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12.ラテの毛が!

 次にログインすると、なぜかラテの毛が伸びていた。昨日ログアウトするまでは変化がなかったのに急な変化だ。


 これがアンゴラウサギィの毛が伸びるってやつ?

 えっ、急すぎない!?


 私は慌てて動きにくそうにするラテを抱えた。


「……ぷぅ」


 前足が毛に絡まったラテが助けを求めるように見上げてくる。

 床のモップがけが出来そうなほど毛が伸びているので動くのも困難だろう。ラテの前足を毛の山から救出しながらどうしたらいいか考える。


「えっと、こんな時は……。イリスに連絡するんだっけ?」


 調合&錬金組合で是非刈り取らせて欲しいと言われていたのを思い出し、イリスに連絡を取った。嫌々登録したフレンドだったけれど、まさか役に立つとは。

 フレンドになっていたおかげで個人チャットを使うことができた。


 連絡をするとすぐにイリスから返信が返ってくる。

 内容は調合&錬金術組合の前で待つとのことだった。文面からもイリスの嬉しそうな様子が伝わってくる。


「変なトリミングをされないと良いけど」


 興奮していたイリスがラテを綺麗にカットしてくれる気がしない。

 不安しかないけれど他に頼れる人がいないので、調合&錬金組合に向かった。


「こっち! こっちよ!」


 ぶんぶん手を振りながらアピールするイリスは気合十分のようだ。

 テンション高いなぁ。不安が増すんだけど……。


 イリスはカット用のハサミを片手にうっとりとした表情を浮かべている。美人なのでどこか色気のあるその表情が恨めしい。


「ちゃんとカットできるの?」


 どこから見ても怪しいイリスに警戒しながら近づく。すると彼女はにんまりと笑った。


「もちろん。カットする為の部屋も借りてあるから安心して。アンゴラウサギィちゃんもしっかり毛が伸びているみたいだし」


「まさかこんなに急に伸びるとは思わなかったけどね」


「そう? シィプゥもそんな感じでしょう?」


 毛の伸びる速度に驚いた私にイリスが驚いている。どうやらゲーム内だとこの伸び方が一般的らしい。

 このゲームの運営って変なところで手を抜いてるというか、雑というか……。


 煮干という名前の魚も泳いでいたし、こだわっていないところはさり気なく手を抜いているのかもしれない。

 何となく腑に落ちない気持ちでいると、イリスが肘の辺りまで腕まくりをした。


「さあ、アンゴラウサギィちゃんを渡して頂戴! 私が華麗にトリミングをしてあげるわ!!」


 もう人に見せられないほど恍惚に歪んだイリスが鼻息荒く両手を出してくる。鏡を持っていたら本人に見せてあげたいくらい危ない表情だ。


「ブゥ! ブゥゥ!」


 ラテが再び毛の絡まった手を突っ張って拒絶しようとしている。


 やっぱりお願いするのを辞めたほうが良いかな。

 何となく予想していた通りの展開に顔が引きつる。けれどイリスには情報をもらってしまったし、一回くらいはお願いしないとまずい。


 私はためらいながらもイリスにラテを差し出した。


「ぷぅ!?」


 裏切られたという表情を浮かべるラテには悪いけれど、後で何か好きなものを買ってあげるから許して欲しい。流石に一度も任せないのはイリスに悪い気がした。


「手荒に扱わないでよ? 大事な相棒なんだから」


「分かってるわ!」


 イリスは表情こそ気持ち悪いものの、丁寧な手つきでラテの毛を梳く。

 毛の絡まっていた前足もしっかり救出していた。


「ふんふんふーん」


 謎の鼻歌を歌いながらカットしていくイリスは手馴れている。どこかでカットの練習をしたのかと聴きたくなるくらい上手い。


 意外だけど、助かったかな。

 イリスの腕前にほっと胸をなでおろしていると、手早いトリミングが終わった。

 ラテも暴れることなく、大人しくしている。暴れたほうが危ないと理解しているようだ。


「ぷぅ、ぷぅ?」


 動きやすくなったことを確認するように毛づくろいをするラテはとても可愛らしい。やはりうちの子が一番可愛いと頷いていると、イリスが不満そうな表情を浮かべながら近づいてきた。


「貴方、アンゴラウサギィちゃんを可愛いと思っているのならブラッシングくらいちゃんとしなさい。アンゴラウサギィはトリミング回数が多いから病気になりにくいけど、放っておくと良くないわ」


「そうなの?」


 まさかブラッシングまで必要だと思っていなかった。毛を刈り取った時にイリスが確認したのだろう。


「そうよ! まさかそんなことも知らなかったの? 毛の生えてるテイムモンスターはお手入れが重要よ。ちゃんと【解体】スキルも持っているでしょうね」


「持ってるけど何に使うの? ……まさか、トリミングって」


 予想外のスキルが話に出てきて戸惑う。けれど、聞いている途中ではっとした。


「トリミングは【解体】よ。ブラッシングするだけなら要らないけれど、毛が伸びたり爪が伸びたりするテイムモンスターのお世話には必要になるわ」


「うわっ、テイムと関係なさすぎ。テイマーが不人気なのって運営が変にこだわりすぎているからじゃ……」


 ただでさえテイムモンスはご飯を食べる。それだけでも大変なのにお世話にもスキルが必要だとなるとスキル枠が足りない。テイマーを真剣にやるのなら他にスキルを割くことができないだろう。


「何を言っているのか分からないけれど、これからは気をつけなさい。このブラシをあげるから」


「……ありがとう」


 複雑な気持ちになりながらイリスからブラシを受け取る。その時に気づいたことがあった。


「まって、イリスって【解体】を持ってるの?」


 【解体】を持っていなければトリミングができないのであればイリスは【解体】を持っているはずだ。

 慌ててイリスの腕を掴むと、イリスが戸惑った声を上げた。


「持ってるけど、それがどうかした?」


「持ってるならラテのトリミングの仕方とシルバーウルフの解体を教えて!」


 まさかこんな身近に【解体】のスキル持ちがいるとは思わなかった。けれどイリスが【解体】を持っているのなら話は早い。イリスに【解体】を学べばいいのだ。


「ラテ? アンゴラウサギィちゃんのこと? それなら毛が伸びたら教えられるけど、シルバーウルフは素材がないわよ。一昨日の大量発生は大半がドロップ品になったみたいだし」


「シルバーウルフの素材なら私が持ってる。ラテは毛が伸びたらで良いから」


 シルバーウルフのイベントが一昨日と言われて驚いたけれど、ゲーム内の日時は4倍で進むので寝ている間に一日過ぎたのだろう。

 私はシルバーウルフを空間収納から出した。


「あら、【空間収納】まで持ってるの? とてもテイマー向きね」


 イリスは突然現れたシルバーウルフに驚くこともなく、品質の確認を行っている。どうやらイリスは【観察】系のスキルを持っているらしい。

 メガネを片手で上げる仕草がとても似合っている。


「さすが【空間収納】ってところかしら。品質がしっかり保たれているなんて。でも貴方、MPは大丈夫なの?」


「MPが多い種族だから大丈夫。これで教えてくれる? 対価は今回のラテの毛で」


「大歓迎だわ。【解体】のやり方は生産総合所の資料室でも確認できるけれど良いの?」


「構わないよ。実際に教えてもらった方が覚えられそうだし」


 生産総合所にある資料がどれだけ分かりやすく説明しているかなんて分からない。持ち出せない場合は手順を暗記する必要がある。それならイリスに教わった方が楽だ。


「まあ、そうね。【解体】も生産スキル扱いだから一度レシピを作ったらスキップできるしね。でもアンゴラウサギィの毛が対価ならレシピ通りのやり方とアレンジしたやり方を教えちゃおうかしら」


「それは助かる!」


 まさか【解体】も他の生産スキルと同じようになっているとは思わなかった。アレンジによって品質が変わるのか取れる部位が変わるのか分からないけれど、とても有益な情報だろう。イリスに聞いて良かった。


 こんなところでどうするか悩んでいた【解体】の手順が分かるとは思わなかった。でも生産総合所に資料室があるなんていう話は聞いたことがない。何らかのクエストを踏まないと出現しないのだろうか。

 生産総合所にレシピがあるならβの時に気づく人がいると思うんだけど……。


 もしかしたらこれも正式リリースに伴って変わったことなのかもしれない。それでももう情報が上がっていてもおかしくないけれど、情報がないということは余程隠されているのだろう。

 そんなことを考えている間にイリスが解体用ナイフを取り出して手招きをした。


「まずは一般的なレシピね。素材になるのは毛皮と爪と魔石よ。解体用ナイフでまず頭を落とすの」


 耐性がない人にはキツイことを言いながらイリスがシルバーウルフにナイフを入れていく。本当に頭を落としたのかと聞きたくなるくらい簡単にシルバーウルフの頭は胴体と離れた。


 解体用ナイフってそんなに硬くなかった気がするけど。

 こんなところでゲームの不思議が発動しているのだろうか。流石に首の骨を簡単に切断できるほどイリスが豪腕だとは思い難い。


 要所要所に不思議が発動しているけれど、イリスはかなり分かりやすく教えてくれた。


 流石年齢制限が18歳のゲームだなぁ。これ、絶対苦手な人は苦手でしょ……。

 血が出ないなど生々しさが減るように工夫されていたけれど、中々刺激的な光景だった。


「毛皮が上手く行ったら次は爪。全部売れるからきちんと取るのよ。最後が魔石ね。使わない部分はしばらく置いておくと消えるから放っておいて良いわ」


「ふむふむ」


 消えるというのは有難いシステムだ。

 解体に失敗しても消えるってことかな。


 見ていると、イリスが素材として分けなかったパーツは少しすると全て消えてしまった。レシピ通りという割に使える部分が多くて助かる。市場価格がどうなっているか分からないけれどドロップ品よりも多く切り分けらてているだろう。


「シルバーウルフが残ってるようならシオンもやってみて。アドバイスしながら見ていてあげるから」


 メガネをクイッと上げながらイリスが不敵に笑う。その様子がどこか鬼教師っぽく見えたのは内緒だ。


「えっと、まずは頭を落とすんだっけ……」


 イリスが行った手順を真似て解体用ナイフを動かす。イリスと同じように動かしているつもりなのにやはりイリスほど上手くはいかなかった。


「悪くないわ。毛皮はそんな感じよ」


「毛皮の次は爪?」


 爪は簡単に取れた。なにもしていないのに綺麗な爪になっている辺りがとても不思議だ。

 丁寧に爪を全て取る。最後は魔石なので心臓の位置に解体用ナイフを突き刺して取り出す。


「良いわね。これでシルバーウルフの解体レシピができたはずよ」


 イリスに言われて【解体】スキルを見ると、レシピにシルバーウルフが加わっている。これでスタミナを使って同じ工程を再現できるはずだ。


「ありがとう。ちゃんとレシピになってた」


 使わなかった部分はイリスの時と同じように消えていく。


「それなら次はアレンジね。牙をとったり、毛皮に頭を残したままにする方法があるわ。一応お肉も【料理】や【錬金術】で使えるから取り方を教えるわね」


「使えるパーツが多いんだね」


 肉や牙も取れるならほぼ余るところがない。ドロップ品だと頭突きの毛皮なんて聞いたことがないからレア度が増すだろう。使い道が分からないけれど、レアであれば高値がつく可能性がある。


「だから生産をしたい人は【解体】を持っていると良いの。【解体】持ちの冒険者が丸々売ってくれることがあるから。そういう冒険者と専属の取引をしても良いしね」


「なるほど。でも思っていたより緩いなぁ。冒険者ってもっと規則があるんだと思ってた」


「縛り付けても違反者が増えるだけだからね。冒険者なんて荒くれ者が多いから。専属契約はギルドを通すのよ。裏でやるとトラブルになった時に誰も救済してくれないから」


「そんな制度まで……」


 遊び方の幅広さを売りにしたゲームだけれどそこまでできるとは驚きだ。私が知らないだけでもっと色々な遊び方ができるのだろう。

 わくわくしながら私は時間の許す限りイリスにシルバーウルフの解体方法を聞き、アレンジ方法を覚えた。

シオン Lv.6 ドッペルゲンガー

 所属:テイマーギルド

 非公開称号:『NPCとのフレンド1号』 


 HP:21 → 24(161) 

 MP: 273+10 → 302+10(161) 

 STR:146 → 161(161)


 ATK:1 → 1(12) 

 DEF:6→ 6(12)

 MDEF:9 → 10(12)

 AGI:7→ 7(12)

 INT: 21+1 → 22+2(10)

 DEX: 22+3 → 23+3(11)

 LUK:31+7 → 33+8(3)


 スキル:メイン【テイム Lv.5】 サブ【観察 Lv.9】 生産【調合 Lv.4】

 【解体 Lv.6】、【採取 Lv.10】、【栽培 Lv.1】、【釣り Lv.10】、【醸造 Lv.1】、【歌 Lv.8】、【空間収納 Lv.3】、【MP微強化 Lv.5】、【INT微強化 Lv.5】、【DEX強化 Lv.2】、【LUK超強化 Lv.1】


テイムモンスター

・ラテ(アンゴラウサギィ♀)(非戦闘要員)【威嚇(いかく)】、【逃走】


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