金色のアラバス 後編
連邦編その6
金色のアラバスとリターンマッチ。液体金属の身体を手に入れたアラバスに勝利出来るのか?
ロウランド王国の海岸から遥か北にある魔王領である島、セイタンズにアラバスは戻っていた。玉座の前に片膝をつき、魔王のお出ましを静かに待つ。銅鑼が鳴らされ、マントを羽織った女性と見紛うほどの美青年が登場する。魔王ルキフェルだ。そして、玉座に座り優雅に足を組んだ。
「アラバス。お前ほどの者でも煙幕のカリバーは討ち取れなかったか?」
「油断をしておりました。それに、カリバーの奥義は魔法すら凌駕しております」
頭を垂れたまま、アラバスはありのままを報告する。どんな理由であれ、カリバーを倒せなかったのは事実だ。
「身体を金属に変えられるお前ですら勝てぬか?」
「全身にヒビが入りました。報告が遅れたのも、その負傷を癒していたからです」
「ふむ。ミルファのところでか?」
「はっ!」
「あれは我ら魔族のサポート役などやっているが、本来なら島に呼び戻したいところだ。覚醒したら一気に盤面をひっくり返せるものを」
魔王にそこまで言わしめるとは、やはり、あの魔道具店の店主は只者ではないようだ。
「アラバス。お前の能力は高く買っている。罰など与えたくないので、新しい力を貸し与えよう」
ルキフェルが手をかざすと、エネルギーが飛び出し、アラバスの全身に電流のように魔力が流れた。全身をひっくり返されるような苦悶の後、アラバスは倒れて何とも言えない解放感を味わった。
「お前の新しい能力だ。存分に活用するが良い」
アラバスは再び片膝をつき、頭を垂れる。
「ありがとうございます、ルキフェル様。今度こそカリバーの首を持って参ります」
そして、空間転移で姿を消す。
「ふふふ、人間たちに恐怖をばら蒔いてくるが良い」
ルキフェルは片肘をつき、口角を上げて呟いた。
目覚めると、部屋の中に朝日が差し込んでいた。ビャクヤはマヤの豊かな胸に顔を埋めて、幸せそうに眠っていた。そんな可愛い弟に、マヤは頬にキスをする。
「起きろ、ビャクヤ。朝だぞ」
「ううーん、むにゃ」
「起きないならこうだ」
マヤはビャクヤの顔を両手で挟み込み、唇にキスをする。
「!?あ、姉上!唇にキスはしないでください!」
「お前が早く起きないからだ。さ、遅刻するぞ。早く着替えろ」
マヤはベッドを滑り降りて、寝間着を脱いでいつもの黒装束に着替える。ビャクヤも、いつものブカブカの魔導士服を着て、部屋を出た。すると廊下の壁に背中を預け、待っていたユキマルが組んでいた両腕をほどいた。
「おはようございます、姫様」
マヤは頭に拳骨を落とす。
「姫と呼ぶな!全く毎日毎日、そんなに私に殴られたいのか?」
「姫様に殴られるなら、これも名誉でございます」
取りあえず、もう一発拳骨を落としておく。
「さ、朝食を食べてギルド支部に向かうぞ」
「はーい!」
「御意!」
今日も冒険者の一日が始まる。
城を出ると街を見回る衛兵たちは鎧を着ておらず、剣の代わりに木剣や棍棒で武装している。アラバスはまだ討伐されていないので、その対策だろう。
ギルド支部に入ると、みんなが口々に挨拶を寄越す。それらに応えつつ、マヤはカウンターに向かった。
「ルイス、緊急の案件はあるか?」
髪をシニョンにまとめた、出来る女の雰囲気を醸し出しているルイスに尋ねた。
「連邦のあちこちで金属製品が突然動きだし、市民を襲う事件が多発しています」
「ふむ、この間倒し損ねたアラバスの仕業に違いないな」
今日もマヤたちは強化した木剣を腰に差している。
「直近の出現場所はどこだ?」
「最南端の小国、バスニアですね。農機具などが勝手に動きだし、農民を襲ってるとのことで討伐依頼が来ています」
「誰か討伐に向かっているのか?」
「ジークとデボラのパーティーが向かってます。アラバスは手強いので二つのパーティーを派遣しました」
「ふむ。念のためだ、我々も出るか。ルイス、もし他の場所にアラバスらしき魔族が現れたら、連絡を入れてくれ」
「分かりました!」
マヤとビャクヤ、ユキマルは表に出て絨毯に乗り、宙を舞ってバスニアを目指した。
ジークは積み重なった農機具を見てため息をついた。
「とんだ嫌がらせだな。金属製の道具は全て使えなくなってる」
農民たちも仕事が出来ず、不安げに冒険者たちを見守っている。
「ラムダ、ナターシャ。魔力探知にそれらしい反応は?」
二人の魔法使いは顔を見合わせて首を振る。
「残念ながらそれらしい反応はないわね。すでに他の国に移動しているかもしれないわ」
ラムダは積み上がった農機具を見ながら、ため息をついた。
「せめて、かけられている魔法を解除出来たら良いんだけど」
「見たことない術式だから、それはちょっと難しいわね」
ナターシャは懸命に魔法の術式を解読しているが、思うようにいかない。
「遭遇したら斬り捨ててやるのに」
女剣士のデボラは木剣を握って悔しげに呟く。戦士のサザールとガムラも不機嫌そうに辺りを見渡している。
(あの、アラバスという魔族。教官殿たちでも持て余してた感じだった。俺たちじゃ勝てないかもな)
ジークは密かにそう考えていたが、士気に影響するのであえて口には出さない。
「待って!強烈な魔力反応!アラバスかもしれないわ!」
ラムダは杖を構えて正確な魔力の位置を探す。その時、積み上がっていた農機具が突然バラバラになり、ジークたち目掛けて飛んでくる。
「みんな、気をつけろ!」
「「アーカム!」」
ラムダとナターシャが結界を張り、飛んできた農機具を撥ね飛ばす。
「冒険者がたった六人か。まあ良い。新しい力がどんなものか、お前たちで試してやる」
忽然と現れたのは、黒い礼服を着た魔族だった。
「アラバスだ!全員油断するな!」
ジークは強化した木剣を握り、アラバスと対峙する。
「ふふふ、その強化した木剣がどこまで通用するか、試してみろ」
アラバスは余裕の笑みを唇に刻んでいる。
「ラムダ!支援魔法を頼む!」
ジークは地を蹴ってアラバスに肉薄した。武器も持たず構えもしないアラバスに、ジークは容赦のない剣撃を浴びせる。袈裟斬りにするが、ほとんど抵抗らしいものを感じず、剣を振り抜いていた。
(なんだ?今の感触は!?)
以前にアラバスは身体を金属化させて、マヤたちを苦しめたが、あの時とは違い、何の手応えもない。
「どうした?それで終わりか?」
「むうっ!」
ジークは連続突きを顔面に繰り出し、横薙ぎに胴に斬りつける。教官から教わった唯一の奥義、胡蝶剣だ。だが、胴に見舞った一撃が
アラバスの体内で止められ、抜けなくなっていた。
「な、なんだ!?まるでこれは液体のようだ!」
「ふふふ、その通りだ。ルキフェル様から賜った新しい能力。身体を液体金属にする魔法だ!」
アラバスは人差し指をジークに向けた。途端にそれが伸びて先端が鋭利になり、ジークの肩に突き刺さった!
「うがああっ!」
「ジーク!このー、ドライド!」
ラムダが攻撃魔法を打ち込む。しかし、アラバスの手が巨大な円盤状に広がり、攻撃を無効化した。ジークはその隙にアラバスの指から逃れ、剣を構え直す。
「一斉に攻撃するぞ!」
「「「おおー!」」」
六人は一人の魔族に向けて、一斉に攻撃を開始した。
宙を飛んでいたマヤたち一行は、バスニアに到着した時から異変を感じ取っていた。農村の小屋の近くに、六人の冒険者たちが血塗れで倒れている。
「むうっ、遅かったか!」
絨毯は下降してゆき、マヤとユキマルは地面目掛けて飛び下りた。
「おい、しっかりしろ!一体何があった!?」
マヤはジークを抱え起こしたが、気を失っている。デボラとサザール、ガムラも同様だ。ラムダとナターシャはお互い抱き合って震えていた。
「お前たちは比較的、被害が少ないようだな」
マヤが二人に近づき、ビャクヤは剣士と戦士たちに回復魔法をかけている。
「一体、どうしたんだ?」
震えていたラムダはかろうじて口を開いた。
「え、液体です!金属なのに!硬くなくて!物理攻撃は全てすり抜けて!だからジークたちは手も足も出なくて!」
「分かった、落ち着け。アラバスはどこに行った?」
「わ、私たちの結界を壊せないと分かったら、アラバスはどこかに消えてしまいました!」
ナターシャは必死に言葉を紡ぐ。
「落ち着くんだ。アラバスが液体のようになっていたというのは本当か?」
「は、はい!デボラたちの攻撃は水に斬りつけてるみたいに、全く手応えがない感じでした!最後は私たちは結界に立てこもったんですが、アメーバみたいに広がったアラバスは結界ごと私たちを飲み込もうとしました!も、もう恐ろしくて!私たち!」
「落ち着け!もうアラバスはいない。私たちの絨毯に乗るんだ。ギルド支部まで帰ろう」
マヤは震える二人を抱き締めて安心させる。
「しかし、マヤ様。液体とは・・・前の戦いではやつは金属化して硬質化していたはずですが、まるで真逆ですね」
「うむ。ひょっとしたら新たな魔法を身につけたのかもしれないな。とりあえず、ギルド支部に戻ろう」
「はっ!」
ビャクヤの絨毯に全員を乗せ、帰投することになった。
ギルド連邦支部の中は重苦しい沈黙に支配されていた。支部の中で実力者であるジークたちが、手も足も出ずに敗北したことが、他の冒険者たちを怖じ気づかせていた。
「相手は液体金属の魔族だ、物理攻撃は通じない。魔法攻撃を食らって飛び散っても、すぐに集合して元通りになってしまう」
マヤは苦々しげに語る。
「しかし、相手は金属だ。弱点はあるはずだ。例えば超高温で溶かすとか、逆に氷結魔法で凍らすとかな」
それを聞いて魔法使いたちは、顔を見合わせた。
「それは思いつきませんでした!私たち魔法使いが、高温と低温の攻撃を仕掛ければ!」
ラムダが希望を見いだし、杖を握りしめた。
「私は氷結魔法が得意です!」
サザールが挙手して自らの得意魔法を宣言した。
「私は炎熱魔法が得意です!」
ラムダも手を上げて得意な魔法属性を表明する。
「うむ。魔法使いのみんなはそれぞれ、得意なほうに集まってくれ。ビャクヤ、指導を頼むぞ」
「はいっ、姉上!」
魔法使いたちはそれぞれの特性で二つのグループに別れ、ビャクヤの指導で更に強力な魔法が使えるように学ぶ。
「カリバーさん、俺たちはどうすれば?」
ジークが尋ねる。他の剣士や戦士も集まってくる。
「うむ。残念ながら物理攻撃は通用しないようだからな。だから攻撃よりも身を守るための奥義を伝授しよう」
修練場に移動して、ユキマルが見本を見せることになった。二十人ほどの冒険者に向けてマヤは問いかける。
「みんな、投擲は得意か?」
「投擲?投げナイフとかですか?」
女剣士のデボラが怪訝な表情で疑問を呈する。
「ああ、その要領でユキマルに向かって一斉に、全員が木剣を投げつけるんだ」
「え、それはいくらなんでも・・・」
「一度に二十本の剣が飛んできたら、いくら教官殿でも・・・」
懸念を表明する連中にマヤは笑って見せた。
「例え百本の矢が飛んできてもユキマルは平気だ。さあ、遠慮せずに剣を投げろ!」
「そ、それじゃ、せーの!」
ジークが掛け声を上げて剣士たちは、木剣を振りかぶり、一斉に木剣を投げた。わずか五メートルの距離からだ。
しかし、ユキマルは流れる水の動きで、二十本の剣を全て弾き飛ばした。
「す、凄え!本当に二十本の剣が全て弾かれた!」
「これがサナダ流剣術の奥義の一つ、「桜花流水」(おうかりゅうすい)だ。流れる水の動きを体得するのはむずかしいが、身につけたら攻撃にも転用出来る、応用しやすい技だ」
「是非指導をお願いします!」
剣士と戦士に技を指導し、実戦で使えるレベルまで引き上げる。無論、一朝一夕で身に付くものではないが、覚えて損はない。アラバス以外の討伐依頼はBランクのパーティーに担当してもらい、後はひたすら稽古あるのみだ、
冒険者の全員が必死に稽古する中、ルイスが慌てて修練場に駆け込んできた。
「大変です!ここラシアンの王都にオーガの魔王軍が現れました!率いているのはアラバスのようです!」
「遂に来たか!みんな、討伐に出るぞ!」
「「「おおーっ!」」」
剣士と戦士は一斉に出入り口目掛けて駆けた。魔法使いたちが後に続く。
「よし!私たちも出るぞ!」
「はいっ!姉上!」
「御意!」
ギルド支部から出ると王都は目と鼻の先だ。走って現場に駆けつけると、既に国王軍の兵士がオーガの大群と交戦中だった。冒険者たちも戦闘に参加している。そして、宙に浮いてるのは美形の魔族、アラバスだ。
「アラバス!カリウスたちの弔いをさせてもらうぞ!」
マヤが木剣を突きつけて宣言する。
「ふふふ、やってみろ!煙幕のカリバー!」
アラバスは地面に降り立ち、両手を広げて迎え撃つ体勢を取る。
「今だ!アイシングラート!」
ビャクヤの掛け声で、魔法使いたちは一斉に氷結魔法を、アラバス目掛けて飛ばした。
アラバスは片手を巨大な皿状に変化させて受け止める。しかし、接触部から徐々に腕、肩まで身体が固まり始めた。
「おのれ!小賢しい!」
アラバスは左の手を向けて指を伸ばしてゆく。その先は鋭く尖っている。
「結界で防げ!」
マヤは木剣を両手に駆けた。そして凍りついた左腕に斬撃を加える。バキーンと硬質な音が鳴り響き、アラバスの半身は砕け散った。そしてユキマルが近づき、残った半身に攻撃を加える。
「十字連破!」
しかし、こちらは魔法の影響を受けてないので、斬撃はスルリと抜けてしまう。アラバスの指が鋭利になり、ユキマルを襲う。
「桜花流水!」
迫ってくる五本の指を、水の動きで斬り裂くが、何度斬り裂いてもすぐに元通りになってしまう。
「うむっ!液体金属とは厄介だな!」
ユキマルが距離を取ると、アラバスの背後にいた魔族が炎を吐き出し、地上に散らばる凍ったアラバスの欠片を溶かしてゆく。
「むっ!?もう一人魔族がいたのか!?」
「俺の名はトーチス!アラバス様の従者だ!」
アラバスは全身を取り戻して、再び両手を広げて立つ。
魔法使いたちは今度は逆のアプローチを試みる。炎熱魔法だ。
「「「ラピットファイヤー!」」」
数千度の高温の炎がアラバスを襲う。
「ふん、今度は俺の身体を溶かすつもりか!」
アラバスの背後にもう一人、魔族が現れた。両手を突きだし、吹雪を発生させる。
「俺はカーチス!氷と吹雪を操る者だ!」
「ああっ!?炎熱魔法が!」
炎は水蒸気となって消えてゆく。
「バックアップ要員を連れてくるとは、抜け目のないやつだ!」
マヤは両手の木剣を振るって奥義を叩き込む。
「百花爆裂!」
一の斬撃が百になり、アラバスの全身を斬り裂くが、流体となった身体はすぐに元通りになってしまう。
「ははは!次はこっちの番だ!」
アラバスが手を上に掲げると、空中に剣や槍が現れる。
「串刺しになるが良い!」
無数の剣や槍が宙を飛んで襲ってくる。
「桜花流水!」
マヤは身体を煙幕にしてやり過ごすが、ユキマルたち、剣士たちは水の動きで剣や槍を弾いてゆく。
「えーい!もう最強魔法を使うよ!」
ビャクヤが杖をアラバスに突きつける。
「ジャルバローダ!」
エルフと人類が編み出した最強攻撃魔法。杖の先に積層魔方陣が出現し、巨大な光の束が打ち出される。それをマトモに食らったアラバスは粉々に砕け散った。
「おのれ!よくもアラバス様を!」
トーチスとカーチスが炎熱魔法と氷結魔法で攻撃をしてくる。魔法使いたちは結界を張って防ぐ。その攻防の間に地面に散らばった液体金属が、徐々に一ヶ所に集まり始める。
「ああ!?最強魔法でも倒せないなんて!」
ビャクヤは驚きで固まってしまった。
「ビャクヤ!私とユキマルの刀を返してくれ!最早、究極奥義を食らわすしかない!」
「わ、分かりました、姉上!」
ビャクヤが杖を振るとマヤとユキマルの腰に、頼もしい重みを感じた。
マヤは蘇ってくるアラバスの前で二本の刀を抜いた。
「ふふふ、刀を持つとは、最後の足掻きか!」
アラバスの両手が巨大化して、鋭利な指が襲いかかってくる。
「裏奥義、明鏡反水!」
マヤの闘気が膨れ上がり、アラバスの攻撃を跳ね返す。
「ちいっ!」
「行くぞ!」
マヤは距離を詰めてアラバスを闘気の中に入れた。
「食らえっ、万花爆砕!」
マヤは光を放つ二刀流をアラバスに叩きつけた。その衝撃波はアラバスの全身を粉々にして、従者もろとも、オーガの魔王軍も半分が吹っ飛んだ。
エネルギーを使い果たしたマヤはその場に膝をついた。
「や、やったか?」
「今のところ、かなり細かく砕かれたようですが・・・」
ユキマルの目が地面を凝視していたが、水銀のような小さな球が徐々に集結しつつあった。
「マヤ様、お下がりください。やつはまだ復活する気です!」
「究極奥義でもダメか・・・」
その時、地面に転がる剣や槍が一ヶ所に集まってきた。
「アラバスめ!失った身体の分を他の金属で補う気か!?」
徐々に大きくなる金属の塊を前に、ユキマルは闘気を開放する。刀が光り始める。
「今度こそ息の根を止めてやる!万花爆砕!」
ユキマルも究極奥義を叩き込んだ。集まっていた金属は全てが細かく砕かれてゆく。残りの魔王軍も巻き込み、近くの建物も衝撃波で崩れ始める。
「こ、これで根絶やしに出来たはず・・・」
ユキマルは片膝をついて呟いた。本来は広範囲攻撃の技をかなり一点に絞って打ち込んだ。これでダメなら後は・・・。
マヤはよろめきながら、ユキマルに近づいた。
「やったか?」
「わ、分かりません。少なくとも生物なら生きてはいられないはずです」
地面を凝視していたマヤとユキマルは、水銀状のものが集まってゆくのを確認した。
「やはり物理攻撃では倒せないということか。ビャクヤ!高温で残さず溶かしてしまえ!」
「分かりました、姉上!みんな、炎熱攻撃を集中させて!ラピットファイヤー!」
ビャクヤの杖の先から超高温の炎が飛び出した。他の魔法使いも一点に炎を集中させる。地上に残されたアラバスの液体金属の身体は、完全に溶かされて煙になって消えてゆく。
「悔しいですが、剣で倒せぬ相手もいるのですね、姫様」
ユキマルの頭に拳骨を落とす。
「姫と呼ぶな!しかし、そうだな。冒険者がパーティーを組んでるのは、お互いに足りない分を補うためだ。我々もビャクヤという魔導士がいるから、これからも助け合って行かなければな」
「御意」
魔法使いたちは念のため、辺りに散乱する金属は全て、高温の炎で溶かして回った。そして、全員で魔力探知を行ったが、アラバスの魔力は完全に消え去っていた。
こうして、魔王が認めるほどの魔王軍幹部、アラバスは討伐されたのだった。
ギルド連邦支部は酒杯を手にした冒険者で賑わっていた。マヤがカップを持ち上げて音頭を取った。
「みんな、強敵相手に良く頑張った!今夜は勝利を記念して大いに飲もう!」
「「「カンパーイ!」」」
みんな、それぞれのパーティーに別れ、お互いの健闘を称え合う。
「しかし、厄介な敵だったな。剣で倒せない相手は、今後はビャクヤに任せたほうが良さそうだ」
「いえ、姉上。最強魔法が通じなかったのですから、これからは相手の属性に合わせて、戦略を考えなければいけません!」
「同感ですな。魔族は様々な魔法を使います。今回は剣士とは相性が悪すぎる相手でした」
「そうだな。剣で切れないやつは、いかんともしがたい」
マヤはカップのワインをあおる。
「大丈夫です。姉上たちの剣技と僕の魔法があれば、どんな敵でも倒せますよ!」
「頼もしいな。頼りにしているぞ」
マヤはビャクヤの顎をくいっと持ち上げ、キスをした。
「ああ、姉上!キスは止めてください!」
「何故だ?単なるご褒美だ」
マヤが両手を広げて微笑んだ。
「あ、それなら私もご褒美のキスを!」
「あたしのキスも受け止めてください!」
続々と魔法使いたちがビャクヤの身体に群がる。
「わあー、止めてよ、みんな!」
ビャクヤが揉みくちゃにされてるのを、マヤは暖かい眼差しで見守る。
「ところで姫様」
ユキマルの頭に拳骨が落ちる。
「姫と呼ぶな!それで?どうかしたのか?」
「ええ、考えたのですが、アラバスは前回の戦いでは空間転移で逃げました。まさかとは思いますが・・・」
「やつが欠片になっても、逃走した可能性があるということか?」
「断言は出来ませんが」
「うーん、しばらくは慎重に様子を見たほうが良いということか」
「警戒はしておいたほうが良いでしょう」
「そうだな。後でみんなにも注意喚起しておいたほうが良いな」
ギルド支部の宴は夜遅くまで盛り上がったのだった。
魔道具店の奥の部屋に気配を感じた。ミルファは立ち上がり、部屋の扉を開けて中の様子を伺った。そこには、僅かな量の液体金属が集まり、小人になったアラバスがいた。
「あらあら、アラバスさん。その様子ですと敗北されたのですね?」
「・・・まだだ。俺はまだこうして生きている。体勢を整えて次こそは・・・」
言いかけたアラバスの身体が、球体の結界に閉じ込められた。
「!?おい、何の真似だ!」
「あらまあ、アラバスさん自身が仰ったんですよ。三度目はないと」
「なっ!?ふざけるな!それを決めるのはお前じゃない!ルキフェル様だ!」
「ええ、そうですね。でもルキフェル様はセイタンズから出られないから、大陸の魔族の管理をわたくしに委ねてくださっているんです」
「な、なんだと!?」
「三度目はない。ええ、そうです。それがルキフェル様の定めたルールです」
「ま、待て!待ってくれ!俺はカリバーにはまだ負けてない!あいつの奥の手を食らっても、こうして生きている!」
「ごめんなさいねえ。わたくしもお仕事なので、残念ですがアラバスさんには退場していただきます」
「ま、待っ・・・」
ミルファが指を振ると球体の中が超高温になり、アラバスは完全に溶けて煙になった。
「お疲れ様でした。また数十年後か、数百年後に依代を見つけて復活してください」
ニッコリと笑顔を浮かべてミルファは奥の部屋の扉を閉めた。
「そういうところは変わらないねミルファ。血も涙もない」
カウンターの上に寝そべった黒猫が、抑揚のない言葉を吐く。
「あらまあ、ジルったら酷い言い種。わたくしは自分の仕事をしただけですよ」
「アラバスは幹部でもかなり上の序列にいたのに、全く容赦がない」
「おやまあ。大事なのは序列ではないわ。単純な強さそのものですわよ」
「また、しばらくは序列の低い魔族しかやってこないね」
「だから序列は関係ありませんよ。煙幕のカリバー、魔導士のビャクヤ、剣士のユキマルを倒せたらそれで良いのですわ。東の方では英雄パーティーも手強くて未だに抹殺に至ってない。次はどの幹部の方がいらっしゃるのか、楽しみですわ」
舌なめずりするミルファを眺めながら、黒猫のジルは何故彼女が直接乗り出さないか、訳を知っている。だが口にすることはない。
ジルはカウンターの上で寝転び、大きなあくびを漏らした。
連邦編その6でした。液体金属の身体を手に入れたアラバスは手強く、マヤとユキマルが連続して究極奥義を食らわしても生き残りました。最後は結局高温で溶かすしか手がありませんでした。剣士には自ずと限界があるんですね。これからの戦いでそれをどう乗り越えるか要注目です。ミルファの存在も何だか不気味でしたね。それでは次回作でお会いしましょう。




