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旧支配者、再び

霊界編その3

ユキマルに課せられた試練。それは不死身の化け物、旧支配者のダゴンの討伐だった。

 ユキマルは目を覚ました。頭が柔らかい物の上に乗せられていたが、どうやらエルの太ももだったようだ。

「ここは・・・どこだ?」

 ユキマルは上半身を起こした。辺りを見渡すが荒涼とした砂漠が広がるばかりで、何もない場所だった。

「ここはS 地区。霊界にも魔界にも属さない、太古の邪神を封じておく特別な場所です。普通の霊ならまず来ることはありません」

 エルは淡々と説明する。ユキマルは何故、自分がこの世界に送られたのか、思い出そうとした。

「そうだ!確か、冥界の王ハーディスと大天使アルカンフェルに試練を与えると言われたな」

「ええ、あなたに与えられた試練。それはどこにも属すことが出来ない、古代の邪神を滅ぼすことです」

 エルは淡々とそう述べるが、古代の邪神と言えば・・・。

「旧支配者。かつて世界の大陸や海に存在した異形の神々」

「はい、すでにあそこに控えています」

 エルが指差す先に一人の少年が立っていた。しかし、それが仮の姿であることはユキマルにも分かった。

「私は先にアラハタ村に帰ったので遭遇しなかったが、マヤ様がその討伐に参加したことを後に知った。曰く、不死身の化け物だと」

「はい、あの者の名前はダゴン。ふるき支配者です」

 ユキマルは立ち上がり、刀を抜いた。

「あの伝説の化け物を私一人で倒せと。なるほど、大した試練だ」

 ユキマルの口許は笑みを形作っていたが、ピクピクと痙攣していた。


 R 地区をひとしきり飛び回って、衛士バトラーたちを振り切ったマヤたちは、アルの案内で聖王国ザルカスに似た城にやって来た。

「ここに灰族グレイの有力者がいるのか?」

「はい。恐らく中でお待ちかと」

 人間は死ぬと天界に行くか冥界に行くか、そして再び人間に転生するのか審査するのがここ霊界だ。しかし、そのどれをも拒否して霊界に隠れ住む者たちがいる。そんな連中のことを灰族と呼ぶ。

 アルは先に立って城の扉に向けて歩いてゆく。すると扉が開き、魔導士のローブを着た者が姿を現した。

「ようこそ、マヤ殿とビャクヤ殿ですな。私はエリアルです。さ、中へどうぞ」

 すでにヨシタカが連絡済みだったようで、マヤたちはあっさりと迎え入れられた。

「ご協力感謝します、エリアル殿」

 マヤは拱手して城の中に足を踏み入れた。そして、広大な応接室に通されて、お茶と菓子でもてなされた。

「それでエリアル殿。ユキマルはこちらにお邪魔したのだろうか?」

「ええ。あなたと同様、凄まじい闘気の持ち主でした。悪魔を何体も倒したというのも頷けるほどに」

「それで、ユキマルは今どこに?」

「それなんですが・・・」

 エリアルは言いにくそうに視線を逸らす。

「何ですか?」

 マヤが問いかけると、エリアルはようやく視線を戻した。

「霊界全体を統括するR 地区に向かいました。と言うのも、手違いで霊界にやって来た者を人間界に戻す門が、そこに存在するからです」

「なんと!それではもうユキマルはそこに向かったのですか!?」

「いえ・・・」

 エリアルはお茶を一口飲み、息を吐いて言葉を続けた。

「ユキマル殿は冥界の王ハーディスと、大天使アルカンフェルより試練を与えられました」

「そんな上位の存在が・・・しかし、試練を与えるということは、それを果たしたらユキマルは生き返ることが出来るのですね?」

「そうなんですが、相手が悪い。どこの世界でも受け入れを拒否された者たちが蠢く、S 地区に放り込まれたのですから」

 エリアルは大きなため息をついた。

「それはどこにあるのですか!?すぐに私も駆けつけないと!」

「落ち着いてください。S 地区は古代の邪神たちが放り込まれた世界です」

「古代の邪神!?まさか、それは旧支配者のことですか!?」

 エリアルは重々しく頷いた。

「人間界に居場所を失くした邪神たち。ユキマル殿が討伐しなければならないのは、その中でも最も忌み嫌われた存在、ダゴンなのです」

「!?」

 マヤはショックで固まってしまった。ダゴン。それはエルフの剣聖ラルカス、聖魔導士のアンドレアたちでも苦戦する相手。かつてマヤも戦友と共に討伐に参加した。だが、あの時は英雄パーティーの「殺す左手」を持つ少女がいたから倒せた。マヤは一人では勝てないと痛感した災厄そのものの化け物だ。

 そんな化け物をユキマル一人で?そんなことは不可能だ。

「すぐにでもR 地区に行かなければ!」

 マヤは立ち上がって二本の刀を腰に差した。

「落ち着いてください、マヤ殿。R 地区には霊界全体を統括する長官ジブリールと副官フィールがいます。この二人はすでにあなた方の存在を把握してます。行ったところでユキマル殿のことを教えてくれるとは思えません」

 エリアルも立ち上がり、手をかざしてマヤを制止する。

「しかし、こうしている間にユキマルが消滅するようなことがあれば!」

「落ち着いてください、姉上」

 お菓子を食べることに余念がなかったビャクヤが、顔を上げて発言する。

「僕にはユキマルのオーラが感じ取れます。少なくとも消滅はしていません」

 ビャクヤの杖の先が赤く点滅していた。

「そ、そうか!だが、やはり大人しく待つわけにもいかん。アル、S 地区には行けるか?」

 従者の如く静かに控えていたアルが、ゆっくりと首を横に振った。

「残念ですが、S 地区にワープポータルはありません。私たち案内人ガイドでも案内は出来ません」

 長い髪を縦ロールに巻いた少女は残念そうに告げた。

「何だって!?じゃあダゴンを倒しても帰ることは出来ないではないか!?」

「申し訳ありません」

 アルが頭を下げて謝罪する。

「あ、いや。お前が悪いわけじゃない。すまなかった」

 マヤは慌ててアルの頭を上げさせた。

「それでは、せめてR 地区に行きましょう。アルカンフェル様とハーディス様にお願いすればあるいは・・・」

 アルの提案にエリアルは難色を示した、

「それはどうかな?あちらではすでにマヤ殿たちの存在を確認している。行っても衛士バトラーたちが山ほど待ち受けているだろう」

「後、四十四日しかない。可能性があるなら行くしかない」

「決意は固いようですな」

 エリアルはソファーに座り、茶を一口飲む。

「じゃあ、アル。案内して差し上げろ。このまま待ち続けるのも酷だろう」

「はい。さあ、参りましょう」

 アルは自分の仕事をするため立ち上がった。

 ビャクヤも立ち上がり、杖でユキマルの行方を追う。だが、異世界に等しいS 地区は見つからない。

「それでは、世話になったエリアル殿。これで失礼する」

「ええ、十分に用心してください。長官ジブリールは職務のためなら、どんな手も使う者です」

「ご忠告感謝する」

「あなたに神の加護があるよう祈ってますよ」

 その言葉に押されて、マヤたちは城を後にした。


「貴様もとんだ試練を与えられたものだな。霊界でどんなことをやらかした?」

 やたら目がギラギラしている少年はユキマルを挑発する、

「ふん!お前のような化け物を相手にするくらいだ。察しはつくだろう?」

「ふふふ、まあな」

 少年はゆっくりと歩み寄って来る。エルは翼で羽ばたき空中から観戦する。

「貴様を食らって忌々しい霊界を滅ぼしてやる」

 言下に少年の身体が爆発したように巨大化した。黒くて不定形のアメーバ状のダゴンは、全てを食らって巨大化してゆく化け物だ。

 どうっと黒い波のように殺到してくるダゴン。ユキマルは奥義を繰り出す。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 迫り来る黒いアメーバを次々と刀で削ってゆくが、ダゴンはどんどん巨大化してゆく。

 やがて、周囲は完全に囲まれ逃げ場が無くなった時、ぶわっと広がった黒い壁が覆い被さってくる。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 ユキマルの闘気が膨れ上がり結界を形成する。完全にダゴンに飲み込まれたが、食われるのは逃れた。

「食らえっ!百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 ユキマルの一太刀が百になり、ダゴンの身体がゴッソリと削れた。開けた箇所から脱出し、ユキマルは改めて刀を構えた。

 しかし、吹き飛ばした箇所はすぐに元通りになり、再び波のように襲いかかってくる。

「究極奥義、万花爆砕ばんかばくさい!」

 刀が白く光り輝き、莫大なエネルギーが剣に宿る。そして、大上段から一気に振り下ろした。

 そのエネルギー波は万物を塵に還す。広範囲最強奥義でダゴンも全て塵になったと思ったが、ほんの少し残った残滓からみるみる黒いアメーバが復活してゆく。

「流石に最悪の旧支配者。究極奥義ですら倒せぬか」

 ユキマルは戦慄していた。幸い霊界には霊気が満ちているので、究極奥義を使ってもエネルギー切れにはならないが、ダゴンを相手に一体、何度打ち込めば良いか見当もつかなかった。


 R 地区にワープポータルで移動したマヤは、かなり発展している巨大都市に圧倒されていた。

「あの、一番高い塔が長官ジブリール様のいる所です」

 案内しようとしたアルの足が止まった。塔に至る石畳の通路に衛士バトラーたちが、剣や槍を持ってひしめいていた。

「貴様らが幽体で入り込んだ違反者か!神妙にしろ!」

 いつの間にか背後も衛士たちで固められていた。その数はざっと千人はいそうだ。いくら広い霊界でも、これは流石にやり過ぎだろうと思ったマヤだったが、人間界の常識など通じまい。静かに二本の刀を抜いた。

「アル、斬ってもまた復活するんだよな?」

 ビャクヤの出した絨毯に乗って、宙に浮いている案内人に確認を取る。

「はい。ここは霊界ですから斬られても、また復活します。でも、衛士の武器には気をつけてください。侵入した悪魔を追い返すのに使われる特別な武器です。斬られたら魂まで消滅するかもしれません」

「それは緊張感があって、良い修練になりそうだ!」

 マヤは正面から真っ向勝負に出た。

「百花爆裂!」

 衛士たちがゴッソリと削られて吹っ飛ぶ。背後に殺到した衛士はビャクヤが受け持つ。

「ドライドルーバ!」

 ビャクヤの杖の先に魔方陣が現れ、拡散魔法攻撃が衛士たちを吹き飛ばす。霊界では滅多に起きないいくさが始まった。


 すでに十四日が過ぎた。寝る必要のない霊体だから可能なことだが、その間ユキマルとダゴンの戦いは熾烈を極めていた。殺しては生き返る。その悪夢を何度繰り返したか。

 身体的な疲労はなくとも、精神的には疲弊していた。

「くそっ!どうすればダゴンを倒せる!?」

 霊体であるため空中を歩くことが可能だ。湖のように広がった黒いアメーバから身を守るため、空中に留まっている。

「分かりません。過去、何人かの剣士や魔法使いがこの試練に挑みましたが、全員破れました」

 と、エルはあまり聞きたくなかった情報を漏らす。

「万花爆砕で死滅させることは出来るが、やつは離れた場所に自分の一部を隠し、また復活してしまう。一度の攻撃でやつの全ての細胞を破壊しない限り、堂々巡りだ」

 ひゅんっと伸びてきた触手を百花爆裂で粉々にする。

「それでは、360度、ぐるりとエネルギー波を回転させてはどうでしょう?」

 エルの何気ない提案だったが、ユキマルは真剣に考え込んだ。

(万花爆砕を振り下ろし、そのままぐるりと回転して、隠れているやつの細胞を徹底的に破壊し尽くす。なるほど、最早そんな手しか思い付かないな。だが試す価値はある)

「よし!行くぞ、ダゴン!」

 ユキマルは闘気を解放し周りに結界を張り、ダゴンの目の前に着地した。途端に黒い波が周りを包み込むようにして殺到する。ユキマルの刀が白く光輝く。そして、大上段から一気に振り下ろした。

「万花爆砕!」

 強烈なエネルギー波が正面のダゴンの身体を塵にする。そしてそのまま、刀を横に切り裂いてゆく。

(むうっ、エネルギーが尽きそうだ!)

 その時、首から下げたロザリオが光を放った。大天使アルカンフェルから贈られたものだ。すると、自身の中にエネルギーが湧いてくるのを感じた。

(正に神の加護だ!)

 ユキマルはエネルギーを放出しながら、ぐるりと自分を中心にして360度エネルギー波を回転させた。案の定、ダゴンは自分の細胞を周りに隠していた。それを全て根こそぎ消滅させてゆく。

「あああー!止めろー!」

 ダゴンの断末魔の叫びが聞こえた。そして、ユキマルは最後までエネルギー波を保って、刀を振り抜いた。そして、膝をつく。

「やったか?」

 ユキマルは周辺を魔力探知で探った。だが、最早ダゴンの気配は感じない。すると、宙からエルが降りてきて拍手をする。

「お疲れ様でした、ユキマル様。無事に試練を成し遂げました。魂を人間界に戻すため、R 地区にてリフレッシュセンターで静養していただきます。後はお任せください」

「リフレッシュセンター?なんだ、それ、は?」

 刀を鞘に納めた途端、ユキマルはまたもや強烈な睡魔に襲われた。


 さらに十四日が過ぎた。マヤは殺到する衛士たちを薙ぎ倒し、ビャクヤは魔法攻撃で集団をまとめて倒してゆく。

「くそっ!一向に塔に近づけないな!」

「姉上!かくなる上は絨毯で一気に塔の最上階を目指しましょう!」

 ビャクヤの呼び掛けに応じ、マヤは宙を駆けて絨毯の上に飛び乗った。

「行きます!」

 絨毯は最高速で塔に向かう。衛士たちは背中の翼をはためかせて、後を追ってくる。

 その時、あらぬ方向から攻撃がやって来た。悪魔たちだ。モロクに甲虫型のビーダ、バンパイアのセオだ。衛士たちがマヤに集中していたため、警備が手薄になっていたようだ。

 飛んでくる魔力弾を刀で弾き、マヤは両手の刀を振るった。

千里一刀せんりいっとう!」

 宙を飛んでゆく斬撃がモロクの首を跳ね、ビーダの硬い外骨格で防がれた。バンパイアのセオは両手を剣に変形させて宙を飛んでくる。

「カリバー!消滅させてやる!」

 激しい剣撃が襲って来るが、その全てを煙幕になって受け流す。

「おのれ!」

 マヤの姿はすでにセオの背後にあった。

影縫死斬かげぬいしざん!」

「はっ!?」

 セオの首を跳ねて、マヤは絨毯に戻った。ビーダが羽を羽ばたかせて追撃してくる。絨毯は塔に激突する寸前で急激に上昇に転じた。ビーダは対応出来ず塔に激突した。後は衛士が片付けるだろう。

 高い塔に沿って上昇していたマヤたちに、次々と矢が飛んでくる。衛士たちが弓を引き絞っている。

「ビャクヤ!結界を!」

「はい!ヴァルサイド!」

 ビャクヤは最強結界を張った。矢は全て弾かれ、追い付いた衛士たちの剣や槍の攻撃を無効化する。

「百花爆裂!」

 追随していた衛士たちをまとめて吹っ飛ばして、絨毯はさらに上昇する。

 そして、塔の最上階に至るとその壁を、

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤの最強攻撃魔法で塔の壁が破壊された。ようやく最上階に到着し、マヤとビャクヤ、アルは廊下を歩いてゆく。

 すると、若いが老獪そうな男と、髪をシニョンにまとめた理知的な女が待ち受けていた。

「お前たち!よくぞ好き勝手に暴れてくれたな!だが、ここまでだ!」

 男のほうが口角泡を飛ばす勢いで吠えたてた。

「ひょっとして長官のジブリール殿と副官のフィール殿だろうか?」

「ああ、そうだ。随分と暴れてくれたな。このままでは、お前たちも人間界で死ぬことになるぞ」

 副官のフィールは落ち着いた口調で警告を発する。

 マヤは二本の刀を床に置き、跪いて見せた。

「・・・なんの真似だ?」

 ジブリールは訝しげに顔を歪める。

「無茶を承知でお願いする!ユキマルを生き返らせて欲しい!そのためならどんな罰でも受ける所存だ!」

 ビャクヤと、ついでにアルも何故か跪いている。

「なかなか、殊勝な心がけだが、霊界で暴れた罪は重いぞ!よーし、お前たちは・・・」

 言いかけたところで、監視員モニターの一人が慌てた様子でやって来た。

「た、大変です!長官!」

「どうした?今は忙しい、後にしろ!」

 にべもなく追い返そうとするジブリールだが、監視員は引く様子はなかった。

「あ、悪魔です!悪魔が大量に現れました!」

「悪魔だと?それがどうした!衛士たちに処理させろ!」

「そ、それが、幹部クラスが数人!ゴブリン、オーガ、オーク、コボルトの軍勢が約一万人、押し寄せて来ています!」

「一万だと!?」

「長官。衛士たちはマヤとビャクヤによって疲弊させられてます。すぐに他の地区から応援を呼んだとしても、苦戦は免れません」

「悪魔たちめ!何をとち狂った!?霊界で戦争を始める気か!」

 その時、二人の背後に闇と光が近づいてきた。

「その者たちに与える罰。その悪魔軍団の討伐にすれば良い」

 地獄の底から響くような声は黒いローブを着た人物だ。フードに隠れて顔は見えない。

「そうですね。ユキマルももうすぐ目を覚ましますから、三人に討伐を依頼しましょう」

「アルカンフェル様!ハーディス様!それは!疲弊した衛士たちと、この三人だけで一万の軍勢を倒せと言われるのですか!?」

 マヤはとんでもないエネルギーが放出されているのを感じ、この二人が大天使アルカンフェルと冥界の王ハーディスと悟った。

「どうか大天使様と冥界の王様に伏してお願いします。ユキマルを・・・」

 マヤが言いかけるのを、アルカンフェルが遮った。

「心配はありません。ユキマルは無事に試練を果たし、魂を人間界に戻すため、静養しています」

「それは真ですか!?」

「ええ、戻って来たら討伐に参加してもらいましょう。それまではあなたたちに悪魔の討伐をお願いします」

「霊界でも希に見る戦争となりそうだ。最後までやり遂げると誓うか?」

 ハーディスの低い声にマヤは頭を垂れて誓う。

「はっ!必ずや悪魔たちを一掃してご覧に入れます!」

「アルカンフェル様!ハーディス様!そんな罰でよろしいのですか!?この者たちは霊界の秩序を著しく乱しました!」

「その責を負うのは長官であるお前であろう、ジブリール?」

「うっ、そ、それは!」

「それに、一万の大群は衛士たちだけでは防ぎきれませんよ?ジブリール」

 穏やかな顔のアルカンフェルであるが、そこには反論を許さない、苛烈さがあった。

「分かりました。では衛士たちにはマヤ一行を無害認定させ、悪魔討伐に向かわせます」

 アルカンフェルに深く礼をして、ジブリールは振り向いた。その目には明らかな不満の色が浮かんでいるが、天界と冥界の守護者の指示に背くことは出来ないのだろう。

「では、マヤとビャクヤ!お前たちには悪魔の軍勢の討伐を命じる!それを果たしたらすぐに人間界に戻れ!良いな?」

「承知しました。それでは早速、出動します!」

 ビャクヤが絨毯を出すと、アルも乗り込んで来た。

「おいおい、アル。もうお前の案内は必要ないぞ?」

 腰に刀を差しながらマヤはそう諭した。だが、アルは降りようとしない。

「ここまで付き合って来たのです。今さら降りろなんて言わないでくださいね」

 自らの縦ロールの髪を弄りながら、アルはウインクをする。

「やれやれ、物好きなやつだ。仕方ない、勝手にしろ」

 マヤは肩を竦めて絨毯の上に座った。

「それでは行きます!」

 ビャクヤの掛け声で絨毯は浮き上がり、矢のように飛んでいった。


「しかし、アルカンフェル様、ハーディス様。何故、あの三人を特別扱いなさるのですか?」

 三人が去った後、ジブリールは理解不能とばかりに、両腕を広げた。

「使命を持って人間界に送り込まれる者たちがいます。魔王ルキフェルの系譜に連なる幹部たちは、人間を絶滅させるつもりなのです。それを食い止めるのが英雄や勇者と呼ばれる、特別な存在なのです」

「ふっ、ルキフェルは人間を滅ぼすつもりはないようだが、その配下たちはその限りではない。だからこそ、マヤ・カリバーのような存在が必要なのだ」

 ハーディスは重々しく言葉を紡ぐ。

 ジブリールには理解不能だが、至高の存在が言うなら逆らうことなど出来はしない。

「分かりました。管制室にはマヤとビャクヤ、ユキマルに協力するよう、指示を出しておきます」

「私も行きます!」

 ジブリールとフィールは管制室に向かいながら、複雑な心境を持て余していた。何はともあれ、あの三人には早く霊界から出ていってもらいたい。だから、霊界でこの度起きた戦争は早急に終わらせなければならない。ジブリールは臍を噛む心地を味わった。


 ユキマルが再び目を覚ました時、フカフカのベッドに寝かされ、エルが側に控えているのが分かった。

「あ、お目覚めになりましたか、ユキマル様」

 エルはベッド脇の椅子に腰掛けていたが、ユキマルが目を覚ますと、テーブルからカップを取り上げ、ユキマルに手渡す。その中身で喉を潤すと意識が明確になった。

「ここは一体どこなんだ?」

「魂や霊体、幽体に傷を負った者が収容される静養所です」

 ユキマルが最後に覚えているのは、S 地区でダゴンを倒したことだけだった。

「はい、無事に試練を果たされたユキマル様は、ここで魂を人間界に戻す処置を受けていたのですよ」

「全く記憶にないんだが」

「ええ。全ての処置はユキマル様が寝ている間に行われましたから。十四日かけて」

 それを聞いてユキマルは、勢い良く上半身を起こした。

「十四日だと!?エリアル殿に聞いた!霊は五十日経つと天界か冥界か、また人間として転生すると!急いで戻らねば!」

 ユキマルはベッドから滑り降り、壁に立て掛けていた刀を腰に差した。

「大丈夫、まだ八日残ってます。それより、お知らせがあります」

「何だ?」

「ユキマル様を生き返らせるため、マヤ様とビャクヤ様が霊界に来ております」

「何だと!?」

 寝耳に水で、ユキマルは思わずエルの肩を掴んだ。

「それは真か!?」

「はい。実はその情報は秘匿されていました。ユキマル様を審査する必要があったので、あえて教えませんでした」

「そ、それで!マヤ様とビャクヤ様は無事なのか!」

「はい、今のところは」

「今のところは、とはどういう意味だ?」

「現在、R 地区に悪魔の軍勢、一万人が攻め込み、衛士たちと一緒にマヤ様とビャクヤ様も戦っておられます」

「悪魔の軍勢だと!?」

「はい。ユキマル様が目覚めたら、その討伐に参加させるようにと、大天使アルカンフェル様と冥界の王ハーディス様から仰せつかっております」

 ユキマルは無意識に首に下げられたロザリオを掴んでいた。

「よし、すぐに向かおう!エル、案内を頼む!」

「分かりました。こちらです」

 エルは先に立って部屋から出る。どこもかしこも真っ白で療養所のような建物だ。

「R 地区は広いのであちこちにワープポータルがあります。これからすぐに戦場に行くことになりますが、心の準備はよろしいですか?」

「元より私は武人だ。戦うことに意義を見いだすサムライだ。余計な心配は不要だ」

「分かりました。それでは行きます!」

 ワープポータルに乗った二人の姿が消える。そして、霊界史上、未曾有の戦争が佳境を向かえていた。


霊界編その3でした。本当はもう少し引っ張っても良かったのですが、次回で霊界編は終了です。試練を無事にやり遂げたユキマル。つかの間の眠りについた後、マヤとビャクヤが大天使と冥界の王と対面する。霊界を騒がした罪に対する罰は、押し寄せる一万の悪魔の軍勢の討伐だった。タイムリミットが迫る中、果たして戦況の行方は?マヤとユキマルは再会出来るのか?また次回でお会いしましょう。

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