水の悪魔ビオラ 前編
連邦編その7
水を自在に操る魔族が現れたが、ルトア教の神父が女神と勘違いしたことで連邦を二分する騒ぎとなる。
デクスはニア湖の畔にある、廟の中で祈りを捧げていた。西方連邦で信仰されているのはルトア神を崇めるルトア教である。デクスは朝のお祈りを捧げている途中、湖の方で何かが飛び込んだような音を聞いた。廟を出て、湖の方に歩いて行くと、湖面から流れるような金髪の美しい女性が現れた。その神々しい姿に、デクスは両膝をつき、両手を組み合わせた。
「あ、あなたはルトア様でいらっしゃいますか!?」
デクスの言葉を受けて美女は一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐに口を弧にして笑った。
「その通り。わたくしはルトアである。そなたはわたくしの敬虔な信者のようだな?」
「ははー、私は神父を勤めております、デクスと申します!」
「この国に異教徒が入り込んでいる。そして、あろうことか乗っ取ろうと画策しておる。そなたも知っていよう」
「ははっ!それはギルドという冒険者の組織のことでありますね?」
「異教徒は排除せねばならない。特にあの異国人たちは危険だ。国を滅びに導こうとしている」
「ルトア信者を集めて決起いたします!主要国であるラシアンの司祭にも協力を求めましょう!」
「うむ。それではそなたに神の加護を与えよう」
自称ルトア神は指先から水を飛ばして、デクスの顔を洗った。
「洗礼だ。これでお前は神の代弁者となった。異教徒を排除するのだ!」
「ははー!」
デクスは歓喜の涙を流して立ち上がった。これより西方連邦は混乱に陥る。
一週間後、連邦のあちこちでルトア教徒たちのデモが起きて、衛兵たちがその鎮圧に乗り出していた。その情報はギルド支部にも当然届いていた。
「我々、冒険者たちには関係ないが、各国で内乱が起きたような騒ぎらしいな?」
ギルド支部の酒場でビールを飲んでいたマヤは、首を傾げた。
「関係ないことはありませんぞ、姫様」
そう言ったユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!関係ないことはないとは、どうしてだ?」
「各地でルトア教徒たちがデモを起こしているので、ギルドの仕事にも支障をきたしているのですよ、姉上」
ダブダブの魔導士服を着たビャクヤが、現在の状況を教えてくれた。
「信者が暴徒化するのは珍しいことじゃない。それに、絨毯を使っての移動法を教えてるから、現場に行けないことはないだろう?」
「マヤ様、ところがですな。ルトア教徒たちは冒険者にも牙を剥いて、襲いかかってくるらしいですぞ」
「なんでまた、冒険者が狙われる?」
「異国人である我々に教えを乞うた、異端者と見なされているようです。一般人を傷付けるわけにもいかず、ここのところ、討伐依頼をこなすのも困難になっているようですな」
ユキマルは腕を組んで深刻そうに状況を語った。
「まあ、確かに。大陸全体ではアトラス教が信仰されてるからな。我々が異教徒と間違われても仕方がないが・・・」
話し合っていると、受け付けカウンターから髪をシニョンにまとめた、ルイスが現れた。
「カリバーさん、ちょっとよろしいですか?」
「ん?どうしたんだ?」
「ルトア教徒たちの暴徒が隣国のライナにも押し寄せました。衛兵が鎮圧に乗り出してますが、先頭に立つ神父が怪しげな魔法を使って、混乱が広がってます!」
「魔法?神父が使うなら神聖魔法だろう?」
「いえ、それが目に見えない光線で、剣や防具を切り裂くらしくて。偵察に出たパーティーが記録した映像を観て下さい」
ルイスはテーブルの上に水晶球を乗せた。そこに映像が映し出されてマヤたちはじっと覗き込んだ。
神父の服を来た男が、衛兵たちに取り囲まれている。神父は人差し指を突き付け何かを発射した。そしてぐるりと周りを見渡すと、衛兵たちが胴を切り裂かれて倒れた。
「これは神聖魔法じゃない。まるで魔族の使う魔法だ!」
マヤは思わず唸った。
「ライナから救援要請が来てますが、どうしますか?」
「ふむ。各国で暴動が起きているなら討伐依頼もこなせない。この暴動を鎮圧することが先決だ」
そこに、護衛を連れたアルガ公爵がやって来た。
「公爵、どうしたのです?ギルド支部に来るとは珍しい」
「各国でルトア教徒たちの暴動が起きてることはご存知ですね?」
「たった今、映像を観ました。怪しげな魔法を使う者がいるようです」
「それなのですが」
公爵が後ろを振り返ると、司祭服を着た恰幅の良い、初老の男が立っていた。
「上級司祭のモリス様です」
紹介されて、司祭は歩み寄って軽く頭を下げた。
「モリスです。この度は我らの信者が迷惑をかけておるようで、真に申し訳ない」
カリバーは立ち上がり、同じように頭を下げた。
「教官を勤めているカリバーです。司祭様は今回の暴動の原因に心当たりはおありですか?」
「何故、暴動を起こしたのかは分かりませぬが、指揮しておる者に心当たりが」
「誰です?」
「リニアで神父を勤めているデクスです。元々は私の弟子でした。敬虔な信者だったので、何故このような騒ぎを起こしたのか、見当もつきません」
司祭はハンカチを取り出し額を拭っていた。
「それでは司祭様、我々と一緒にライナまでご同行願えますか?師であるあなたの説得なら耳を貸すかもしれません」
「勿論です。もはやデクスたちのやってることはただの暴動です。許されることではありません」
「では、早速参りましょうか」
マヤはビャクヤとユキマルを連れて表に出た。
「フライヤード!」
ビャクヤの詠唱で大きな絨毯が現れた。司祭を真ん中に乗せ、絨毯がふわりと宙に舞い上がる。十分な高度を取るとライナに向けてスピードを上げた。
ライナに到着すると、暴徒たちと衛兵による小競り合いが激化していた。その中心にいるのはデクス神父だった。
「よし、ビャクヤ少しづつ高度を下げてくれ」
絨毯が降りてゆくと、暴徒たちが驚きの声を上げた。
「これは神の御業か!?」
「見ろ!モリス司祭が乗っておられるぞ!」
「なんと、有り難い!」
暴徒たちは膝をついて、両手を合わせていた、
「デクス!お前は何をしておるのだ!神はこのような騒ぎを好んでおられぬ!」
モリス司祭に指摘されたデクスは顔を歪めて拳を震わせていた。
「ええーい、騙されるな!同胞たちよ!異国人たちと一緒にいるあれはモリス司祭ではない!魔物が成り済ました偽者だ!」
デクスの身体がすーっと宙に浮いた。
「おお、神父様が!?」
「これも神の御業か!」
盲信とは恐ろしい。簡単な魔法でも、一般庶民の目には奇跡に見えるらしい。
「ビャクヤ、空中歩行の魔法を!」
「分かりました、姉上!エアウォーキン!」
ブーツが光るとマヤは空中を駆け上がった。
「デクス神父!これ以上の暴挙は許さん!」
「むう、皆の者、見よ!これぞ神に成り済ました悪魔の姿だ!」
デクスは魔法使いを悪魔と認定しているようだ。これではギルドのパーティーが討伐に出れないわけだ。
マヤは二本の刀を抜いた。
「神の使いならば私と戦え!まさか異国人相手に逃げるような真似はすまいな?」
「悪魔め!神の御業を受けるが良い!」
デクス神父の指先から半透明の光線が発射された。マヤはその正体をようやく悟った。それは超高圧で圧縮された水だ。その威力は岩すらバターのように切り裂く。
マヤは身体を煙幕にして水の光線をやり過ごし、空中を駆けて距離を詰めた。
「おのれ!悪魔の術でかわしたか!?」
追撃しようとしたデクスは目標を見失った。マヤはすでに背後に移動していた。
「影縫死斬!」
マヤはデクスの首に峰打ちを食らわせた。
「かはっ!」
デクスの身体は地面に向けて落ちてゆく。しかし、その身体を受け止める者がいた。
流れるような金髪を持った美女だった。その身体中から水がだらだらと滴っている。その姿を見て信者たちは膝まづいた。
「おお!ルトア様だ!」
「女神様が降臨された!」
「やはり、神父様の言ったことは真実だった」
美女はデクスの身体を地面に横たえると、すーっと宙に浮いた。マヤと対峙した美女はマヤだけに聞こえる声を発した。
「ふふふ、今回は面白い趣向だろう?カリバー」
「やはり魔族が暗躍していたか!」
「わたくしの名はビオラ。今はルトアと呼ばれる神だがな」
「神を騙るとは、魔族どもも罰当たりなことを!本物の神の怒りを買うぞ!」
「ふはは!神などいない。いるのは魔族とエルフ、そして人間だけだ!」
ビオラが両手を上げると、上空に巨大な水の塊があった。
「なんだ、あれは!?」
「ははは、ニア湖を始めとする全ての湖から水を全部持ってきた。これより、西方連邦は水に沈む!」
「なっ!?止めろ!信者たちも巻き込むのか!」
「勿論、信者たちは結界によって守られる。死ぬのは異教徒である貴様たち冒険者だけだ!」
「ビャクヤ!ギルド全体に通達を!今すぐ空中に逃れるように警告するんだ!」
「分かりました、姉上!」
「ははは、その警告が間に合うかな?」
ビオラは手を振り下ろした。まるで豪雨のように水が地面に落下してゆく。
「マヤ様!せめて少しでも水を減らしましょう!」
エアウォーキンで駆けつけたユキマルは刀を抜いた。
「よし、行くぞ!」
マヤとユキマルはビオラに近づき奥義を繰り出す。
「「百花爆裂!」」
一太刀でかなりの量の水が吹っ飛んでゆくが、全ては削れなかった。大量の水がライナだけでなく、連邦全体を水浸しにした。水深は二メートルを超えている。
「おお、神よ!ルトア様、どうか信者たちをお守りください!」
モリス司祭は絨毯に跪き、両手を合わせて祈る。
「ビャクヤ!この水をどうにか出来ないか!?」
「時空魔法で、元にあった場所に水が戻るように、試してみます!」
「頼んだぞ!さて、ビオラと言ったな!討伐させてもらうぞ!」
マヤとユキマルは宙を駆けてビオラに肉薄する。同時に斬りかかるが、激しく水が噴き出し、斬撃の軌道が逸らされる。
「ふふふ、わたくしは水の魔族。剣で水は斬れないぞ!」
「ふん、アラバスと戦った時と似てるな。あれから対抗するために、我々は新たなスキルを身に付けた!」
言下にマヤとユキマルの刀の刀身が炎に包まれた。
「食らえ!バーニングソードだ!」
ビオラは身体の周りに水流を作り、結界代わりにしているが、マヤの斬撃は水を蒸発させて深く斬り込んでゆく。
「桜花流水!」
ユキマルは百本の矢を斬り落とす奥義で、ビオラを包んで守っている水の結界を削ってゆく。
「ぬうっ!おのれー!」
ビオラの端正な顔が怒りに歪む。
「本性を表したな」
マヤは接近して連続突きを顔面に向けて放つ。激しい水流がビオラの顔を守るが、がら空きになった胴を横薙ぎに斬る。
「胡蝶剣!」
「ぐはあっ!」
ビオラは水流に乗って距離を取る。マヤとユキマルが後を追うが追い付けない。
「姉上!、ユキマル!絨毯に!」
ビャクヤの操る絨毯が飛んできたので、二人は転がるようにして乗り込んだ。本格的に追跡する寸前、ビオラは空間転移で姿を消した。
「ちっ!逃がしたか」
マヤは刀を鞘に納めた。そして、水晶端末を取り出すと、ギルド支部のメンバーに呼び掛けた。
「魔法使いたちはどんな手段でも構わないから、水を元の湖に返してくれ!このままでは普通の生活すら出来ない!」
マヤの呼び掛けにより、西方連邦全体を水浸しにした水は、それぞれの湖に戻された。しかし、浸水した建物には甚大な被害が出ていた。特に商売をしていた者は売り物を水浸しにされて、途方に暮れていた。城であっても無傷というわけにはいかなかった。マヤたちが寝起きしていた迎賓館の一階は使用不可能になっていた。
二階の部屋に移動したマヤたちは窓から外を見下ろしていた。臨時の炊き出しが行われている。聖王国ザルカスのフィート辺境伯から支援物資が届けられ、住人たちは何とか食いつないでいる状態だ。ギルド支部は結界で守られているので被害はなかったが、それでルトア教の信者たちはさらに怒りを募らせていた。流石に未曾有の災害に遭って、暴動は収まったが、またいつ再開するか分からない。
「あのビオラという魔族は狡猾な上に厄介な魔法を使う」
「水を自在に操る魔法でしたな。取るに足りない魔法かと思えば、こんな甚大な被害をもたらすとは、予想外です」
「タチが悪いのはルトア教の神を演じてることですね」
ユキマルもビャクヤも、冴えない表情をしている。衛兵に守られてるとはいえ、このラシアンの王都にもルトア教徒たちが押し掛け、異教徒を出せとデモを行っている。モリス司祭がいるので、強行手段に出てこないが、いつまで保つか。
マヤは立ち上がり、部屋を出ようとする。
「姫様、どちらへ?」
ユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!デクスに面会してくる」
「あの者はもう魔法が使えなくなっております。それにルトア教の教義しか口にしない男は、利用価値はないかと」
ユキマルが突き放した言い方をするのも致し方ない。連邦全体を暴動で混乱させた男だ。恐らく死罪は免れない。
「分かっている。しかし、他にやることもないだろう?」
マヤが部屋を出るとビャクヤが後を追って来た。
「ビャクヤ、別に付き合うことないんだぞ?」
「いえ、僕は姉上の護衛を勤めます!」
ダブダブの魔導士服を着た愛すべき弟は健気なことを言ってくれる。
「ふふ、ありがとうな、ビャクヤ」
その頬に軽くキスをする。
「あ、姉上!キスは止めてください!」
顔を真っ赤にしながらも、ビャクヤはマヤの後について、地下牢まで赴いた。
神父服を着た中年の男は、マヤたちが来てもちらりと視線を寄越すだけで、振り向こうとはしない。
「デクス神父。いい加減認めたらどうだ?あれは女神ではない。魔族と呼ばれる悪魔だ。あなたは利用されただけだ」
「何を言われても考えを変える気はない。特にお前たちのような異国人に、何を言われても耳を貸す気はない」
マヤはため息をついた。
「私は確かに異国人だが、同じ人間だ。それにアトラス教の信者でもない。目の敵にされる覚えはない」
「強く団結するには共通の敵が必要だ。それにはお前たち異国人とギルドは格好の存在だった。田舎の信者など魔法を見たこともないからな。ただ、それを神の名において使えば奇跡。それ以外は悪魔の仕業と捉えられる。私が死罪になっても、もうこの国は元には戻らんぞ。これからはルトア教徒かそれ以外かの二つに別れて睨み合うことになる」
「神父、最初からそれが目的だったのか?」
「ルトア様の神の計画の一部だ。後はルトア教徒たちが継いでくれる」
元に戻らない。そうかもしれない。だが、あのビオラという魔族だけは討伐しなければならない。さもないと第二、第三のデクスが登場する。
マヤは無言で牢の前を離れた。最早話すことはない。石段をビャクヤと共に登って行った。
「おのれ!カリバーめ!後少しのところだったのに!」
ライナの王都近くの魔道具店。その奥の部屋にビオラは非難していた。
「あらあら。そんなに悔しがることもありませんわ。あなたの計画でルトア教徒とギルドは対立関係になりました。初手としてはまずまずと思いますけど」
ビオラは差し出された回復薬を受け取り、ちびちびと飲んでゆく。
「でも、カリバーたちがいる限り、連邦は手に入らない!」
「手に入れる必要はありませんわ。大陸でも魔族は主だった標的しか狙いませんし」
「それだ!何故ルキフェル様は人間どもを生かしているのだ?エルフは無理でも人間を一掃することは可能なはずだ!」
「あらまあ。ビオラさん、ルキフェル様の方針に異議を唱えるおつもりですか?」
そう言われて、ビオラは慌てて首を振った。
「異議を唱えるつもりなどない!わたくしはルキフェル様の忠臣だ!」
やや青ざめたビオラは必死に抗弁する。
「ええ、それで良いのです。あなたはあくまでカリバーさんを倒すことだけを考えていれば良いのですわ」
口角を上げるミルファは、ビオラの目にはさぞ恐ろしげに映ったことだろう。回服薬を飲みながら目を逸らした。
「さて、わたくしはお仕事に戻ります。お店は開けないですが、色々と多忙なのですよ。ビオラさんは回復したら、すぐにカリバーさんたちを倒しに行ってください。それがルキフェル様のご意志ですから」
ミルファが扉を閉めると、奥の部屋はシンと静まりかえった。
「そう簡単に倒せたら苦労しない!」
愚痴をこぼしたが、それを聞く者はいなかった。
マヤとユキマル、ビャクヤは謁見室で跪いていた。銅鑼が鳴らされ、チープ国王が姿を現した。玉座に座るとマヤたちに声をかける。
「面を上げてくれ、客人たち」
顔を上げたマヤは、国王が眉を下げて疲憊しているのを見てとった。
「現在、連邦は混乱しておる。このラシアンはまだマシな方だが、小国の中には貴族や王族まで殺された例がある。この混乱を静める良い方法はないものだろうか?」
その言葉を受け、マヤは口を開いた。
「盲信とは恐ろしいものです。ルトア教徒たちは自分たちの信じることしか信じないでしょう。ルトア教徒とギルドが和解するのは困難であると思います」
「しかし、そなたたちはザルカス国王より、誰よりも信頼出来る冒険者と聞いた。そなたたちでも無理なのか?」
マヤは内心で舌打ちをしたが、あくまで礼を尽くした態度は崩さない。
「西方連邦という巨大な枠組みの中で、数十万、数百万のルトア教徒たちがギルドや国家に牙を剥いているのです。これは我々のような個人がどうこう出来る問題ではございません」
国王は額に手を当てて唸った。
「不本意かもしれませんが、今後は国王軍の兵士で王都を守り、国内は衛兵の数を増やして警備したほうが良いでしょう。そしてルトア教徒たちを常に監視下におくしかありません」
「うーむ。国教であるルトア教の信者を監視するというのは、気が引けるのう」
国王はあまり乗り気ではないようだ。だが、マヤは言わなければならない。
「今後は魔物の討伐などで、信頼回復するくらいしか手はありません。あのビオラという神を騙った魔族は我々が必ず討伐します。後は異国人である我々が出てゆけば、多少は落ち着きを取り戻すでしょう」
「カリバー殿!連邦を見捨てるつもりか!?」
「国のあり方を変えるには、相応の時間が必要でしょう。数年か数十年か。しかし、我々はこの地に骨を埋める気はありません。あくまでギルド設立のお手伝いに来ただけです。お忘れですか?」
チープ国王は手で顔を覆っていたが、深い息を吐いて顔を上げた。
「忘れてはおらん。そなたのいう通りだな。各国の王族と貴族が治めなければ意味がない。しかし、ギルドはもうそなたたち抜きで運営出来るほど、磐石なのか?」
「人材は育っています。更に募集をかけて増員してゆけば良いでしょう。後は時間が解決するかと思います」
国王は立ち上がり頭を下げた。
「最後の仕事を無事に終えてくれ。余は各国の王と話し合い、今後の先行きを決めねばならない」
「御意」
マヤが頭を垂れると、国王は静かに退出した。
「さて、ビャクヤ、ユキマル。最後の仕事に取り掛かるぞ!」
「はい!」
「御意!」
マヤは刀に手をかけて立ち上がった。
ギルド支部には空間転移で移動した。異国人であるマヤたちを見つけると、ルトア教徒たちが騒ぐかもしれない。そのための配慮だ。
「カリバーさん!」
「ユキマルさん!」
「ビャクヤ様!」
何故ビャクヤだけが様付けなのか、追及するのも野暮というものだ。
「みんなも知っての通り、ビオラという魔族の暗躍により、ギルドはルトア教徒たちから異端視されている。連邦全体が混乱状態に陥っている。みんなは地道な魔物討伐で信用を勝ち取ってもらいたい!それ以外に連邦を元通りにする術はない!」
各国に拠点を作っていた冒険者たちも戻って来ているので、ギルド連邦支部の中は手狭になっている。
「でも、カリバーさん!こんな状態になってしまって、最早討伐依頼も来ないんじゃないですか?」
剣士のジークが発言した。それは当然の疑問だろう。
「ギルドという組織が出来るまで、魔物の討伐は剣士や戦士、魔法使いが無償で行っていたと、ロウランド王国の聖魔導士アンドレアが言っていた。民草の信頼を取り戻すには、これからは地道な討伐を行うしかない。幸い、絨毯による移動は全ての魔法使いが会得している。上空からの偵察で魔物による被害が出ている場所を探して、無償の討伐に専念してもらいたい。もう残された道はそれくらいしかあるまい」
マヤの言葉に冒険者たちは無言にならざるを得ない。せっかく立ち上げたギルド支部ではあるが、連邦中にルトア教徒がいるので、衝突を避けるにはその方法しかないだろう。
「それと、あの神を騙ったビオラという魔族は我々が討伐する。みんなは連邦中に散って魔物を探すついでに、ビオラ探しにも協力して欲しい。見つけたらすぐに私に連絡してくれ」
マヤの言葉に応じ、みんなが偵察のために次々と空間転移で出動してゆく。
「カリバーさん。これからギルド連邦支部は大丈夫でしょうか?」
支部長のルイスが不安げな様子で問いかけてくる。
「それは分からん。それこそ、神に祈るしかあるまい。ルイスも支部長として、しっかりとみんなを支えてやってくれ。我々がいなくても大丈夫なように」
「!?カリバーさん!連邦から去るのですか?」
すがりつくようなルイスの目を、マヤはしっかりと見据えた。
「元々、ギルドという組織の骨格を作り、しっかりとした運営が出来るようになるまでが私たちの仕事だった。もうこの支部の冒険者たちは立派に育った。そろそろ頃合いだ」
「でもまだ、カリバーさんたち抜きでは不安です!」
「我々は異国人だ。一生ここにいるわけにはいかない。最後にビオラという魔族を討伐したら去る。みんなには内緒にしててくれ。全てが終わるまでな」
「・・・カリバーさん」
俯いて涙を堪えるルイスの肩を叩き励ます。
「さて、我々も行くか!ビャクヤ、頼む!」
「はい、姉上!フライヤード!」
現れた絨毯に三人が乗る。
「吉報を待っててくれ。よし、出発だ、ビャクヤ!」
「はい!」
空間転移でマヤたちもいなくなり、ギルド支部の中は静かになった。
絨毯で連邦の上空を飛びながら、ビャクヤはビオラの居所を探して魔力探知を行っている。
「しかし、残念な形での最後になりそうですな、姫様」
ユキマルの頭に拳骨を落とす。
「姫と呼ぶな!・・・まあな。まさか国を二分する騒動が起こるとは思わなかった。しかしまあ、半年近く経った。どちらにせよ潮時ではあるだろう」
「そうですな。旅好きなマヤ様が半年も頑張ったのですから、もう少し平和な最後にしたかったですな」
「僕も少し寂しいです」
ビャクヤが瞳を潤ませて地上の魔力を探っている。
「うん、そうだな」
マヤは可愛い弟を背後から抱き締めた。
「最後に悔いの残らない仕事をしよう」
マヤは刀に手をかけて呟いた。
連邦編その7.でした。連邦の国教であるルトア教の信者たちが魔族を女神と崇めて、各国がルトア教徒の信者たちによる暴動で混乱しました。その魔族ラビアの討伐が連邦編の最後になりそうです。マヤたちは無事に討伐出来るのか?次回でまたお目にかかりましょう。




