43.寄り道の先
ブルーモンキーはその後何度も襲い掛かってきた。やはり第二の街に続く道よりも第三の街に続く道の方が出現率も上がっているのだろう。特に今回は寄り道をするために街道から外れているので、よりモンスターが出てきている気がする。
しかし、ブルーモンキーに続いて出てきたパラライズバタフライとポイズンスネークはあまり脅威にならなかった。気を付けるとすれば、毒消し薬と痺れ取り薬の飲みすぎくらいだ。
ポーション類の飲み過ぎはモンスターが出てきた時、前に出てくれる岩凪が一番やばい。
しかも体が小さいので、どこまで飲めるのか分からないのだ。特に岩凪は無理をするところがあるから注意深く様子を見る必要がある。
私は頑固おやじのような岩凪を軽く撫でた。
「無理になる前に言うんだよ? 私は岩凪の辛さが分かるわけじゃないんだから」
我慢されてしまうとどういう状態なのか分からない。ステータスに出るのは限界を迎えた時だけだ。
限界を迎えた後で辛いと言われてももう遅いんだよなぁ。
フィールドだと休む場所もないし。
私は草むらから現れたポイズンスネークをスリングショットで打ち抜き、【空間収納】に入れる。当然解体用ナイフを刺した後でだ。
岩凪に攻撃が当たる前に対処する能力もかなりついたと思う。
ラテが変に鼻をひくひくさせたらモンスターが近くにいると思った方が良い。
私のテイムモンスたちはみんな優秀だった。
「んー、そろそろ目的地につくかな? かすかに水音が聞こえてくる気がする」
つぶやきながらパラライズバタフライをスリングショットで打ち抜く。
気を抜きさえしなければやられることはないだろう。パラライズバタフライもポイズンスネークも私にとって相性が良さそうだ。
攻略組の人たちが苦戦をしてたのは中距離攻撃の人が少ないからかな。
魔法だと詠唱に時間がかかっちゃうもんね。
スリングショットは構えて打つだけだから予備動作が少ない。けれど詠唱が必要な魔法はどうしても時間がかかるのでタンクの人と接触してしまうらしい。そうなると高確率で状態異常にかかるので、状態異常回復薬が必要になる。
やっぱ【弓】は人気がないんだねぇ。
パラライズバタフライは大きい分狙いやすいのに。
分かっていたことだけれど、少し落ち込む。
こんなに楽しいのに不遇職とは残念だ。
私はどうにか【弓】を流行らせられないか考え、すぐに諦めた。
「命中力の低さをどうにかしないと難しいかなぁ。そうなると必中のお守りを作るとか? 流石に必中は難しくても命中アップのお守りは【付与魔法】があれば作れそう」
スキルレベルが上がればかなり当たりやすくなるアイテムが作れそうだ。
それでも私が持っているスキルでは対応するのが難しい。【付与魔法】だけならまだしもお守りをつくるのに別のスキルも要る。そこまでスキル枠やお金を消費して【弓】の人口を増やしたいという熱意はなかった。
【弓】の布教を諦めた私は岩凪を含め、全員を抱え上げる。
さすがに腕に抱えてしまうとスリングショットが打てないので、肩や頭に乗ってもらう。油断できる状況ではないけれど、岩凪のペースに合わせると歩くのにかなり時間がかかってしまうのだ。多少リスクを負っても早く目的地に着きたい。
そう考え、敵を一撃で倒しながら歩いていくと、ようやく視界が開けた。
「やった! 目的地に到着!」
突然森が開け、目の前に滝が現れる。結構な高さと水量があるから大迫力だ。
VRMMOならではのリアリティで水しぶきが上がっている。
いいね!
調べてた通りマイナスイオンが漂ってきそうな滝じゃん。
ポーションの準備が整ってもすぐに戦いに出なかったのはこの滝の位置を調べる為だったのだ。攻略組はあまり滝に興味がなかったようで情報が中々手に入らなかった。
最前線に来るような攻略組はストイックに強さを求めているのだろう。
でも来れて良かったぁ。
滝つぼがあるって聞いて【釣り】をしてみたかったんだよね。
この滝は今回の目的地のひとつだ。できれば第三の街周辺まで行きたいけれど、最悪この滝まででも構わない。
それくらいこの滝に興味があった。
「さてさて、準備ができたら【釣り】かな。先にみんなを休ませないと」
私はここに辿り着くまで頑張ってくれたラテたちにご飯と水を渡す。薬草丸のご飯は肥料だったので、【空間収納】から植木鉢と栄養豊富な土を出しておいた。
「ササッ!」
うれしそうに駆け寄る薬草丸はなんだかおもしろい。土に根をはっていると普通の薬草に見える。
まあ、頭に枯葉の帽子を乗せているから薬草丸だって分かるんだけど。
ただ、この帽子が飛んで行ってしまったら見分けがつかないだろう。
ラテや岩凪がレアな種族で同じモンスターを見たことがないから、余計に薬草丸が見分けにくく感じる。
それでもステータスを見なくても判別できるようになりたいな。
帽子で見分けてるって微妙だし。
ひそかな野望を胸に私も水を飲んだ。
そのままサンドウィッチも軽くつまみながら【釣り】の準備をする。ただ、ながら食べをしていたせいでサンドウィッチがのどに詰まる。
「ゲホッ……ゴホゴホ」
まさかゲームで食事が喉に詰まると思っていなかった。
私は慌てて水で流し込み、心配そうに駆け寄ってきたラテと薬草丸にお礼を言う。薬草丸は回復技までかけてくれた。
「ほんとこのゲーム、妙にリアルなんだよなぁ」
呆れたらいいのか感心したらいいのか分からない。でも、リアルでやったら危ないことはゲーム内でも危険そうだ。
食べ物を喉に詰まらせて死に戻りなんてしたくない。
私は気を付けてサンドウィッチを頬張った。
「さて、気を取り直して【釣り】だ、【釣り】!」
ちょっとしたハプニングはあったけれど、滝つぼで何が釣れるのか気になる。気分的にはレアな魚が釣れそうだ。
ワクワクしながら釣り糸を垂らすと、すぐに魚が食いつく。
「おお!」
感動しながらリールを回し、中くらいのサイズの魚が釣れる。おなかのところに走る朱色の線が綺麗だ。
初めての魚なのでバケツに入れて泳ぐ姿を観察していると、岩凪も近づいてくる。見たことがない魚に興味があるようだ。
「…………」
のっそりと歩いてくる様は相変わらず貫禄がある。
私は岩凪に食べられる前に魚を【観察】をした。
ふーん、これがウグイっていうんだ。
お腹が赤くて綺麗だね。
サイズも30センチくらいでそれほど大きくない。岩凪のお腹を満たすには一度で半分くらい食べられてしまいそうだ。
それでもブラッキングバスには存在しない美しさがあった。
「なんでだろ、普通の魚なのにすごく美味しそう。おめでたい色合いのせいかな」
本物のウグイを見たことがないはずなのに、腹が空いてくる。塩焼きにしたら美味しそうだ。
サンドウィッチを食べたばかりなのに主張を始めるお腹をなだめ、岩凪にウグイをあげた。
「ふんふん、やっぱ滝つぼは良いね。第二の街周辺の川より良い魚が釣れる気がする」
ウグイは本来、繁殖期の春にお腹が赤くなる。しかも春先になると流れの穏やかな川に移動するはずだけれど、そんなことは私もゲームを作った運営も知らなかった。
ついでにヤマメやウグイがルアーではなく生餌や練り餌釣りなことも未知の領域であった。
そのまま【釣り】を続け、ウグイやヤマメを釣り上げる。
どちらもリアルと同じ名前だ。
前よりも簡単に釣れているのは釣竿を買い替えたからかな。
やっぱリールは必要だよね。
釣り糸を手で手繰り寄せるのには限界がある。むしろあれでよくブラッキングバスを釣り上げたものだ。たぶんスキル補正が働いたのだろうけれど、普通ではありえない。
だから釣るのが大変だったのだろう。
私はブラッキングバスを釣った時のことを思い出しながら、餌をルアーから練り餌に変えた。
「第二の街周辺の川だと練り餌は微妙だったんだよなぁ」
けして釣れない訳ではない。ただ、なぜかニザリガばかり釣れるだけだ。
しかも第二の街周辺の川の魚って不味そうだったよね。
自然豊かな場所の方が美味しそうな魚が釣れるのかな。
口を尖らせながら釣り糸を投げ込む。
良い感じの場所に落とす力も少しずつついてきた気がする。
「あー、長閑だね~」
燦々と照り付ける太陽に、水が滝つぼに落ちる音。時折頬にかかる水しぶきさえ心地いい。
ここがゲームの中だということすら忘れてしまいそうだ。
ぼーっとしながら釣竿を抱え、うとうとする。
周囲はすでに茜色に染まっていた。
ピクッ
ピクピク
「…………ん? なに?」
しばらくなかった反応が急に訪れて目を瞬かせる。
うとうとしていたせいで対応が遅れてしまった。
「やば、ヒットしてるじゃん」
慌ててリールを巻くと、さすがに魚は逃げてしまっていた。
「あーあ、残念」
まだあまり働かない頭でもう一度練り餌をつけて、同じような場所に落とす。先ほどの魚が再び食いつくとは思えないけれど、これで釣れなかったら第二の街に戻っても良いだろう。
すでにログインしてからそこそこ時間が経っていた。
「……ぷぅ」
安全とは言えないフィールドで気を抜いていた私をラテが微妙な顔で見てくる。
もっと緊張感を持てと言われていそうだ。
「ごめんごめん」
ラテのご機嫌を取るために撫でていると、再度魚が食いついた。
「あ、やば……」
ラテを撫でていたせいで釣竿を軽くしか握っていなかったのだ。魚に引きずられるように釣竿が滝つぼへ向かっていく。
「あああ!」
買ったばかりの釣竿を失うのは痛い。
私は慌てて釣竿を掴み、踏ん張った。
こんな強い引きなんて此処ではなかったのに!
きっとタイミング悪く大物が食いついたのだろう。
踏ん張っても滝つぼ周辺が岩場になっていてツルツル滑る。苔むして濡れた岩の上で滑らないなんて無理があった。
「むむむ! こんなことで溺れたくない」
溺れる以前に転んで怪我をする気がする。
HPが削れそうな行為と釣竿を天秤にかけ、私は釣竿を手放した。
「…………ばいばい」
何とも言えない気持ちで滝つぼに落ちていく釣竿に手を振る。
こんなことなら気を抜くんじゃなかった。
隣ではラテと薬草丸も釣竿に手を振っている。珍しく岩凪も近くで釣竿を見守っているようだ。
悲しい気持ちで滝つぼに吸い込まれていく釣竿を見守っていると、姿が見えなくなる寸前で叫び声が聞こえてきた。
「ピギャー!! ピー! ピィィィ!!」
「え? なに?」
怖くなって滝つぼから距離を取ると、水の中から細長い魚が現れる。
滝つぼで暴れまわる見たこともない魚に私はドン引きした。




