34.苦労と対価が見合わない
弾丸のように駆け抜けていったラテはそのままボスに噛みつく。
油断していたところに入った攻撃だからか、ラテの噛みつきはクリティカルヒットしたようだ。
「グギャァァァ!! ギャッ……ギャギャ!!」
ボスがのけぞってラテを睨む。
簡単にタゲが移ったのは岩凪から私にタゲが移ってすぐだったからだろう。
私は自分にタゲが来てから逃げ回っているだけで一度も攻撃をしていない。クリティカルが出てもボスの意識をひき続けるほどヘイトが稼げていなかった。
「ぷぅ、ぷぷぅ!!」
一度飛びのいたラテが再びボスに噛みつく。どうやらボスは魔法攻撃よりも物理攻撃が苦手らしい。ラテの噛みつきで少しHPが削れている。
何回も攻撃できるのでラテの噛みつきは私のパチンコより効果的かもしれない。
「ラテ……」
呆然とその様子を見ていたけれど、これはラテが作ってくれた絶好のチャンスだ。
ラテの好意を無駄にしない為にも私は下級ポーションを【空間収納】から取り出して岩凪の元へ走る。岩凪はなぜか少しHPが回復していた。
「岩凪、大丈夫?」
ぎりぎりまでボスの攻撃に耐えてくれた岩凪をいたわりながらゆっくりと下級ポーションを飲ませる。亀の方にも蛇の方にも半分ずつ分けると、下級ポーションを飲み干した。
明らかに飲んだ量が体の大きさに適していない。
そんな岩凪の近くにはなぜか葉っぱのちぎれた薬草丸が倒れていた。やたらとHPも削れている。
「……ササッ」
どこか哀愁の漂う様子に何があったのかを悟った。
テイムモンス同士で齧ることがあるなんて……。
確かに薬草丸は薬草だから回復をしそうだけど。
実際、岩凪はHPが回復していた。あと一撃で死んでしまうほど追い詰められていたはずなのに2撃くらいは耐えそうだ。
ギリギリな状態で岩凪のとった行動を一方的に怒ることはできない。岩凪はボスと戦う上で重要な戦力なのだ。
それでも、なんだかショックだった。
齧られた薬草丸はさぞ驚いただろう。
薬草丸を撫でる間も当の岩凪はボスに向かっていく。
その背中を見送りながら薬草丸にも下級ポーションを飲ませる。岩凪に齧られたせいで薬草丸もHPが減っていた。
けれど、さすがに齧られたところは回復しなかった。
それでもHPが全快したので良しとする。
今はそれ以上何もできない。かじられて消失した葉っぱが治るかは後で調べる必要があるだろう。
ごめん、薬草丸。
悲しげな薬草丸も心配だけれどボスの注意を引き続けてくれているラテのことも心配だ。消えた部分が戻るのかは分からないし、どの道ボスを何とかしなければならない。
私は薬草丸から離れ、壁際から【弓】で矢を放った。
矢は当然、青銅の鏃の物だ。銅の鏃よりも火力が出る。やはりパチンコよりもHPを削れないけれど、ラテの噛みつきと同じくらいボスを傷つけることができた。
「よし!」
復活した岩凪もラテからタゲを奪い返したようだ。
私がタゲを取るのに苦労したのは何だったんだと聞きたくなるくらいスムーズに進む。ラテも負けじと【威嚇】をしてボスの意識を拡散させていた。とてもいいコンビと言えるだろう。
私は先ほどよりも安定した戦況に胸を撫でおろす。
まさかラテが戦ってくれるだけでここまで有利に事が進むとは思わなかった。
本当にごめん。そしてありがとう。
今までどれだけピンチでも戦うそぶりを見せなかったラテの雄姿だ。どんな心境の変化があったのかは分からないけれど、感謝しかない。
岩凪がボスの攻撃に耐えている間にラテがボスを噛む。岩凪も負けじと【水魔法】を放っているのが印象的だ。
もう私よりも2人の方が強いかもしれない。
自分の存在意義を疑いながらもボスに弓を射る。
たまにボスの枝が私の方へも向くので、気を抜くことはできない。タゲが安定していないので、私の方へも攻撃が向きやすいようだ。
でも、ボスの攻撃があっちこっちを向いてるおかげで何とかなってるかも。
本当はラテや岩凪を遠くから回復させる方法があればベストなんだけど……。
もう岩凪が死にかけているところなんて見たくない。
ずっと一緒にいるラテが死ぬところも同様だ。一番新規メンバーの薬草丸が死んでも後悔するだろう。
私はヒーラーの必要性を再認識した。
「ギャギャ!!ギャー!!」
HPが残り4分の1を下回り、ボスが紅く光る。
「うわっ!」
さらに強くなるのかと警戒したけれど、攻撃が大雑把になっただけだった。ただ、もしかしたら火力が上がっているのかもしれない。
こんなこと、情報まとめサイトには載ってなかったのに。
最初から聞いてた情報と違うし……。
私の方へ来た攻撃をジャンプして避ける。
攻撃のスピードも落ちているようだ。おかげで先程より避けやすい。ジャンプで枝を避けたのは初めてだ。
どうしてボスの様子が変わったんだろう?
HPが減ると攻撃パターンが変わるってこと?
あまりに情報まとめサイトの情報と違っている。書き込んだ人に異議を申し立てたいと思いつつも、今は倒すしかなかった。
ボス部屋は一度入ってしまったら勝敗が決するまで開かない。外に出て態勢を立て直すことは不可能になっている。
考えている間も、私は唇を噛み締めて【弓】を引き続けた。
少しでも火力を上げるために技を使い続けていたので、スタミナはもうない。それでも弓をメンテナンスし、矢を補充した直後で良かった。
もしこのタイミングでなかったら矢が足りなくなっていたり、パチンコがなかったりしただろう。それでは私は何の戦力にもなれない。
「……っく!」
「ギャギャッ! グギャァァアア!!」
そんな互いに満身創痍の状態で先に倒れたのはボスだった。
ポーションを飲んだとはいえHPが全快していなかったことも大きいだろう。
ラテの噛みつきがトドメとなり、ボスがその場に倒れる。
厄介な敵だったので、本当に動かないのか不安だ。
そこら辺に落ちている木の枝でつつき、HPバーを見ても数字が0なことも確認をする。
これなら完全に倒したと言えるだろう。
「やったぁぁぁ!! 倒したー!!!」
絶対に負けると思っていたのにまさか勝てるとは!
本当にみんなのおかげた!!
私はラテを撫で回し、岩凪の頭にキスをした。
薬草丸も恐る恐る近づいてきたので高い高いをする。
喜びが弾けて抑えきれなくなっていた。
「……ぷぅ」
どこかすわった目をしたラテが鳴きながらボスを指差す。岩凪もどこを見ているのか分からないくらい落ち着いている。
死闘が終わっても私のテイムモンスたちはクールだった。一緒に喜んでくれているのは薬草丸だけらしい。
クルクルと回転する枯葉の帽子が薬草丸の喜びを現している。よく見るとラテの頬が赤く染まっているように見えるけれど、これは気のせいだろう。
私は気持ちを落ち着かせてラテに頷いた。
ボスがアイテムになってしまったら大損害だ。
「そうだね! 消える前に解体用ナイフを刺さなきゃ!」
このボスの解体方法は分からない。それでも【空間収納】に入れておく分にはただだ。
MPを1だけ消費し続ければいつまででも入れておける。
私はボスがアイテムに変わる直前に解体用ナイフを突き立てた。
「よしよし」
問題なく【空間収納】に入れられた事を確認し、ラテや岩凪を見る。
ラテはほとんどHPが削れていなかったけれど、岩凪はかなり削れていた。
逃げ壁をしていたラテよりも動かずに壁をし続けた岩凪の方がどうしても傷ついてしまうのだろう。それでも何事も無かったかのように立っている岩凪には驚きしか無い。
「岩凪は痛くないの?」
岩凪に下級ポーションを飲ませながら問いかける。
私自身は攻撃を食らうと痛みがあった。痛む度合いは減らしたり増やしたりできるらしいけれど、最大限痛まなくしてもチクチクするらしい。
ぶっちゃけ不快だろう。
「…………シャ。シャシャー!」
何と答えているのか分からないけれど、多分問題ないと言っていそうだ。この程度で音をあげるのは軟弱者だとも言っている気がする。
もしかしたら岩凪はかなり忍耐強いのかもしれない。若干頑固おやじのニオイも感じる。
ドエムの可能性もあるけど、まさに天職が壁なのかな。
私は同じことを言えないや。
さすがに痛いのは嫌いだ。
必要であれば死に戻りも仕方がないと思うけれど、できれば死にたくない。
それでもリアルより痛覚5割カットなんだけどね。
デフォルトで設定できる最大限が5割は多いのか少ないのか……。
もっと減らすにはスキルが要る。私は痛覚に関するスキルを取れるほどスキル枠に空きがなかったけれど、壁になるのなら有用かもしれない。
痛いのが好きな人は痛覚をリアルのままにするのかもしれないけど。
ただ、例え岩凪が忍耐を美徳としていても痛いのが大好きだとしても言っておかなければならないことがあった。
「岩凪、いくらHPがギリギリでも仲間を食べちゃダメだよ。薬草丸だってきっと痛かったんだから」
薬草にも痛みを感じる機能があるのか分からない。けれど、悲しげな薬草丸の様子からして精神的なダメージは食らっていそうだ。
さすがに仲間同士で殺し合う姿は見たくない。
私にとって妥協できないラインだった。
「…………シャ」
「薬草丸だって好きで戦えない訳じゃない。戦いに向いているスキルを持っていないだけ。岩凪だって戦うスキルがないのに戦えって言われたら嫌でしょ?」
「シャシャ」
「岩凪は強いからそう言えるんだよ。私だって戦うのは怖かったし」
言っておきながら、本当に戦うのが怖かったか疑問が残る。あまり覚えていないので興奮していた可能性もある。
それでもシルバーウルフに解体用ナイフで挑んだ時は怖かったはずだ。
……たぶん。
「シャー。シャッ」
岩凪が薬草丸とラテを見た後、じっと私を見つめる。
その瞳は戦えないモンスターの存在意義を問いかけていた。
「私にとってテイムモンスは仲間なの。家族なの。だから嫌だと思うことはして欲しくない。岩凪だって戦うのが嫌なら戦わなくて良い。壁なんて痛いし怖いことばっかりでしょ」
敵の攻撃を真正面から見つめて耐えるのは中々できることじゃない。実際、VRMMOになってから壁をやる人は減った。ただでさえ少なかった壁がさらに減ったのだ。今では絶滅危惧種と言ってもいいだろう。
それでも、壁をやりたくない人の気持ちは理解できる。
私だってやりたくない。
そんな役割を岩凪が率先してやってくれるのは助かる。けれど、それが嫌々だったら私が嫌だ。
おこがましいのかもしれないけれど、私はテイムモンスにはのびのびと生活をして欲しい。
「…………シャ」
岩凪は未だによく理解できていなさそうだ。
そのくらい岩凪にとって戦うことと強さが正義なのだろう。テイムモンスターとしての義務感もあるのかもしれない。
「……もし岩凪が納得できないのなら岩凪の考えを変える必要はない。でも、他のテイムモンスに強要しないで。あなたたちは個々の考えがあるのだから」
これで【テイム】の契約が切られるのなら仕方がない。これは私にとって譲れない一線だ。
私もじっと岩凪の瞳を見つめ返す。
すると岩凪は仕方ないというように視線をそらした。
「ありがとう岩凪」
「………………シャ」
明らかにしぶしぶという態度だったけれど、私はホッと胸を撫でおろす。
はっきり言って岩凪が受け入れない可能性の方が高いと思っていた。それほどまでに岩凪と私たちの考えは違う。
それでも妥協してくれた岩凪に敬意を示しつつ、今後の岩凪の動向を気にし続けなければならないだろう。
これ以上、テイムモンス同士で傷つけ合うのは嫌だ。
仲良くとまでは言わなくても攻撃し合わないで欲しい。
悲しみと期待を込めて岩凪を撫でる。
「こんなことをお願いしなくていいように私が強くならなきゃね」
所詮ゲームなのだから勝てれば何でもいいという戦い方はしたくない。私が無謀な戦いに挑まなければ岩凪も薬草丸を齧ったりしなかったはずだ。
今回のことは教訓だ。
楽しく遊ぶためにはもっと強くなって正しい情報を手にいれなければ!
私は新たな決意を胸に立ち上がった。
そんな私をやれやれと言いたげにラテが見ていることに気づきながら。
今年も一年間ありがとうございました。
これで2章終了です。
あれよあれよとプロットから外れていってこんなことに( ̄▽ ̄;)
誤字脱字報告とても助かりました。
少しでも興味があると思っていただける方がいましたら、来年もよろしくお願いいたしますm(__)m




