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戦闘力ゼロから始める曲がり曲がったVRMMO 。生産をしつつテイマーと弓の両立は欲張りすぎ……?  作者: kanaria
3章.VRMMOを遊びつくせ

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35.拠点でのんびり

 薬草ダンジョンで死闘を繰り広げてからリアル換算で数日が経った。

 岩凪の様子に変化はないし、弓のメンテナンスや矢の補充も終わっている。変わったことと言えば新しいパチンコを10個作ってもらったことくらいだ。


 とりあえず10個あれば良いよね。

 耐久力がなくても数があればカバーできるはずだし。


 たくさん作ってもらっても【空間収納】に入れておけば1つにつきMPを1消費するだけですむ。

 数が多くなりすぎると辛いけれど、今のところはMPにも余裕があった。


 ただ、今後パチンコで多くのMPを消費するようなら対策を考えないといけないだろう。いくらドッペルゲンガーがMPお化けだとしても限界がある。


 パチンコに関しては素材を変えても耐久力が増えないせいで製作者のナツミが不服そうだ。


 私はパチンコの威力も加味して納得していたけれど、この耐久力では売り物にならないらしい。

 特に私は【魔法素養の心得】と併用しているから普通よりも壊れやすい。10回で壊れるような武器はナツミのプライドが許さないんだとか。


 でも、ナツミはそんなことよりも気になっていることがあるらしい。


「前から気になってたんやけど、それはパチンコやのうてスリングショットって言うねん。パチンコやと台で打つアレになってしまうやろ」


 ギルド拠点にあるリビングでくつろいでいるとナツミが急に爆弾を落とす。今リビングには私の他にナツミとハルカ、レイが居た。


「そうなの!?」


 まさかの真実に今までの概念が崩れ去っていく。

 Y字の木にゴムが渡っている武器はパチンコと呼ぶものだと思っていた。


「いや、パチンコとも言うよ? 結構年齢が上の世代だとスリングショットの方が知らないんじゃないかな?」


「えっ、シオンってそんな年上やったんか! 下やと思ってたわ」


「……そんな年を取ってるつもりはないけど。でも、ナツミとだと分かんないかな……」


 ナツミもレイも年齢不詳だ。言動が子供っぽいので若いのかと思えば、急に大人びた対応をすることもある。

 ゲームを全力で楽しんでいる大人の可能性も高いと踏んでいた。


「そもそもスリングショットが【弓】に含まれてることも不思議だし。【投的】とかじゃないの?」


 近くにいる薬草丸の帽子をつつきながらレイが聞く。

 岩凪はナツミが確保していた。


「うーん、【投的】だとしても微妙じゃない? ナイフとか石みたいに手で投げてないから」


「うちはスリングショットが作れること自体知らんかったわ。シオンに言われなきゃまだ存在してなかったかもなぁ」


「簡単に考え付きそうなのにね」


 武器に詳しくない私でも思い浮かんだのだ。普段からゲームをする人ならもっと簡単に思い浮かぶだろう。


「いや……、そもそも生産職が足りてないんだよ。武器や防具すら足りてなくて。思い浮かんだとしても作る余裕がないと思う。スリングショットは【木工】だけど、【木工】は杖とか弓とかを請け負いがちだから」


「せやね。弓は使う人が少ないから派生品の発注がほぼないんよ。頼まれてもないのに作るほど需要もないねん。杖は使うプレイヤーが多いし、槍の木の部分も【木工】やしな」


 そう言われると【木工】も幅広い。

 他にも拠点を建てる際の材料や、家具も作っているのだろう。とても忙しそうだ。


「確かにナツミもレイもいつも忙しそうだもんね」


 みんな忙しいせいかギルド拠点の隣に建てると言っていた店舗は着手すらしていない。

 あれだけこだわっていたのに素材買い取りすら思うように出来ていない状態だ。


 私は尊敬の眼差しで2人を見つめた。


「…………ぷぅ」


 私の膝の上でまとろんでいたラテが呆れたように鳴く。

 なんだかジト目で見られている気もする。


「忙しいのはシオンもやん。戦って【解体】して【調合】して。いつ寝てるん?」


「うーん、適当に寝てるしご飯も食べてるよ」


 さすがにゲームの中だけでは生きていけない。住み込めたら幸せだろうけれど、最低限のことはする必要があった。


 寝不足で判断力が鈍っても困るからなぁ。

 よくばって色々やってる分、時間管理が難しいや。


 ゲーム内はリアルの4倍のスピードで時間が流れている。うっかりすると変な時間に寝ることになってしまう。

 それでは体力が持たなかった。


「みんなタフだねぇ。僕はちゃんと寝ないと死んじゃうよ」


 くすくすとレイが笑う。

 それはレイだけでなくみんなそうだろう。


「そういうレイもいつログアウトしているのか分からないくらいログインしてるじゃん」


「まぁ、このギルドは廃人が多いからね。加入条件に毎日リアル時間で10時間以上ログインすることっていうのがあるし」


「……えっ?」


 なんだ、その一般人お断りみたいな条件は。

 聞いたことがないんだけど。


 驚いて目を丸くする私にレイが悪い顔をする。


「うちのギルドのメンバーが少ないのってそういう理由だよ。そこまでゲームできる人で生産職ってそうそういないでしょ? シオンは僕でも驚くくらいログインしてるから話す必要がないと思ってさ」


 椅子が高いせいで床に着かない足を揺らしながらウィンクをするレイは確信犯だ。

 怒られないと分かった上でやっている。


 口を尖らせてせめての抗議をする私の代わりに動いてくれたのはハルカだった。


「…………ぺし」


 あくどい笑みを浮かべるレイの頭をハルカが軽く叩く。

 叩くと同時に口から擬音語を発しているのが可愛い。


 まさかのところから援軍が!


 まだフードに隠されたハルカの顔をしっかりと見たことはないけれど、それでもこういう姿を見せてくれる程度には打ち解けてきたのだろう。私が居てもハルカがナツミの後ろに隠れることもなくなった。


 ナツミの後ろからがっつりはみ出ているのが個人的にはツボだったので、その姿を見られなくなったのは少し残念だ。

 その分仲良くなれたと思うことにしよう。


 その時のことを思い出してほっこりした気持ちになっている間に話題がギルド名のことに移っている。


「廃人ばっかりやから『暇人の集い』って言うんやろ? 雑なネーミングやわ。『廃人の集い』の方が正しいんやない?」


「えー、僕は気に入ってるのに」


 レイははたかれた頭を撫でた後、頬を膨らませる。

 名づけ親だけあってレイはギルド名が気に入っているらしい。


 私はハルカが持ってきてくれたクッキーを齧りながらぶどうジュースを飲む。

 ぶどうジュースは私が【醸造】で作ったやつだ。


 ラテも食べ物を欲しがっていたので、ご飯を【空間収納】から取り出してあげる。薬草丸は何も食べないようだけれど、岩凪用の魚とお肉もサイドテーブルの上に置いておく。

 岩凪はナツミに確保されているけれど、食べたければこっちに来るだろう。


「……『廃人の集い』より絶対に今の方が良い。『廃人の集い』だったら絶対に入らなかった」


 珍しく声に力が入っているハルカに私も同意する。

 『廃人の集い』はいくらなんでも酷い。


「ええやん。みんな廃人なんやし。世捨て人みたいにゲームしよやー」


「「「…………」」」


 世捨て人はそもそもゲームをするのだろうか。していたとしても【釣り】や【栽培】をしていそうだ。

 完全な偏見だけど。


 ナツミはなんていうか適当なんだよなぁ。

 【木工】のことには妥協しないのに不思議だ。


 少し返答に困ったけれど、こういう時間がギルドメンバーとの仲を深めるのだろう。拠点のリビングで雑談するようになってからギルドメンバーと気負わずに話せるようになってきた気がする。


 何とも言えない空気になったところで明日はきっとくる(アズキ)がリビングに入ってきた。

 アズキもログインしていたらしい。


「何か変な空気だねぇ。くふふ、何かあったのかい?」


 ギルドで最も変人っぽいアズキでも分かるくらい微妙な空気が流れているようだ。

 できればぶち壊してほしかった。


「ギルド名について話してただけだよ。アズキは休憩?」


「そうだよぉ。ちょっと熱中しすぎてオーバーヒートしそうでねぇ」


 レイの質問にくふふと笑うアズキは普段と変わらないように見える。

 それでも生産をしていたというのは本当だろう。ギルド拠点ができて自由に生産ができるようになったから、みんな個人の部屋に籠りがちだ。


 こんなにギルメンが集まってるのも久しぶりな気がするなぁ。

 最近は素材のやり取りさえ宅配ボックスを使ってるし。


 金銭のやりとりも気にしない人が多いのか、宅配ボックスに入れといたからという個チャがくるレベルだ。先払いばかりなのは信頼の表れだろうか。

 私は少しプレッシャーを感じていた。


「ああ、シオンに頼まれていたポーション用の容器は宅配ボックスに入れておいたからね」


「ありがとう」


 数時間前に頼んだばかりだというのにすぐ作ってくれたらしい。

 簡単な依頼は片手間にサクッと終わらせる人が多い気がする。


「ポーション瓶ってアズキには簡単すぎだよね。別で作ってくれる人がいないか探してみるよ」


 生産職でトップ争いをしている『暇人の集い』のメンバーに簡単なアイテムをお願いするのは心苦しい。

 みんなログイン時間が長いだけあって、サーバー内どころか全サーバーでトップ争いをしているレベルだ。同じギルドだからといっても甘えすぎるのは良くない。


 薬草丸を持ち上げるアズキにそう言うと、アズキが首をかしげた。


「別に私が作り続けても良いよ。気晴らしにもなるからねぇ」


「そう? 無理をしてない?」


 アズキはNPCに弟子入りもしていたはずだ。

 【錬金術】と【細工】以外にどんなスキルをとっているのか分からないけれど、あちらこちらに時間が取られて大変だろう。


「くふふ、難しい依頼ばかりやっていても疲れるからねぇ。スキルレベルが上がらないのは不満だけれど、シオンは最前線の素材も用意してくれているし、恩返しだよ。ねぇ、良く分からないモンスター君?」


「…………ササッ」


 アズキの手のひらの上に乗った薬草丸が困ったように私の方を向く。

 突然話しかけられて驚いたようだ。


「その子は薬草丸だよ。この前ダンジョンで【テイム】したの」


「ふーん、この街周辺のダンジョンモンスターは【テイム】できるんだねぇ。ダンジョンで走り回ってるモンスターを【テイム】した人を初めて見たよ」


 薬草丸の顎の下を撫でるアズキにレイも頷く。

 私のやっていることはおかしく映るらしい。


「シオンはたまに変なことを考えるからさ。最前線の素材を提供してくれるとも思わなかったし」


「せやね。すごく助かってるんよ。持ち込みの依頼以外もできるようになったのはシオンのおかげやねん」


「私も助かってるよぉ。シオンは良い子だねぇ」


 少しでも役に立ちたいと思って始めたことだったけれど、ここまで褒められると照れる。

 鏡を見なくても私の頬が赤くなっているのが分かった。


「その最前線の素材を手に入れる為にポーションを作ってるから、アズキのおかげでもあるよ。ポーション瓶がなかったらポーションなんて作れないし」


「くふふ、それなら余計にしっかりと作らないとだ。もし私だけしか頼める人がいなくて不安なんだったら第二陣に頼るのも良いかもしれないよぉ。そろそろ来るはずだろう?」


 ちらりとレイを見るアズキは第二陣がログインする日程を覚えていないようだ。

 私も覚えていないのでレイを注視する。全員の視線がレイに集まった。


「確か明後日じゃなかったっけ? ずっとログインしてるからリアルの時間が怪しいけど」


「まぁ、そうだよねぇ。ログインしっぱなしだと曜日感覚がなくなるからさ」


「うちはそもそも第二陣の参入日を覚えとらん。変なムービーを見た気はするけど」


 なんだかんだみんな第二陣のログインスケジュールを把握していなかったらしい。


 生産総合所を使っていたら死活問題だったかもしれないけれど、ギルド拠点がある今、それ程気にしていないのが現状だ。

 もう少しスキルレベルが下ならば第二陣向けに武器やアイテムを販売をするのだろうけれど、私でさえ第二陣向けの販売を考えていない。他のメンバーはもっと考えていないだろう。


「さて、そろそろ部屋に戻って生産をするね」


 ポーション瓶も宅配ボックスに入れてくれたみたいだし、回収しつつ生産に戻った方が良い。

 のんびりおしゃべりを続けるのも魅力的だけれど、そろそろボストレントを【解体】したかった。可能なら【醸造】もしたい。


 私は岩凪と薬草丸を回収し、ラテを腕に抱えた。

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