36.ボスの解体はできるか
そのまま部屋に戻り、宅配ボックスからポーション瓶を取り出す。
アズキは頼んでいた倍以上の600本納品してくれていた。
「うわ、お金払わなきゃ」
ポーション瓶はあればあるだけ嬉しいと言ったので多く作ってくれたのだろう。
ありがたいけれど、先に支払った報酬では足りない量だ。
慌ててアズキに個チャをすると、プレゼントだと言い始める。
難しくない【細工】だからなのかアズキはポーション瓶の報酬に対してかなり適当だ。仕方がないのでアズキの部屋の宅配ボックスに足りない分のお金を入れて再度個チャをする。
貰いすぎると私の精神衛生上良くない。ここで素直に甘えられる性格ならば金欠に苦しまなかったのかもしれない。
アズキからは普通にありがとーという返答が返ってきた。
「本当に貰っても貰わなくてもどっちでも良いんだろうな……。お金持ちめ」
初期から作れるようなアイテムは採算を取りにくい。自分で【採取】しなければ赤字になる。
それでも気にしないというのは他でかなり儲かっている現れだろう。
くっ、悔しくなんてないやい。
最前線の素材を手に入れられるようになり安定的に稼げるようになったとは言え、私の懐事情は火の車だ。倍以上のオマケを渡すような対応はできない。
いつかあれくらいビッグになってやり返してやりたいものだ。
私の中で今、目標が決まった。
高笑いしながらみんなの欲しがるアイテムを渡す自分を想像し、ニヤリと笑う。
どう見ても悪役の図だけれど、私は気づかない。そしてそのまま部屋の【解体】スペースに向かった。
「……ぷぅ」
明らかにボストレントを出せない狭さにラテが私を止める。
ここで【解体】をするのなら倍以上のスペースが必要そうだ。
「うーん、生産総合所でもきつそう……」
ボストレントは規格外の大きさだった。私用の部屋を一面使う程度の広さが必要だろう。
困ったなぁ。
元々何もなかった場所にもソファーとかテーブルとか置いちゃったし。
そこまで大きいものを【解体】していなかったので、解体用のスペースはどんどん狭くなっていた。元の大きさでも足りないのに、これではボストレントを【空間収納】から出すことすら難しい。
しかも近くにテーブルやソファー、薬草丸がダンジョンから持ち帰った種を植えた鉢植えまである。ソファーやテーブルは【空間収納】に仕舞えるだろうけれど、鉢植えはダメだ。種が死んでしまう。
私は少し悩み、地下の【解体】部屋に行ってみることにした。
そもそも【解体】スペースの隣にテーブルやソファーがあるのもなんか嫌だよね。
一応【解体】スペースには常時クリーンがかかるようになってるけど……。
できればもう一部屋作りたい。壁で仕切れば拒否感も薄れるだろう。
壁を作るだけならそれほど高くなかった気がするので、ボストレントを【解体】したら作っておこう。そのくらいのお金はあるはずだ。
「さて、地下の【解体】部屋オープン!!」
テンション高く部屋の扉を開けると、ラテの冷たい視線が突き刺さる。
頭の上の薬草丸は手を上げて応援してくれていた。
「おお、広い。これなら余裕で【解体】できるじゃん」
ボストレントを出してもなお余る空間ににんまりと笑う。
『暇人の集い』は生産特化型のギルドだけあって設備がとても整っている。これだけ広いのなら私以外にも【解体】を覚えている人が何人かいるのかもしれない。
「いいね。ボスを出すから気を付けてね」
「ササッ!」
「……ぷぅ」
「…………」
みんなに声をかけると個性の強い返事をしてくれる。若干一名は返事すらしてくれていない気がするけれど気にしない。
薬草丸の敬礼でプラマイゼロだ。
私は薬草丸を撫でて良い感じの鉢植えに肥料を入れる。
なぜか肥料は【空間収納】に入れても劣化しないのだ。たぶん運営が微生物とか考えていないせいだろう。適当な運営で助かる。
「サササ!!」
部屋の隅に用意した鉢植えに薬草丸が走っていき、埋まった。
薬草だけあって土の中が落ち着くらしい。もしかしたら養分も吸収しているのかもしれない。
良い子の薬草丸にご褒美だ。
ふははと達成感を感じながら振り返ると、ジト目のラテが居る。ででんという存在感は体の小ささを感じさせない程しっかりしたものだ。
私は敗北感を覚えながらラテと岩凪用にソファーとふかふかのクッションを鉢植えの横に用意した。
「泣いてなんかないやい」
個性の強いテイムモンスたちに涙を拭いながら、気を取り直してボストレントを取り出す。
改めて出してみるとやはり大きかった。
「よく倒したなぁ……」
あの後調べてみると、このボスは変異種だったらしい。掲示板でもたまにやたら強いトレントが出ると話題になっていた。
100回に1回程度しか出ない変異種を引くとか運が悪すぎるよ。
普通のトレントで良かったのに。
普通のトレントのボスなら事前に聞いていた通り、私たちでも倒せるレベルだったようだ。
魔法攻撃の耐性はそこそこあるようだけれど、パチンコ……スリングショットを10発も当てれば倒せるくらいの強さらしい。おそらく10発もいらないとまで言われてしまった。
まぁ、あれのおかげでラテのステータスから非戦闘要員が消えたし、新しいスキルも手に入れていたから悪いことだけじゃなかったけど。
そう、あの戦闘でラテと薬草丸が新しいスキルを手に入れたのだ。
どうやらテイムモンスターは初めての戦闘でスキルをひとつ手に入れるようだ。ラテは【噛みつく】、薬草丸は【治癒】を手に入れていた。どちらもプレイヤーのスキルでは見たことがないものだ。
「岩凪の【頑強】も初戦で手に入れたんだよね」
使ってないスキルは手に入らないはずだから、岩凪も最初の戦いは怖かったということだろう。強気でいても、自分を奮い立たせている部分があるということだ。
またひとつ岩凪の頑固おやじっぽさが理解できてしまった。
そのうち痛くても痛くないとか言い出しそう……。
私はソファーで寛ぐ岩凪を見て、無理をさせないように決めた。
そして【空間収納】からノコギリを取り出す。これはボストレントの【解体】用に用意してもらったものだ。
「はしっこの枝ですら太いんだけど!」
私の胴体くらいありそうな枝に悪戦苦闘する。
切るだけでも一苦労だ。でも事前に調べたトレントの解体方法では枝を切るらしい。ぶっちゃけ良い感じに切り分ければ【解体】終了だ。もっと細かく【解体】時に加工することもできるらしいけれど、今の私では厳しいだろう。
難しい【解体】じゃないのに難しい!!
なんでこんなに硬いんだよ!
腕をプルプルさせながら【解体】をしていく。
途中で辞めたら失敗扱いになり、切り分けていない部分が消えてしまうのだ。どれだけ大変でも最後まで切っていく必要があった。
汗を袖口で拭いながら若干後悔をする。アバターは汗をかかないので拭ったのは気分だ。
恐らくスキルレベルが足りていないのだろう。【解体】に必要なのはATKでもDEFでもない。スキルレベルのみだ。
私は最初の一本をなんとか切り落として肩で息をする。
「……これ、強制ログアウトまでに【解体】しきれるかな……」
1本切り落とすのにかかった時間的にギリギリだろう。
ならば価値の高い幹から切りたいけれど、幹を切るにはスキルレベルが足りない気がする。一度刃を入れると消えてしまうリスクがあるので、少しでもスキルレベルが上がった後半にやりたい。
まずいなぁ。
電動のこぎりでもあれば別なんだろうけど……。
現実では一度も使ったことのないチェーンソーに思いを馳せる。あの力強さこそ今求めているものだった。
エンジンのかけ方すら分からないけれど、ゲームだと簡単に使えるはずだ。たぶん。
あれ?
似たようなことってできるんじゃない?
私は使っていたノコギリを【空間収納】にしまう。そして【魔法素養の心得】を使って手のひらに風の玉を作り出した。
そのままボストレントに当てると、先ほどよりもサクサク切れる。どうやら【解体】と【魔法素養の心得】両方のスキルレベルが合算されているようだ。
「キタコレ!」
諦めかけていただけに嬉しい。
こんな【解体】のやり方があるなんて知らなかった。他のスキルと同時に使えるのなら【解体】の幅が広がるだろう。
しかし同時に運営は生産を単体でやらせる気がないのだということも理解する。
こんなに関連するスキルが多いならもっとスキル枠を増やして欲しいんだけど!
求められているスキルが多すぎ。
私はこれでもスキルが増えている方だ。
それでこの状態なのだから普通のプレイヤーはもっと大変に違いない。
自分が変なスキルの取り方をしているということを忘れ、心の中で運営の愚痴を言う。
私の場合は現状使えていない【栽培】を別のスキルに変更すればもう少し楽になるはずだ。薬草丸とも被ってしまっているので、スキルの取り直した方が良い。
私は取り直すならどんなスキルが欲しいか考えながらボストレントの【解体】に勤しんだ。
「さて、とりあえず枝は全部落としたかな。となると幹だけど……」
幹は太くて大きい。わざわざ切らないで、このまま欲しい人がいないか聞くのもありかもしれない。
私はとりあえずギルドチャットに幹をこのまま買い取りたい人がいるか上げてみた。
そう考えればボストレントをそのままインテリアとして飾るのも悪くなかったかも?
大手のギルドだと拠点のシンボルにできそうなサイズ感だし。
一瞬このギルドの隣に立てること考えたけれど、巨大な黄色いアヒルとハロウィンのかぼちゃのような顔のついた巨大トレントは相性が悪い。新種の怪獣映画のようだ。
うちのギルド拠点も癖が強いからな……。
そもそも倒してからこのトレントは自立してくれない。
横に倒れているようではインテリアとして使いにくいだろう。そうなるとやはり武器の材料や家具に使うのが良い。
薪にするのはさすがにもったいないから武器になってくれると良いなと思いながら、大量にむしりとった紅葉の葉もギルドチャットに載せる。既読は早く付き、ナツミが見に来るらしい。
やはり木材といえばナツミだ。
ただ、トレントの葉っぱはポーションの材料になるようだ。レイからそう指摘されて、紅葉の葉の販売はやめることにした。
ポーションの材料になるなら取っておきたい。大きな袋が何袋もあるけれど、【空間収納】に入れておけば問題なく保存できる。本当に【空間収納】さまさまだ。
他のメンバーも興味を示していたので、ボストレントは悪くない素材なのだろう。
私は部屋に入ってきたナツミの言う通りにボストレントを切っていき、大半をナツミに売却する。
そのせいで、ほくほく顔のナツミの顔を見ながらの強制ログアウトになったけれど、いい仕事をしたと思う。これなら通常のボストレントを狩りに行ってもいい気がする。変異種に会わなければトレントも良い収入源だ。
葉っぱがポーションの材料になるのならなおのこと欲しいよなぁ。
どんなポーションに使うのか知らないけど。
私は今作れるポーションを思い浮かべながら、現実の世界へと戻った。




