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戦闘力ゼロから始めるやりたい放題のVRMMO  作者: kanaria
VRMMOを遊びつくせ

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23.いざ行かん第2の街へ

 【弓】を試すついでに倒したイノノムとホーンラビットは解体してギルドメンバーに売却した。誰からも要らないと言われたものはレイがまとめて売却してくれるらしい。

 『暇人の集い』に入って本当に良かった。


 ホーンラビットもイノノムも初期のモンスターなのであまりいい値段にはならなかったけれど、それでも消耗した矢の代金よりは高い。

 やはり戦闘職は生産職よりも稼ぎやすいのだろう。弓の値段まで考えると微妙だけど……。


「世知辛いなぁ」


 きっと生産も戦闘もトップに入れば美味しいし儲かる。その分使う金額も大きいけれど、溜め込んでる人も多い。


 欲張って全部に手を出しているから特化している人よりもスキルが成長してないのはわかってるんだけど……。

 一つを極める遊び方だとどうしても飽きちゃうんだよなぁ。


 私はため息をついてから手のひらの上で水の玉に包まれている卵をつつく。


 卵が孵るのに魔力が要るというので【魔法素養の心得】で水の玉を生み出して、水球の中に入れてみたのだ。

 正直、卵が魔力を吸っているか分からないけれど、卵には好きな属性と嫌いな属性があるらしい。闇属性の玉に入れた時は変に振動していた。


「この卵もよく分かんないよねぇ」


「ぷう」


 第1の街(ホープタウン)の河原に座り込み、反対側の手の平にも風の玉を生み出す。どうにかして手の平から離せないかと気合を込めてもやはり風の玉は動かない。右手に水の玉を出している分、難易度が上がっている。

 それならと風の玉の横にもう一つ風の玉を作ろうとしたけれど、それも無理だった。手のひらに出せる玉は1つが上限のようだ。


 どうやったら玉が手の平から離れるのかな。

 動いてくれないと使い道がない。

 お肉とかは焼けるのかもだけど。


 【料理】を取っていない私にとってはお肉が焼けても意味がない。スキルがないと生産行為すらできないのだ。


 スキル枠が限られてるのにそういう素振りすらできないのはキツイなぁ。

 自由に出来すぎてもゲームとして成立しなくなっちゃうから仕方ないとは言え。


 私は風の玉を握ろうとしてみたり、空に向かって掲げてみたりした。火の玉と違って風の玉は顔を近づけても燃えたりしない。ただ、玉に触れると切り刻まれるので攻撃を食らった扱いになる。

 前髪がパッツンになり、すぐに元に戻ることも確認した。恐らく火の玉で前髪が焦げた時もすぐに戻ったのだろう。


 半分くらいぼーっとしながら玉を振り回しているといつの間にか時間が経つ。そのせいで傍から見たら変人なのに私は気づいていなかった。


「シオーン!! 何やってるの? 噂になってるよ!」


「えっ?」


「ぷぅ?」


 ゴマントアザアラシの雪を抱えたルリが走ってくる。ルリと会うのはシルバーウルフのイベント以来だ。


「私が噂に?」


 何か変なことをしただろうかとラテと顔を見合わせる。

 ラテも何のことだか分かっていなさそうだ。


「その手に持ってる玉だよ! 何をしてるの?」


 探るようにルリに見られて、ようやく私は両手の玉を消した。卵はしっかりと巾着に入れて首から下げる。

 まさか【魔法素養の心得】を街中で使っているだけで噂になるとは。


 驚きつつもある意味納得する。

 街中で魔法を使う人はほとんど居ないのだ。玉を生み出して色々試す私は明らかに変人だっただろう。


「全く、シオンぽい人が悪魔召喚をしてるとか、プレイヤーイベントを始めようとしてるとか言われてたから気になって探しちゃったよ!」


「……悪魔召喚なんてできるんだ」


 何でも有りのゲームだとは思っていたけれど、それにしてもすごい。

 やはり魔法陣とかを書くのだろうか。


 少しワクワクしていると、ルリが何とも言えない表情で私を見てきた。


「悪魔召喚は聞いたことがないかな。でもそれくらい変なことをしてたってことだからね」


「ただスキルを使ってただけなのに」


「魔法の玉を生み出すスキル? 普通の魔法の心得を覚えたの?」


 ルリは近接だから魔法スキルを取っていないらしい。【魔力操作】だけ取って肉体強化に使っているのだとか。

 私では想像もしなかった使い方だ。


「魔法の玉は【魔法素養の心得】だよ」


「え、ゴミスキルランキング1位の?」


「なにそのランキング」


 ちょっと気になるランキングだ。あとで調べてみる必要がある。

 私はそわそわしながらルリに続きを促した。


 けれどルリはルリで【魔法素養の心得】に興味があるようだ。

 私の話を右から左へ受け流しつつ先程まで水と風の玉を出していた私の手のひらの玉をガン見している。


「そんなに気になる? たぶん情報まとめサイトに載っていたのと同じ感じだよ。全属性の玉が生み出せるかわりに動かすことすらできない」


「なかなか使えな…………個性的なスキルだね」


 間違いなく使えないスキルと言いかけて言い直したのだろう。

 ルリはわざとらしく咳払いをしていた。


「使い道は模索中かなぁ。何かいい案があったら教えて欲しいや」


 もう私の思いつく限りのことをした気がする。これ以上となると水に潜って玉を出すとかしか考えつかない。


 あー、雷の玉を水中で生み出したら攻撃になるのかな。

 雷は基本属性じゃないからスキルレベルを上げないと使えないみたいだけど、攻撃になるかも。


 そこまで考えて自爆しそうだと気づく。

 このゲームにフレンドリーファイヤーという考えがあるのかは分からないけれど、ここの運営なら感電くらいさせてきそうだ。私の前髪も燃えたり切られたりしたし。


 若干萎えたので、話題を変えることにした。


「そういえばルリは第二の街に行った?」


 第二の街も気になることの1つだ。『暇人の集い』でも行っている人がいた。戦闘職のルリなら既にダンジョンにも行った可能性がある。


 けれど、ルリは予想に反して首を横に振る。


「まだ行ってないなぁ。興味はあるけど、第二の街付近ってゴブリンも沸くでしょ? 流石に一人だときつくて」


「そうなんだ。ルリと雪なら倒せそうだけど」


 シルバーウルフが襲撃してきた時、雪も口から水鉄砲を発射していた。

 近距離のルリと遠距離の雪なら相性も抜群だろう。


「くおぉぉ」


 自分が呼ばれたと思ったのか雪が返事をする。まだ赤ちゃんなので毛の生えた前足をぺちぺちする様子が可愛らしい。

 これで水魔法が使えるのだからとても優秀なテイムモンスターだ。


「ぷうぷう!」


 雪を見たあとにちらりとラテを見てしまったので、ラテが抗議をするように鳴く。ラテは戦わなくて良いと私が言ってテイムできた子だ。ラテも戦ってくれたらと思うようになったのは私のわがままだろう。


「シオンは他のモンスターをテイムしないの? 【魔法素養の心得】を覚えたってことは他にも攻撃スキルを手に入れてるよね」


「うん、【弓】を覚えたから戦えるよ」


 弓と矢は【空間収納】にしまってあるので何のスキルか分からなかったらしい。攻撃スキルを取ったと言ってないのによく攻撃スキルを取ったと気づいたものだ。


 でも、そうか……。

 ルリに言われるまで気付かなかったけど、他のモンスターもテイムできるんだっけ。


 【テイム】は上級スキルだから10匹までテイムできるはずだ。

 何か良いモンスターはいたかな。できれば近接が良い。


 街の近くに出現するモンスターを思い浮かべながらルリに頷くと、ルリが何とも言えない顔をした。


「えっと……シオンって使えないスキルしか取れない縛りとかしてる? 何でそのスキルを選んだのか気になるスキルばっかりなんだけど」


「……残念ながら縛りプレイはしてないかな」


 私も尖ったスキル構成だと自覚している。

 でも戦えるようになったから一歩進化したと思う。


「【弓】って当たる? 確か命中率が低くてヘタをすると味方に当たるって聞いたんだけど」


「味方に当たるんだ……。一応、ホーンラビットとイノノムは外さなかったよ。むしろ百発百中!」


「え! それはすごい!」


 ここぞとばかりに自慢すると、ルリが目を見張った。

 たぶん聞いていた話と違うのだろう。私もここまで【弓】で命中すると思わなかった。


「それなら2人で第二の街に向かわない? 遠距離攻撃が増えるならゴブリンが3体同時でもなんとかなりそう。ただ、シルバーウルフかイエローベアで先に肩慣らししたいな」


「私の攻撃がどこまで通じるか分からないけど、それでも良ければ」


 先に連携を確認するのなら下手なことにはならないだろう。

 シルバーウルフやイエローベアに私の攻撃が通らないのならそこで帰ればいい。ルリもその可能性は考慮しているみたいだ。


 ありがたいルリの提案に私も頷いた。


 新しいテイムモンスターは第二の街に行ったあとで考えよう。

 第一の街に戻ってくることもできるし、第二の街周辺で探してもいい。


 私とルリは第1の街を出て第2の街を目指す。すぐに出発出来るだけのアイテムは既に持っていた。


 第1の街と第2の街の間は一応街道があるけれど、道を通っていてもモンスターが襲ってくる。これは街を奪還したばかりたからか、これからもそうなのか。

 ずっとモンスターが襲ってくるのなら生産特化の人が街を移動するのは大変そうだ。


「……シルバーウルフは大丈夫そうだね。シオン1人でも倒せそう」


 1本の矢で倒れたシルバーウルフを前にルリが呟く。

 どこか唖然としているのは【弓】の評価がそれだけ低いということなのだろう。


「ありがとう。ただ、私のATKが1しかないのは変わってないから刺さりが甘いかも。どこまで通用するか分からないから気をつけて」


 倒したシルバーウルフに解体用ナイフを刺して【空間収納】にしまう。

 矢が深く刺さってないのに倒せているのは急所に刺さっているからだ。モンスターの防御力が上がったら刺さらなくなる危険性がある。


 クリティカルをどこまで信じていいか……。


 モンスターは心臓のかわりに核がある。今のところ、そこを射抜くと一撃で倒せるようだ。

 結局、クリティカルというのは核や目などの急所に刺さる事で生み出されているのだ。


 核を矢で射ているのに魔石が取れるのはよく分からないけれど、ゲームだからかな。


 倒し方が汚いと毛皮が取れないということもない。ドロップ品も解体品もとても綺麗な毛皮だ。


「面白いよねー」


「なにが?」


 倒したモンスターが綺麗になるのを見て呟くとルリが首を傾げる。


「倒すと死体が綺麗になるのが。【解体】はグロテスクになるけど」


「あ、【解体】ってグロいんだ……。噂には聞いてたけどキツくない?」


「私は大丈夫かな。運がいいことに耐性があるっぽい」


 リアルで解剖をしていた訳じゃない。でも、吐いたりすることはなかった。


 臭いがほとんどしないおかげかもしれないけど、良かった。

 もし【解体】が出来なかったら金策が本当に大変になっていただろう。


 胸を撫で下ろしながら第2の街に続く街道を歩き続ける。

 事前情報ではゲーム内の2,3時間歩くと着くらしい。


 長いのか短いのか分からないなぁ。

 モンスターが出るから暇ってことはないけど、気軽に行くには遠すぎる。


「そろそろ折り返し地点だね。ここら辺からイエローベアが出るから気をつけて!」


「分かった!」


 イエローベアはシルバーウルフより硬くて火力がある。魔法は使わないようだけれど、貫通力に不安のある私とは相性が悪いかもしれない。


 警戒しながら歩くと急にラテが鳴いた。


「ぷぅ! ぷぅぷぅ!!」


 鼻をヒクヒクさせて警戒するように私の肩に爪をたてる。


「あ、イエローベアだ! 2体もいる!!」


 ガサガサと音を立てて森からイエローベアが現れた。番なのか大きい個体と小さな個体が居る。


「ついてないなぁ」


 ボヤきながら拳を握るルリを横目に私は弓を構えた。


「……っ」


 小さいイエローベアに狙いを定めて矢を放つ。

 今まで通りならこれで倒せたはずだった。


「だめ、倒しきれない!」


 全く歯が立たないということはなかったけれど10分の1程度しかHPが減らない。


 核に刺さってないんだ。


 初めてのことに焦りながら次の矢を構える。

 慌てる私とは対象的にルリは落ち着いていた。


「任せて!」


 叫ぶや否やイエローベアを殴りつけてヘイトを稼ぐ。ルリは近接というより壁のような戦い方をしてくれるようだ。


 2体のイエローベアのタゲを上手いことさらっていく。


「くぉぉお!」


 こういう事態に慣れているのか、雪も水魔法を口から放つ。私が小さいイエローベアを先に攻撃したから小さい方を倒すことにしたらしい。

 私も2本目の矢をイエローベアに向けて放った。


「ショット!」


【弓】のレベル1で覚える技を使う。今までは一撃で倒せていたから使い道がなかったけれど、攻撃力が上がる技だ。


 技を使っても核に刺さらなかったけれど、イエローベアが私の方を向く。小さなイエローベアのHPは半分を切っていた。


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