冥界の王と大天使
霊界編その2
霊界をさ迷うユキマル。その後を追ってきたマヤとビャクヤは死んだ祖父の霊に出会い、宴が催される。
Z 地区には巨大な城が威容を誇っており、街を歩いている者は誰もが強い魔力を秘めていた。
「聖王国ザルカスに似てるな」
ユキマルは賑やかな街並みを見て思わず呟いた。
「それでは、私は戻らせて頂きます、御免!」
GI-438はワープポートでJ 地区に戻った。
「おっと、困ったな。この広い街でどうやって情報を得るか」
「私がご案内します」
背後から声をかけられ、ユキマルは抜刀して振り向いた。
そこにはツインテールの少女が立っていた。
「驚かせてスミマセン。私はEL-347です。気軽にエルとお呼びください」
「ああ、この街の案内人か。なら聞きたいのだが、この街で一番の魔法使いはどこにいる?」
「霊界では魔法や武器の使用は禁止されています」
「なに!?、参ったな。人間界に戻る方法を教えてもらおうと思ったのだが」
「と言うのは建前で」
少女は人差し指を立てて片目を瞑った。
「お客様は灰族の存在をご存知ですか?」
「ああ、J 地区のさるお方に教えて頂いた」
「では、話が早いですね。さあ、こちらへ。Z 地区の灰族の有力者のところへ案内いたします」
エルはそう言うと、先に立って歩きだした。
「一つ聞いて良いか?」
「なんでしょう?」
「衛士の連中は規規則違反にうるさそうだったが、案内人である、あんたたちは何で違反者に協力的なんだ?」
すると、エルは振り向いて悪戯な笑みを浮かべた。
「私たちも元は霊界に来た者なんです。時々選別されて衛士や案内人、監視員の仕事を任されますが、衛士に選ばれた人は生前も衛兵や警備兵だった人が多いので、規則にうるさいのです。でも、私たち案内人は元魔法使いだった者が多いので、どちらかと言うと灰族の人たちに同情的な者が多いのです」
「ふーん、そういうものか。まあ、味方してくれるなら有り難い」
エルは街の中央にある城に向かっているようだ。
「やはり、組織でも上位にある者が城に住んでるのか?」
「王を勤めているのは監視員ですが、宮廷魔法使いは灰族の指導者です」
エルがそう言ったところで、背中に翼を持った衛士たちが地上に降りて来た。
「おい、そこの者!霊界で武器を持つことは許されてないぞ!」
五人の衛士がユキマルの前に立ち塞がる。
「武器ならお前たちも持っているじゃないか?」
ユキマルは肩を竦めて両手を広げた。
「我々は悪魔が来た時に排除するために、特別に武器を持つことが許されている!」
「おい、エル。ここで斬られた者は死ぬのか?」
「いえ、霊体ですから、一時的に仮死状態になるだけで、すぐ復活します」
「それを聞いて安心した」
ユキマルはゆっくりと刀を抜いた。
「貴様、抵抗する気か!?」
衛士たちも剣を抜き、槍を構える。
「悪いが私は霊界に留まる気はない」
衛士たちが殺到してくるが、ユキマルはいきなり奥義を繰り出した。
「百花爆裂!」
一の剣撃が百の剣撃となり、衛士たちはバラバラに吹っ飛ばされた。
「わあお。お客様はかなりの腕前ですね」
エルは感嘆の声を上げた。ユキマルは刀を鞘に納めて息をつく。
「さて、また衛士に見つかる前に案内をしてくれ、エル」
「分かりました、こちらです!」
エルの後に従って歩いてゆくと、やはり城の中に入るようだ。城門を抜けて城の巨大な扉の前に立つ。すると、扉が自動的に開いてゆく。
「お待ちしておりました、剣士殿」
そこには魔導士のローブを着た金髪の男が、杖を突いて佇んでいた。
「この魔力量。あんたは宮廷魔法使いか?」
「如何にも。歓迎させてもらいますぞ、ユキマル殿」
「ん?何故私の名前を?」
「J 地区のヨシタカ殿から連絡をもらっていたのです。私は魔導士のエリアル。さあ、どうぞ中へ。衛士の目がありますからな」
「それではお邪魔する」
エリアルは城の中の応接間に案内した。修練場並みに広い部屋だった。ソファーに三人が座ると、メイドたちがお茶と菓子を運んできた。退出するメイドたちを眺めながらユキマルは疑問を口にする。
「あのメイドたちも案内人なのか?」
「いいえ、お客様を接待するために霊界で仕事をしている者たちです。そういう者たちもいないと霊界も回りませんからね」
「さて、ユキマル殿。J 地区のヨシタカ殿から伺ったが、生き返りたいそうですな?」
「ええ、私はお慕いしている方を護衛しなければならない。それで人間界に戻る方法を探しているのです」
「ふうむ。魔法使いが好奇心で幽体だけで霊界に来ることもありますが、あれはあくまで魂を人間界に置いたまま来ているのです。しかし、あなたは魂もこちらに来てしまっている。そうなると、かなり厳しいですな」
「やはり、そうですか・・・」
「しかし、全く手がないわけではない。魔界から時々悪魔が来るように、人間界に戻る門も存在します」
「真ですか?して、その門はいったいどこに?」
「それが、困ったことに霊界の管理省庁があるR 地区にあるのです。それこそ、間違えて死んでしまった者を人間界に帰すために存在する門なのです」
エリアルは菓子をつまみ、お茶を飲む。ユキマルも試しに食べてみる。実に美味しいクッキーだった。お茶も香ばしくここが霊界であることを忘れそうになる。
「美味しいでしょう?本来、霊である私たちは食事の必要などないのですが、これが理由で霊界に留まっている者も多い」
「ふむ、確かに旨い。しかし、私はそれでも生き返らなければならない」
ユキマルは腕を組んで唸る。生き返るのはかなり骨が折れそうだが、数多の修羅場を潜って来たユキマルにとって、困難であればあるほど、やる気をかきたてられるというものだ。
「失礼します」
そこに執事風の男がやって来て、エリアルに何事か囁いた。
「悪魔が現れたそうです。狙いはどうやらあなたのようです」
エリアルの言葉を聞いて、ユキマルは立ち上がった。
宴は三日三晩続いた。霊界では睡眠の必要がないので、本当に夜通しの宴が続いている。
「それ、マヤよ。この料理は旨いぞ。食べるが良い!」
ヨシタカは終始ご満悦で、浴びるように酒を呑んでいた。幽体だからか、いくら呑んでもほろ酔いくらいにしか効かない。
芸者たちの舞や様々な大道芸が披露されるが、流石に三日も経つと飽きてきた。
「姉上、そろそろお暇しましょうか?」
ビャクヤも流石にこのままでは埒が明かないと思っているようだ。
「お祖父様。私たちはそろそろ行かねばなりません」
「なんと!マヤよ、そうつれないことを言うな。滅多に会えぬのだぞ?もう少し良いではないか」
「私たちは死んだユキマルを生き返らせるために来ました。その本来の目的を果たさねばなりません」
「ううむ、あの遠縁の男がそんなに大事なのか?」
「ユキマルとは乳兄弟です。幼い頃から側にいた、かけがえのない存在なのです」
「惚れておるのか、あの男に?」
そう問われてマヤの顔は真っ赤になった。
「ほ、惚れた腫れたの浮わついたものではありません!ユキマルは私の護衛です!これからもいてもらわねば困るのです!」
「そちの言っておることは建前であろう?死んだのに生き返らせるために霊界に来るなど、惚れている以外にどんな理由があるというのだ?」
マヤの顔はこれ以上ないほど真っ赤になり、頭から水蒸気が上っていた。
「お祖父様、あまり姉上を困らせないでください!残りは四十六日しかありません。広い霊界の中でユキマルを探さねばなりませんので、急がなければならないのです!」
ビャクヤはヨシタカの前に座り、頭を下げた。
「ふうむ。面を上げよビャクヤ。どうやら困らせてしまったようだな」
ビャクヤが顔を上げると、ヨシタカはキチンと正座をして、孫たちの顔を見比べていた。
「あの男、ユキマルはZ 地区へ行った。生き返る方法を求めて魔法使いが多い街に行ったのだ」
「教えてくださり、ありがとうございます!」
マヤも正座をして頭を下げた。
「名残惜しいが仕方ないのう。次はそちたちが死ぬ時まで会えぬのだな」
非常に縁起でもないことを言われるが、寂しさゆえということで、マヤはその台詞を受け流す。
「それでは、お祖父様。ご厄介になりました。いつかまた会う日までご健勝を祈ります」
「うむ、ジイ。案内してやれ」
「それには及びません。私がワープポートまでご案内します」
案内人のアルがそう進言する。
「そうか、ではマヤ、ビャクヤ。無事に連れ帰れたら良いのう」
「はい。それではお祖父様。お達者で」
マヤとビャクヤは宴席から抜け出し、城内にあるワープポート目指して歩いてゆく。
「霊界に居続けるということは、いつの日かまた会えるかもしれませんね、姉上」
「それが良いことかどうかはともかく、そうだな。またお会いしたいものだ」
アルを先頭に歩いてゆくと大きな丸い石畳が見えてきた。
戦闘は熾烈を極めた。何しろ首を跳ねても平気で生き返ってくるので、キリがない。
「おい、確かハアゲンティとか言ったな?お前は自分の世界でしか強くないんじゃなかったのか?」
「はっはっは!身体はハアゲンティだが、中身は俺様、ガアプだ!」
「ちっ、魔剣ガアプか。手強いわけだ」
背後の気配を感じ、ユキマルは振り向き様に剣を振るった。巨大なシャルマンテの花が切り裂かれて、花びらを散らす。
「お前は確かフォラスと言ったか?相変わらず趣味の悪い魔法を使う」
黒いドレスを着た女が薄く笑う。
「ふふふ、こんなに早く報復の機会が来るとはね。あんたは必ずシャルマンテの養分にしてやる!」
そこに魔法攻撃が飛んできた。巨大な花がバラバラに吹き飛ぶ。エリアルが杖を手に割り込んで来た。
「ユキマル殿!早くR 地区まで!こやつらは私が引き受ける!」
「エリアル殿、大丈夫か?」
「なあに、すぐに衛士がやって来る。それまで時間稼ぎをするだけだ!」
「分かった!それではサラバだ!エリアル殿!」
ユキマルはエルの身体を小脇に抱えて走った。ワープポート目掛けてひた走るが、その前に待ち受ける者がいた。
「ユキマル!逃さぬぞ!」
それは暗黒のクロウズだった。大量のカラスが集合して剣のようになり、一直線に飛んでくる。
ユキマルはエルを放して刀を抜いた。
「百花爆裂!」
巨大なカラスの剣はバラバラになって四散した。クロウズは背中の翼から羽毛針を飛ばしたが、すでにユキマルは背後を取っていた。
「影縫死斬!」
「はっ!?」
斬り飛ばされたクロウズの首が飛ぶ。だがまた復活するだろう。
「エル!早くR 地区へ案内してくれ!」
「分かりました!」
エルの背中から白い翼が生えてユキマルの身体を抱える。
「うっ、重いです!高度が取れません!」
ユキマルたちは地上すれすれを飛んでゆく。やがて、ワープポートが見えてきた。
しかし、その前に立ちはだかる者がいた。ハアゲンティの身体を操る魔剣ガアプだ。
「逃がさんぞ!」
「エル、手を放せ!」
ユキマルはガアプ目掛けて突っ込んでゆく。激しい剣撃が繰り出されるが、ユキマルは闘気を解放して、全ての攻撃を無効化した。
「裏奥義、明鏡反水!」
他の悪魔たちが攻撃してくるが、闘気が結界となり攻撃は届かない。やがて刀が光を放ち始める。
「食らえ!万花爆砕!」
ハアゲンティの身体と魔剣ガアプは塵となって消滅した。そして、復活する気配を見せない。やはり、闘気による攻撃は有効なようだ。しかも、霊体だからか、疲労もしていない。
「よし、エル!行くぞ!」
ワープポートに辿り着いた二人はR 地区に向けてワープした。
R 地区のワープポータルに到着した。今まで見てきたどの街よりも人が多そうだが、賑やかではない。皆、忙しそうに歩いているが話している者は皆無だ。
「何だか静かな街だな」
「はい。ここは一般の霊が立ち入る場所ではありません。広大な霊界全体を管理、維持するための街なんです」
「それで、人間界に戻れる門はどこにあるんだ?」
「それがですね・・・あの中央にある塔は見えますか?」
「ああ、人間界ではお目にかかれない高い塔だな」
「あそこにおられる最高責任者である、長官ジブリール様がその門の在りかをご存知です。門の鍵は副官のフィール様が持っていらっしゃいます」
それを聞いてユキマルは顔を歪めた。
「その二人以外は誰も門の在りかを知らないのか!?」
「はい、残念ながら」
エルは申し訳なさそうに頭を下げた。
「仕方ない。ここまで来たんだ。直談判しに行くしかあるまい」
「待ってください、お客様!そんなの前代未聞ですよ!」
「だったら、私が最初の一人となろう」
ユキマルは塔に向かって歩きだした。その後にエルが続く。
「エル、もう案内は良いぞ。自分の持ち場に戻れ」
「いえ、ここまで来れば最後までお付き合いします。お客様の悲願を叶えるために」
「危険な目に会うかもしれんぞ?」
「霊体ですから、死んでもまた生き返ります。ご心配には及びません」
「そうか。なら付き合ってもらおう。覚悟はいいな、エル」
ツインテールの少女はこくりと頷いた。
Z 地区に辿り着いたマヤたちは、騒然としている現場に出くわした。
「どうやら、悪魔がやって来たようですね。衛士に追い返されたようですが、随分派手に暴れた者がいるようです」
アルは現状把握に努めているが、建物の一つがゴッソリと吹き飛んでいる。
「これはユキマルだな。百花爆裂、いや、万花爆砕かもしれない。その余波で建物が削られたようだ」
「あなた方が探しているのは、とんでもなく強いお方のようですね」
アルが建物に向けてパチンと指を鳴らすと、瞬く間に修復されてしまった。
「霊界は思いが現実化する世界です。特に案内人である私たちはその能力を、大幅に付与されています」
「さて、このZ 地区で、どこを探せば良いんだ?」
「まずは灰族の有力者のところに行きましょう」
アルが先に立って歩きだした。マヤとビャクヤはその後をついてゆくしかない。すると、濃厚な魔力を感知した。
「姉上!」
ビャクヤは杖を構える。
「うむ、また悪魔がやって来たようだな」
こちらに向けて全力疾走する者がいる。その姿が大きく膨れ上がり、ハーフドラゴンになった。
「ブエルか!?」
マヤは二本の刀を抜いた。ブエルは口を開け、火炎を吐いた。
「アイシングラート!」
ビャクヤが氷結魔法で炎を凍らせる。
「煙幕のカリバー!これを食らえ!」
ブエルは丸まり、背中の鱗を四方八方に飛ばした。鉄より硬い鱗が到達する前に、
「エアシェルト!」
ビャクヤが広範囲最強結界で、自分たちを含めて街を守る。
マヤは空中を駆け上がった。
「あ、姉上!まだ飛行魔法は掛けてないのに!?」
「ははは!幽体だから空中を歩くことも出来るようだぞ!」
マヤはブエルと対峙する。
「おのれ!カリバー!殺しても飽き足りないやつだ!」
ブエルは再び炎を吐くが、マヤの周りに闘気が膨れ上がって炎は届かない。
「裏奥義、明鏡反水!」
マヤの周りに漏れだした闘気が、結界の役割を果たしている。
「行くぞ!」
マヤは空中を駆けてブエルに肉薄する。
「万花爆砕!」
二本の刀が光を放ち、振り下ろされる。闘気の奔流がブエルの全身を包み塵に変えてゆく。そして、復活する気配がない。やはり、闘気による攻撃は通用するようだ。
「む?、この技を使うと疲労するはずだが?」
背中に翼を生やしたアルが近づいてくる。
「ここは霊界ですから、幽体も疲労することはありません」
「そうなのか?ふむ、これが人間界で再現出来たら良いのだが」
「それより、衛士たちがやって来ました。早くこの場を去りましょう!」
「うむ、悪魔以外はなるべく斬りたくはないな」
マヤは空中を駆けて、ビャクヤが乗っている絨毯に転がり込んだ。アルもついでに乗り込んでくる。
「ビャクヤ!高度を下げて街中を飛ぶんだ、衛士を撹乱しよう」
「分かりました、姉上!」
絨毯は高度を下げて街の建物の中を、縦横無尽に駆け巡った。
ユキマルは刀をエルに預けた。それを体内にするんと飲み込んで、少女は塔の入り口の前に立った。
「スミマセン、R 地区にいる個体について、ご報告したいことがあります」
エルの言葉に、入り口を守る衛士が怪訝な表情を浮かべる。
「R 地区だと?どれ」
衛士は水晶の端末を取り出し、何事か操作している。
「なんだ、これは!?いつもより悪魔が大量に入り込んでるな!」
「はい。この方に滅ぼされた悪魔たちが報復に来たようなのです。どう対処すべきか、上の判断を仰ぎたくて来ました」
「ふむ、なるほどな。通って良いぞ」
「ありがとうございます」
衛士の好奇の視線を無視して、ユキマルは塔の中に入ることに成功した。
「策士だな。まあ悪魔たちと戦闘していたのは事実だが」
ユキマルは感心してエルとハイタッチを交わす。
「実際に悪魔と戦ってますからね。信憑性の高いウソです」
エルはぱちりとウインクを決める。そして塔の奥にある綺羅々かな場所に立つ。
「驚かないでくださいね」
「うん?驚くって何を・・・うおっ!」
突然、床が上昇を始めて、その妙な感覚にユキマルは驚きの声を出した。
「塔の最上階まで運んでくれます。階段を上るとなると時間がかかりますからね」
「・・・なるほど。流石は霊界。最先端の技術が使われているのか」
ユキマルは背を伸ばし、これくらい何でもないことをアピールする。
やがて、最上階に到着し、エルが先導する形で廊下を歩いてゆく。やがて、大きな鉄製の扉の前で歩を止めてノックをする。
「入れ」
許可が出たのでエルは扉を開いて入室した。ユキマルは素早く部屋の中を見渡した。巨大な水晶スクリーンが壁の一角にズラリと並んでいる。どうやら霊界の各地区の監視を行っているようだ。沢山並んだ机には、監視員たちがそれぞれの水晶スクリーンを見て作業をしている。
「お前はEL-347か。用件はなんだ?」
髪をシニョンにまとめた、いかにも優秀そうな女性が声を掛けてきた。
「フィール様。Z 地区に悪魔が現れたことはご存知ですか?」
「当然だ。衛士たちが追い払ったようだが、それがどうかしたのか?」
「いえ、その悪魔たちはさる人物が目当てで現れたようなんです」
フィールがちらりとユキマルに視線を走らせる。
「つまり、人間界で滅ぼされた連中が、報復のためにやって来たということか?」
「はい。是非ともこちらのお客様、ユキマル様のお話を聞いて頂くため、やって参りました」
フィールは訝しげにユキマルに視線を送ってくる。
「貴殿を狙って悪魔たちが襲撃をかけたということだが、相違ないか?」
「ええ。出来れば長官殿もご一緒に話を聞いて頂きたいのですが」
「長官だと!?一人の霊のためにジブリール様の手を煩わせるわけにいかん」
「私は剣士として多くの魔族を屠って来ました。私がこの霊界にいる間に、その悪魔たちは執拗にやって来るでしょう」
「ちょっと待て!おい、ユキマルのプロフィールを出せ!」
フィールは手近にいる部下に命じた。そして、ユキマルに関する情報を確認すると、再び鋭い視線を送ってきた。
「人間界で多くの魔族を倒したのは本当のようだな。だが、それがなんだ?悪魔たちが来ても衛士たちが追い払う。問題はない!」
ユキマルはエルから刀を返してもらい、抜刀した。
「何をする!?」
辺りが騒然とした。ユキマルは刀の刃をフィールの首に押し当てた。
「無駄なことは止めろ。霊体である私を殺してもすぐに復活する」
「普通ならそうだろう。だが私は霊体も魂も消滅させる術を持っている。先ほど一体の悪魔を消滅させたばかりだ」
すると、他の監視員からも報告があった。
「その者が言ってることは事実のようです!悪魔が完全に消滅した模様がスクリーンに出ます!」
ユキマルの万花爆砕で悪魔が塵となり、復活しない様子が映し出された。
「ということだ。長官のジブリール殿に会いたい。あなたにも同行してもらう」
フィールはしばらく無言だったが、目を閉じて息を吐いた。
「分かった。長官に会ってもらおう。しかし、刀は納めてくれ。どうせ戦力など持ってない我々では貴殿には勝てんだろう」
「ご協力感謝する」
フィールが部屋を出て、ユキマルたちが後に続く。さっきの部屋は管制室のようだったが、今度は木製の大きな扉の前に立った。フィールがノックをすると、
「入れ」
と、意外と若そうな声が聞こえた。
「失礼します」
フィールが頭を下げて入室し、ユキマルたちが後に続く。
「はっはっは!先ほどのやり取りは聞かせてもらった。凄腕の剣士らしいな!」
長官と言うが、精々二十歳かそこらの年齢に見える。ユキマルと大して歳は変わらないように思ったが、霊界では見た目の年齢は意味がない。
「だがいくら凄腕でも、ここで好き勝手にはさせんぞ」
ジブリールは巨大な執務デスクの向こうで、足を組んで口角を上げていた。まるで恐れてる様子はない。
「それで?何が目的でここに来た?」
「私はまだ死ぬわけにいかん。だから、生き返りたいんだ」
ユキマルは簡潔に目的を伝える。
「はっ!何かと思えば。生き返りたいと望む霊は珍しくない。だがそんな願いをいちいち叶えてやるほど霊界は優しくないぞ。大人しくJ 地区へ帰れ。あまり素行が悪いと問答無用で冥界行きになるぞ」
ジブリールは目を細めてユキマルを睨んだ。
「冥界・・・つまり、地獄か?」
「さてな?人種や宗教によって解釈も違う。ただ、のんびり過ごせるような世界ではないとだけ言っておこう」
その時、水晶スクリーンから音が鳴った。
「なんだ?今、来客中だ」
ジブリールはスクリーンを繁々と眺め、視線をユキマルに戻した。
「また悪魔がやって来たようだ。それも、どうやらお前の関係者が原因らしい」
「何!?、関係者だと?」
「その者たちは死んだわけではなく、幽体だけでやって来たそうだ。女剣士と魔法使いらしい」
「それは、まさか!」
ジブリールの座るデスクに向けて一歩踏み出した時、左側から大量の糸が伸びてユキマルの身体を包み込んだ。
「しまった!」
刀を抜くことも出来ず拘束されたユキマルは、必死に身体を動かそうとするが、ビクともしない。
「これはハーディス様。わざわざのお越し、痛み入ります」
部屋の左側は暗黒で満たされ、黒いローブを着込み、フードで顔を隠した人物が現れた。
「ここは霊界の最高管理機関。冥界の王であるハーディス様がお越しになることもあるのだよ、ユキマル。残念だったな」
ジブリールは椅子から立ち上がり、動けないユキマルの側までやって来て、口角を上げる。
「少々早いがお前は冥界行きだ!霊界で暴れた報いを受けろ!」
「待て、勘違いをするな」
黒ローブのハーディスが地獄の底から響いて来るような、低音の声で言った。
「この者は使える。だが、少しばかり試練を与えよう」
その時、部屋の右側が目映い光に満たされた。そして、白い三対の翼を持つ美しい女性が現れる。
「冥界の王、ハーディス殿。その者と、追ってきた者たちは人間界に戻すべきでしょう」
それを聞いてジブリールは慌てた様子で女性に問いかけた。
「何を仰るのですか、大天使アルカンフェル様!この者は霊界の秩序を乱しました!冥界行きが妥当かと存じます!」
「いいえ。その者、ユキマルと、追ってきたマヤとビャクヤは人間界に必要な存在です。そうですね、ハーディス殿?」
「その通りだ、アルカンフェル殿。しかし、けじめとしてこのユキマルには試練を与えようと思う」
「まさか、あの場所に?少し厳し過ぎるような気がします」
「しかし、その試練を乗り切れば、人間界に戻った時、大いなる力を得るだろう。異論はありますまいな、アルカンフェル殿」
「それでは一つだけ、わたくしから加護を授けます。ユキマル、受け取りなさい」
ユキマルの首にロザリオがぶら下がった。
「ち、ちょっと待ってくれ。冥界の王ハーディスに大天使アルカンフェル?そんな大物に私は何を試されようとしているのか!?」
「お前にはあの忌まわしき存在を始末してもらう。それを果たしたら人間界に戻してやろう。但し気をつけろ。霊体の中の魂まで失えばお前は完全に消滅してしまうぞ。それに残り時間は後、四十五日だ」
ユキマルは急激な睡魔に襲われ気を失った。
霊界編その2でした。ユキマルを追って来たマヤとビャクヤだが、すれ違いで出会えぬまま。そして魔界からやって来る悪魔たちと戦闘になります。人間界で受肉すると魔族となりますが、その肉体を滅ぼされても、精神生命体である悪魔は魔界に戻り、再び人間界に侵入しようとします。そして、ユキマルに課せられた試練。人間が出現する前の世界を支配していた邪神の討伐。果たして無事に試練を果たせるのか?それでは次回でまたお会いしましょう。




