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戦闘力ゼロから始めるやりたい放題のVRMMO  作者: kanaria
ゲーム始動

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3.AIとのフレンド1号?

 合計3本の初心者用ポーションが完成し、初心者用ベルトに突き刺す。蓋はコルクになっていて少しの衝撃でも取れそうなので要注意だ。


「これで個人用チュートリアル終了なの。後はオープンフィールドのチュートリアルなの。最初の7日は組合の受付AIからパンと水と初心者用ポーションが貰えるから利用すると良いの。今日の分はリルモが渡すのなの」


「【調合】泣かせだね。長々とありがと。リルモとはここでお別れ?」


「そうなの。でもイベントとかで会うかもだから会ったらよろしくなの」


「寂しくなるなぁ。フレンド送ってもいい?」


 リルモはチュートリアルを担当してもらっただけでどこまで仲良くなれているのか分からない。でもせっかく仲良くなったのだから完全に繋がりがなくなるのも悲しい。

 悪あがきをしてみるとリルモが驚いたように動きを止めた。


「まさかチュートリアルを担当しただけでフレンド申請されるとは思ってもなかったの。……でもシオンなら良いの」


「やった!」


 さっそくフレンド申請をすると直ぐに承認される。どうやらNPCとプレイヤーでフレンドリストがタブ分けされているらしい。NPCの欄にリルモが増えている。


「よろしくね、リルモ!」


 手を差し出すと小さな手が合わさる。


「よろしくなの、シオン」


 照れたようなリルモを目に焼き付けてホープタウンへのゲートをくぐった。

 ただチュートリアルを担当してもらっただけと言うには情が湧きすぎだ。でもこれもMMOの醍醐味なのかもしれない。


 ゲートを抜けた先にあったホープタウンはザ・ファンタジーという世界観だった。

 道はレンガで建物もヨーロッパっぽい。遠くに大きなお城が見えるのでそこに領主のNPCが居るのだろう。


「やっぱ人が多いなぁ」


 チュートリアルに時間がかかったのでそんなに人がいないと思っていたけれどゲートから次々と人が現れる。待ち合わせをしている人もかなり見られるのでまだまだプレイヤーが増えそうだ。


 ひとまずゲートのある台座から降りると、突然チュートリアルが始まった。

 これがリルモの言っていたオープンフィールドのチュートリアルというやつだろう。


「まずは組合に行ってみよう……」


 チュートリアルが始まると何もなかったはずの道に赤い矢印が現れる。それにそって進めということらしい。


 先に行くのはテイマー組合かな。

 生産をメインでやりたいんだけど、それは後で?


 ひとまず矢印に逆らわないで進んでいくとテイマー組合が見えてくる。近くにいるプレイヤーもホーンラビットや犬のようなモンスター、スライムなどを連れている人が多い。

 生産系の組合にも所属するはずだから、そっちが調合かな。


 思ったより人がいそうなテイマー組合に入ると、中は登録カウンターに列が出来ていた。


「ちゃんと並んでるんだ」


 意外に思いながら最後尾に並ぶと前に並んでいたプレイヤーが振り返ってきた。その男性プレイヤーはハリネズミのようなモンスターを連れている。


「このゲーム、NPCにも好感度があるから余程のアホじゃない限りルール違反をしないぞ」


「そういうもの?」


「βだとそれで組合を出禁にされたプレイヤーいたから組合は特に気を配れってローカルルールがある。知らなくてもこの光景を見て暴れた奴はブロックしといた方が良い」


「そういえばそんな話見たかも」


 あまり気になる内容じゃなかったから忘れていた。でも確かに人が並んでいるのを見て横入りしたり恐喝したりするようなプレイヤーとは距離を置いた方が良いだろう。PKはストーリーが進むまでできないらしいけど、不快な思いはしたくない。


「ちゃんと掲示板読んどいた方が良いぞ。結構有益な情報がある。NPCとのフレンド1号はさっき取られちまったようだがな」


「NPCとのフレンド1号?」


 気になって聞き返すと男のプレイヤーが呆れたように眉をあげた。


「お前、事前情報くらい仕入れてからゲームやれよ。このゲームはAIを搭載したNPCとフレになれるんだよ。リリースにあたってその機能が拡大したって公式に書いてあった。1号は称号とスキル枠1追加だから血眼になってる奴らが居たくらいだぞ」


「へー、ソウナンダ」


 NPCとフレンドになれることは知っていた。だからリルモともフレンドになれるかもしれないと思ってフレンドの打診をしたのだ。でも、特殊な称号までは覚えていなかった。


 …………その1号ってまさか私じゃないよね。血眼になって挑戦してる人がいるくらいだし、まさか……。


 恐る恐るステータスを確認すると見慣れない称号とスキル枠が一つ増えている。


 わ、私かぁ!!


 NPCとフレンドになるともらえる『NPCの友達』ではなく『NPCとのフレンド1号』という称号が輝いている。これは間違いなくさっき話にでていたやつだろう。効果もAIからの好感度上昇+10となっていて『NPCの友達』の10倍だ。


 こんな称号、持っているだけでやばい。知られたら悪目立ちする!

 私は慌てて称号自体を非公開にした。スキルはメインしか見えないはずなので放置して良いだろう。


 触ったことのない設定を触りまくっていると変な間があいてしまった。


「おまっ……。まじかよ」


 ビックリしたような声に顔を上げると、目を丸くして私の方を向く男性がいる。


 しまった!

 話してる途中だったことを忘れてた!


 私の反応がおかしかったせいで話していたプレイヤーにステータスを確認されてしまったらしい。

 リアルに近い遊び方ができるといってもプレイヤーの名前やレベル、一部のスキルと称号を見ることができる。パーティを組む際にトラブルが起きないようになっているのだろうけどそれが悪影響を及ぼした。


「えっと、な、内緒にしておいてくれない?」


「……まあ、持ってるのがバレたら面倒なことになるわな。不慣れな初心者の偶然っぽいし黙っといてやるよ」


「ありがとう!!」


 お礼を言うと男性がひらりと手を振って登録カウンターへ消えていった。称号系は流し読みしていたので教えてもらえなかったら大変なことになっていただろう。


 悪い人じゃなくて良かった。事前に舐め回すように情報を漁ったと思ったけど知らないことが多い。とりあえず待ってる間に掲示板を確認しようと思ったけれどもう次が私の番だった。


「次の方!」


 呼ばれてカウンターに向かうとなぜかフィールドが切り替わる。待ち時間を短くするための対策だろうか。


「初めまして! テイマー組合へようこそ」


「あ、よっ、よろしく?」


 キラキラ輝く美少女の笑顔に出迎えられて少したじろぐ。裏表のない笑顔は邪心に塗れた大人の毒だ。流石ゲーム……。


 何となくダメージを受けた気がして胸を手で押さえたけれどHPは削れていなかった。


「テイマー組合に所属でよろしいでしょうか?」


 私の動作に首をかしげながら受付の少女が聞いてくる。これが悪意なき精神攻撃というものか。


 逆立ちしても出せなさそうな輝きに負けながらもとりあえず頷いた。チュートリアルで案内されたのだからここに所属しろということだろう。

 ただ、戦えるモンスターがいないことは不安だ。


 どこにも所属できないということはないだろうが分からないことは聞くに限る。


「はい。戦えないモンスターだけど大丈夫そう?」


「戦える戦えないに関係なくモンスターを一体テイムしていることが組合加入の条件ですので問題ありません。お名前はシオン様。テイムモンスターはアンゴラウサギィに間違いありませんか?」


「合ってる」


 事務的な会話に頷くと左手首に銅のブレスレットが現れる。プレート部に描かれている鳥がテイマー組合を表しているのだろう。


「【捕獲】の二次スキル、【テイム】をもっておられるようですが、戦闘力がないということで見習いスタートになります。組合への貢献度によってランクが上がっていきますので是非上を目指してください」


「……はい」


「それでは良いテイマーライフを」


 最後までキラキラしていた受付のNPCさんにそう言われた瞬間、元のフィールドに戻される。

 次に矢印が向かっていたのは依頼板という場所だった。


 依頼板か……。

 戦えないんだけどなぁ。


 どうするか悩みながら依頼板を確認すると街の外へ行くだけのクエストがある。それにびっくりマークがついているのでこれを受けろということだろう。


「ああ、これなら私でもできる。ちゃんと配慮されてるのか」


 戦えない人も困ることがないようになっているとはびっくりだ。リルモが卵をくれたのもこういった配慮のひとつだったのかもしれない。


 街の外へ出てもホープタウン周辺はノンアクティブのモンスターしかいないから襲われることもない。外へと続く道は今までと同じく赤い矢印で示されている。


 外に出ろってことは出て直ぐに入れば良いの?

 街の外への行き方を教えるクエスト?


 確かに教えてもらえなければ外へでるのも一苦労だ。マップも行ったところが埋まっていくスタイルだから迷子になると目も当てられない。

 ただ街中を歩いているだけだけれど、日本と異なる光景は興味深かった。


「なんか街の人は疲れた顔をしてるなぁ」


 プレイヤーはサービスが開始されたことで生き生きしているけれど街の人は真逆だ。ストーリーの影響だった気がするけれどとても気になる。


 ストーリーが進んでいけば表情が明るくなるのかもしれないけれどNPCの表情がリアルなのでそわそわする。ステータスを見なければプレイヤーと見分けがつかないくらい実在しそうな人がため息ばかりついているのだ。


 こういったところから始まるサブクエストがあるんだっけ。

 確かサブクエストはNPCとの会話がきっかけになることが多かったはず。妙に熱心に話しかけているプレイヤーが居るので特殊な称号があるのかもしれない。


「よく考えたらアンゴラウサギィもAI搭載のモンスか……」


 このゲームは一部のモンスターにもAIが搭載されており、テイムモンスターはテイムされた瞬間にAIが付与される。


「プゥ?」


 自分が話しかけられたと思ったのかアンゴラウサギィが私を見上げてくる。その仕草はあざとかわいいウサギそのものだ。


「くぅぅ、可愛すぎる! やっぱテイムして正解だった!」


「……プゥ」


 テンションが上がっていく私が鬱陶しかったのかアンゴラウサギィはそのまま顔を伏せる。


「アンゴラウサギィの名前も付けないとだよね。勝手につけていいのかな?」


 【観察】をつかってもアンゴラウサギィの名前はアンゴラウサギィのままだ。特に固有名は存在しないのだろう。


「んー、ふわふわだとそのままだしモフモフとかもセンスがない? 茶色だからブラウンでも良いけど可愛くないな」


 あーでもないこうでもないと考えているといつの間にか街の外へ通じる門の前まで来ていた。特に何も思うことなくくぐると突然ムービーが始まる。





 かつて世界は人が支配し繁栄してきた。人は森林を切り開き海を開拓し新たな農地を作る。必要なものがあれば知恵を出し合って作り出し、より便利により快適に生活しやすい環境を構築していく。

 もはや人が踏み入れない場所なんて存在しないと思われた頃、各地で魔流脈が噴出した。地下深く存在した濃すぎる魔力の影響により付近の生き物は魔物化。魔法を使うモンスターが次々と誕生し、人は勢力圏を縮小していく。


 最後に残った勢力圏、それがホープタウンだ。滅びを目前にしたホープタウンの領主は最後の手段、異世界からの召喚に頼った。自らと街人の魔力を犠牲にした術は成功し召喚ゲートが街に出現する。

 そこから現れた異邦人たちは何をなすのか。果たして人の希望となるのだろうか。ただ言えることは新しい風が吹いたということだけだろう。




 重苦しい音楽と共に流れていたムービーが終わり、視界に野原が映る。


「これがメインストーリー」


 予告映像で今のムービーは見たことがあったけれど重い内容だった。ゲームなのだからもっとポップにすれば良いのに何故かMMOのストーリーは暗いものが多い。

 このゲームは開拓していく話だからここから先は明るくなっていくのかなぁ。


 分からないけれどこのゲームのメインストーリーは特殊でプレイヤーたちの行動によって変わってくるらしい。これが個人ごとなら分かるけれど、そうではなくメインストーリーを踏んだプレイヤーがムービーに出演してストーリーが進んでいく。メインストーリーの鍵は戦闘だけでなく生産にも存在するらしいからどのプレイヤーでもメインストーリーを進める可能性があるのだろう。


 まあ、楽しく遊べれば何でも良いか。別にムービーに映りたいと思わないし。


 そう考えながらプレイヤーで溢れる草原を見渡し、街の中へ戻った。

 次の赤矢印はまた別の場所へ案内しようとしているらしい。街の外へ出るクエストは既に完了になっていた。



 シオン Lv.1 ドッペルゲンガー

 所属:テイマー組合

 非公開称号:『NPCとのフレンド1号』 NPCの好感度+10


 HP:15(100)

 MP:185+5(100)

 STR:100(100)


 ATK:1(10)

 DEF:5(10)

 MDEF:8(10)

 AGI:6(10)

 INT:18+1(8)

 DEX:18+2(9)

 LUK:14+3(3)


 スキル:メイン【テイム Lv.1】 サブ【観察 Lv.1】 生産【調合 Lv.2】

 【解体 Lv.1】、【採取 Lv.3】、【栽培 Lv.1】、【釣り Lv.1】、【醸造 Lv.1】、【歌 Lv.1】、【MP微強化 Lv.1】、【INT微強化 Lv.1】、【DEX強化 Lv.1】、【LUK超強化 Lv.1】


 テイムモンスター:(アンゴラウサギィ♀)(非戦闘要員)【威嚇(いかく)】、【逃走】



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