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戦闘力ゼロから始めるやりたい放題のVRMMO  作者: kanaria
ゲーム始動

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4.チュートリアルは途中で飽きる

 再び赤い矢印にそって街中を歩いていると小さな川に出た。テイマー組合のあった場所とは違って空気ものほほんとしている。


「ちょっと休憩しよ」


 喉が渇いている気がして確認すると乾きゲージが減っている。

 空腹の方はまだ無視しても大丈夫そうだけど乾きの方は50%くらいしかない。乾きが0になるとMPが減少し始め、空腹が0になるとHPが減りはじめるらしいのでそれ予防なのかもしれない。

 どんな技術を使ってるんだろ?


 気にはなるものの、そういったことには詳しくない。

 分からないことを考えるよりも水を飲んで乾きを回復させた。アンゴラウサギィにも渡そうとしたけれどアンゴラウサギィは水筒からではなく川から直接水を飲んでいる。


 アンゴラウサギィは空腹ゲージもそこそこ減少しているので採取した雑草を一種類ずつ前に置く。するとミツバのようなものを食べ、白い花の咲いた小さな草と小ネギっぽいものを蹴り飛ばした。


 蹴られたものは食べないのかな? もしそうなら売り払ってしまっても良いかもしれない。

 食べなさそうな雑草をカバンにしまって私も川辺に座り込んだ。


「こういうのがのどかって言うのかな」


 仕事を始めてからただぼーっとしたことなんてなかった。

 でもリラックスするには重要なことだったのかも。


 何とはなしにアンゴラウサギィの食事を眺めていると、近くで釣りをしていたおじいさんが話しかけてきた。ステータスが出ないので街人のAIだろう。


「随分珍しいモンスターを連れているのう。初めて見た。ほれ、魚は食うか?」


 釣り上げたばかりの魚をアンゴラウサギィの前に出すけれどアンゴラウサギィは見向きもしない。うさぎが魚を食べる印象はないから食べないのだろう。


「ほう、食べない。魚は食べないのか……。残念じゃのう」


「なんかすみません」


 なんだかおじいさんはものすごくショックを受けてる。

 別に悪いことをした訳ではないけれど目の前でがっかりされて反射的に謝ってしまった。おじいさんはここ数年で一番ショックだと言わんばかりに落ち込んでいる。


 このまま放置するのもかわいそうなのでアンゴラウサギィが喜んで食べていたミツバのようなものをカバンから取り出した。


「多分、これなら食べると思うのでどうぞ」


「これはこれは親切にありがとう」


 おじいさんは釣竿を置いてアンゴラウサギィにミツバもどきをあげる。アンゴラウサギィを撫でるおじいさんは幸せそうだ。きっとウサギが好きなのだろう。


 やっぱりアンゴラウサギィの魅力はNPCにも通じるんだ!

 まだ名前すら決まってないけど。


 その光景を眺めながら頷いていると、ふいに風が吹いておじいさんの釣竿が川に落ちかける。


「あ、やば!」


 慌てて駆け寄るとギリギリのタイミングで釣竿をキャッチできた。


 セーフ!

 飛ばされたのが長い釣竿で良かった。


 おじいさんも慌てていたけれど全然間に合わない場所にいたので私が取れなかったら川に流されてしまっただろう。


「おお、ありがとう。その釣竿は亡き妻が買ってくれたものでな。なくなってしまったら顔向けできないところじゃった。代わりと言ってはなんじゃが昔使っていた釣竿をやる。この子に触らせてももらったしのう」


「えっ、でも……」


 別に大したことをした訳じゃない。アンゴラウサギィを可愛がる同士を見つけて川に落ちそうな釣竿を止めただけだ。でもおじいさんにとってはどちらも感動的なことだったらしく川釣り用の竿とウキ、えさ、網、バケツをくれた。

 もう使ってないものなので要らなければ処分しても良いとのことだ。


 なんだか悪いなぁ。貰いすぎた気分。


 ちらっとおじいさんを見るとおじいさんは満足そうに頷いている。


「お主は【釣り】を持っているじゃろ? それなら一式を持っていた方が良い。なんなら教えるから一緒に釣りをせんかね」


「良いの?」


「構わん構わん。むしろ話し相手がいる方が楽しい。この年になると話し相手も少なくてのう」


「ありがとう。【釣り】はしたことがなくて……。一から教えて欲しいんだけど」


 チュートリアルでもないのに親切なNPCだ。

 私はいそいそとアンゴラウサギィの食べなかった雑草をしまった。


「分かったわい。まずは針に餌をひっかけるんじゃ。わしは生き餌が苦手だから練り餌を使っておる。お主は好きにやるといい」


「私も生き餌は苦手だから練り餌が良いな」


「ほっほっほ、仲間だのう。魚卵も使えるから色々試してみると良い。練り餌が欲しければわしに話しかけろ。少しなら分けてやる」


「ありがとう。助かるよ!」


 このおじいさんは【釣り】を取った人用のNPCなのだろうか。なかなかに親切だ。


「次に針の少し上を持って川に投げ込む。大きく振りかぶるのはベテランになってからの方が良いのう」


「はい」


 言われたとおりに手首のスナップを使って川に針を投げ入れる。狙ったところからは少しずれてしまったけれどどこかに絡まったりしていない。

 とりあえず第一歩?


 人生初の釣りにしては上手いのではないだろうか。ひとりニヤついていると、おじいさんが不思議そうに首をかしげた。


「さて後は待つだけじゃ。この川には大した魚がおらんが代わりにそこそこかかりやすい。お主もぼーっとしたい時に釣りをすると良いぞ」


「このピクピクしてるのが、かかったってこと?」


「随分早いのう。その通りじゃ」


 アドバイスをもらいながら竿を上げると小さな魚が食らいついていた。【観察】を使うと煮干しと出る。


「煮干し? 煮干しって煮て干すから煮干しって言うんじゃ……」


 何故か釣れた時から煮干しと表記されている魚を凝視する。見間違いにしては名前が変わらない。なんだろう。まさか見間違いじゃないと言うのか。

 いやでも煮干し……。

 

 とりあえずバケツに入れて何度も確認したけれど魚の名前は煮干しのままだ。煮干しが優雅にバケツの中を泳いでいる。


「おじいさん、この魚って本当に煮干しでいいの? 煮干しって煮干しだよね?」


「何が言いたいのかよく分からんが煮干しじゃの。この川でよく釣れるそのまま食べれる魚じゃ。小さいのが難点だが香ばしくてうまい」


「そうなんだ……」


 おじいさんは釣り上げた煮干しをそのまま齧った。

 食べ方も煮干しらしい。


 運営が魚について詳しくないのかネタなのか……。まさか何かのイベントのトリガーなんてことはないだろうし。


 よく分からないけれどかじってみると煮干しの味がした。


 その後しばらく釣りをして煮干しを13匹とメダカを5匹釣り上げる。途中ヤドカリという成果に含めていいのか分からないものまで釣れた。

 おじいさんは予定があるとかで既に帰宅してしまったけれど中々の釣果だろう。


「さて、そろそろチュートリアルの続きをするか」


 釣りをするのにも飽きてきて立ち上がる。竿置きがなくずっと釣竿を掴んでいたので腕が震えている気がする。


「プゥ」


 軽く伸びをするとアンゴラウサギィも近づいて来た。どうやら飽きさせてしまったらしく、不機嫌そうに鼻を鳴らしている。そんな姿も非常にチャーミングだ。

 言うと更に機嫌が悪くなりそうなので言わないけど。


「ごめんごめん。あー、荷物どうしよう」


 初心者用のカバンはアンゴラウサギィ用の雑草と私用のパンと水でいっぱいだ。他にも初心者用の調合セットの入ったカバンがある。腰にはポーション用のポーチまでついているので釣具まで持とうとすると両手では足りない。小魚とヤドカリの入ったバケツまである。


「何か良いスキルあるかな?」


 丁度1つスキル枠を貰ったので収納系のスキルを取ってもいいかもしれない。生産をやるとどうしても荷物が増えていく。拠点がないと持ち歩きに苦労するだろう。

 【細工】を覚えようと思ったけど、持ち歩きができないならそれ以前の問題だ。ゲーム内で不便な思いなんてしたくないし。


 スキルの空いているところから覚えられるスキルを検索すると【空間収納】が出てきた。他にも【収納上手】というまとめてモノを持つスキルが出てきたけどそれでは物足りない。


 【空間収納】は収納数によって最大MPが減少するのか……。まあ、ドッペルゲンガーの特性上MPが多いから少しくらい減っても良いかな。


 空いているスキル枠を【空間収納】に決定して手に持っていた初心者用調合セットと釣具を仕舞う。初心者用調合セットも釣具も色々な道具があるけれどセットで1枠という扱いだった。おかげで最大MPも2しか減っていない。


「これは良いスキルかも」


 変なところで不便だった持ち歩きが楽になった。生き物は入れられないようなので魚の入ったバケツは持たなければいけないけどアンゴラウサギィも抱えやすい。


 私はバケツを持ってアンゴラウサギィ抱えた。邪魔なので魚は食べてしまってもいいかもしれない。


「まぁ、そこら辺は後ででいいかな」


 思ったより長い時間釣りをしていたようで日が傾いている。チュートリアルで向かっている場所に時間制限があるのかは分からないけれど早めに行ったほうがいいだろう。


 再び赤い矢印に従って歩いていると、遠くからゴマフアザラシの赤ちゃんを連れたプレイヤーが駆け寄ってきた。


「あー!! それ、魚だよね!?」


「魚っていうか煮干しだけど……」


 生きて泳いでいるので魚と言えないこともない。でも味は煮干しなのだ。


「煮干し? 泳いでるけど生魚じゃないのかな?」


「水から上げるとピチピチするから生魚かも」


「それなら大丈夫だと思う。その魚売ってください!」


「テイムモンス用?」


 少女の近くにいる子アザラシがバケツを凝視している。余程お腹がすいているのかもしれない。


「そうです。珍しいモンスターをチュートリアルで手に入れられたと思ったら食事が大変で……。あっ、私はルリって言います」


「私はシオン。同じテイマーだから何となく状況は分かるよ」


「そのウサギさんがシオンさんのテイムモンスター?」


「そう。戦えないけどね」


「戦えなくても可愛いは正義だと思います!」


「おお、同士よ!」


 キリッとしながら言うことじゃないけれど認めてくれたのが嬉しい。この人になら魚をプレゼントしても良いかな。


「お仲間っぽいからこの魚はあげる。持っていても邪魔だし。入れ物はある?」


「チュートリアルでもらったバケツがあります! でもタダで貰うのは問題なのでこれを。少なくてすみません」


 ルリからトレードで貰ったのは1000Gだ。魚の相場を知らないので高いのか安いのか分からない。


「別にただでも良いのに」


「そういうわけには……。ただでさえ魚なんて手に入れるのが大変なのに……」


「ルリさんも釣りを?」


「それが取ってなくて。探し回ったんですけど生魚はほとんど売ってなくて」


「まあ、初日だしね」


 初日から釣りをするのなんて余程の釣り好きくらいだろう。一定数そういうプレイヤーもいるのかもしれないけれど遭遇できるかは分からない。私が釣りをしていた周辺にはいなかったし。


「本当にありがとうございます。雪が思ったよりもいっぱい魚を食べてて、頂けなかったらゲームを辞めてたかも……」


「そこまで!?」


「だって雪を飢え死にさせちゃったら耐えられないです」


 ルリさんはそう言いながらアザラシの赤ちゃんを抱きしめた。

 大袈裟に思えるけれど、その気持ちは分からなくもない。私もアンゴラウサギィが飢え死にしてしまったらショック死しそうだ。


「雪ってその子?」


「はい! ゴマントアザラシの赤ちゃんです。シオンさんはウサギちゃんに名前をつけてないんですか?」


「ネーミングセンスがなくて悩んでたんだ」


 でもいつまでも種族呼びだとかわいそうだし、流石に決めないといけないだろう。


 やっぱりカフェラテとかモカが良いかな?

 ブラウニーとかも惹かれるけどそこまで濃い茶色じゃないし。


「悩むなぁ」


 そもそもこの子はオスなのだろうか、メスなのだろうか。丁度バケツを道路に置いていたのでアンゴラウサギィを持ち上げて確認する。


「んー、わかんないや」


 まだ子ウサギだから性別が分からない。そもそもウサギの性別を見分けたことなんてないから大人になっても分からないかもしれない。

 しかも嫌だったのかアンゴラウサギィに蹴られそうになってしまった。


「ごめんね」


 頭を撫でてご機嫌を取るとしょうがないなと言うようにアンゴラウサギィが鳴いた。


「シオンさん……、テイムモンスの性別はステータスのテイムモンスター詳細から見えるよ」


「そんな欄が!」


「うん、スキルも分かるから確認しておくと良いかも」


 教えてもらった通り確認するとアンゴラウサギィは女の子だった。非戦闘要員なのに【威嚇】と【逃走】のスキルも持っている。


 【逃走】は分かるけど、【威嚇】ってヘイトが上がるスキルじゃなかったっけ。どの道アンゴラウサギィは戦わないから問題ないけど。


「じゃあ、名前はラテで。どうかな?」


「プゥ」


 反応を伺ってもアンゴラウサギィは鼻をヒクヒクさせているだけで感情が読めない。

 何を言っているのか理解していないのではないかと思ったけれどアンゴラウサギィの名前がラテになっているので納得してくれたようだ。


「普通にネーミングセンスあるじゃん」


 雪に煮干しを上げながらルリさんが笑う。けれど次の瞬間はっとした顔になった。


「雪の命の恩人に失礼なことを! すみません!」


「失礼? むしろそのままの方が嬉しいけど……。私も敬語なんて使ってないし。名前も呼び捨てで良いよ。同じテイマー仲間からさん付けされるとゾワゾワする」


「じゃあお言葉に甘えて。私もルリで良いから」


 言いながらルリがフレンドを送ってきた。私もフレンド申請をするか悩んでいたので互いに同じことを考えていたらしい。

 即座に承認するとルリもほっとしたように微笑んだ。


「承認ありがとうございま……ありがとう? もしまた魚を売ってくれそうなら教えてね! しばらく雪のご飯に悩みそうだし」


「了解。他にも欲しい物があったらチャットして。どれだけ釣りをするかは分からないけど」


「頼りにしてます!」


 私は空っぽになったバケツを空間収納にしまいルリと別れた。

 シオン Lv.2 ドッペルゲンガー

 所属:テイマーギルド

 非公開称号:『NPCとのフレンド1号』 


 HP:15 → 16(110)

 MP:185+5 → 204+5(110)  

 STR:100 → 110(110)


 ATK:1 → 1(10)

 DEF:5 → 5(10)

 MDEF:8 → 8(10)

 AGI:6 → 6(10)

 INT:18+1 → 18+1(8)

 DEX:18+2 → 19+2(9)

 LUK:14+3 → 17+4(3)


 スキル:メイン【テイム Lv.1】 サブ【観察 Lv.1】 生産【調合 Lv.2】

 【解体 Lv.1】、【採取 Lv.3】、【栽培 Lv.1】、【釣り Lv.8】、【醸造 Lv.1】、【歌 Lv.1】、【MP微強化 Lv.1】、【INT微強化 Lv.1】、【DEX強化 Lv.1】、【LUK超強化 Lv.1】、【空間収納 Lv.1】


 テイムモンスター:ラテ(アンゴラウサギィ♀)(非戦闘要員)【威嚇(いかく)】、【逃走】

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― 新着の感想 ―
煮干し・・・・死んでいるはずなのに、生魚で良いのか・・・・・!?
最初から水の中にいる煮干しは出汁が出にくそうw
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