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17.『暇人の集い』の正体

 そう、ゲームをより楽しめることを祈って私は『暇人の集い』に入ったはずだった。ギルドに入ったのもつい十数時間前に過ぎない。この十数時間というのもゲーム内の数時間だからリアルだとまだ3,4時間しか経っていないだろう。


「それなのになんでこんな【調合】地獄に陥ってるんだー!!」


 叫んだ瞬間、ボフンと音を立てて作りかけの初心者用ポーションが煙を吐く。

 極限な状況に歯ぎしりが止まらない。ただでさえオートで初心者用ポーションを作るだけのスタミナは使い切っているのだ。それなのに全く減ったように見えないポーションの材料。


 そう、きっとこれは試練だ。レイが私の忍耐力を試しているに違いない。

 そんなことを考えながらギルド加入直後に意識を飛ばした。




 ◇

「じゃあ歓迎会をと言いたいところだけど、シオンは前線に送るためのポーション作製をよろしくね。軽度の麻痺を使うモンスターも居るみたいだから痺れ取り薬も作れるならお願い」


「えっ?」


 突然言われたことに理解が追いつかない。どうしてポーションが必要なのだろうか。

 ギルメンは全員元気でポーションが必要そうに見えない。


 レイの言いたいことが分からずに首をかしげると、同じくレイが首をかしげた。


「あれ? 説明してなかったっけ? 第二の街を攻めるのにポーションが足りてないからどんどん作って欲しいんだって。素材は攻略してるギルドが出してくれるみたいだから安心して良いよ」


「聞いてないけど!?」


 安心も何もどうしてそんな話になったのか分からない。

 説明を求めると、レイは個チャを開いているのか何もない空中を見つめた。


「そっかー、説明した気になってたや。元々第二の街を攻略してるギルドからマナポーションや普通のポーションを作って欲しいって依頼が来てたんだ。でも依頼が来た時は『暇人の集い』に【調合】持ちが居なかったから断ったの。それでも今かなりポーションの在庫がピンチみたいでさ。持ってるポーションがあるなら高値で買うから売って欲しいって個チャが来たんだ。だからシオンのことを相手に話しちゃった!」


「……そうなんだ。とりあえず今持ってる初心者用ポーションは渡しておくね」


「ありがとう! 【調合】する場所も貸してくれるみたいだから【調合】をお願いできないかな? 何とか初心者用ポーションの無料配布時期中に攻略を始められたけどそれでもポーションが足りないらしくて。作り方を知ってるのは初心者用ポーションだけ?」


「うん。マナポーションも痺れ取り薬も知らないかな」


「オッケー、初心者用マナポーションと痺れ取り薬のレシピは教えてくれるって。完成したポーションは街に死に戻りしたギルメンが第二の街まで持っていくから、シオンはじゃんじゃんポーションを作って欲しいって。ギルドに居る【調合】持ちだけだと対応しきれないみたい。僕たちも全員第二の街の攻略サポートに入るけど、【調合】が一番足りてないらしいね」


「それは大変だね」


 何が大変なのか余り分からずに淡々と相槌をうつ。けれど頭の中は疑問符でいっぱいだった。


 あれ? 

 どうして第二の街を攻める手伝いをするのが当たり前みたいになってるんだろう?

 確かに関われるなら関わりたかったけど、なんかこう……違くない?


 第二の街の攻略に関わるとしてもお願いして入れてもらうものだと思っていた。

 それがなぜか即戦力扱いだ。しかも『暇人の集い』のギルメンは攻略の後方支援を行うことに誰ひとりとして疑問を持っていない。


 生産をする場所も素材も出してくれるって何?

 そもそもどういう繋がり?

 えっ、このギルドってどんなギルド!?


 ただ身内で集まって生産を楽しむギルドだと思っていたので衝撃が隠せない。このギルドは大手じゃないから攻略や情報収集を諦めてたのに想像と違う。


「レイ、もしかして『暇人の集い』ってすごいギルドだったりする?」


 軽い気持ちで入団したけれど、もしかしたら知る人ぞ知るギルドだったのかもしれない。そういえばアズキさんが入団を断られた人が意識を飛ばしてたとか言ってたような……。


 恐る恐るギルメンを見回すと、含み笑いをしている人と良く分かってなさそうな人が居た。


「すごいギルドかは分からないけど大手ギルドなら大体知ってるんじゃないかな。知名度はそこまで高くないと思うけど」


「大手ギルドは大体知ってる……」 


「うん、第二の街の攻略開始ムービーで出てた5つのギルドで関わりがないのは、生産も全て自分のギルドで賄ってる『朝からお茶会』だけだよ。銀色に輝いてた革鎧を作ったのはジローだし、『暁の光』のナックルを作ったのは僕。ハルカやナツミやアズキ、ザオも色々作ってたしね」


「くふふ、あのお揃いのナックルは面白かったですねぇ。ナックルなんて使わない人が大半なのに全員に装着させるとは」


「目立ちたいからって理由がもう良いよね。うちはあのノリがすきだわぁ」


「僕は何度も本当に作るのか聞いたんだけどね。ムービーが終わったらすぐに自分の武器に持ち変えるから作ってくれっておかしくない? 本来使わないものを作るなんて性に合わないけど、あの熱意には負けたよ」


 苦笑いする作製者(レイ)とは対照的にお揃いのナックルは評価が高そうだ。このギルドだけかもしれないけれど、確かにインパクトは抜群だった。


「あの目立ってた武器や防具を作ったのはレイとジローだったんだ。すごいね」


「おかげで良いスキル上げになったよ。さて、あの防具や武器の修理依頼も来てるし、そろそろ移動しようか。『一期一会』にはアズキとハルカ、『暁の光』には僕とザオ、『もうぼっちとは言わせない』にナツミとシオン、『ドラゴンキラー』にジローね。シオンは分からないこととかナツミに聞いてね。じゃ、無理なく楽しくレッツゴー!」


「「「レッツゴー!」」」


 ブラック企業の朝礼みたいなノリにアズキとナツミが腕を大きく振り上げる。声を出したのは私を含めて3人だけだったけれど、腕は全員上がっていた。




 思い返せばあのノリと勢いに流された自分を恨みたい。

 私がギルドに入りたいと言った時は既に第二の街の攻略が始まっていたはずなのに良くみんな生産の持ち場(戦場)を抜け出して来てくれたものだ。もしかしたらまだ修理依頼は来てなかったのかもしれないけど。


「すっ、すみません。ボクはもうダメです……」


「許さん!! 助っ人に過ぎない私より先にリタイアするのは許さないよ!」


「ぷぅ!」


 『もうぼっちとは言わせない』の【調合】担当、みんみんが倒れようとしていたのでラテと私で物理的に邪魔をする。ただでさえこのギルドに【調合】は一人しかいないのだ。みんみんが投げ出したら私だけになってしまう。


 私がみんみんの体を支え、ラテが顔面にアタックを決める。ラテのアタックとか羨ましい。


 道中でナツミに教えてもらった情報によると、『もうぼっちとは言わせない』は開戦ムービーにでていた獣人の少女がギルマスを務めるギルドらしい。開戦時に楽しみだなぁと言っていた通り、バトルジャンキーが多いギルドなんだとか。

 その為、生産が出来る人はとても少ない。60人居るギルメンの中で10人しか居ないせいで、しわ寄せが私たちに来ていた。


「でももう嫌ですぅ。限界だってばよ!」


 もはや本人も何を言っているのか分かっていないのだろう。頭のネジが1本どころか10本くらい飛んでいっていそうだ。

 この場から逃げ出せると言うのなら喜んで所持金を全て差し出すだろう。


「逃げられるんなら私だって逃げ出したいんだよー!」


 集中力なんて疾うの昔に切れている。ここにいるのは惰性で品質Dのポーションを作り続ける2人と良い子にしているラテだけだ。

 【調合】のスキルレベルがまだ伸びていることだけが救いだけれど、流石に一旦休憩を入れるべきだろう。


 ちょうど死に戻ってきたギルメンが2人居たので捕まえる事にした。


「ねぇ、少し休みたいんだけど、どこか休める場所はある?」


「いえ、団長に聞いてみないとなんとも……」


「自分には判断できないっす!」


 何回目の死に戻りか分からない人に聞いても答えは変わらない。『もうぼっちとは言わせない』のギルマスは一度も死に戻りをしていないので、この声はギルマスまで届いて居ないのだろう。


「とはいえ団長ももうそろそろ強制ログアウトのはずですけどね。団長だけでなく最初から街落としに参加している人は全員時間切れかなぁ」


「それってヤバくない?」


 前線がどうなっているのか分からないけれど、ログアウトをせずに戦い続けている人は多そうだ。途中で抜けてる人が居るとはいえ、指揮できる人は残るのだろうか。


「一応、長期になる場合はギルドごとに休憩時間が決まってますね。今回、強制ログアウトまで粘るのはうちと『暁の光』です。小さいところは知らないですけど」


「なるほど。開戦のムービーに出てきたギルドはちゃんと相談してたんだ」


「そうですぅ。だからボクもそろそろ強制ログアウトですねー」


「えっ!」


 死んだ魚の目で初心者用ポーションを作り続けるみんみんの目が強く輝いた。強制ログアウトになるのが嬉しいようだ。


「ボクが居なくなったらここを頼みますね! 途中抜けや遅れて参加したギルメンは 強制ログアウト中も戦ってると思うんで! いやぁ、待ちに待っ……心苦しいですけど頑張って下さいね」


「……」


 話している途中からみんみんが生き生きし始める。

 よく考えたら、みんみんは第2の街の攻略開始以前からポーションを作り続けているのだ。それは嫌になるだろう。


 それとも生産がメインの人って永遠に同じものを作り続けても飽きないのかな。私は流石に数時間も【調合】だけをやってると飽きるんだけど。


 今回は品質よりも数が重要視されているので、ロボットにでもなった気分だ。

 憂鬱な気持ちなっていると、ようやく待望のムービーが流れだした。




 街の外に居たモンスターを倒し切り、荒れ果てた街の中を闊歩するモンスターも倒していくプレイヤー達。大手5つのギルドは攻める場所が決まっているのか、開戦のムービーに出ていた人たちがある程度かたまっていた。

 それに引き換え、大手に所属していないプレイヤーはあちらこちらに散在しているようだ。


「おらぁ!! あと少しだ! 気合入れろ!!」


 お揃いのナックルをしていた『暁の光』のギルドマスターが半ばで折れてしまった大剣を捨て、ボロボロになったナックルを光らせる。ずっと戦い続けていたのか、革鎧も限界寸前だ。

 それでも目に闘士を浮かべて前を睨む。


 『暁の光』のギルドマスターが睨んだ先にはメガネをかけた『一期一会』のギルドマスターが居た。

 落ち着いた様子でメガネをクイッと上げている。ここが戦場だと忘れそうな冷静さで指示を出し、ギルドメンバーも着実にモンスターを倒している。


「殲滅しなさい。街の中のモンスターを倒しきらなければなりません」


 淡々と告げながら襲ってくるゴブリンを倒し、ふと横を向く。その先には人の3倍はあろうかという大きさのゴブリンが現れた。


「ついに出たか。最後のボスが」


 お揃いの銀の革鎧を着込んだ『ドラゴンキラー』のギルドマスターが好戦的に目を輝かせて先陣を切る。ギルドメンバーもそれに続くようだ。

 けれど、どれだけ攻撃しても倒れない巨大ゴブリンにプレイヤーも疲弊していく。


「まさかこんなに粘るなんて」


 開戦時のムービーでは物資が豊富と言っていた『朝からお茶会』のギルドマスターが口元に手を当てて巨大なゴブリンを睨む。彼女のパーティは瓦解寸前なのか、地面にうずくまっている人もいた。

 消耗戦になっている中、突如女の子の高い声が響く。


「トドメはわたしだー!!」


 ボロボロな巨大ゴブリン以上にボロボロな革鎧と何本か爪のかけた鉤爪に火魔法を乗せ、『もうぼっちとは言わせない』のギルドマスターが高く跳躍する。

 その攻撃は巨大ゴブリンの顔に当たり、ゴブリンがのけぞって転倒した。


 そこからはもうタコ殴りだ。その場にいるプレイヤー全員が武器を抜いて巨大ゴブリンを攻撃する。

 まだ火力が第二の街を攻略するレベルになっていないのか、魔法も物理も色々な攻撃が巨大ゴブリンに向かっていく。それでもプレイヤーのスタミナや魔力が尽きる前に何とか巨大ゴブリンが倒され、巨大ゴブリンは粒子になっていった。




 なんて言うか、想像以上だ。

 ポーションを作りまくって疲れているせいもあるかもしれないけれど、第二の街の攻略に加わらなくて良かったと初めて心から思った。


 けれど、みんみんは違うようだ。


「……団長、かっこいいですねぇ」


 今もムービーを思い出しているのか、頬を染めてうっとりとしている。


 確かに『もうぼっちとは言わせない』のギルマスはかっこよかった。トドメこそ刺せていないものの、ムービーで出た攻撃が巨大ゴブリンを倒す決定打となったことは間違いない。


 あれがトッププレイヤー……。

 自分がああなるのは無理だけれど、とても輝いていた。かなり過酷な戦いだったはずだけれど、彼女は楽しそうだ。

 会えるなら一度会ってみたいなぁ。


 せっかく『もうぼっちとは言わせない』の拠点にいるのだからと思っていると、今回の第二の街攻略のランキングムービーが流れ始めた。


 ランキングは以前、シルバーウルフの襲撃で生産職から不満が出た為かイベント貢献度のランキングの名前が攻略支援ランキングに変わっていた。どうやら武器や防具、消耗品ごとにポイントが付与され、第二の街を攻めるのに使われた数でランキングが決まっているらしい。

 以前あった特殊なイベント貢献は総合ランキングのみで反映されると注意書きにある。そうなると特殊な行動をしてもランキングに載りにくくなるのかなぁ。


 そこまで見て、私は潰れるように床に崩れ落ちた。

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