ヤマト国の先代当主
霊界編その1
死んだユキマルを生き返らせるため、霊界に赴くことになったマヤとビャクヤ。五十日以内というタイムリミットに間に合うのか?
ユキマルの身体はベッドの上に横たえられ、聖王国ザルカスの国王、ザルカスの蘇生魔法が施されていた。手をかざしていたザルカスは唸り、後ろに下がって手を下ろした。
「ザルカス陛下!ユキマルは蘇生したのですか!?」
まだドレス姿のままのマヤが詰めよった。
「手は尽くした。だが、ユキマルの魂はすでに離れたようだ。少なくとも、もうこの世にはいない」
「そ、そんな!ユキマルー!」
マヤはユキマルの亡骸にすがりつき、涙を流した。そんなマヤを、弟のビャクヤが痛々しそうに見つめている。
「カリバーよ。どうしてもユキマルを蘇生させたいか?」
「当たり前です!そのためなら私は命をかける覚悟です!」
「ふむ」
ザルカスは再びユキマルの遺体に近づくと、すっぽりと結界で覆った。
「中は真空になっておる。遺体が腐ることはない」
「陛下!一体何を!?」
「一つだけ方法が残っている。カリバー、人が死ぬとどうなると思う?」
「?、あの世というのがあるなら、そこに行くのでは?」
「うむ、人は死ぬと、善行を積んだ者は天界に、悪徳を重ねた者は冥界にゆく。だが、すぐにではない」
ザルカスはベッド脇のソファーに座り、マヤたちにも座るように促す。
「天界に行くか、冥界に行くか。その審査のために人の魂は霊界と呼ばれる世界に行く。そこで五十日の間、生活をしてから、それぞれの世界に向かうのだ」
「!?、すると、その五十日の間にユキマルの魂を保護して帰ってくれば、生き返れるのですね!?」
「うむ。しかし、これは理を無視した横紙破りだ。霊界を監督している者たちは邪魔をするだろうし、下手をすればお前たちも一緒に死ぬことになるかもしれん」
「構いません!ユキマルを助ける方法があるのなら、私はそれに賭けます!」
ザルカスは天を仰いでいたが、視線をマヤに戻す。
「決意は固いようだな」
「はい!ユキマルを救うためなら地獄に落ちても構いません!」
決意を表明するマヤに対し、ビャクヤが口を開いた。
「姉上!それなら僕も一緒に行きます!」
「なっ!?バカなことを言うな!聞いていただろう?死ぬかも知れないんだぞ!」
「姉上もユキマルも失って、僕にどうやって生きてゆけと言うのですか、姉上!」
少し怒ったような表情でビャクヤは心情を吐露した。
「二人を失ったら僕にはもう生き甲斐がありません!もし置いてゆくと言うなら、僕は自ら命を断ちます!」
しばしの間、沈黙が部屋を支配した。そして、マヤはゆっくりとビャクヤに近づき、その身体を抱き締めた。
「そうだな。お前にとっては、置いて行かれる方が辛いよな」
「姉上ー!」
姉弟が抱き合っている様子を眺めながら、ザルカスは何度も頷いていた。
「お前たちの決意は良く分かった。そこに並んで座ると良い」
促されてユキマルが寝かされているベッドを背に、二人は並んで座る。
「これより、お前たちの幽体を取り出し、霊界に送る」
「幽体・・・ですか?」
「うむ。魂を覆っている霊的な身体だ。魂は残したまま幽体だけを霊界に飛ばす。首尾良く行けば、元の身体に戻ることを強く念じれば良い。これを持って行け」
ザルカスの手には紫水晶の指輪が乗っていた。
「陛下、これは?」
「時空間転移の指輪だ。霊界も異世界の一つだからな。念を込めれば、またこの世界に幽体が戻って来れる」
マヤは指輪を薬指に嵌めた。
「陛下、武器は必要ですか?」
「うん?そうだな。必要な場面もあろう。持っていくに越したことはない」
「ビャクヤ、私の刀を頼む」
「分かりました、姉上」
杖を取り出したビャクヤはマヤの腰に二振りの刀を呼び出した。ついでに服もいつものやつに取り替える。
「よし、これよりお前たちの幽体を取り出し、霊界に送り込む。この世界と違うことも多々あるだろうが、健闘を祈る」
「はい!よろしくお願いします!」
ザルカスが両手をかざして、呪文を唱え始めた。様々な魔方陣が現れマヤたちを包み込む。やがて、急激な睡魔に襲われ二人は意識を失くした。
「よし、これで良い。この部屋は五十日間、結界に包んで保護しておく。上手くやるのだぞ。カリバー、ビャクヤ」
ザルカスが部屋を出て扉を閉めると、そこはただの壁になった。
「これで魔族にも誰にも知られることはない。無事に帰って来るのだ」
ザルカスは壁を軽く擦ると、その場を離れた。
目を覚ましたマヤは、辺りを見渡した。一面草原になっており、花畑も見える。隣に眠るビャクヤを揺さぶって起こす。
「起きろ、ビャクヤ。どうやら着いたようだぞ」
「うーん、姉上。ここが、霊界ですか?」
「恐らくな。取りあえず移動しよう。魔法は使えるか?」
「試して見ます。フライヤード!」
すると、地面に赤い絨毯が現れた。
「魔法が使えるということは、私の剣技も使えるということだな」
二人は絨毯に乗ると、空中に舞い上がり、眼下に広がる景色を眺めた。森があり、川が流れ、海がある。そして、点々と壁に囲まれた街が点在している。
「驚いたな。我々がいた世界と同じに見える」
「姉上!あそこの街の城門は聖王国ザルカスに似ています!」
「人が長蛇の列を成してるな。あれはみんな死んだ連中か?」
すると、いつの間にか背中に翼を生やし、鎧と剣で武装した数人が、絨毯の周りを取り囲んでいた。
「おい、勝手に魔法を使うことは許されんぞ!」
「すぐに下に降りて列に並ぶんだ!」
何だか知らないがルール違反をしているらしい。
「あんたたちは誰だ?」
「我々は衛士だ!霊界の秩序を守る役目を担ってる」
「そうか。なら、昨日ここに来た黒髪黒目の男が来ただろう?あの城門は抜けたのか?」
「こいつめ!質問は許されてない!さっさと列に並ぶが良い」
衛士の一人が槍の小柄で突いてきたので、マヤは刀を抜いて真っ二つに斬り捨てた。
「おのれ!貴様らは悪魔か!?」
「また霊界を荒らしに来たか!」
衛士たちが皆、武器を構える。
「ビャクヤ、高速で城門を飛び越えろ!」
「分かりました!」
絨毯はスピードを上げて、衛士たちを置き去りにする。
「おのれー!追え!追えー!」
城門を越えると街並みが広がっていた。どことなく聖王国ザルカスに似ている。
「ビャクヤ降下しろ!街中に紛れてやり過ごそう!」
「分かりました!」
絨毯はかくんと高度を落とし、街の中に突入した。随分と広い街で、隠れがいがありそうだ。絨毯が着地する寸前、飛び出して路地裏に身を潜めた。衛士たちは上空からマヤたちを探している。
「よし、移動しよう。ユキマルを探さなければな」
「ユキマルのオーラの波動は覚えてます。探索魔法を発動します」
ビャクヤが杖を振ると、小さな赤い光を放つランタンが現れた。ランタンはゆらゆらとどこかに移動してゆく。
「姉上、後を追いましょう」
「うむ」
頭上から見られないように、壁際に沿って移動するが、街の中は様々な商店があり、住人たちが行き合っており、活気に満ちていた。
「本当にここは霊界なのか?まるで普通の街にしか見えん」
「ええ、霊界ですよ」
突然、背後から声をかけられ、マヤは刀を抜いて振り向いた。そこには長い髪を縦ロールに巻いた、十二歳ほどの少女が立っていた。
「あら、お客様たちは刀を持ち込んでいるのですか?」
「お前は一体誰だ?」
「私は案内人のAL-798です。呼びにくいようでしたら、アルとお呼びください」
敵意を感じられないので、マヤは刀を鞘に納めた。
「案内人と言ったな。ならば聞くが昨日来た、黒髪黒目の男がどこにいるか知らないか?」
少女アルは持っていたタブレットを覗き何やら操作している。
「昨日来た黒髪、黒目の人は三人ですね。イエモン、ツネ、ユキマル」
「それだ!ユキマルはどこにいるんだ!?」
「黒髪黒目の人はヤマト人がほとんどですから、J 地区にいると思われます」
「案内してもらえるか?」
「それは構いませんが、用心してくださいね。衛士に見つかると厄介ですから」
「ああ、分かっている」
「姉上、念のためまた髪の色を変えます!」
ビャクヤが杖を振ると蒸気が二人を包み、マヤは金髪、ビャクヤは銀髪になった。
「あら、魔法まで使えるなんて、あなたたちは悪魔なのですか?」
「いや、人間だ。しかし、さっきも言われたが、ここには悪魔が来ることがあるのか?」
「しょっちゅうではありませんが、たまにやって来ます。元々悪魔は精神生命体ですから、魔界からたまにちょっかいをかけてきます」
「魔界?」
「悪魔は元々、魔界の住人なのです。あなた方の世界で依代を使って受肉すると魔族になります。魔族は滅ぼされても霊界には来ません。魔界に帰ってゆくのです」
「魔族の連中は人間界だけでなく、霊界にもちょっかいを出しているのか」
「ええ、でも衛士たちが追い返すので心配は要りません。さあ、行きましょう」
アルは先導して歩きだした。マヤとビャクヤも後を追う。
「しかし、霊界にも商売人や職人などがいるのだな。買い物をしている者もいるぞ?」
「ええ、いきなり馴染みのない世界に放り込まれてもみなさん戸惑いますから、この霊界で生活をしつつ、徐々に霊としての自覚を持って頂き、天界と冥界に振り分けられるのです」
マヤは商店の並ぶ街中を見ながら歩いていたが、空から何者かが降下してきたので、ビャクヤの手を引いて路地に身を隠した。
「心配はありませんよ。お迎えが来ただけです」
アルに言われて良く見れば、白い衣に身を包み白い翼をもった者が、一人の男の前に降り立ち、手を引いている。そして、男は宙に浮かんで空に飛んでゆく。
「あの方は天界から迎えがきたようですね。おめでたいです」
「人間は天界か冥界に必ず行くことになってるんだな」
「いえ、平均的な人はまた人間に生まれ変わります。しかし、生まれ変わることすら拒む人たちもいます。地下組織を作って衛士に抵抗しているのですよ」
恐らくは冥界に行きたくない連中だろうとマヤは考えた。
「それは冥界行きを拒んでる連中か?」
「いえ、天界行きを拒んでる人たちもいます」
「天界とは天国のことだろう?それを拒む連中がいるのか?」
「天界は刺激もない穏やかな世界ですからね。それを嫌って天界行きを拒んでいるのです」
マヤは何となく分かった気がする。マヤも旅をして魔族たちとの戦いを好んでいる部分がある。何の刺激もない世界だと退屈してしまうだろう。
やがて、公園のような場所に着いた。何やら巨大な丸い石畳が設置されている。
「霊界も広大ですからね。これで目的地までワープします」
アルが先にその上に立ち、マヤたちもそれに続いた。
「それでは行きます。J 地区へ!」
石畳から白い光が立ち上ぼり、マヤたちはその場から転移した。
「おう!これは!?」
マヤの故郷であるヤマト国を模したような街が広がっていた。石畳から降りると、刀を差したサムライたちが寄ってきた。
「ようこそ、J 地区へ!さあ、こちらへ」
サムライの姿をしているが、この連中は案内人だろう。関所のようなところに案内され、しばし、待たされた。
「むう、妙だな。今日はヤマト国から来た者はいないはずだが」
代官らしき案内人が水晶のタブレットを確認している。
「一つ聞きたい。昨日、ユキマルという者が来たと思うのだが?」
「ユキマル?おう、あのやたら威勢の良い若者か。確かに中に入っている」
「そうか。では探さしてもらう」
一歩踏み出したマヤに、サムライたちは槍を突きつける。
「勝手な真似は止めてもらおう!お主たちはリストにないぞ!よもや、悪魔ではなかろうな!?」
「私が確認したところでは、この二人は幽体だけで来られたようですね」
アルがそう報告する。すでに正体はバレていたらしい。
「幽体だけでだと!たまにそのような者が来ることがあるが、大抵は死後の世界に興味を持った、魔法使いだが・・・そっちの小さいのが魔法使いか?」
「誰が小さいだ!このー!」
ビャクヤが激おこだが、今はとにかく早くユキマルを探さなければいけない。
「私たちは死ぬべきでない人間を連れ戻しに来た。関所を通してもらおうか」
「それはならん!お主たちはすぐに元の世界に戻さねばならん!」
「交渉している時間も惜しい!押し通らせてもらう!」
「そうはいかん!」
槍や刀で武装したサムライたちが立ちはだかる。
「アル、一つ聞きたいのだが、案内人や衛士を斬ると死ぬのか?」
「いいえ。ここは霊界です。斬られて一時的に仮死状態になりますが、後に生き返ります」
「それを聞いて安心した!」
マヤは二振りの刀を抜いて構えた。
「取り押さえろ!」
サムライたちがどっと押し寄せる。
「百花爆裂!」
マヤは二振りの刀を振るった。サムライたちはごっそりと吹き飛ばされて関所は難なく通過出来た。
遥か遠くにヤマト城が見える。やはり、この世界は人間世界を模して作られているようだ。
「ビャクヤ、ユキマルの居場所を探してくれ」
「分かりました、姉上」
ビャクヤは先程の赤いランタンを出現させた。フラフラと進むランタンの後を追って、マヤとビャクヤ、アルは歩を進める。
「いや、あんたは他に仕事があるだろう?別に同行してくれなくても良いんだぞ?」
マヤがそう言うと、アルは首を振った。
「案内人は監視員も兼ねています。あなた方が度を越した違反を犯した場合、報告しなければなりません」
(さっきのは度を越してないのか?)
「そうか。では勝手に付いてきてくれ」
マヤたちはランタンに誘われて城のある方角に向かう。
「考えたんだ。ユキマルはこの霊界でどこに行くか。私の護衛をしていたあいつは、将軍家に会いに行ったのかもしれん。私がいないことは分かっていても、多分そうするような気がする」
「あり得ますね。ユキマルは姉上のことを第一に考えてましたから」
「私の母は元はヒョウマにいたが、将軍である父上に見初められ入内した。ユキマルとは幼少期からの付き合いだった」
「それなら、遠くからでも確認出来る城に向かった可能性は高いですね」
ヤマト国の独特の着物を着た者たちで城下町は賑わっている。桜も満開で春のような気候だ
「ここでサービスを提供してるのは、案内人か監視員なのだろう?」
マヤは後ろを歩いているアルに確認する。
「ええ、そうです。死んでからまた仕事をするのはおかしいでしょう?」
そんなものかと、マヤは街の賑わいを見ながら納得した。
城に近づくにつれ、武家屋敷が増えてゆく。ランタンは城に向かっているが、ユキマルは城内にいるのだろうか?
「あいつは確かウキョウの出身だったが、幼い頃に母親と共に城に来た。あいつは元々、遠縁の親戚だったんだ・・・」
その時、魔力弾が発射され、マヤは身体を煙幕にしてやり過ごした。
「これは、魔力!姉上、気をつけてください!」
マヤは二本の刀を抜いて構える。攻撃してきた者は、何となく見た覚えがある。
「お前はモロク!」
ビャクヤは杖を突きつけて、その名を呼ぶ。確かビャクヤと初めて会った時にいた魔族だ。
「ふはは!随分と中途半端な存在になってるな、小僧!」
死んで魔界に戻ったやつが、マヤたちがやって来たことを嗅ぎ付けたのだろうか?
「ふん、ここで死ねば、お前たちは本当に死ぬ。積年の恨みを晴らしてやる!」
モロクは両手から魔力弾を連発した。
「アーカム!」
ビャクヤは結界を張り攻撃を跳ね返す。そして、マヤはモロクの背後に移動していた。
「影縫死斬!」
「はっ!?」
その首は跳ねられ、モロクの身体は地面に横たわった。しかし、自分の首を掴み立ち上がって見せる。そして、首を元の位置に戻した。
「ちっ、そうか!ここは死後の世界。これ以上死ぬことはないということか!」
「ふふふ、ご名答だ。我々は元は精神生命体だしな」
モロクの後ろには甲虫型魔族のビーダ、それを操る鎌を持った魔族、エウリオール。そしてバンパイアのセオが並んでいた。かつて、マヤが討伐した魔族たちだった。
「おいおい。どんな無理ゲーだよ」
マヤは口角を上げるが、絶体絶命であることは間違いない。
ユキマルは黒い小袖に袴を穿き、城主と対面していた。御簾の向こうには将軍が座している。
「ユキマルといったな。そちの闘気は膨大だ。一つ、我らに協力してくれんか?」
「協力とは?」
「天界にも冥界にも行きたくない、ずっとこの霊界に留まりたいと望む者は多い。そうした連中が地下で灰族と呼ぶ組織を作って潜伏しておる。他ならぬ余もそうなのだがな」
「あなたは先代将軍のヨシタカ様ですね。まさかお会いできるとは思いもしませんでした」
「うむ。そちは余の孫娘と遠縁であったな。灰族の情報では剣術を極め護衛をしておったとか」
「はい。しかし、過去形ではありません。私は生き返るつもりですゆえ」
「なんと!霊界に留まるのも困難であるのに生き返るだと!?」
「はい。生き返るための情報はございませぬか?」
「ううむ。大胆なことを言う男だのう。残念ながらJ 地区にいる灰族にはそんな情報はない。だが、Z 地区の灰族なら知っている者がおるやもしれん。魔法使いたちが多いからな」
「では、早速そのZ 地区に向かいたいと存じます」
「待て待て、せっかちな男だのう。もう少し孫娘の話を聞かせてはくれぬか?」
「姫様は、マヤ様は美しく強く成長されました。剣術では私ですら遅れを取るほどです」
「ほう、随分とお転婆に育ったようだのう」
ヨシタカは豪快に笑った。まさか、城主を勤めているのが、霊界に留まる違反者とは、よほど上手く立ち回っているようだ。
「この地の監視員は甘くてな。余が灰族であることを知りながら、見逃してくれておるのだ」
「そんなことが可能なのですか?」
「そちに教えてやろう。衛士も案内人も監視員も、元は我らと同じく霊界に送られた者たちだ。その中で見込みのある者が、役職を与えられておるに過ぎんのだ」
「なるほど、そのようなケースもあるのですね。だが、私はやはり生き返らないといけません。マヤ様をお守りするのが私の使命ですゆえ」
「そうか。それではZ 地区の灰族に報せておこう。だが、いつでも帰って来るが良い。また話を聞かせてくれ」
「はっ!必ず!」
ユキマルは礼をしたまま、後ずさってゆき、謁見の間から辞した。
廊下に出ると小姓が、跪いて刀を差し出していた。
「おう、これは有り難い。遠慮なく使わせてもらうぞ」
受け取ったユキマルは、その刀を腰に差し、広大な庭に移動した。そこには案内人が待っていた。
「待たせたな、ええと・・・」
「GI-438でございます。言いにくければジイと呼んでください」
上下を着た実直そうな案内人がワープポートに案内してくれる。
「なあ、ジイも案内人なのか?」
「はい。ヨシタカ様に心酔して、今は灰族の方々に仕えております」
「あの世というのが、どんなところか想像もつかなかったが、存外自由なところがあるのだな」
「はい、天界や冥界に比べれば規則も随分と緩やかです。それより、たまに魔界からやって来る悪魔のほうが厄介ですゆえ」
「なんと!悪魔がやって来るのか!?」
「霊たちを甘言で誘いだし魔界に連れ去るそうです。勢力を拡大するためでしょう」
二人は石畳のワープポートに辿り着いた。
「さあ、参りましょう」
促されてユキマルは石畳の上に足を踏み入れた。ジイも後に続く。
「それでは参ります。Z 地区へ!」
白い光に包まれて二人の姿は消えて転送された。
甲虫型のビーダが四本の腕で攻撃を仕掛けてくる。マヤは煙幕になってかわし、弱点である関節部を刀で突く。
大きな鎌をもったエウリオールがその得物を振り回す。しかし、マヤはすでに背後に移動していた。
「影縫死斬!」
エウリオールの首が宙を舞う。だが、身体は動いて自らの首をキャッチして、元の場所に戻す。
「ドライドルーバ!」
ビャクヤの拡散魔法の集中攻撃を、バンパイアのセオは身体を霧状にしてやり過ごす。
「今度はこちらから行くぞ、小僧!」
セオの両手が剣に変形して、ビャクヤ目掛けて斬りかかってくる。
「アーカム!」
ビャクヤは結界で攻撃を無効化する。
「むうっ!何度斬っても元通りになる!このままではジリ貧だぞ!」
マヤとビャクヤは背中合わせになり、悪魔たちと終わりのない戦いを続けていた。だが、そこに衛士たちが隊列を組んで飛んできた。
「また霊界を荒らしにやって来たか、悪魔どもめ!」
魔族たちはそれを見ると、脱兎の如く逃げてゆき、衛士たちはその後を追ってゆく。
「むっ!?あれだけ強気だった連中が、蜘蛛の子を散らすようにいなくなったぞ!」
「その秘密は衛士たちの持つ槍や剣です。霊体を傷付け消滅させることが出来る、特製の武器です。お陰で霊界は概ね平和に保たれているのです」
アルがからくりを明かしてくれた。
「まあ、霊界を守っているなら、そんな強力な武器を持っているだろうな」
マヤは刀を鞘に納めて、ため息をついた。究極奥義なら倒せそうだが、消耗が激しくなる。
「アル、闘気の攻撃なら通用すると思うか?」
「オーラの攻撃なら通用するでしょう。しかし、あまり派手に立ち回ると衛士に見つかりますよ」
「うん、それは困るな」
マヤは城を見つめて、取りあえず登城することにした。
城門には身張り番が槍を手にして立っていた。マヤは門の前に立ち、見張りたちに問いかけた。
「城主にお目通りをしたい。私はマヤ・カリバー、こっちは弟のビャクヤだ」
「何!?そんな髪をしてヤマト人だと申すか!」
「おっと、いかん。ビャクヤ、髪を元に戻してくれ」
「分かりました、姉上」
ビャクヤが杖を振ると二人の髪は元の艶のある黒色に戻った。
「はっ!?あなた様がマヤ様ですか?失礼しました。お通りください」
城門が開かれてゆく。中には上下を着た、家老とおぼしき初老のサムライが跪いていた。
「ようこそ、マヤ様。上様がお待ちです。こちらにどうぞ」
お付きの者を引き連れて城の階段を上ってゆく。やがて、謁見の間に辿り着き、家老が恭しく報告した。
「上様!マヤ様がお越しになりました!」
すると、御簾の向こうから将軍の声が響いた。
「おう、来たか。幽体で来る者はたまにおるが、それが身内なら歓迎するぞ。苦しゅうない、近う寄れ」
将軍のお許しが出たので、マヤとビャクヤは頭を下げたまま畳の間を進み、腰を下ろして頭を下げた。
「お初にお目にかかります。私はマヤ。後ろに控えているのは弟のビャクヤでごさいます」
「何っ!?、孫娘だけでなく、孫息子もおるのか?」
御簾がするすると上げられ、年若い将軍が驚きの表情を浮かべていた。
「孫?、するとあなた様は」
「うむ。そちたちの祖父であるヨシタカじゃ」
「お、お祖父様!?、とうに天に召されていたかと思っておりました」
「天界にも冥界にも行きたくなく、転生することも拒む、灰族という組織があるのだ。お陰で余は大きくなった孫たちに出会えた!嬉しく思うぞ!」
「私も嬉しく思います!お祖父様の記憶は朧気にしか覚えてません!しかし、全くお年を召した風には見えませんが!?」
すると、ヨシタカは呵呵大笑した。
「霊界では自分の全盛期の頃の姿に戻るのだ。城下町でも年寄りはいなかったであろう?」
そういうものかと思っていると、ビャクヤが初対面の祖父に挨拶をする。
「僕は初めてお会いします!お祖父様!」
「おうおう、名前は何と申す?」
「ビャクヤです!」
「そうか、ビャクヤか。良い名じゃ!」
父に良く似た若き将軍は嬉しそうに頬を綻ばせた。
「マヤも美しく育ったな。余の正室であるお宮の方と良く似ておる!」
「ありがとうございます!ところでお祖父様。ここにユキマルという者が来ませんでしたか?」
「ん?、おう、そうえいば、あの者はそちの護衛だったな」
「ここに来ていたのですか!?」
「うむ。しかし、マヤ。そちを護衛する任があるため生き返りたいと申してな。先程、魔法使いの多い地区に旅立った」
「本当ですか!?、それで、どこに向かったのですか!?」
勢い込んで尋ねるマヤに対し、ヨシタカは眉を下げて背を伸ばした。
「教えたら、そちはすぐに出てゆくのであろう?しばらく城でゆっくりせんか?」
「時間がありません!人は死んで五十日経ったらいずれかの世界に旅立ちます。その前にユキマルを見つけて戻らねばなりません!」
それを聞いてヨシタカは、目に見えて落ち込んでいた。
「行ってしまうのか。折角こうして会いまみえたというのに」
涙まで流されると流石にマヤも気が引けてきた。
「姉上、しばらくだけ滞在しませんか?逆にいえば五十日も余裕があります。正確に言うと四十九日ですが」
弟にも諭されて、マヤは深く息を吐いた。
「分かりました、お祖父様。しばらくご厄介になります」
「おう、そうかそうか!誰かあるか!宴の用意をせい!今宵は宴会じゃ!」
はしゃいでいる祖父を見て、マヤは静かにため息を漏らすのだった。
霊界探訪編その1でした。人は死ぬと霊界に行き、五十日間過ごして、天界に行くか冥界に行くか決まります。要件を満たしていない者はまた人間界に転生します。ユキマルを助けるため幽体となって霊界に赴くマヤとビャクヤですが、魔界からやってくる、かつて倒した悪魔たちに苦戦します。果たして目的は果たせるのか?次回作でまたお会いしましょう。




