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ハーフドラゴンと魔族 前編

連邦編その3

今回は少し変わった魔族、ハーフドラゴンが登場。強化の影響で魔物化しているカリウスたちも暗躍する。

 流れるような金髪を揺らし、女剣士のデボラは、リザードマンの一体を斬り捨てた。魔法使いのナターシャは杖の先から攻撃魔法を繰り出す。

「ドライド!」

 杖の先に魔方陣が現れ光の束が発射された。リザードマンが数体吹き飛ばされた。

 戦士のガムラはウォーハンマーを振り回して、群れを切り崩してゆく。

 リザードマンはトカゲの魔物なので、湿地帯に主に生息する。

 三人のパーティーはギルド支部の討伐依頼のチラシを見て、リニアの湿地帯に遠征して来た。

 家畜だけでなく、地元の村人の犠牲者が出始めたので、緊急の討伐となった。ニア湖の周辺に生息する、リザードマンはトカゲの顔と体表を持った魔物だ。知恵ある魔物は武器の使い方も心得ている。

「ナターシャ!拡散魔法を!」

 また一体を斬り倒したデボラは、群れの中を指差す。

「オーケー!ドライドルーバ!」

 ナターシャの杖の先に積層魔方陣が展開し、数十本の光のエネルギーが発射された。リザードマンたちが塵に変わってゆく。

「よし、群れのリーダーは私が!」

 デボラが剣を振るって突進する。そこに魔法攻撃が向かってくる。

「なっ!?」

 デボラは高く跳躍し、辛くも攻撃をかわした。

「何者!?」

 デボラが攻撃が飛んできた方向を見ると、そこにはホウキの杖に股がった魔法使いがいた。

「ラボラス!?」

 遠くではガムラがグラシャの剣を受け止め、膠着状態だ。

「ドライド!」

 ナターシャが放った攻撃は、ラボラスの作った次元断層に吸い込まれる。

「あんたたち!また、横取りしようっていうの!」

 剣を構えてカリウスと向かい合うデボラ。

「はははー!早い者勝ちだぜ!」

 カリウスは駆けてデボラと激しく剣を打ち合わせる。以前より強くなっている。それに外見が変わっていた。カリウスの口は耳元まで裂け、鋭い牙が覗いている。

 カリウスだけではない。グラシャはスキンヘッドの頭頂に、牙がビッシリの口がある。ラボラスは禍々しい、額の三つ目の瞳でギョロリとこちらを睨む。

「あんたたち!悪魔に魂でも売ったの!?」

「はははー!強ければ良いんだよ!強ければ!」

 カリウスの斬撃は速くて重いが、模擬戦のユキマルやカリバーに比べればまだ遅い。数合打ち合った後、デボラはカリウスの太ももを斬りつけた。

「うぐっ!」

 一瞬、動きを止めたのを見逃さず、デボラはカリウスの首に斬りつけた。惜しくもかわされたが、そこにリザードマンの族長が槍を持って攻撃してきた。

「貰ったあ!」

 攻撃をかわしたカリウスは、族長の首を斬り落とした。地面で塵に還ってゆくが、そこに落ちている魂石こんせきを拾い上げた。

「返しなさいよ!それは私たちの獲物よ!」

 デボラが剣を突きつけるが、カリウスは目的を果たしたと言わんばかりに、剣を納めて戦場から離脱する。グラシャとラボラスもその後を追う。

「あーん、もう!あいつらまた横取りしたー!」

 魔法使いのナターシャは憤慨した。戦士のガムラがウォーハンマーを地面に突き立て、悔しそうに口を歪める。

「仕方ないわね。残ってる魂石だけ持って帰ろう」

 デボラは剣を鞘に納めて水晶のような石を拾い集める。

「それにしても、あいつら何であんな姿になっちまったんだ?まるであいつら自身が魔物みたいだぜ」

「これは支部に戻って教官に報告した方が良いわね」

 デボラはかつて、カインの傭兵として、共に戦った連中の変わり果てた姿にため息をついた。


 朝の光で目覚めたマヤは、身体に抱きついている、弟のビャクヤの頬に軽く口付けた。

「起きろ、ビャクヤ、朝だぞ」

「うーん、おはようございます、姉上」

 まだぽやんとしてるビャクヤの唇に、軽くキスをお見舞いする。

「あ、姉上!唇にキスはしないでください!」

「目が覚めただろ?さ、着替えて朝食だ」

 素早く寝間着を脱いで、いつもの黒装束に着替える。魔導士服をビャクヤに着せて上げるが、まだ十歳なのでブカブカである。

「なあ、ビャクヤ。サイズを直したほうが良いんじゃないか?」

「僕はまだまだ、これから大きくなるから、これで良いんです」

 そう言われるとマヤも納得せざるを得ない。

 部屋を出ると、ちょうど隣の部屋からユキマルが出てきたところだった。拳と手の平を合わせ、挨拶をする。

「おはようございます、姫様」

 マヤは無言でユキマルの頭に拳骨を落とした。

「姫と呼ぶな!」

御意ぎょい

 本当に分かっているのかと、一瞬ジト目になったマヤだが、

「さあ、食堂に行くぞ!腹が減っては戦は出来んからな」

 元気に食堂へと向かう。


 迎賓館の食堂は広大だ。二十人は座れる長テーブルに、三人だけで利用するのは、贅沢なことだ。メイドが運んでくる朝食が並ぶと三人は手を合わせた。

「「「いただきます!」」」

 三人が食事をしていると、アルガ公爵がやって来た。

「皆様、おはようございます」

「おはようございます、公爵。何かありましたか?」

「ええ、実は昨日もカリウスたちの妨害があった模様です」

 それを聞いてマヤは、フォークとナイフを置いた。

「またですか。性懲りのない連中だ」

「ただ、昨日の報告を聞くと、カリウスたちは徐々に魔物化しているようです」

「魔物化?連中、強くなりたいために、悪魔に魂を売ったか?」

「それが本当なら捨て置けませんね、マヤ様」

 ユキマルは刀の柄に手を置いて進言する。

「魔物化したのなら、遠慮なく討伐出来ます」

「ああ、しかし、そうなると魔族が入り込んでいることになるが、魔力を抑えているのか?ビャクヤ、魔族の魔力反応はあるか?」

「いいえ、姉上。それほどの魔力は探知出来ません。ただ、おそらく隣国でしょうが、時たま妙な魔力を感じます。魔族というわけではなさそうですが」

「ライナでか?あそこは国力はラシアンと同程度。あちらからやって来た冒険者志願も多かったな。魔道具店などの怪しげな店も多そうだ」

「視察にでも参りますか?」

 ユキマルはそう提言するが、マヤは取りあえず保留にした。

「今は冒険者の育成に専念したい。それにやつらが本当に魔物化したのなら、そのうち討伐対象になるだろう」

 マヤはそう判断を下し、ギルド連邦支部に向かうことにした。


 王都から近いので歩いて支部に向かっていると、街道の途中で黒猫を見かけた。

「あ、姉上!黒猫ですよ!」

 ビャクヤは子供らしく、小動物に心惹かれたようだが、黒猫は魔族の使い魔であることも多いので、マヤはチラリと視線を向けただけだ。

「構うなよ、ビャクヤ。居候の身の上なのだから、ペットは飼えないぞ」

「うー、分かってますが・・・心残りです」

 ビャクヤは人差し指をくわえて、黒猫に手を振っていた。そんな弟の頭に手を置き、そっと撫でてやる。ビャクヤは嬉しそうに目を細めた。

 ギルド支部に到着し、扉を開くと、テーブルについていた冒険者たちが口々に挨拶を寄越す。

「おはようございます、教官!」

「おはようございます!」

「ビャクヤ様!おはようございます!」

 ビャクヤにはまたファンクラブが出来たようで、何だがデジャブな感覚だ。

 そんな和やかな雰囲気の中、支部長のルイスがカウンターの中から慌てて飛び出してきた。

「カリバーさん!大変です!」

「何だ、落ち着け。魔族が現れたのか?」

「それ以上です!リニアのニア湖からドラゴンが出現したという連絡が入りました!」

「ドラゴンだと?それは確かか!?」

「はい!目撃情報が多発してます!ドラゴンって魔族より強いんですよね!?」

「うむ。ドラゴンは魔物ではなく神獣だからな。しかし、ドラゴンは基本的には人は襲わないはずだが」

「それだけじゃないんです!先日、リザードマンの群れを討伐したはずなのですが、また群れが現れました!しかも今回は以前より装備の整った群れのようです!」

「それは魔王軍かもしれないな。すると、現れたドラゴンというのは、魔族かもしれない」

 マヤは腕を組んだ。いよいよ魔王はこの連邦を本格的に荒らすつもりなのかもしれない。

「カリバーさん!そこの討伐を担当したのは私のパーティーです!まだ討伐しきれてなかったのなら、私たちも連れて行ってください!」

 女剣士のデボラが立ち上がる。ナターシャとガムラもそれに倣った。

「うーん、そうだな。魔王軍の数が多いなら人手は欲しいところだが」

「お願いします!」

 デボラたちは頭を下げる。

「分かった。だがドラゴンのほうは手を出すなよ。神獣だし、ひょっとしたら魔族の擬態かもしれないからな」

「はいっ!」

 マヤはギルド支部を出るとビャクヤに絨毯を出させた。マヤとユキマルが乗り込み、デボラとガムラも座り込む。

「よし、ビャクヤ!目標はリニアのニア湖だ!」

「はいっ!出発します!」

 絨毯が浮き上がり、十分高度を取ると、滑らかに空を飛んだ。


 二時間もすると、リニア国に到着する。ニア湖は隣国バキアとの国境に近い森林沿いにある。その周りは湿地帯となっており、村からも離れている。

「ビャクヤ、魔力探知に反応は?」

「湖の中から微かに感じます!だけど、森林の中に沢山の魔物の魔力を感じます!」

「湿地帯だからリザードマンの兵隊かもしれないな。よし、降りてみよう」

 マヤの合図で絨毯は静かに地面に降りてゆく。湿地帯を前にした、麦畑の中に着地する。

「さて、ドラゴンのほうは呼び出しが必要かな?」

 刀の柄に手を置いて、マヤは呟く。

「湖の中はこいつに探索してもらいましょう」

 ビャクヤは魚を型どった木のオモチャを取り出した。

「さあっ、湖の中を調べて来てよ!」

 オモチャは放り投げると、本物の魚のように変身し、湖の中に沈んでいった。

「これで、動きがあれば直ぐに分かります」

「よし、湿地帯に入るぞ。足元がぬかるんでいるから気を付けろ」

 マヤはそっと足を浸けた。ブーツの三分の一が沈み込む。奥を覗き込むと、森林のかなり深いところまで湿地帯が伸びている。

「姉上!湖に動きが!」

 その声に一同が湖に視線を向けた。水飛沫を上げて姿を現したのは、全身が鱗に覆われ背中に翼を持つ巨大なトカゲのような化け物だ。

「カ、カリバーさん!あれがドラゴンなのですか!?」

 デボラが剣の柄を握っていた。

「いや、あれは神獣のドラゴンじゃない!リザードマンが進化したハーフドラゴンだ!」

 湖上に滞空しているハーフドラゴンは牙を剥き出した。

「貴様が煙幕のカリバーか!俺の名前はブエル!魔王軍の幹部にして、ハーフドラゴンだ!」

「魔王は本格的に連邦をターゲットにするつもりか!」

「わっはっは!長らく未開拓ではあったが、貴様がやって来たことで新たに標的となった!なかなか荒らし甲斐がありそうだ!」

「ちっ!人をダシにするな!」

 マヤは二本の刀を抜いた。そして、湿地帯には鎧や剣で武装したリザードマンの軍勢が現れた。

「ビャクヤ!後方支援を頼む!ユキマルはデボラたちをフォローしろ!」

「御意!」

 絨毯に乗って宙に浮くと、ブエルと対峙する。体長は10メートルはありそうだ。

「食らえっ!」

 ハーフドラゴンは牙の植わった巨大な口を開け、火を吐いた。

「アーカム!」

 ビャクヤの結界で炎は散らされた。

「ビャクヤ!空中歩行の魔法を頼む!」

「分かりました!エアウォーキン!」

 マヤのブーツが光に包まれると、そのまま空中を駆けた。すると、ブエルは長い尻尾を振り回してマヤを弾き飛ばそうとする。しかし、マヤはブエルの目の前に移動していた。

影縫死斬かげぬいしざん!」

「んなあっ!?」

 マヤの斬撃がブエルの右目を斬り裂いた。

「ぐぅあああー!」

 ブエルは鉤爪の植わった前足でマヤを捕らえようとするが、

十字連破じゅうじれんぱ!」

 縦と横に斬り裂かれ、血飛沫が飛ぶ。

 そこにダメ押しでビャクヤの攻撃が続く。

「ドライド!」

 杖の先から光のエネルギーが発射され、ハーフドラゴンの巨大な腹に命中する。

「ぐぅおあああー!」

 ブエルは咆哮すると、身体を縮めた。

「舐めるな!スケイルドゥーム!」

 ブエルの体表のうろこが爆発的に周辺に打ち出された。数百の鱗が鋭い凶器となって襲いかかってくる。

桜花流水おうかりゅうすい!」

 嵐のように襲いかかってくる鱗を、流れる水の動きで弾いてゆく。その場に止まらざるを得ない状況で、ブエルの突起のついた尻尾が襲いかかってくる。

「アーカム!」

 ビャクヤがマヤの身体を結界で覆った。直撃は免れたがマヤは結界ごと遠くに飛ばされた。


 湿地帯にはリザードマンの軍勢が待ち伏せていた。しっかりと鎧と剣や槍で武装している。野生のリザードマンではなく、魔王軍の兵隊であることが分かる。

「それっ!冒険者を討ち取って武勲を上げるのだ!」

 隊長らしき個体が槍を構えると、兵隊たちがどっと押し寄せた。ユキマルは一歩前に出て、刀を抜いた。

百花爆裂ひゃっかばくれつ!」

 先頭のリザードマンを斬り捨てると、ごっそりと百体近くの兵隊が吹き飛ばされる。

「す、凄い!」

 デボラは剣を構えた状態で呆気に取られていた。

「さあ、今だ!敵の混乱に乗じて一体ずつ確実に仕留めてゆけ!」

「「「はいっ!」」」

 デボラは剣で斬り倒してゆき、ナターシャは、リザードマンが固まっている場所に拡散魔法を撃ち込む。

「ドライドルーバ!」

 積層魔方陣から複数の光の束が飛びだし、敵に打撃を与える。ガムラはウォーハンマーで群がる敵を、怪力で次々屠ってゆく。

 そこに邪魔者が入った。横合いから何者かが攻撃し、敵の軍勢に乱れが生じた。

「あれはカリウスたち!また邪魔しに来たのね!」

 ユキマルは一体を倒して、突然参加してきた連中を観察する。姿はカリウスたちに間違いないが、形は人間とは言い難くなっている。

「カリウス!お前たちは悪魔に魂を売ったのか!?」

 ユキマルの問いにカリウスは耳まで裂けた口を醜く歪めた。

「何のことだ!俺たちは強くなるため強化してるだけだ!」

「自分の姿を鏡で見たほうか良いぞ!」

「はっ!強くなれればそれで良いんだよ!」

 混線の中、カリウスは剣を振るってユキマルに挑みかかってきた。

「そうか、ではお前らは魔物として討伐してやる!」

 ユキマルは激しい突き技をカリウスの顔面に向けて放つ。思わず仰け反ったカリウスの胴を横薙ぎに払った。

胡蝶剣こちょうけん!」

「うおおー!」

 腹から血を流し、距離を取ろうとするカリウスを追撃しようとするが、そこにグラシャが斬りかかってきた。身体を開いてかわしたユキマルは容赦なく刀を振り上げたが、そこに魔法攻撃が飛んできた。地を蹴って素早く距離を取る。

「食らいな!グラゾール!」

 ラボラスが魔法攻撃を追加するが、

「アーカム!」

 ナターシャが結界を張って攻撃を無効化する。

「助かったぞ、ナターシャ!」

「いえ、礼には及びません!」

「あいつらはもう魔物だ。遠慮なく討伐するぞ!」

「はいっ!」

 ユキマルと三人のパーティーは激化する戦場に身を投ずる。


「むうんっ!」

 マヤは二刀流で斬撃を加えるが、ブエルは柔らかい身体の前面を庇い、鉄より硬い鱗に覆われた背中で攻撃を凌いでいる。そして、目の前にいるビャクヤには炎を吐いて攻撃する。

「アイシングラート!」

 ビャクヤは氷結魔法で炎を凍らせる。

「おのれー!もう一度食らえっ!スケイルドゥーム!」

 ブエルは身を縮めると再び四方八方に鱗を飛ばした。だがマヤはすでに刀で防ぐこともせず、身体を煙状にして鱗をすり抜けさせている。

「こいつは攻撃力より、防御の鉄壁さが厄介だな」

「姉上!最強魔法を使います!」

「ああ、もうそれくらいしか手がないな」

 身体を丸めて宙に浮いているハーフドラゴンに、ビャクヤは最強魔法を行使する。

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤの杖の先に積層魔方陣が展開し、あらゆる悪魔を焼き尽くす光の束が発射された。光はブエルの背中に命中し、身体を貫通した。

「ぐわあああー!」

 ブエルは流石に丸まったままでいられず、仰け反って悲鳴を上げた。

「よし、今だ!」

 マヤは空中を駆けて奥義を繰り出そうとするが、その前にブエルは空間転移で逃亡した。

「ちっ!もう一歩のところで!」

「姉上、仕方ありません!リザードマンの軍勢を片付けましょう!」

「ふう、しょうがないな・・・ん?」

 マヤはユキマルたちとリザードマンの軍勢の他に、三人の魔物が参戦していることに気付いた。

「噂には聞いていたが、確かに魔物化しているようだな」

 マヤは空中を駆け降りていった。


 ラボラスの次元断層が邪魔で斬り込めない。

「なら、これでどうだ!」

 ユキマルの姿はラボラスの背後に移動していた。

「影縫死斬!」

「背後からの不意打ちには、いい加減慣れたよ!」

 ラボラスは背中からあばら骨を飛び出させ、ユキマルの身体を串刺しにしようとする。

「むうっ!?」

 ユキマルは咄嗟に身を引いてかわそうとしたが、左腕の肉を少し持っていかれた。

「ちいっ!」

 ユキマルは転がるようにして、ラボラスとの距離を取った。ラボラスが次元断層にユキマルを吸い込ませようとするが、そこに最強魔法が飛んできた。

「ジャルバローダ!」

 ビャクヤの放った光の束は次元断層をも消滅させた。

「なにぃっ!?」

 ラボラスは慌ててホウキで移動して光の束から逃れた。

「覚悟しろ!カリウス!」

 デボラと斬り結んでいたカリウスは、空中を降りてくるマヤの姿を認めると、地面に落ちている魂石を拾いつつ逃亡に移った。

「グラシャ!ラボラス!教官殿のお出ましだ!ずらかるぞ!」

 飛行するラボラスのホウキに掴まり、三人組はあっさりと逃げを決め込んだ。

千里一刀せんりいっとう!」

 マヤは斬撃を飛ばしたが、カリウスの剣がそれを受け止めた。

「なにっ!?」

「へっへ!俺たちももう少しであんたに追い付くぜ!いつか、キッチリと形をつけてやる!」

 捨て台詞を残して三人組は空間転移で姿を消した。

「ちっ!逃がしたか!」

 そこにユキマルが駆けつけた。

「ご無事ですか、姫様!」

 ユキマルの頭に拳骨が落ちる。

「姫と呼ぶな!しかし、カリウスたち、本当に魔物化していたな」

「お陰で遅れを取りました」

 ユキマルの左腕からは血が滴り落ちていた。そこに絨毯に乗ったビャクヤが降りて来た。

「ユキマル、じっとして!回復魔法をかけるから」

「ありがとうございます、ビャクヤ様!」

 地上のリザードマンの軍勢は、あらかた片付いていた。後はデボラたちに任せて大丈夫だろう。

「しかし、カリウスたちを強化してる魔族はどこに潜んでいるんだ?」

 血糊を飛ばして刀を鞘に納めたマヤが、首を捻った。


 カリウスたちは顔をすっぽり隠せるローブをまとい、ライナの王都近くの魔道具店を訪れた。扉を開くとドアチャイムが鳴り、

「いらっしゃいませー!」

 妙に明るい店主に出迎えられる。

「今日はたっぷり拾って来たぜ。一気に強化してくれ」

「あらあら、そうなんですね。それでは奥にどうぞー」

 ミルファの魔道具店では、日常になっているやり取りだ。強化を終えた三人は、もはや人間とは呼べない肉体を得て、店を出ていった。

「またのお越しをお待ちしてますね!」

 ミルファは笑顔で手を振っていたが、背後に立った人物に気付き、振り返った。

「あらまあ、アラバスさん!お久しぶりです!」

 そこにいたのは、黒の礼服を着こんだ紳士だった。顔は道行く若い娘が虜になるほどの美形だ。

「相変わらずセコい商売をしているな」

 その声も蜂蜜のように甘い。

「あらまあ、失礼ですよう、アラバスさん。わたくしはお客様のご要望にお応えするのが仕事をしているだけですよ」

「ふん、まあ良い。ブエルのやつが負傷してな。回復薬が欲しいんだが」

「そうですか。すぐに用意しますので中でお待ちくださいな」

 ミルファは店内に戻り、男もその後に続く。カウンターの中にミルファが入り、用意をしている間にアルバスは机の椅子に腰かける。机の上の水晶球を覗き込んでいると、青い液体の入った瓶を持ったミルファがやって来た。

「あら、興味がおありですか?良かったら占いますよ」

「いや、遠慮しておこう。俺は薬を貰いに来ただけだ」

 ミルファから瓶を受け取ったアラバスは立ち上がった。

「あら、もうお帰りですか?何か他にご入り用の物はありませんか?」

「今日は薬を取りに来ただけだ。それにしても・・・」

 アラバスは切れ長の目を、魔道具店主に向けた。

「ルキフェル様はなんでお前を好き勝手にさせてるんだろうな?理由が分からん」

「あらあら、ではルキフェル様にお尋ねになってみては?」

「恐れ多くて、そんな質問出来るか」

 アラバスはにべもなくそう言い、背中を向けた。

「まあ、ルキフェル様が何も言わない以上、俺も詮索はしない。それじゃあな」

「はい、またのお越しをお待ちしてます!」

 ミルファは満面の笑顔でアラバスを見送った。


「デボラたちにはちゃんと報酬を払ってやってくれ」

 マヤはカウンターでルイスにそう頼んだ。

「はい!魔王軍が相手だったなら、かなり高額になりますね」

「報酬は国庫から落ちるんだろ?ケチケチしないでくれよ」

「分かってますとも!」

 ルイスはカウンターの奥に引っ込んだ。

「すみません、カリバーさん。カリウスたちにまんまと逃げられました」

 デボラは頭を下げる。

「何を言ってるんだ。お前たちはやれるだけのことはやった。それで十分だ」

「ありがとうございます!次の機会があれば今度は逃しません!」

「その意気だ」

 マヤはデボラとハイタッチをかわし、酒場のほうでビールを注文する。


連邦編も3話目。リザードマンが進化したハーフドラゴンが登場します。そして魔力を抑えるのに長けた、例の魔道具店の店主、ミルファも再登場。そして新たな魔族も登場します。今後の展開にご注目を!

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