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19.お金はあるところにはある

 街落としのお祝いパーティが終わった後は片付けをしなくていいというみんみんに甘えてレイの露天に戻った。

 他のギルドメンバーは既に街落とし終了モードらしく、思い思いに生産をしたり、師匠のところに行ったりと個別行動をしているらしい。どうやら長時間パーティをしていたのは『もうぼっちとは言わせない』だけのようだ。


「生産ランキング19位と26位おめでとー! 僕は4位だけどね」


「きー! そら【鍛冶】で圏外だったら笑ってやったわ!」


 ふははと笑うレイに対してナツミが突っかかる。ナツミがどれくらい時間を割いていたかは分からないけれど、レイは準備期間に露天までしていた。それで4位とは釈然としない。

 たぶん街落としが決まる前に作った武器もポイントに加算されているからだろうけれど羨ましくて歯ぎしりをしそうだ。


「2人とも報酬は5万Gね。送っといたから確認して」


「えっ? さっきアシュラからもらったけど?」


 所持金を確認しても確かに10万G増えている。レイがさらに5万Gくれたので所持金がびっくりするくらいの額になっている。

 不思議に思って首をかしげると、レイも首をかしげた。


「報酬は元々僕から渡すことになってるよ。もし別で貰ったのなら頑張ったご褒美じゃない?」


「頑張ると金一封がもらえるの!?」


 お礼すら言わずに貰っちゃったよ!

 アシュラの連絡先なんて知らないし……。


 一応みんみんとはフレンド交換したけれど、みんみんに伝言を頼むのも気が引ける。もし、みんみんが何も貰っていなかったら余計な火種になりかねない。


「まぁ、余程失礼なことをしてなければアシュラは気にしないと思うよ。渡したいと思ったから渡したんだろうし」


「せやせや、うちなんて1Gも貰えんかったし」


 ぶすーっと膨れるナツミの頬をレイがつつく。


「だーかーらー報酬以外は貰えないのが普通なんだってば。アシュラには僕からお礼を言っておくよ。まあ、恐らくシオンはよっぽどいい働きをしたんだね。アシュラから僕にも御礼がきてたよ。シオンを派遣してくれてありがとうって。『もうぼっちとは言わせない』の【調合】はかなりギリギリだったみたいだね」


 ギリギリ……。本当にギリギリだった。もうしばらく【調合】をやりたくないと本気で考えたくらいだ。


「生きる屍みたいになりながらポーションを作ってたよ。元々【調合】が一人しかいないからかポーションが足りなくて足りなくて。作った先から持っていかれるのにそれでも足りないって言われてたんだ」


 どれだけ作ってもポーションはまだかとの声がかかる。休みたいという願いも聞き入れてもらえず、決定権があるアシュラは死に戻りすらしない。

 みんみんが強制ログアウトになる前に街落としが終わってくれなければぶっ倒れていただろう。


 こんこんとそんな話をすると、レイにお腹を抱えて笑われた。

 ナツミも想像して嫌気が差したのだろう。報酬に対する不満をそれ以上言うことはなかった。


「その状況なら別に報酬を出してもおかしくないか。たぶんシオンが居なかったらポーション不足で耐え切れなかったんだろうし。運が良かったね」


「運が良かったのか悪かったのか……。でも小金持ちになった気分だよ」


 ゲームを始めてから生産の世知辛さばかりを感じていたので感動もひとしおだ。何回も所持金の欄を見てしまう。


「そんなにいっぱいもらったんか? でも、生産はどんどんお金がかかるから稼げるときに稼いどき。どうせギルド資金から出てるんやろうし」


「いや、シオンが個別で貰ったのはアシュラ個人から出してるみたいだね。次もお願いしたいってさ」


「次!? 次なんてあるの!?」


「そりゃあるでしょ。まだ第二の街しか攻略できてないよ。気を抜くとモンスターに攻め返されたりするしさ」


 さも当然のようにレイが頷く。


「流石に次はもうちょっと楽なギルドが良いな……」


 何回もあんな経験をしたくない。そもそも次までに『もうぼっちとは言わせない』が【調合】を増やせば良いんだ。別にメンバーを入れ替えなくてもスキルリセットのチケットがあるはずだし。


 遠い目をすると、腕の中で寝息を立てていたラテの鼻ちょうちんが割れる。


「ぷ、ぷぅ?」


 おとなしくしていると思ったらお腹いっぱいで寝ていたらしい。目をしばしばさせるラテの頭を撫でると、ラテは再び眠りに落ちていった。


「なんていうか、気の抜けるテイムモンスやね。モンスターらしさが欠片もない」


「可愛いでしょ?」


 一緒に戦ってはくれないけれど、基本的に話の邪魔もしない。とても良い子だ。


「可愛いとは思うけど、うちは戦える子の方がええな。それでもチマチマお願いなんて性に合わんけど」


「確かに、ナツミは自分で殴りに行きそうだよね」


 ナツミもレイも生産なんていう裏方をやっているはずなのにどこか好戦的なところがある。それを告げるとナツミは当たりと笑っていた。


「じゃあ、また何かあったらギルチャに連絡を入れるよ。シオンだけはシルバーウルフの精算があるから残ってね」


「「はーい」」


 2人で返事をし、大きく手を振りながら去っていくナツミに普段よりも大きく手を振り返す。ナツミは本当に元気が良い。


「シルバーウルフのお金、待たせちゃってごめんね。街落としでゴタゴタしてて値段が上手く設定できなかったんだ。でも高値で売れるタイミングだったから釣り上げて売っておいたよ」


 ナツミが見えなくなった頃、レイがエヘンと胸を張る。

 どのような形で売ったのかは分からないけれど加工して売ったアイテムが多いのだろう。少しでもギルドに貢献できたのなら良かった。


「ありがとう。あまり無理はしないでね」


 お金はあった方が嬉しいけれど、恨みを買ってまで欲しい訳じゃない。


「無理はしてないから大丈夫! 数が少なかったからレアなやつはプレミアが付いたよ。魔石はどうしても値段が落ちてたから1個300Gにしかならなかったけど」


「それでも1800Gだよね! やっぱ戦闘って儲かるんだ……」


 生産はやってもやってもお金にならないのにモンスターは倒すと一気にお金が増える。これなら私も早く戦えるようにならないと。


「うーん、武器や防具にポーション……色々揃えたらガッツリお金がかかるから儲かるかは人によるんじゃないかな。戦闘職も生産職も金策がしにくいゲームだと思うよ。ギルドに入ってたら売る時に何パーセントか持ってかれるし」


「ギルドに入ってるともらえるお金が減るの?」


「うん。ギルドによって何パーセント持っていくかは違うけど、1~10パーセント持ってかれるね」


「まじか!」


 深く考えないでギルド資金とか言ってたけど消費税みたいな感じで取られるんだっけ?

 きちんと確認するべきだった……。


 今更だけれどギルドメンバー以外も見れるギルド紹介の詳細ページにギルド資金徴収率という欄があった。『暇人の集い』はギルドメンバー間の取引がゼロパーセントでギルドメンバー外の取引が1パーセントとなっている。


「あれ? 安い?」


 ギルド外の取引が1パーセントというのは最低額だ。ギルド内の取引も当然最低額になっている。


「うちのギルドは戦闘ギルドみたいにイベントで消耗品を購入したり武器を用意したりしないからさ。それでもシステム上これより下げられないから最低限は貰ってるんだけど……」


 レイはどこか申し訳なさそうに頭をかく。

 生産に特化したギルドだとギルド資金をそれ程使わないのだろう。


「……前、5千万Gで生産設備が整ってたら購入を即決したとか言ってなかった?」


 この徴収率と人数で5千万G以上持っているのはすごい。どれだけこのギルドのメンバーが稼いでいるかが分かる。15万Gで小金持ちと喜んでいた自分が恥ずかしい。


「このギルドはβからあるんだもん。お金だけはβから引き継げたからβでトップを走ってた人やギルドはそこそこお金を持ってると思うよ。『もうぼっちとは言わせない』の拠点もすごかったでしょ?」


「確かにすごかった。あれで正規版からのギルドなんだよね?」


 正規版からということはこの短時間であれだけの拠点を建てられるだけのお金を稼いだということだ。『もうぼっちとは言わせない』がギルド資金調達率を何パーセントにしているのかは分からないけれど、凄まじく稼いでいるギルドだと分かる。


「うん、正規版からのギルドだよ。まぁ、あのギルドは拠点の費用のほとんどをアシュラと幹部が出したみたいだけどね」


「それはそれですごい資金力だ」


 トッププレイヤーともなると稼ぐ金額も使う金額も桁違いなのだろう。どうやったらあれだけの拠点を10人弱で建てられるのか。


 私はこっそりとため息をついた。


「うちも多分みんなからお金を掻き集めたらあれくらいできるよ!」


 負けたと思ったのかレイが声を張り上げる。

 『もうぼっちとは言わせない』でも10人近くで出し合っているのに6人で同じ額を払うとかレベルが違う。生産が儲からないというのはやはり私の腕のせいだったのか……。


 私がしょんぼりすると、レイが焦ったように私の腕を引いた。


「ギルドを移動するとか言わないよね?」


「えっ、言わないよ。『暇人の集い』に入る時でさえすごく悩んだのに」


 考えてもいなかったことに首をかしげると、レイが安心したように笑う。


「シオンは『もうぼっちとは言わせない』にかなり馴染んだみたいに感じたから心配してたんだ。あのギルドもいいギルドだとは思うけど……」


 レイが私のどこをそれ程買ってくれているのか分からない。けれど、せっかく入ったギルドをそんな短時間で辞めようとは思わない。


「私は『暇人の集い』がいいと思ったから入ったんだよ。しばらくはお邪魔するつもりだからよねしくね」


 このギルドの場合、私が出て行くよりも追い出される可能性の方が高そうだ。みんな確かな生産の腕を持っているし、独自の販路も持っている。最初が街落としだったから、ある程度まとまって派遣されたけれど、普段は個人行動も多そうだ。一つを極めるのではなく寄り道ばかりの私ではついて行けなくなる可能性が高いだろう。

 それでもレイの気持ちは嬉しかった。


「ところでシルバーウルフの他の素材はどうだった? 頭のついた毛皮とか面白いとおもったんだけど」


 頭のついた毛皮は勿体無いことに牙も毛皮につけっぱなしだ。結構いかつい見た目になっていたから蛮族のコスプレとかに使えそうだったけれど、高値はついたかな?


「あー、あれはジローが2千Gで買い取っていったよ。良い感じの防具にしてオークション出したんだって」


「買取額が高い! 結構高額だけど利益なんて出るの?」


 素材の買取が2千Gなら防具の売却値はいくらを想定しているのだろうか。

 いくらレアな毛皮でも【解体】を持っていれば作ることができる。素材もシルバーウルフだし、第二の街近辺のモンスターより防御力が落ちるはずだ。


「もう落札済みのはずだからジローに聞いてみたら? 誰が買ったのか教えてくれるかも。それにジローから伝言があったんだ。ああいう変なやつが好きなイロモノも居るからまた作ったらよろしくだってさ」


「うん、もし面白そうな【解体】をしたらジローに個チャをするよ。あ、レイを通したほうが良い?」


「いや、僕は通さなくていいよ。シオンは既にこのギルドのメンバーだし、好きに取引をして。ただ、鉱石を拾った時は僕に教えてね」


「分かった。何か良い鉱石を見つけたらレイに連絡するね」


 レイは【鍛冶】が主体だから鉱石に目がないようだ。【採掘】は取っていないので鉱石に出会う機会があるか分からないけれど、もし見つけられたらまずレイに話をしよう。


 私はそう決めて頷いた。


 ちなみにシルバーウルフの売却費は全部で8千Gになり、【解体】の偉大さを知った。こうなったらやっぱり戦えるスキルを早急に選ぶ必要がある。

 あまり気が乗らないけれど、みんみんのやり方を見て作れそうだった下級ポーションを試した後でスキルを考えるかなぁ……。


 あれだけ嫌だと思ったのに仮眠を取ったら【調合】をすることも苦ではない。強制されるのは嫌でもあれこれ試してみるのは楽しい。

 私は薬草をレイから買い取って総合生産所へ向かった。

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