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水の悪魔ビオラ 後編

連邦編、最終話。

連邦を二分する暴動は収まったが、浸水被害を受けた国々の混乱は続く。

 ジークは絨毯の上から地上をつぶさに観察していた。リニアの湖、ニア湖の辺りに差し掛かった。

 辺りには湿地帯が広がり、近くの麦畑では農民が作業をしていた。

「ん!?」

 湿地帯から黒い影が複数現れた。魔物であるリザードマンだ。群れを成して農民たちに近づいてゆく。

「ラムダ、急降下だ!農民がリザードマンに襲われる!」

「分かったわ!それ!」

 絨毯は一気に高度を下げてゆく。農民たちも迫りくるリザードマンの群れに気がついた。

「わあっ!またトカゲの化け物が出たぞ!」

 右往左往する農民たちを、武装したリザードマンが取り囲もうとしている。

「待て!魔物ども!」

 剣士のジークは絨毯から飛び下りて、早速一体を真っ二つに斬り裂いた。

「むっ?冒険者か!?」

 続いて戦士のサザールがツーハンドメイスで、リザードマン二体を殴り飛ばす。

「ドライドルーバ!」

 魔法使いのラムダは拡散攻撃魔法で群れの半分を吹っ飛ばした。三十分もすればリザードマンの群れは全て討伐した。

「あ、あんたたち、助かったよ!」

 農民の一人が笑顔で話しかけてくる。

「なーに、気にするな。俺たちギルドの冒険者は魔物を討伐するのが仕事だ」

「ギ、ギルド!?」

 それを聞いて農民たちはひそひそと話し合った。

「あ、あんたら、異教徒で悪魔の使いでは?」

 代表者が恐る恐る尋ねてくる。

「おいおい、たった今魔物を討伐してみせただろ?それに、俺たちだってルトア教の信者だぜ」

 ジークは首から下げている、ルトア教のロザリオを見せる。

「じゃあ俺たちは他の魔物を狩りに行くから、またな」

 ジークたちは絨毯に乗って宙に舞い上がった。

「本当は信者でもなんでもないのにねー」

 ラムダは複雑そうな表情を浮かべていた。

「教官殿たちが考えた作戦だ。地道にこなしてゆくしかねえぜ」

「これも、以前の平和を取り戻すための方便だ」

 戦士のサザールは、完全に割りきって首から下げたロザリオを眺めていた。

「よし、次に行こう!」

 ジークたちを乗せた絨毯はそのまま南下した。


 西の国、ラビアでは森からゴブリンの群れが現れ、村を襲っていた。村人たちはこん棒や農具を使って抵抗していたが、そこに空から絨毯が降りてきた。

「はあっ!」

 地面に降り立った女剣士デボラは、ゴブリンの一体を斬り倒した。

「さあ、覚悟しな!ゴブリンども!」

 戦士のガムラはウォーハンマーで、ゴブリンたちを次々になぎ倒した。魔法使いのナターシャは、村人に襲いかかるゴブリンの群れに向けて拡散攻撃魔法を打ち込む。

「ドライドルーバ!」

 複数の光のエネルギーがゴブリンたちを焼き尽くす。

 戦闘を終えると村長が前に出て礼を述べた。

「あ、ありがとうございました!しかし、あなた方冒険者は異端者だったのでは?」

「そう宣伝していたデクス神父は悪魔に操られていた。神父が崇めていた女神こそ、成り済ましていた悪魔なんだ!私たちは敬虔なルトア教徒として、女神に成り済ました悪魔を倒すつもりだ!あんたたちも女神に成り済ました金髪の女には気を付けろ!」

 女剣士デボラは高らかに宣言し、絨毯に乗って宙に舞った。


「うん、そうか。草の根作戦は上手く行ってるか!引き続き民草にはギルドが正義であることを示し続けるんだ。健闘を祈る!」

 水晶端末を仕舞うと、マヤは口角を上げて腕を組んだ。

「姫様、経過は順調のようですな」

 そう言うユキマルの頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!まあ、時間は掛かるだろうが、無償の魔物退治とルトア教徒を演じることで、信頼を取り戻してゆくしかないからな」

「後はビオラを討伐するだけですね」

 ダブダブの魔導士服を着たビャクヤが、魔力探知で探りつつ、声を上げる。

「ああ、それでビャクヤ。ビオラの魔力は探知出来ないか?」

 マヤは可愛い弟を抱き締めながら尋ねる。

「今のところは反応なしです。ただ、ライナの王都近くに時折、妙な魔力反応があります」

「妙というと?」

「魔族の反応ではありません。でも、魔法使いにしては妙な感じなんです。あえて魔力を抑えているような」

「人間の魔法使いが魔力を抑える必要などない。だから妙なのか?」

「はい。以前に覚えがある気がします」

「ふむ。気にはなるな。降りてみるか?」

 そこで、ユキマルが口を挟んだ。

「しかし、マヤ様。我々、異国人が降りれば、ルトア教徒たちを刺激してしまうのでは?」

「うむ、そうだな」

「姉上、良い考えがあります!」

 ビャクヤは杖を振り、淡い蒸気のようなものが三人を包んだ。すると、ビャクヤとユキマルは銀髪、マヤは金髪になっていた。

「これでパッと見には異国人に見えません」

「それはそうだが・・・ぷっ!ユキマル、似合ってないぞ!」

 マヤは腹を抱えて笑った。

「マヤ様も金髪は如何なものかと存じますが?」

 ユキマルの口もプルプルと震え、笑いを堪えていた。

「はっはっは!よし、ビャクヤ。降りてみよう」

「はい!」

 ちなみにビャクヤは良く似合っていた。美少女に見えるのが難ではあるが。

 絨毯が地面に着地して、三人は王都近くの商店街に降り立った。そして、ここまで近づくと剣士であるマヤやユキマルにも正体が分かった。

「まさか、連邦に入り込んでいたとはな」

「どうしますか?確か店主は人間だったはずですが」

 ユキマルは腕を組んでマヤの判断を仰ぐ。

「ザルカスで店を開いていた者が、どうして連邦でも店を開いている?まるで我々を追ってるようだ」

「そうですな。フットワークが軽すぎます。一応改めますか」

 その魔道具店のドアを開けて三人は中に踏み込んだ。

「いらっしゃいませーって、あらあら。随分懐かしいですわね」

 店主のミルファは悪びれもせず、満面の笑顔を見せる。

「あんたはザルカスで店をやってたのではないのか?何故、連邦で店を開いている?」

「私の店は次元の歪みを通って好きな場所に移動出来ます。そうやって大陸中を移動して、その地の魔法使いの方々相手に商売しているだけですわ。それにしても、カリバーさんたちは髪を染めて、連邦に馴染むためですか?」

 嫌なところを突いてくる。

「この店は水害の影響はなかったようだな?」

 なので、マヤは話をはぐらかした。

「ええ、仮にも魔道具店ですから。常に結界は張ってありますわ」

 カウンターの上の黒猫があくびをしている。何だか牧歌的な感じで特に怪しいところはない。マヤは取りあえず引くことにした。

「失礼したな。しかし、出来ればもう顔を合わせたくはない」

「あらあら、酷い言い様ですわね。そんな寂しいことは仰らずに、またお越しくださいな」

「気が向けばな」

 それだけを言い残し、マヤたちは店を出た。

「あの女、ミルファだったか?怪しいといえば怪しいが、決定的な証拠がないから仕方ないな」

 マヤがそう言った時、空から水の光線が襲ってきた。身体を煙幕にしてかわすと、上空から声が降りてくる。

「見つけたぞ、カリバー。今度こそ決着をつけよう!」

 宙に浮いているのは流れるような金髪の魔族、ビオラだった。

「おお!女神様がお姿を現されたぞ!」

「何と神々しい!」

 近くにいたルトア教徒たちが、手を合わせてその場に膝をつく。

「ビャクヤ!私とユキマルに空中歩行の魔法を!」

「はい、姉上!」

 ビャクヤが杖を振るうと、マヤとユキマルのブーツが光った。そのまま宙を駆け上がってゆく。

「ビオラ!女神を騙るならその実力を見せてみろ!」

 マヤとユキマルは刀を抜いた。

「良かろう!輪切りにしてやる!」

 ビオラが十本の指を前にかざして、指先から超高圧の水光線を発射する。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 ユキマルは水光線を水の動きで弾いてゆく。マヤは身体を煙幕状にしてやり過ごし、ビオラの背後を取った。

影縫死斬かげぬいしざん!」

 マヤの剣撃を水の竜巻で、ビオラは無効化して見せる。

「はははー!もう一度、国中の湖の水で連邦を水浸しにしてやる!」

 ビオラは両手を頭上に掲げて水を集めようとする。だが、今度は水は一滴も集まらない。

「ぬうっ!?どういうことだ!」

 不審げに声を荒げるビオラに、ビャクヤが満足そうに種明かしをする。

「はははー!僕たち魔法使いが全員で全ての湖を結界で守ってるんだ!既に対策をしていたってことだよ!」 

 ビオラは憎々しげにビャクヤを睨み付けた。

「おのれ!それなら海から水を持ってきてやる!」

「おっと、させないよ!エアシェルト!」

 ビャクヤの杖の先から光が飛んでゆき、遥か彼方の海岸であろう場所に、半透明の巨大な壁が出現した。激しい津波が起こっているが、壁はそれを通さない。

「広範囲最強結界だよ。お前には破れないよ!」

 ギリギリと歯を食いしばって、ビオラはビャクヤを憎悪の目で見るが、大量の水を使う作戦は使えないということだ。

「おのれ!地上がダメなら空中から調達するまでだ!」

 ビオラは両手を使って何かを手繰り寄せようとしているようだ。自分の周りを水の竜巻で守りながら、何をしているかと思えば、黒い雲がドンドン集まって来て今にも降りだしそうな天候になってきた。

「はっはっは!集中豪雨を食らえ!」

 ビオラが手を振り下ろすと、滝のような豪雨が降りだした。

「ふっはっは!水の中ならわたくしの独壇場だ!」

 ビオラが手を振るだけで、大量の水が刃になって襲いかかってくる。

百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 マヤとユキマルは一太刀で水の刃を無力化する。しかし、あまりの強烈な豪雨のため、マヤの左右にまとめたお下げがほどけて長い髪が身体に貼り付く。

「くそっ!激しい雨で目が開けられん!」

「姉上、お任せを!」

 ビャクヤは結界で雨を防ぎつつ、杖を黒雲に向けた。

「ジャルバローダ!」

 杖の先に積層魔方陣が展開し、光の束が発射された。空を覆っていた黒雲は雲散霧消し、集中豪雨は唐突に止んだ。

「おお、これは神の御技だ!」

「あの銀髪の天使様のもたらした奇跡だ!」

 建物の中に非難していた市民たちが騒ぎ始めた。

「するとあれは、金髪の女神さまたちの、覇権をかけた戦いなのか!?」

「一体どちらが勝つのだろう?」

 非常に不愉快そうな話が飛び交っているようで、マヤは軽く舌打ちをした。

「はははー!女神の一騎打ちか!そう思わせておくのも一興!」

 ビオラは地面に貯まった水を、針のように尖らせてマヤとユキマルに向けて発射した。

「むうっ、桜花流水!」

 ユキマルは水の動きでその全てを弾き、マヤは煙幕化してやり過ごす。

「なら、これでどうだ!」

 ビオラは水をムチのように操り、ユキマルの身体を捉えようとする。すると、ユキマルの刀が炎で覆われた。

「バーニングソードだ!そして、桜花流水!」

 迫りくる水のムチはたちまち蒸発してゆく。ビオラの注意がユキマルに向いている間に、マヤはビオラの背後を取っていた。

「影縫死斬!」

「はっ!?」

 二刀流のマヤの刀は一の太刀でビオラの片腕を斬ったが、二の太刀は水の竜巻で剣筋を外された。

「ぐわあ!おのれ!」

 片腕を失ったビオラは先を尖らせた水竜巻でマヤを狙う。

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 マヤの身体から膨大な闘気が溢れだした。水竜巻は届かず、ただの水に戻って地面に滴り落ちる。

「おのれー!ならば超高圧の水光線だ!」

 ビオラの指先から水の光線が放たれるが、マヤの闘気が結界となり全てがただの水に帰る。やがて、マヤの二本の刀が光り始める。

「行くぞ!万花爆砕ばんかばくさい!」

 二本の刀が振り下ろされた時、万物は塵に帰る。

「うわあああー!」

 断末魔の叫びを残してビオラの身体は細切れになり、やがて塵となって消えてゆく。風に乗って飛んできたビオラの魂石こんせきをマヤは手にした。

「安らかに眠れ」

 マヤが膝をつき刀を鞘に納めた時、地上では歓声が上がった。

「新しい女神様の誕生だ!」

「流れるような金髪が美しい!」

「銀髪の天使たちも実に神々しい!」

 戦闘を見ていたルトア教徒たちは新しい女神の誕生に沸き返った。

「は、はあ!?一体何がどうなったらそうなる!?」

 素早く寄ってきたユキマルはそっと耳打ちした。

「姫様、とにかくここは空間転移で移動しましょう」

 その頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!だが、この狂乱ぶり。確かに消えたほうが良さそうだ」

 マヤとユキマルはビャクヤの絨毯に戻り、そのまま空間転移でギルド支部に戻った。


 一週間後、王都の中央噴水のところに、髪を下ろし二本の刀を持つマヤの銅像が立てられた。後ろには絨毯に乗る二人の天使の銅像もある。

「何でこうなった!?」

 迎賓館の二階の窓から、その銅像は良く見えた。ルトア教徒の中でも一流の芸術家たちが、精魂込めて作ったそうだ。

「あの時の姫様は髪はほどけ、金髪でしたからな。ルトア教の信者たちにとっては、悪魔を倒す戦闘の女神として認識されたようですぞ」

 とりあえず、ユキマルの頭に拳骨を落としておく。

「姫と呼ぶな!、しかし、何で私が女神になったんだ?」

「姉上の言う通り、冒険者たちがビオラのことを悪魔だと喧伝してましたからね。その悪魔を倒した金髪の存在は女神に違いないと、ルトア教の聖典に一節が書き加えられたようです」

「参ったな。これはいよいよ連邦から去らねばならないようだ」

「ええ、その事を伝えたら、国王陛下は迎賓館で宴をしようと仰られたようで、ギルドのメンバーたちも全員招かれて、盛大に送りだそうとのことです」

「教え子たちの反応はどうなってる?」

「戸惑っている者もいますが、多くはマヤ様の神々しい銅像をお気に入りのようですぞ」

「はあ、頭の痛い話だ」

 マヤは盛大なため息をついた。


「あらまあ。カリバーさんが女神になるなんて。人間の信仰心というのは不思議なものですね」

 魔道具店のカウンターに肘をついて、ミルファが面白そうに黒猫のジルに話しかける。

「連邦を二分して混乱させる作戦は失敗だったわけだ。ミルファ、これからどうする?」

「そうですねえ。カリバーさんも連邦を去るようですし、わたくしたちも移動しましょうかねえ」

 その時、奥の部屋から微かな気配が感じ取れた。ミルファは部屋の扉を開いた。

「あらあら、誰かと思ったらキメイヤさんではないですか!」

「久しぶり、ミルファさん」

 ショートカットの銀髪が映える美少年が、魔方陣の中に立っていた。

「キメイヤさんが後を引き継ぐんですか?」

「ああ、もう!ルキフェル様は何故ボクなんかに勅命をくだされたのかな?」

 キメイヤは頭を抱えて悶えていた。煙幕のカリバーを敵にするのは、幹部にとっても遠慮したい勅命だろう。まして幹部の率いる軍団の一人でしかないキメイヤには、荷が重いだろう。

「あなたの得意な魔法で挑めば良いのですわ。爆弾魔のキメイヤさん」

「上級剣士二人に魔導士一人だよ。ボクの手に余るよ」

「それは正面からぶつかったらそうなるでしょう。実力で劣っていると思うなら、作戦を立てれば良いのですわ。例えば・・・」

 ミルファは顔を寄せてキメイヤに何事か吹き込んだ。

「上手くいくかなあ?」

「上手くいかなくても、あなたが直接動くわけではないですから、危険はありませんよ」

「うん、分かった。やってみるよ、ミルファさん」

 キメイヤは空間転移で姿を消した。奥の部屋の扉を閉めて、ミルファはカウンターに戻った。

「幹部でも今のところ歯が立たないカリバーに、あの小僧っ子をぶつけるとはね。ルキフェル様は何をお考えなのか・・・」

 カウンターの上でだらける黒猫のジルが、素直な疑問を表した。

「あの子は臆病だから、慎重に事を運ぶ。今までの幹部の方たちは、あまりにも正面からぶつかるから敗北してるのですわ」

「魔族の幹部を何人も倒すカリバーのほうが常軌を逸してるね」

「そうですわね。正直わたくしも、カリバーさんがここまで手強いとは思ってませんでした」

「正面から行くとダメなら、搦め手で行く。案外、勝機があるかもしれないな」

「カリバーさんが油断してくれれば良いのですけど」

 ミルファは両手を頬に当てて、楽しそうに呟いた。


 ラシアンの王都。威容を誇る城の地下に、デクスは収容されていた。衛兵たちの噂話を聞く限り、ルトア教徒による暴動は失敗に終わったらしい。それどころか、カリバーが女神に祭り上げられているらしい。

(何がどうなったらそうなる!あの異国人たちめ!殺しても飽き足りない!)

 国内が混乱しているからまだ刑は執行されてないが、デクスは間違いなく縛り首になるだろう。せめて、一矢でも報いてやりたいが・・・。

「カリバーたちが憎いかい、デクス神父?」

 突然声をかけられ、デクスはベッドから転げ落ちた。

 牢の外に十五歳くらいの銀髪の少年が立っていた。その美しさはこの世のものとは思えなかった。

「あ、あなたは、ルトア様のお使いになられた天使でしょうか?」

「あ、ああ。その通り。敬虔な信者であるあなたに、最後のチャンスを与えるよ」

 バンッと小さな爆発音がして、牢の鍵が壊れて扉が開いた。デクスは戸惑いながらも牢から抜け出した。

「これをあなたに授けよう」

 銀髪の天使は回転拳銃リボルバーを差し出した。

「こ、これは!?」

「帝国で作られてる回転拳銃だ。撃鉄を起こして引き金を引くだけで良い。六発の弾丸を続けて撃つことが出来るよ」

 デクスは恭しく回転拳銃を受け取った。

「今夜、迎賓館でカリバーたちを送り出す宴が催される。流石のカリバーも油断しているだろう。その隙に異端者たちを討てば良い」

「はっ!ありがとうございます!最後のチャンスを頂き、感謝してもしきれません!」

「それじゃあ、幸運を祈る」

 銀髪の天使は姿を消した。デクスは階段を上りながら、段取りを考える。

(異端者に正義の鉄槌を)

 その目には狂気が宿っていた。


 夜になると迎賓館のホールに王族や貴族、冒険者たちが集い、送別の宴が催された。

「わあー、ご馳走でいっぱいですよ、姉上!」

 喜色満面でビャクヤは料理に手を伸ばしていた。取り巻きの女性冒険者たちが周りを囲んでいる。

 マヤはワインの入ったカップを手に、ホールを見渡した。マヤはドレスを着せられ、ユキマルも白いタキシードを着ていた。

「盛況だな。他の小国ではまだ復興に大変な時に、何だか気が引けるが」

「確かにその通りですが、ラシアンでは一段落ついたのですから、今宵は楽しみましょう、姫様」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!そうだな。国の混乱が落ち着いたのだから、今夜くらいは息抜きとしようか」

 楽器を持った一団が演奏し、みんなペアになって踊っている。

「お前は踊らないのか?」

「私はマヤ様の護衛ですから、側を離れるわけにいきませぬ」

「やれやれ、生真面目なやつだな」

 マヤはそっと手を差し出した。ユキマルは戸惑った様子でその手を見詰めていた。

「全く、世話の焼けるやつだ」

 マヤはユキマルの手を取り、ホールの真ん中に進んだ。

「おっ、教官殿たちのダンスだ!」

「良くお似合いです!」

「ユキマルさん、次は私がお相手を!」

 冒険者たちが冷やかす中、ユキマルはぎごちなく踊っていた。マヤはステップを踏んでリードする。

「な、何だか照れますね、マヤ様」

「ダンスをする機会なんて滅多にないのだから、今宵は楽しもう!」

御意ぎょい!」

 そうして踊っていると、次はスローなテンポの曲に変わった。周りはピッタリと身体を合わせて雰囲気を出している。

「ほら、ユキマル。もっとくっ付け」

「こ、こうですか?」

 二人でチークダンスを踊っていると、突如、悲鳴が上がった。何事かと視線を動かすと、ここにいるはずのない人物が、回転拳銃を両手で構えて狙いを定めていた。

「危ないっ、姫様!」

 咄嗟にマヤの身体をユキマルが入れ換えた。銃声が響き、背中を撃たれたユキマルは、マヤの手からすり抜けて、床に倒れてゆく。

「デクス神父!」

 マヤはテーブルの上にあった食事用のナイフを手に駆けた。デクスは何回も引き金を引き、銃弾が発射されたが、マヤは身体を煙幕にしてすり抜けた。

「うおおおー!」

 マヤはデクスの頸動脈をかっ切った。血飛沫を上げて銃を手放し、神父はその場に崩れ落ちる。その目はすでに瞳孔が開いていた。

「ユキマル!」

 マヤはナイフを捨てて、ユキマルの元に戻った。既にビャクヤたち、魔法使いが回復魔法を施している。ユキマルはうつ伏せになったまま、ピクリとも動かない。

「ユキマル、しっかりしろ!お前は私の護衛なんだぞ!お前が死んだら誰が私を守ってくれるんだ!?」

 ユキマルの背中には銃弾の跡が残っていた。マヤは身体を抱き起こして必死に呼び掛けた。

「目を覚ませ、ユキマル!勝手に死ぬことは許さんぞ!目を覚ますんだ!」

 その時、デクスが持っていた回転拳銃が火を吹き始めた。

「魔族の魔力反応!みんな、結界を張って!」

 ビャクヤの指示で魔法使いたちは結界を張り、全ての者を守った。そして回転拳銃が爆発した。料理の乗ったテーブルはひっくり返り、鉄の破片が壁や天井に突き刺さっていた。

「すでにあの拳銃は爆弾になっていた!?魔族の仕業に間違いない」

「ビャクヤ!ユキマルを治してくれ!早く!」

 マヤの悲痛な声に、ビャクヤは目を逸らして呟いた。

「すでに銃弾は取り出し、傷の手当ても終わりました。でも、ユキマルは目を覚ましません。それは、ユキマルの魂がすでに・・・」

「嫌だ!認めない!私が何としても生き返らせる!ビャクヤ、私たちの荷物をここに持ってきてくれ!」

 ビャクヤは悲しげに姉を見詰めるが、杖を振ってマヤたちのリュックや刀をホールの中に転移させた。

「ビャクヤ、絨毯だ!すぐに聖王国ザルカスに行くぞ!ザルカス陛下なら、蘇生魔法リザレクションで生き返らせてくれるはずだ!」

 床に現れた絨毯の上に、荷物とユキマルを乗せた。マヤは顔を上げて、冒険者たちを見渡した。

「すまない、こんな形でお別れになるとは。だが、ユキマルを死なせるわけにいかない!」

 マヤは頭を下げて生徒たちに詫びを入れる。

「頭を上げてください、カリバーさん!頑張ってユキマルさんを生き返らせてください!」

「そうです!ユキマルさんが死んだら私たちは何を糧に生きれば良いのですか!」

「武運長久を祈ります!」

 生徒たちの励ましの声を聞いて、マヤは一筋の涙を流した。

「みんな、ありがとう!ユキマルは必ず生き返らせる!必ずまた会おう!」

「「「お元気で!」」」

 冒険者たちに見送られて絨毯が舞い上がり、迎賓館を飛び出した。マヤはユキマルの身体を抱き締め、冷たくなった唇にそっと口付けた。

 絨毯は一路、ザルカスに向かって飛行する。

連邦編、最終話でした。国を二分する騒動も、マヤが新たな女神として崇められることで終息しました。しかし、新たな刺客の計画によりユキマルが凶弾に倒れました。果たして、生き返らせることは出来るのか?次回でまたお会いしましょう。

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