてはならない人材。ひょっとすると魔王ルキフェルも倒すかもしれません」

 それを聞いてジブリールは、それはいくら何でも無理だろうと思ったが、至高の存在である両輪に反対することはなかった。

(早くこの戦争を終わらせて、さっさと人間界に戻って欲しいものだ)

 ジブリールは無意識に、盛大なため息をついていた。


 攻め込んでくる魔物たちを、一刀の元に斬り伏せてゆくマヤは、正に無双だった。そして、ビャクヤは拡散魔法攻撃で群れを次々と消滅させてゆく。

「姉上!キリがありません!」

 絨毯で飛行しながら魔法を繰り出していたビャクヤは、心底うんざりという声を上げた。

「諦めるな!徐々に他の地区の衛士がR 地区に集結してる。我々は悪魔の討伐に専念するぞ!」

 マヤの言葉通り、駆けつけた衛士たちが背後から悪魔軍に攻撃を始め、軍勢の統率が乱れて混乱状態に陥っていた。

 その時、魔力弾の雨が降って来た。

「ヴァルサイド!」

 ビャクヤの最強結界でその攻撃を凌ぐ。

「あれはモロクか!巨大な鎌を持っているのはエウリオールだな!」

 マヤは結界から飛び出した。

「ビャクヤ!エウリオールは任せた!私はモロクを討伐する!」

「分かりました!」

 闘気を解放したマヤは宙を駆ける。モロクは魔力弾を連発するが、闘気の結界に全て弾かれる。

「食らえ!一輪殲滅!」

 白く輝く刀が振り下ろされ、モロクは魂すらも消滅した。

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤの放った最強攻撃魔法は、巨大なデスサイズを持ったエウリオールを塵に変えた。復活する気配はない。

「よし、また軍勢を倒してゆくぞ!」

 言い終えた時、銃声が響いて、マヤの闘気の結界に火花が散った。

「むっ!?」

「そう、冷たいことを言わず、我々の相手もしてもらおうか」

 マヤの視線の先にいたのはバンパイアのセオと、金色こんじきのアラバスだった。

「アラバス!新しい手品を覚えたのか?」

 金属を自在に操る悪魔、アラバスは片手を銃に変えて、何発も連射してくる。マヤとビャクヤは結界でやり過ごす。

「ビャクヤ!セオは任せた!私はアラバスを相手する!」

「分かりました、姉上!」

 マヤは闘気の結界をまとったまま、宙を駆けてアラバスに迫る。しかし、刀が見えない力であらぬ方向に持っていかれそうになる。

「くっ!そうか、貴様は金属を自在に操る能力を持っていたのだったな!」

 そして、アラバスの身体は液体のように横に広がって、全面に突き出ている複数の銃身から、弾丸が連射される。それは結界によって弾かれるが、ずっと闘気を解放しているマヤは、精神的に疲弊してきた。

「くっ!」

 マヤは精神を集中する。刀が白い光を放ち始める。

「食らえ!一輪殲滅!」

 重くなった刀を持ち上げ、一気に振り下ろした。恐ろしいほどのエネルギー波が正面のアラバスを消滅させた。だが、液体金属化しているアラバスは真ん中が塵となったが、左右に広がっていた部分が残り、合体して巨大な機関銃マシンガンになった。そして、大量の剣が宙に浮き、一斉にマヤに向けて発射された。

 マヤは気合いを入れて闘気を強化した。


 両手を剣に変えたバンパイアのセオは、闇雲に剣撃を繰り出して来る。しかし、ビャクヤの結界で全て無効化される。

「ジャルバローダ!」

 そして、ビャクヤの最強攻撃魔法をセオは身体を霧状にすることで無効化する。互いに決定的な手段のないまま、膠着状態が続いていた。

(あの霧状になるスキルは厄介だな。・・・待てよ?ならば)

 セオの特攻を、絨毯を上昇してかわしたビャクヤは、杖の先をセオに向けて魔法を発動させた。

「炎熱魔法、ラピッドファイア!」

 杖の先から数千度の炎が放射された。セオは身体を上昇させてかわすが、ビャクヤは炎の流れを竜巻のようにうねらせた。

「ファイア・ドラゴン!」

 炎は生き物のように鎌首を上げてセオの身体を飲み込む。

「ギャアアー!」

 霧状になってかわそうとしたセオだが、高温の炎により蒸発して消え去った。

「ふー。やっと倒せたよ」

「お見事です、ビャクヤ様」

 いきなり背後から声をかけられ、飛び上がったが、それがユキマルだと分かると、ビャクヤはその身体に抱きついた。

「ユキマル!無事だったんだね!」

「はい、ご心配をおかけしました。しかし、この通り、コンディションは万全です」

「あ、じゃあユキマルは姉上の加勢に行って!相手はあの金色のアラバスだよ!」

「なんと、あの液体金属のやつですか!?分かりました、参ります!」

 ユキマルは宙を駆けて、殺到する魔物たちを鎧袖一触に蹴散らしてマヤの元に向かった。


 もう何度目の奥義を繰り出したか覚えていない。アラバスは狡猾に自分の身体を細分化して、マヤの繰り出す攻撃を無効化していた。

「ふふふ、決め手に欠けるようだな?」

「それはそちらもだろう、アラバス?」

 拮抗状態が続いており、マヤは精神的に疲労していた。しかし、闘気の結界を崩すことも出来ないので、マヤは禁断の技を使うことにした。

(霊界なら建物の被害などすぐに元に戻せよう)

 覚悟を決めたマヤは二本の刀にエネルギーを注いだ。刀身が白い光を放ち始める。

「消滅するが良い!万花爆砕!」

 広範囲攻撃で分裂したアラバスの身体を、全てまとめて消滅させることに賭けた。あらかたは塵と消えていくが、僅かな量の液体金属がエネルギー波を避けて飛び上がった。

「しまった、逃したか!?」

「マヤ様、ご安心を!」

 突如、現れたユキマルが白く光る刀を振り下ろす。

「一輪殲滅!」

 ユキマルのエネルギー波が、残ったアラバスの欠片を消滅させた。そして、復活の気配が感じられない。どうやら、ようやく倒せたようだ。

 刀を鞘に納めたマヤは、ユキマルのほうを振り向いた。

「どうやら倒せたようですな」

「ユキマル!」

 マヤは宙を駆けてユキマルの胸に飛び込んだ。

「この・・・馬鹿者が!どれだけ・・・心配したか!」

 マヤはユキマルの胸に顔を埋めて涙を流した。

「ご心配をおかけしました、姫様」

 マヤは身体を離すと、ユキマルの頭に拳骨を落とした。

「姫と呼ぶな!・・・ふっ、全く、お前ってやつは!」

 マヤとユキマルは拳をぶつけ合い、笑いあった。

『お前ら!まだ悪魔どもは全部追い返してないぞ!それにマヤ!あれほど使うなと言った技を使いおって!』

 長官のジブリールは激おこのようだが、マヤとユキマルはどこ吹く風だった。

「よし、ユキマル!悪魔軍を片付けるぞ!」

御意ぎょい!」

 二人は刀を抜いて、未だに攻め込もうとする魔物たちの討伐に向かった。


 それから四日間かけて魔物たちを全て討伐した。衛士たちがこぞってやって来て、マヤとビャクヤ、ユキマルに感謝の念を伝えに来た。千名以上いるので細やかな交流は随分と時間がかかってしまった。

 そこに長官のジブリールと副官のフィール。そして、アルとエルがやって来た。

「マヤ!お前というやつは!あれだけ使うなと言ったのに、使いおって!」

 ジブリールは苦々しい顔をしていたが、フィールは俯いて笑いを堪えている。

「「心配は要りません、ジブリール様」」

 R 地区を取り囲んでいる塀の、著しく破損されている場所に向けて、アルとエルは指を鳴らして見せる。すると、逆再生のように塀が元通りになってゆく。

「この通り、元通りになりました。何も問題はありません」

 アルとエルが横ピースでお茶目に報告する。

「そういう問題ではない!大体、こいつらときたら!」

 まだ何事か言おうとしたジブリールだが、冥界の王ハーディスと大天使アルカンフェルが現れて、口をつぐむしかなかった。

「よくやった。霊界の秩序も元に戻った。お前たちに感謝しておこう」

 地獄の底から響いて来るような低音ボイスのハーディスから労いの言葉を賜った。

「そうですね。三人とも、人間界に戻ったら魔族たちを、一体でも多く倒してください」

 その声はハチミツのように甘いが、言っていることは苛烈だ。

「はっ!我々一同、今後も魔族の討伐に尽力すると誓います!」

 ジブリールとフィールだけならともかく、天界と冥界の代表に頼まれ、マヤたちは片膝をついて誓いを立てた。

「さて、それでは人間界に戻すぞ。ついて来い」

 ジブリールは歩き出そうとするが、マヤは立ち上がって手を振った。

「ああ、その必要はありませぬ。この指輪を使えば人間界に戻れますゆえ」

 マヤは薬指に嵌めた指輪を掲げながら、霊界の長官に言ってのけた。

「なっ、何だその指輪は!?まるで人間界に戻る門と同じエネルギーの波動を感じる!?」

「恐らく、ザルカスが魔法で作った指輪ですね。全く、そつがない」

「ザルカスだと!?あのエルフめ!我々の管轄を侵しおって!」

 マヤたちは立ち上がり、三人で手を繋いだ。

「それではこれで失礼します。お騒がせしました」

「ああ、騒がしいこと、この上なかった!さっさと消えろ!」

 ジブリールはそっぽを向いて吐き捨てるように言った。

「次に来るときはちゃんと天寿を全うしてから来るように」

 副官のフィールは笑顔で送り出してくれた。アルやエルも。

 やがて、三人の姿がボヤけ始めた。四十七日におよぶ霊界体験は終わろうとしていた。次に来るのはいつになるだろうか?

 やがて、マヤは気が遠くなり、意識が途絶えた。


 マヤの意識が戻った時、ベッドを背にして座っていることを自覚した。霊界に行く前の状態そのままだ。

「まるで長い夢を見ていた気分だ」

 マヤは立ち上がり、ベッドに横たわるユキマルを見下ろした。その胸に耳を当ててみる。ドクドクと鼓動の音が聞こえた。どうやら無事にやり遂げたようだ。

 マヤはそっと顔を近づけ、ユキマルの唇を自分の口で塞いだ。暖かい。確かに生き返ったのに間違いないようだ。

「んっ・・・」

 ユキマルの口が動いたので、マヤは慌てて上半身を起こした。

「うーん。マヤ様。私たちが体験したのは・・・」

 ユキマルも身体を起こして疑問を口にする。

「ああ、不思議な話だが、私たちは霊界に赴き、そして帰って来たんだ」

「マヤ様、ありがとうございます。あなたたちが来てくれたお陰で、私は生き返ることが出来ました」

「れ、礼なんか要らん!ご、護衛であるお前がいないと、私が困るからな」

「なるほど、そうですね。私は姫様の護衛ですからね」

 そう言うユキマルの頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!って、このやり取りはこれからも続きそうだな」

「違いありません」

 笑い合うマヤとユキマル。その時、ビャクヤが目を覚ました。

「ふわーあ。姉上、何だか夢を見ていた気分です」

「安心しろ。全て本当に経験したことだ。お前のお陰でユキマルが生き返ったぞ」

 マヤがそう告げると、ビャクヤは飛び上がり、ユキマルの身体に抱きついた。

「良かったよー、ユキマル!」

「はい、マヤ様とビャクヤ様のお陰です」

 しばし、三人で霊界での体験談を語り合っていたが、突然、部屋の扉が開かれた。

「おう、魔力を感知したから来てみれば、無事にやり遂げたようだな!」

 聖王国ザルカスの主君、ザルカスが笑みを浮かべていた。

「陛下、ありがとうございました!こうして無事にユキマルを連れ戻しました!」

 三人は片膝をついて、頭を垂れた。

「うむ、しかし、腹が減ったのではないか?何しろ四十七日も経っておるからな」

「言われてみれば・・・」

 マヤたちの腹が鳴っていた。マヤは顔を赤くしてお腹を押さえた。

「はっはっは!食事の用意をしてある。食堂に移動しようではないか!」

 ザルカスの背中を追って、三人は部屋を出た。料理の美味しそうな匂いが漂ってきて、ビャクヤはよだれが垂れていた。

 食堂に辿り着くとすでにテーブルには豪勢な料理が並べられていた。

「ビュッフェ式にしてあるから、好きな料理を好きなだけ食べると良い」

 ザルカスの言葉に、三人は皿を用意して食べたい料理を山盛りにして、ガツガツと食べた。恐ろしい勢いで料理が無くなってゆく。

「はっはっは!良い食いっぷりだ!」

 ザルカスは席に着いて、料理を摘まみながら酒をあおっていた。食堂には樽が持ち込まれ、ワインやビールも呑み放題だった。

「うん。久しぶりの酒は旨い!」

「マヤ様、呑み比べといきますか?」

「良いだろう。お前を潰してやろう!」

 酒と料理を楽しんでいると、ガヤガヤと来客が訪れた。

「ユキマルさん!無事だったんですね!」

「ああ、ユキマル様!本当に良かったです!」

 来客はギルド連邦支部の冒険者たちだった。ジークとデボラはユキマルの身体にすがり、涙を流した。

「ザルカス陛下!これは一体!?」

「ああ、ユキマルは連邦の送別会の途中で災難に遭ったであろう?その者たちは心配で夜も眠れないとのことでな。特別に我が国に招待したのだ」

 ラムダやサザール、ナターシャやガムラもいた。他にも連邦支部の者たちが近寄って来て、すがり付いて泣き出す者もいる。

「よし、ユキマルの快気祝いだ!みんな、酒を持て!」

 マヤの言葉に全員が応じ、酒の入ったカップを持った。

「みんな、心配をかけたようだな。しかし、こうやって生き返ることが出来た!またこうして一緒に酒を酌み交わせることが出来るのは、マヤ様とビャクヤ様、そしてみんなのお陰だ!ありがとう!」

 ユキマルがカップを掲げると、全員が乾杯!っと斉唱し、酒をあおった。後はもうひたすら酒を呑みながら、霊界での体験談に花を咲かせた。

「へー、霊界ってところは料理も食べられるし、酒も呑めるんですね?」

「それに天界にも冥界にも行かず、生まれ変わるのも拒否して、霊界に留まっている者がいるというのも興味深いです!」

 ユキマルを中心にして大きな輪が出来ていた。マヤとビャクヤは少し距離を置き、壁にもたれながら酒を呑み、そんな様子を温かく見守っていた。

 すると、カップを持ったザルカスがやって来て声を掛けてきた。

「今夜の主役はユキマルだな。なかなか人望の厚い男だ」

「はい。何と言っても私の護衛ですから」

「マヤよ。もっと自分の気持ちに素直になって良いのだぞ?」

「何のことでしょう?」

「そなたはあの男を愛しているのではないか?」

 ど直球のストレートに、マヤは顔を赤らめる。

「な、なな、何のことでしょうか!?」

「我々エルフは長命種ゆえ恋愛感情に乏しい。その点、お前たち人間は自由に恋愛が出来る。自分の気持ちを大切にすることだ。いつ失うか分からないのだからな。今回のように」

 マヤはザルカスの言葉の重みを受け取った。そして、晴れ晴れとした笑顔を押し上げてカップを持ち上げた。

「私は旅が好きです。ユキマルとビャクヤを連れて各国を放浪する旅に出るつもりです。再びお会いする時には、キチンとした答えを出せるかもしれません」

「そうか。お前たちは若い。様々な経験をして大きな存在となれ。ワシはいつでも待っておるからな」

 マヤとザルカスはカップをぶつけ合い、酒をあおったのだった。




 








霊界編、最終話でした。五十日の間にユキマルを連れ戻すため、マヤとビャクヤは霊界にやって来たが、魔界から悪魔軍が攻め込んできます。そこで新しい技を生み出し、かつて倒した魔族たちを迎え撃ちます。期限ギリギリになってようやく、ユキマルは人間界に戻れました。ハッピーエンドですが、マヤたちの冒険は続きます。それでは次回作でまたお会いしましょう。

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