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2.ウサギをテイムしてみよう

 スキル構成を決めていざ始まりの街へと思いきや次はスキルの練習だった。

 βだとそんなものはなかったから要望が出たのかもしれない。


「シオンは【テイム】、【観察】、【調合】の練習ができるのなの。成果物に関しては持って帰って良いのなの」


「誰が教えてくれるの?」


「リルモなの」


 リルモがそう言うが早いか場所が近未来のラボ室のような空間から草原に変わる。草の高さはくるぶし程度までなので視界が広い。


「これからの練習はスキップもできるけどどうするのなの?」


「もちろん参加で」


 チュートリアルは面倒だからスキップしたくなる派だけどだからこそスキップした時の大変さを知っている。わざわざ教えてくれると言うのなら教えてもらった方が今後のためになるだろう。


「分かったの! まずは【観察】の練習をするのなの。あそこの動いている草むらを凝視すると良いの」


「凝視?」


 とりあえず指で差された辺りを見ると草むらから角の生えたウサギの顔が飛び出している。


 凝視。凝視。

 じーっと見つめているとホーンラビットという文字が浮かんだ。


「ホーンラビット?」


 まさか名前だけではないだろうと睨みつけてもそれ以上の情報は読み取れない。


「スキルレベル1だと名前しか読み取れないの。スキルが育っていくと細かい情報が見れたり、見た瞬間に情報が読めたりするのなの」


「なるほど、早めに伸ばす必要があるかな」


「進化先によって特化することもあるスキルだから気をつけるのなの」


「ありがと」


 メモを持っていないのが悔やまれる程リルモが話す内容は新事実が多い。

 雑談のようにみせてかなりの情報量だ。

 できる限り覚えておかないと。


「次が【テイム】なの。草むらにいるモンスターをテイムして来て欲しいの」


「いきなり実地!」


 特にコツを教わることもなく投げ出される。最近だと不親切という人が多いけれどこれはこれで好きなやり方だ。

 私は近くのホーンラビットに突撃してみることにした。


 ホーンラビットは私が近づいてもモヒモヒと草を食べている。


「テイム!」


「キュイ!!」


 とりあえずスキルを叫んでみるとホーンラビットの目が逆三角になった。どうやら敵として認識されたらしい。


「キュイキュイ!」


 ホーンラビットが鳴きながら突っ込んでくる。速度は目で追えるくらい遅いけれど今までこんな経験をしたことがないので避けることが出来なかった。


 カットされているとはいえ痛覚がオンになっているのでお腹が痛い。しかもこの一撃で私は死んでしまったらしい。

 チュートリアルだからかレベルやスキルは下がっていない。


「お疲れ様なの。テイムはある程度弱らせた方が成功確率が上がるのなの」


「弱らせるって攻撃系のスキルを持ってないんだけど」


「スキル変更チケットを使うのなの? 無理そうならスキップしても良いのなの」


「うーん」


 スキルを変更するのもスキップするのも負けた気がする。

 リルモ以外に見られた訳ではないけれど最初くらいは成功させたい。


 逆に闘志を漲らせて草むらに向かうと、ホーンラビットに混じって角のないウサギが居た。

 鑑定してみるとアンゴラウサギィと表示される。


「そのまま過ぎるでしょ!」


 ホーンラビットは白い毛に赤い目で可愛らしい姿をしているけれどモンスターらしく角が生えている。対してアンゴラウサギィは茶毛のアンゴラウサギそのものである。半ばで折れた両耳も可愛らしさを演出している。主な武器は……爪?


「くっ、こんなところに伏兵が」


 ふわふわしたものや綺麗なものが好きな私にとってこのアンゴラウサギィは誘惑の塊だ。

 リアルではハウスダストアレルギーがあって飼えなかったので欲望が止められない。


 両手をわきわきさせて近寄り、ふわふわの毛を撫でる。触れ合ってもアレルギー症状が出ないなんて奇跡だ。

 神は此処に居たのだ!


 私はなぜか逃げようとしないアンゴラウサギィを思う存分撫で回し、ふかふかの毛に顔をうずめた。


「テイムしないのなの?」


 まるでアンゴラウサギィが喋ったかのようなタイミングで声をかけられてアンゴラウサギィを凝視するけれど声の主はリルモだった。ぴくりとも動かなくなった私に痺れを切らしたらしい。


「するする! テイム!」


 祈るような気持ちでアンゴラウサギィを見つめるとアンゴラウサギィも見つめ返してくる。


「あなたを戦わせるつもりはない。ただモフらせて欲しいだけなんだけど……」


「…………。……プゥ」


 懇願するとアンゴラウサギィが小さく鳴いた。そのままウトウトしている姿は野生に見えない。

 けれどテイム自体は成功したようで、従属モンスターの欄にアンゴラウサギィが増えている。非戦闘要員と書かれているけれど何も問題ない。


「やったー!! 可愛いもふもふゲット!」


 まさかこんな幸運が転がり込んで来るとは思わなかった。

 戦わせないと宣言した時にリルモが何とも言えない顔をしていたけれど戦闘力がなさそうなアンゴラウサギィを戦わせる訳が無い。ブラッシングさせてくれたらそれだけで満足だ。

 まだ20センチくらいしかないので子ウサギだろう。


 まだまだ大きくなるアンゴラウサギィを抱っこできるように今から鍛えないと!


 ステータスを見て悩んでいると、リルモが近づいてきた。


「戦えないモンスターをテイムして大丈夫なの?」


「私の心の癒しになる予定だから大丈夫! 戦ったら直ぐに死んじゃいそうだし」


 確かに私は戦闘スキルがない。なので戦うならテイムモンスターに戦ってもらうしかない。

 けれどこのゲームはテイムモンスターが死んでしまうと懐き度とレベルが下がる。そもそも死ぬ描写がリアルらしいので死ぬようなことをさせたくない。

 どのみち戦わせることができないのなら最初から戦わせないと明言しても問題ない。


「まぁ、シオンが良いのなら良いの……。でもそれだと一部を除いたイベントや新エリアの開拓に参加することが難しくなるのなの」


「うーん、確かにイベントに出られないのは残念かも。ただ、アンゴラウサギィを選んだのは私だから気にしなくていいよ」


 どんなイベントがあるのか気になるけれど、こう言われたということは戦闘系のイベントが多いのだろう。でも私は気ままに遊びたいだけだから参加できるイベントだけ参加する形でも十分に楽しめるはずだ。

 戦闘系のイベントもやり方次第で出れるかもしれないしね。


 リルモに教えてくれた感謝を告げるとリルモが口をもごもごさせた。


「そうは言っても戦えないせいで辞めちゃったら嫌なの。…………仕方がないからこれをあげるの。敵になるか味方になるかは分からないけど」


「石?」


 渡されたものを握るとひんやり冷たい。そのまま持っている訳にもいかないのでどうしようか考えているとリルモが首からかけられる小さな巾着をくれた。


「特別サービスの卵なの。肌身離さず持っているとシオンの魔力を吸ってそのうち孵るの。でもリルモがあげたってことは言わないで欲しいの」


「リルモが怒られる?」


「禁止されてはいないけどギリギリなの」


「そこまでしてくれなくて大丈夫だけど……」


 リルモに影響があるのなら返そうかと思ったけれどリルモに断られる。

 罰則があるわけでもないらしいのでとりあえずもらっておくことにした。


 何かあったら返せばいいか。私が頷くとリルモも頷く。


「じゃあ気を取り直して【調合】の練習をするのなの。まずはこの草原から薬草を探すのなの。ついでにアンゴラウサギィ用の雑草も採取すると良いのなの」


「ありがと!」


 これは【採取】をとっていなかった詰んでいた。

 なかったら薬草を手渡されるのかもしれないけれど、その場合はアンゴラウサギィのご飯がない。

 初期は金策が大変らしいから【採取】がなかったらアンゴラウサギィにひもじい思いをさせてしまったかもしれない。


 真剣にそこら辺の草を観察していくと雑草は直ぐに見つかった。

 というか見渡す限り雑草の山だった。


「ふんふん、アンゴラウサギィちゃんのご飯ゲット。うまうま」


 別に自分が食べるわけではないけれど夢中になって雑草を採取していくとあっという間にカバンがいっぱいになる。観察では雑草と出ているけど色や形は様々だ。


 アンゴラウサギィに好みがあるかもしれない。できるだけ色んな種類を採取しようか。

 あとでどんな反応をするか見てみたいなぁ。


 薬草もカバンがいっぱいになる間に数本見つかったのでそれは手で持っていく。リルモが居た場所に戻るとアンゴラウサギィにリルモが顔をうずめていた。


「あっ! 羨ましい!」


 反射的に薬草を放り投げてアンゴラウサギィを取り返す。アンゴラウサギィはどことなく迷惑そうな顔をしていた。


「むぅ、魅惑の毛玉が取られたのなの」


「リルモのじゃないから!」


 慌てて抱えるとリルモがぷくっと膨れる。でも気持ちはとても分かる。アンゴラウサギィの毛はふわふわで離したくなくなるのだ。


「薬草は採ってきたのなの?」


「あ、投げ捨てちゃった」


 慌てて辺りを探すと3本ほど薬草が見つかった。放り投げたものとは違うけれど生えているのも2本見つけたので合計5本だ。


「数が絶妙なの。初心者用ポーションは薬草を3個使うのなの」


「じゃあ後一本見つけてくるね」


 屈んでもう一本を探そうとするとリルモが首を振った。


「3回練習できるから足りない分はリルモが渡すのなの」


「ありがたいけど、【採取】も成長するから探させて欲しいな。時間がないのなら諦めるけど」


「分かったの。時間は特に決まってないからゆっくりやると良いの」


 良かった。これで少しは採取を成長させることができる。


 今のままだと薬草採取が難しいのか1本引き抜くのに時間がかかる。私的には楽しいから問題ないけど、早急にカマを買った方がいいかもしれない。


 周囲を注意深く見回しながら薬草を引き抜いていく。さっきと違って雑草を無視しているおかげかするする見つかる。


「とりあえず20本見つけたけど」


 多く取りすぎたかなと思いながら最初の場所に戻ると再びリルモがアンゴラウサギィに顔をうずめていた。


「油断も隙もない!」


 今度は薬草を手放さないように気をつけながらリルモを引き剥がす。

 少し目を離しただけなのにひっ付くとは一体何なんだ! アンゴラウサギィが魅力的なのはわかるけど。


「むぅ、戦えなくてもアンゴラウサギィをテイムする理由がわかった気がするの」


「それは良かったけど、この子はうちの子だから!」


 アンゴラウサギィは気にしていないようだけど私が気になる。

 リルモも憎めないキャラだからもふるくらいなら良いけど薬草採取中に吸うのはずるい! すごくモヤモヤする。


 むすっとした表情が隠せない私を見たリルモが肩をすくめる。


「仕方がないから諦めるの。【調合】の練習に移るのなの」


「あ、そうだった」


 危うく何のために薬草を採取してきたのか忘れるところだった。手をみると今回はちゃんと薬草を握っている。


「初心者用ポーションの作り方は非常に簡単なの。根っこを切り取って葉っぱを潰して水を適量入れて混ぜるだけなの」


「ほうほう、根っこを切る……。切る?」


 包丁なんて持ってないので引きちぎろうとすると慌てたリルモに止められてしまった。


「なんて野蛮なの! 初心者用調合セットを渡すのなの! この中に一式が入ってるの」


「おー、便利だ」


 初心者用調合セットを開けてみると小型ナイフ、小型まな板、小さな鍋、薬さじを大きくしたようなスプーン、乳鉢、乳棒、駒込ピペット、小さな漏斗が入っていた。

 全体的に小さくて使い勝手は微妙そうだ。


「とりあえず薬草の根っこをカット。これって水洗いしなくていいの?」


 普通に料理をする感覚でリルモに聞くとリルモが驚いた顔をした。


「そこら辺はやり込み要素になるのなの。チュートリアル終了後に色々やってみるといいの」


「おっけー」


 どうやら生産はかなり奥が深そうだ。適当にやって作れるのは最低品質のものだけなのかもしれない。


 そのままリルモに言われたとおり薬草を乳鉢に入れて乳棒で潰す。どこまで潰したらいいか分からなかったのでとりあえず思いっきりすりつぶしてみた。

 ポーションに葉っぱが沈殿してるとかなんだか嫌だし。


 おかげで時間はかかったけれど丸めて乾燥させたら丸薬になりそうなほどすりつぶせた。


「水はリルモが入れるのなの」


「ありがと」


 お礼を言って駒込ピペットを渡すと微妙な顔をされる。


「普通乳鉢か鍋……分かったのなの」


 リルモが何かを言いかけていたけど途中で諦めたらしい。駒込ピペットに水を入れてくれる。


「これが水魔法!」


 ただ水を生成しただけかもしれないが、現実では有り得ない現象だ。

 食い入るように水を見つめているとリルモが溜息をついた。


「ただの水なの。でもスキルがないとできないからシオンにはできないのなの」


「そうなると【水魔法の心得】を取らなかったのは痛手? でも水魔法の水ってただの水なんだよなぁ」


 薬の難易度が上がるにつれてただの水ではカバーできなくなる。そうなった時に水が出せるだけの【水魔法の心得】は使わなくなる。むしろ水から真水を作れる【錬金術】の方が使うかもしれない。


「難しい」


 スキルの新規取得が非常に困難というのは思い切った設定だ。おかげで考える楽しみも出来ているけどプレイスタイルを変えたい場合は一からやり直しになる。

 色々なスキルが取れるゲームは既にたくさんあるから個性を出してみたのかな?


 そんなことを考えながら水を足してはこねてを繰り返していくと初心者用ポーションが出来上がた。

 5mlの駒込ピペットだと一回では足りず、20回水を出してもらった。最終的に乳鉢から小さな鍋に移して水を入れてかき混ぜて完成だ。


「水100mlか。薬草も入ってるから一気飲みをするのはちょっと大変そうだね」


 ゲームだとどうなっているのか分からないけれど空腹度や乾きといったパラメータがあるようなゲームだから一瞬で消えるということはないだろう。


「完成したものはこれに移すと良いのなの」


「どう見ても試験管……」


 軽く爪で叩いてみると直ぐに割れそうな音がした。間違いなく耐火性や衝撃に優れているものではない。


「そこら辺は【ガラス細工】のスキルなの。【細工】の三次スキルだから気になるのならスキルを変える時にとってみると良いのなの」


「魅力的なスキルがいっぱい」


 普通のゲームならポーション作成時にどこからともなくガラス瓶が現れて勝手に詰まっているはずだ。ここまで分かれていると不便が多い。でもリアルに近い生産ができるのならきっと楽しいだろう。


 【観察】できちんと初心者用ポーションになっているのを確認し、2個目の作成に移った。

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