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金色のアラバス 前編

連邦編その5

魔王軍の幹部、アラバスが登場。そして、カリウスは魔人となって、マヤの前に立ちはだかる。

 目を覚ますと、ビャクヤが身体に抱きついて夢の中だった。マヤはその頬にキスをすると、身体を揺すった。

「起きろ、ビャクヤ。朝だぞ」

「ふにゃあー、おはようございます、姉上」

「さあ、顔を洗って朝食にしよう」

 ベッドを滑り降りてマヤは寝間着から、服に着替えた。そして、二振りの刀を腰に差す。ビャクヤはブカブカの魔導士服をモタモタと被る。

 部屋を出ると、すでにユキマルが刀を差して廊下で待っていた。

「おはようございます、姫様」

 拱手して礼をするユキマルの頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!何故、毎朝間違える!」

「それは、マヤ様がヤマトでは本物の姫だからです。初心忘れるべからずですゆえ」

「ふん、二度と戻らない誓いを立てた私はもう姫ではない。姫と呼ぶなよ!」

御意ぎょい

 神妙に頭を下げるユキマルだが、また呼ぶのだろう。すっかりルーティンワークになっている。


 広大な食堂で朝食を摂っていると、マヤの水晶端末が震えた。取り出すとギルド支部長のルイスからだった。

「ルイス、朝っぱらからどうかしたのか?」

『おはようございます!実は厄介な案件がありまして』

「急ぎか?」

『そうですね。出来れば今すぐにでも』

「分かった。なるべく急いで行く」

『お待ちしてます』

 通話が切れてビャクヤが問いかける。

「姉上、何かあったのですか?」

「何やら厄介な案件みたいだな」

「それでは少し急ぎますか」

 ユキマルはピッチを上げて朝食を平らげてゆく。

「僕もこのベーコンエッグを食べきらないと!」

 ガツガツ食べる二人を尻目に、マヤはナイフとフォークを置き、ナプキンで口許を拭っていた。


 王都に近いギルド支部までは腹ごなしを兼ねて歩いてゆく。すると、普段見かける衛兵の姿が見えないことに気付く。

「今日は衛兵の姿が見えないな」

「そうですな。いつもなら鎧姿の衛兵が辺りを巡回してるはずですが、見当たりません。ん?」

 ユキマルは急に刀の柄を握った。

「どうしたんだ、ユキマル?」

「姫様、愛刀を守ってください!」

 ユキマルの頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!ん?刀が・・・!」

 刀がカタカタと動いている。マヤは両手で柄を握った。

「おい、ユキマル!これはお前がこの間言っていた・・・!」

「ええ、恐らくは!」

「ビャクヤ!拘束魔法で刀の柄と鞘を留めてくれ!」

「何だか分かりませんが、分かりました!」

 ビャクヤが杖を出して魔法をかけると、取りあえず刀が抜けることは無くなった。だがそれでもまだ刀がカタカタ動いている。

「ルイスの急ぎの用とはこれか!」

 マヤは駆け出し、ギルド支部の中に飛び込んだ。すると、冒険者たち、取り分け剣士たちが困惑した表情を浮かべていた。

 受け付けカウンターからルイスが出てきた。

「その様子ですと、事態は概ね把握されてるようですね」

「ああ、ハーフドラゴンの討伐の時にやって来た魔族だ。どうやら金属を操る魔法を使うらしい」

 それを聞くとルイスは頷いた。

「やはり、そうですか。剣士や戦士の武器や防具が、目に見えない力で強奪される案件が続出中です」

「それは連邦全体でか?」

「いえ、連絡網を回したところでは、ラシアンだけで起こってる現象です」

「そうか。それはあの魔族の魔法が、ラシアンだけに限定されるということだな。それだけでもまだ救いがある。それに、敵はラシアンに潜んでいるということだ!」

「でも、カリバーさん。俺たちはどうすれば良いんですか?剣が無ければ戦えませんよ?」

 剣士のジークが心細げに言う。

「そうだな・・・よし、武器を無くした連中はこっちに来てくれ!」

 マヤはみんなを引き連れ、修練場に移動した。

「よし、みんなこれを持て」

 マヤが手に握っているのは木剣だった。模擬戦のために大量の木剣が樽の中に突っ込んである。

「え?マジですか!?木剣なんかで討伐は出来ませんよ!」

 冒険者たちは難色を示したが、マヤはビャクヤに向けて二本の木剣を掲げる。

「ビャクヤ、強化魔法で出来るだけ頑丈にしてくれ」

「分かりました、姉上!」

 ビャクヤは杖を取り出し、

「パワード!」

 強化魔法をかけた。

 マヤはさらにもう一本、木剣を取り出し、宙に投げた。

「ふんっ!」

 マヤは木剣を横薙ぎに払って、真っ二つに斬り捨てた。

「「「おおー!」」」

「木剣だから奪われることはない。そして、見ての通り、鋭い剣筋なら本物の剣のように斬ることが出来る」

「そんな手があったんですね!ナターシャ、私にも強化魔法を!」

 女剣士のデボラが自前の木剣を持って同じパーティーの魔法使い、ナターシャに頼んでいた。しかし、他には強化魔法を使えない魔法使いもいるようで、ビャクヤに強化を頼みに来る連中もいた。

「じゃあ、良い機会だからみんなに強化魔法を教えるよ!集まって!」

 ビャクヤによる魔法講座が始まり、剣士たちは木剣でダミー人形を斬り、その切れ味に驚嘆していた。

「取りあえず、武器の件はこれで何とかなったな。だが相手は金属を操る魔族。どんな形で仕掛けて来るか分からん。みんな、今日はラシアンを見回ってアラバスという魔族を探し出して討伐してもらいたい!」

「分かりました!」

「討伐して剣を返して貰わないとな!」

 準備の整ったパーティーからギルド支部を出てゆく。全員が出払うと、マヤは木剣を両手に握って、肩にかけた。

「よしっ、私たちも出るぞ!」

「はい、姉上!」

「御意!」

 マヤたちは絨毯に乗り、空に舞った。アラバス探しのため、上空からの偵察を開始する。


 ライナの王都近くの魔道具店では、ミルファが客を見送って手を振っていた。店内に戻ると、奥の部屋に軽い振動が響いた。

「あら、アラバスさんかしら?」

 ミルファは奥の部屋の扉を開いた。すると、黒い礼服を着こんだ美青年が立っていた。

「あらあら、やっぱりアラバスさんだったんですね」

「従者の強化は済んでいるか?」

「ええ、勿論。出来るだけの強化は施しておきましたわ」

「そうか。おい、起きろ!」

 床に丸まっているカリウスを蹴飛ばし、目を覚まさせる。

「あ?何だ、テメーは?」

 身体を起こしたカリウスは不機嫌な声でアラバスを睨み付けた。

「どうやら、自分の立場を分かってないようだな」

 アラバスはカリウスに手をかざして、電撃を食らわした。

「うおおー!何しやがる!?」

 カリウスは剣を抜こうとするが、どれだけ力を入れても剣を抜くことは叶わなかった。

「お前は俺の従者だ。逆らうことは許さん」

 顔面を蹴られてカリウスは尻餅をつく。

「ぐうう、畜生!」

「だが、喜べ。お前が憎くて仕方ない異国人の冒険者を殺す権利を与えてやる」

「それは・・・本当か?」

「ああ。だから俺の従者となれ。奴らを殺せるだけの魔力を分け与えてやる」

「・・・分かった、いや、分かりました。俺はあなたに付き従います!」

「よし、それで良い。それではラシアンに向けて攻め込むぞ」

「はいっ!」

「お二人とも、頑張ってくださいね」

 ミルファが声をかけると、二人は空間転移で魔方陣から消えた。

「さてさて、全ての金属を従えるアラバスさんと魔人となったカリウスさんを、首尾よくカリバーさんを倒せますかね?」

 ミルブァは頬に手を当てて、小首を傾げた。


 女剣士のデボラと魔法使いのナターシャ、戦士のガムラはラシアン中を隈無く探索していた。

「ナターシャ、魔力探知に反応は?」

「今のところはないわね。ん?ちょっと待って!」

「反応があったか?」

 戦士のガムラが強化された木剣を手に問いかける。

「空間転移してきたようね。凄い魔力量だわ」

「どこなの?」

「先頭を行くわね、付いてきて!」

 石畳で舗装されていない、砂利道を走ってゆく。すると、前方に禍々しい存在が待っていた。

「よう、デボラたちか。久しぶりだな」

 口は耳元まで裂けてびっしりと牙が植わっていた。額に第三の目を持ち、頭には大きな黒い角、背中にはコウモリのような翼が生えていた。そのあまりの変わりようにデボラたちは驚愕していた。

「哀れね。もう見も心も魔物になったの?」

 デボラが木剣を構えて問いただす。

「ひゃっはっは!何だそりゃ?木剣なんか持ってよ。ピクニックでもしてるのか?」

「ただの木剣と思わないことね!」

 デボラは先手必勝でカリウス目掛けて駆けた。カリウスが剣を抜いて待ち受ける。

「それっ!」

 木剣と剣が打ち合う。木剣を叩き斬るつもりだったカリウスは、目を細める。

「そうか、強化魔法で木剣を強化したのか。だが、それならただの鉄棒と変わらないぜ!」

 カリウスが次々と剣で打ち込んでくるが、木剣は傷一つ付かずに剣撃を受け止め続ける。

「ドライド!」

 ナターシャが魔法攻撃を打ち込むが、結界が現れて無効化する。

「魔人化して、魔法も使えるようになったわけ?」

 戦士のガムラが木剣で打ち込むが、

「邪魔だぜ!」

 カリウスは角から電撃を放つ。ガムラは木剣で受け止める。

「ちっ!物理強化だけじゃなく、魔法にも耐性があんのか!」

 デボラとつばぜり合いをしていたカリウスは、先の尖ったあばら骨を身体から飛び出させ、デボラの腹を浅く抉った。

「くうっ!」

 剣をぶつけてデボラは距離を取った。

「下がって、デボラ!ガムラ!拡散攻撃を打ち込むわ!」

 ナターシャの杖の先に積層魔方陣が展開し、数十本の光の束がカリウスを襲う。しかし、翼を使いすでに空中に逃れていた。

「今度はこっちの番だぜ!モアサンダー!」

 カリウスの角から広範囲に電撃が放たれた。

「アーカム!」

 三人は集まって結界で回避した。戦いは続く。


 絨毯に乗り、空から偵察していたマヤたちは、鎧姿の衛兵たちが大量に、一ヶ所に集って倒れている場所に出くわした。

「むっ?ここか?」

 絨毯は緩やかに下降してゆき、その数に驚いた。

「ラシアン中の衛兵が集められてるのか?」

 マヤは用心しながら地に降り立った。ユキマルとビャクヤも続く。

「はっはっは!気に入ってもらえたか?この俺の芸術作品を!」

 鎧の衛兵を積み上げて、オブジェのように飾り立てている。

「ハッキリ言って趣味が悪いな」

 オブジェを背にして黒い礼服を着た美青年が口角を上げている。

「木剣を強化して剣の代わりにしているのか。なかなか冴えているな。俺の魔法は金属にしか使えないからな」

「その通りだ!一騎打ちに応じるつもりはあるか?」

「はっはっは!この軍勢を倒せたらな!」

 アラバスが片手を振ると次元が歪み、中からオークとゴブリンで編成された魔王軍が、続々と現れる。

「ちっ、ここが主戦場か!ビャクヤ!他のパーティーにここに集結するように連絡を!」

「はい、姉上!」

 武装した魔王軍が殺到してきた。

「行くぞ、ユキマル!一気に削るぞ!」

「御意!」

 二人は同時に奥義を繰り出した。

「「百花爆裂ひゃっかばくれつ!」」

 先陣を切っていた大群がゴッソリと吹き飛ばされる。さらに、広範囲魔法攻撃が続く。

「ドライドルーバ!」

 ビャクヤの杖の先に積層魔方陣が展開し、数十本の光の束が軍勢を直撃する。

「ふん、やはり貴様ら三人は数をぶつけても無駄か」

 宙に浮いているアラバスはくいっと手を下げた。すると空中から数百の剣や槍が、雨のように降り注いでくる。

「姉上!ユキマル!こっちへ!アーカム!」

 結界が張られ三人は剣の雨をやり過ごす。

「止まったか?よし、一気に行くぞ!」

 マヤとユキマルはアラバスに向かって駆ける。すると、気を失っている衛兵たちの身体が宙に舞い、塊となって飛んでくる。マヤは身体を煙状に変えてすり抜ける。ユキマルはアラバスの背後に移動していた。

影縫死斬かげぬいしざん!」

 背後を取って木剣を振り下ろす。

「ふん!」

 アラバスの背後に数十の剣が現れ、斬撃を受け止められる。

「ふふふ、まだ刀を後生大事に腰に差しているのか?」

「うおっ!?」

 ユキマルの身体が宙に浮く。刀は帯で固く固定してるので、抜けることはないが、金属を操るアラバスの魔法で思い通りに動かされる。

「ドライド!」

 ビャクヤの攻撃魔法が飛ぶが、衛兵の身体を集結させて、身代わりにする。

「あちゃー、下手に攻撃したら兵士たちに当たっちゃうよ!」

千里一刀せんりいっとう!」

 ユキマルは斬撃を飛ばすが、衛兵たちの身体が壁になり、アラバスに届かない。

「ふふふ、さあ来い、カリバー!」

 アラバスがくいっと手を動かすと、マヤの腰の刀が引き寄せられ、意思とは無関係に身体が引き寄せられる。アラバスは身体の周りに剣や槍を浮かべ、いつでも発射準備の体勢だ。

「串刺しになるが良い!」

 無数の剣と槍がマヤに向けて発射される。マヤは身体を煙状にしてやり過ごし、アラバスに肉薄すると、奥義を繰り出した。

十字連破じゅうじれんぱ!」

 その時、アラバスの身体が金色こんじきに輝き剣撃を跳ね返した。

「なにっ!?」

「ふふふ、俺は自分の身体を金属にして鎧にすることが出来る。いくら強化していようと、木剣では斬ることは出来んぞ!」

 睨みあう両者。そこにギルドのパーティーたちが続々とやって来た。魔王軍に囲まれていたので、ちょうど良いタイミングだった。

「鎧を着た衛兵たちが壁代わりに利用されてる!攻撃する時は気をつけてくれ!」

 マヤは集結するパーティーたちに警告をする。

「了解しました、カリバーさん!」

 剣士のジークは殺到する魔王軍の兵士たちと戦闘に入る。他にも魔法使いたちが加わり、拡散攻撃魔法を敵が集中しているところに撃ち込む。

 マヤは連続突きを頭部に繰り出し、横薙ぎで胴を捉える。しかし、金色に輝くアラバスにダメージを与えられない。

胡蝶剣こちょうけんも通じないか!」

「ふふふ、カリバーよ!お前の敵は背後にもいるぞ!」

「ああ、魔力を感知した!」

 空間転移で現れたのはカリウスだった。もはや人間とは呼べない姿になっていた。

 剣の攻撃を二本の木剣で弾き飛ばす。

「哀れだな、カリウス。遂に魔人に堕ちたか!?」

「はっはっは!何とでも言いやがれ!テメーだけは俺が殺す!」

 カリウスの角から電撃が発射された。煙状になってやり過ごすと、マヤはカリウスの背後に移動していた。

「影縫死斬!」

「けえっ!」

 カリウスは先端の尖ったあばら骨を、背後に伸ばす。だが、その骨はマヤの二本の木剣が斬り飛ばした。

「ぐおうっ!」

 カリウスは翼を使って上空に逃げた。しかし、そこには宙に浮かべられていたユキマルがいた。

「十字連破!」

「なにいっ!?」

 翼を斬り落とされたカリウスは地面に落下した。そこに、ビャクヤの攻撃魔法が撃ち込まれ、カリウスは剣を落とした。

「安らかに眠れ、カリウス!」

 マヤは首を跳ねた。憎しみを宿したカリウスの首が転がり、アラバスがそれを拾い上げた。

「荷が重すぎたか。煙幕のカリバー相手では無理もないが」

 カリウスの首は塵となり、アラバスの手の平に魂石を残した。アラバスはそれを食らう。

「ふん、微弱ではあるが我が糧になったぞ、カリウスよ」

 それを見たマヤは、木剣を放り投げ、拘束魔法を引きちぎって二本の刀を抜いた。

「貴様だけは、絶対に許さん!」

 マヤの瞳に怒りの炎が燃えていた。

「ふふふ、刀を抜くとは。自暴自棄になったか?」

 アラバスが両手をくいっと動かして刀を奪おうとするが、猛烈な闘気が膨れ上がり、結界の役割を果たしていた。

「なにいっ!?魔法が効かんだとっ!?」

「裏奥義、明鏡反水めいきょうはんすい!」

 マヤの体外に漏れでた闘気が、結界の役割を果たしている。そして、一気に距離を詰めた。

千手孔刺せんじゅこうし!」

 マヤの刀が目にも止まらぬ早さで突きを繰り出す。それは人体の百八個ある経絡秘孔を突く、絶対奥義だった。金色のアラバスの全身にヒビが入る。

「なっ、にいいー!?」

 最後に額の秘孔を突かれたアラバスは、膝を着いた。身体中がヒビだらけになっていた。

「おのれ!今日のところは貸しにしておくぞ!」

 アラバスは空間転移で逃亡した。マヤは闘気の使いすぎでその場に腰を下ろした。

「姉上!今、回復魔法でエネルギーをチャージします!」

 ビャクヤが駆けつけ、杖の先をマヤに向けて光のエネルギーを注いでゆく。

「ご無事ですか、姫様!」

 駆けつけたユキマルの頭に拳骨を落とす。

「姫と呼ぶな!はあ、疲れたが、魔王軍のほうは他のパーティーに任せていても大丈夫そうだな」

 マヤは刀を鞘に納めて、大の字になって寝転んだ。


 ギルド酒場の壁にカリウスの剣が飾られ、冒険者たちは黙祷を捧げていた。

「この中にはカリウスと仲間だった者もいるだろう。冥福を祈ろう、献盃けんぱい!」

 マヤは手に持ったワインのカップを掲げた。全員がそれに倣い、カップを持ち上げた。しばらくは静かに酒を酌み交わしていたが、ジークが立ち上がった。

「みんな!カリウスの仇を打つぞ!あのアラバスという魔族が現れたら、今度こそ倒すぞ!」

 みんなが一斉に酒杯を掲げた。

「おうともよ!」

「絶対に許せないわ、あの魔族!」

「今夜の酒はカリウスに捧げるぜ!」

 ようやく、ギルド酒場はいつもの賑わいを取り戻した。

「しかし、あのアラバスという魔族は厄介な相手でしたな」

 ユキマルの言葉にマヤは黙って頷く。

「明鏡反水で魔法は無効化出来るが、エネルギー消費が激しいからな。使えて一度か二度か」

「私とマヤ様で臨めば、倒すのは可能かと」

「次は僕の最強魔法で攻撃します!それで倒せたら良し、でなければ二人で倒してください!」

「うん。問題は次にいつ現れるかだな」

「刀を奪われたら不味いですからな」

「じゃあ、二人の刀は僕の固有結界エアポケットで預かりましょうか?」

 ビャクヤの提案にマヤとユキマルは顔を見合わす。

「そうするか。普段は強化した木剣を持つとしよう」

「それでは、ビャクヤ様。お願いします」

 マヤとユキマルの三本の刀は、ビャクヤの固有結界に保管されることになった。


「あらあら、大丈夫ですか、アラバスさん?」

 ライナの王都近くにある魔道具店に、アラバスは身を潜めていた。この中にいる限り、冒険者たちに感知される心配はない。

「奴らの強さは想像以上だった。まともに正面からぶつかれば、次は破れるかもしれない」

「あらまあ、アラバスさんがそんなことを言うのは珍しいですね」

 ミルファは回復薬を手渡しながら目を見開く。

「実力差があるなら強がっても仕方ない。大事なのは敗北から何を学ぶかだ」

 何本目かの回復薬を飲み干した。身体にあるヒビはかなり小さくなったが、しばらくは無理をしないほうが懸命だ。

「ルキフェル様には何と?」

「次こそ仕留めると報告して、また魔王軍を派遣してもらう」

「あらあら、でもルキフェル様はお怒りになるのでは?」

「一度の敗北は許してくださる。次で挽回すれば良いとな。しかし、三度目はない」

「背水の陣ですね。微力ながら、わたくしも応援しますわ」

「ふん。ならば奴らを倒すアイデアでも考えてくれないか?」

「あらまあ。そうですねえ、ジルと相談しますわね」

「・・・あの黒猫、魔力量が膨大だ。ただのペットではあるまい?」

 アラバスがそう尋ねると、ミルファは人差し指を唇に当てた。

「どうか、秘密にしておいてくださいな。それでは」

 ミルファは奥の部屋から出ると扉を閉めた。

「いや、それを言うならあのミルファも只者ではない。ルキフェル様と懇意にしているようだが、一体何者なのやら」

 ほの暗いランタンが灯る部屋で、アラバスは魔力の回復に努めるのだった。


 店のカウンターの上に黒猫のジルがだらりと横たわっていた。

「アラバスさんは回復するまで、ここに滞在されるそうよ、ジル」

「ここは病院でも監獄でもない。匿ってやる義理はないと思うけどね」

「あらあら、ジルったら。そんな無慈悲なことは言ってはダメよ」

「単なる気紛れだろ?ボクの知ってるミルファはそんな慈悲深くない」

「あらまあ、酷い言い様ですわね。まあ、確かにルキフェル様に諭されるまで、わたくしはブラッドレインの通り名で呼ばれてましたけど、今は魔族のみんなのサポート役ですからね」

「昔の血が騒いだりしないのかい?」

「うふふ。1000年も戦ったのですから、今は息抜きを楽しんでいるのですよ。東の英雄パーティーも魅力的ですが、煙幕のカリバーさんも十分に魅力的ですからね」

「ルキフェル様がエルフや人間を絶滅させる気がないと、どれだけの魔族が知っているんだろうね?」

 すると、ミルファは人差し指を唇に当てた。

「ダメですよ、ジル。それはトップシークレットなんですから」

「勿論、誰にも言わないさ。ボクが黒猫の姿でいる限りではね」

「うふふ、秘密の共有って何だか楽しいですわね」

 ミルファは舌で唇を舐めた。それは妖艶で美しいが、同時に比類なき恐ろしさを秘めていた。


連邦編その5でした。元カインの傭兵の頭目だったカリウスが魔人となってマヤたちの前に立ち塞がります。そしてアラバスは金属を自在に操る魔族。しかも、自分の身体も金属にして剣の攻撃を受け付けません。マヤの繰り出す奥義で一旦は引きますが、次回はさらにパワーアップして登場する予定。次回もお楽しみに!

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