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11.イベントの終わり

 草原の奥から次々と姿を現すシルバーウルフ。プレイヤーを含む冒険者たちがそれに立ち向かっていき、城壁の上には弓を引く兵士たちの姿がある。

 倒しても倒しても減らないシルバーウルフに兵士たちが疲弊していく中、イベント開始のムービーで闇商人が投げたと思わしき丸い玉が映った。


 丸い玉は闇を閉じ込めたかのように蠢き、禍々しい雰囲気を放っている。

 そんないかにも怪しげな玉をひとりのプレイヤーが踏みつけた。


「…………あっ」


 シルバーウルフを引き寄せる元凶を破壊したと思えないほど間抜けな声を上げるプレイヤーがドアップで映り、焦っている様子がありありと分かる。

 踏んでしまった丸い玉に手を伸ばしているけれど、丸い玉は昇華するかのように消えていった。


 それをきっかけとしてシルバーウルフたちは興味をなくしたかのように草原の奥へ戻っていく。

 絶望した一人のプレイヤーと、玉を破壊したプレイヤーを睨む大勢のプレイヤーたちを残して。




 私は初めてプレイヤーの映るムービーにどう反応していいか分からなかった。普通に考えたらすごいことなのだろうけれど、今回はハズレも良いとこだ。


「出来心で闇商人が投げたものを見に行かなくてよかった……」


 もし興味本位で見に行っていたら、このムービーに出ていたのが私とルリだった可能性がある。

 こんな映り方をしてはこの先ゲームを楽しめないだろう。


 運営に文句を言おうにも、このゲームは始める前にムービへの参加承諾を求めていた。ストーリーを進めたり、イベントを進行させたプレイヤーがムービーに出演するといった内容だったので私も普通に許可している。

 しかしこんな映り方をする可能性があるのなら考え直さないといけないかもしれない。


 ムービー参加許可を取り消すか悩んでいると、再びムービーが切り替わった。今度はイベントの貢献度を現すランキングのようだ。


「モンスターの討伐数のランキングと、イベント貢献度のランキングがある?」


 こちらは報酬も載っていて、討伐数1位のパーティとイベント貢献度トップ3にはスキル枠プラス1が贈呈されるらしい。プレイヤー名もがっつり載っている。

 名前が隠されているプレイヤーは一人もいなかった。


「モンスター討伐数ランキングは知らない人しかいないなぁ。イベント貢献度の1位は……さっきのムービーのプレイヤー? まって、2位が私で3位がルリになってる!」


 どうせ知らない人の名前が並ぶのだろうと思っていたけれど、イベント貢献度の2位と3位は私たちだった。4位以降はシルバーウルフの討伐数ランキングと同じ並びになっている。

 シルバーウルフの討伐もイベントの貢献のポイントが入るらしい。


 映画のエンドロールのようにランキングと報酬の載ったムービーが流れ、長い時間をかけることなく、終りを告げる。

 終了後にルリを見るとルリも呆然としていた。


「……私が、3位?」


 イベントを終わらせたプレイヤーが映っていた時は爆笑していたのに、今は言葉もでないようだ。


 あの闇商人を街に連れて行くのもイベント貢献だったのかな。

 なぜ、同じことをした私とルリでポイントに差が付いているのかは分からない。普通に考えたら闇商人を気絶させたルリの方が上にいるはずだ。


「……私が2位取っちゃったみたいで、ごめんね」


 ルリに比べれば活躍していない私が2位というのは複雑な思いがある。2位と3位の報酬に差はなかったけれど、ランキングが表示されるのなら上の方がいい。あれだけ活躍してくれたルリを差し置いて私が2位に居るのが申し訳なかった。


 恐る恐るルリを見るとルリは震えている。


「私が……3位」


 ぽつりと呟くルリはとても怖い。

 断頭台に上る気持ちでもう一度謝ろうとすると、その前にルリが顔を上げた。


「やったー!! 3位! 私が3位だよ! シオンも2位おめでとう!!」


 目をキラキラさせるルリはとても嬉しそうだ。

 震えていたので順位を不服に思っているのだろうと思っていたけれど違ったらしい。ルリの次の言葉を待っていると、ルリが抱きついてきた。


 はしゃいでべしべし背中を叩くルリは順位を全く気にしていなさそうだ。むしろ3位が取れたことを喜んでいる。


「あ、ありがとう?」


 想像と違う反応に戸惑っていると、ルリが晴れやかに笑った。


「次は負けないから覚悟してね!」


「う、うん。ルリも3位おめでとう」


 気にしていない振りをしているのかとも思ったけれど、ルリは全力で3位を喜んでいる。思ったよりも純粋ないい子だったようだ。

 少しでも不安に思った自分を恥ずかしく思うと同時に、自分もイベントのランキングトップに入れたんだと、ようやく喜ぶことができた。


「スキル枠プラス1だって! 取りたいスキルいっぱいあるなぁ。でも、こうなるなら釣りのためにスキル変えなくても良かったじゃん」


 にこにこ笑うルリはもう何のスキルを取るか考え始めている。

 私も何を取るべきか……。


 今回のイベントでは戦う力がないことが致命的だと分かった。

 まだ最初のほうだからATK1の技なしでも戦えたけれど、どんどんキツくなるだろう。特に【解体】はあれだけ解体用ナイフを使ったのにレベルが1しか上がらなかった。

 正規の使い方をしなければスキルレベルが上がらない可能性がある。


 私は自分の偏ったステータスを眺めながら頭を抱えた。


 そもそも私のやりたいプレイスタイルって何だろう。生産をしながら可愛いテイムモンスをもふもふ出来たら最高だと思ってたけど。


 戦う力なんてなくても構わない。リルモに言ったことは本当だ。けれど、今回のイベントを通じて欲が出てきてしまった。


「やっぱり、戦えた方が良いよね……」


 戦うのなら高いINTとMPを活かして魔法系が良い。【MP微強化】と【INT微強化】も取っているのだから生かすべきだ。

 これらはテイムスキルで使うことを見越して取ったものだったけれど、テイムモンスがラテしかいない今は【空間収納】にしか役だっていない。テイムスキルの鼓舞はそれほどMPを求めてこないので、MPが余っている状態だった。


 魔法系で取るとしたら何だろう。やっぱり【火魔法の心得】や【土魔法の心得】かな。


 どちらも生産を行うのに役立ちそうだ。特に土魔法は【栽培】と相性が良い。【栽培】がいつ役に立つかは分からないけれど、土壌改良がやりやすくなるとβの情報に書かれていた。


 火魔法はそれに比べると情報がない。ただ、【栽培】の事を考えると【調合】の時の火力調整に役立つかもしれない。今は必要がないけれど、レシピが複雑化するほど役に立つ可能性が高い。

 他にも【無属性の心得】も気になっていた。


「ルリは何を取る?」


 甲乙付け難い状況で悩んでいると、ルリが何を取るのか気になってくる。


「私は【空間収納】を取ったよ。雪の魚を持ち歩くのにバッグじゃ大変だから」


「あー、そうだよね。これからテイムモンターを増やすなら尚の事、ご飯事情は重要だよね」


「うんうん。シオンを見てこんな良いスキルがあったんだって思って!」


 にこにこと笑うルリは迷いなく【空間収納】を取ったらしい。


「それなら預かってたものを返すね。魚はルリのバケツに入ったままだから確認して」


「ありがとう! 助かったよ」


 落ち着いたら渡そうと思っていたけれど、【空間収納】があるのなら今渡しても問題ないだろう。釣具セットも預かっていたので、ルリに手渡す。

 これで預かっていたものは全て渡したはずだ。


「くぉぉぉー」


 受け渡しをしている間もバケツから雪が魚を盗み食いする。

 私のバケツから盗み食いをした時にとても怒られていたことを忘れているようだ。しかも美食家のようで魚が死んでいることに不満そうな顔をしている。


 品質Sなのに文句を言う雪に私とルリは顔を見合わせて笑った。


「シルバーウルフはどうする?」


 ルリが解体できる人を探すというのならそれでも構わないし、お金を見積もって半額渡すのでも構わない。

 ただ、シルバーウルフの価値が分からないので、高すぎると払えない危険性があった。


「うーん、そんなに倒してないし、シオンの魚と交換じゃダメかな」


「いいけど、それだけでいいの?」


 シルバーウルフはそこそこ強そうだったので、買取がある程度高額になる可能性がある。

 それに対して釣った魚は20尾程度しかない。釣り合いがとれるとは思えなかった。


「多分だけどドロップ品で換算したら魚のほうが高額になると思うよ。シルバーウルフは1体につき1個魔石が取れるけど他はランダムで落ないことが多いから。それに、今回大量にシルバーウルフの素材が取れたから価格が落ちると思うし」


「魔石も価格が落ちるの?」


 大きさと属性、品質くらいしか判別していないと思っていた。


「魔石は落ちないけど、他が落ちると思う。大量に取れた上にすぐ加工しないと品質が落ちていくだろうし、今は売っても値がつかないかも」


「あー、なるほど」


 鮮度というパラメータがあるのか、時間経過で品質は落ちていく。薬草やポーションも一緒だ。【空間収納】に入れておけば品質は保たれるけれど、このスキルをとっている人はそれほど多くなさそうだ。


「じゃあ、シルバーウルフは私がもらっちゃうね。魚はこれ。ルリのバケツに入れて良いかな?」


 バケツまで渡してしまうと流石にキツイ。

 ルリはルリのバケツを持っているので快くオーケーしてくれた。ルリのバケツに魚を流し込んで、ついでに雪にもあげる。2尾目もあげようとすると嫉妬したのかラテが魚をかじって吐き出した。


「ぶぅぅー! ぶぅー!」


 とても不味かったのか吐き出す動作を繰り返すラテに口直しのご飯をあげる。好物と思われるミツバのようなものを出したけれど、ラテが喜んで食べたのは別の草だった。


「一尾分のお金を払うね」


 交渉したあとでラテがかじってしまったので、補填するべきだろうと財布をだす。けれどルリに受け取りを拒否されてしまった。

 普通に購入すると1尾100Gらしいので、気にするなとのことだった。


 イベントが始まる前とは逆の状況に私とルリは声を上げて笑う。

 もっと遊んでいたかったけれど、ルリはお風呂に入るというので別れ、私も一旦ログアウトすることにした。

シオン Lv.5 ドッペルゲンガー

 所属:テイマーギルド

 非公開称号:『NPCとのフレンド1号』 


 HP:19 → 21(146)

 MP: 247+10 → 273+10(146) 

 STR:133 → 146(146)


 ATK:1→ 1(12)

 DEF:5→ 6(12)

 MDEF:9 → 9(12)

 AGI:6 → 7(12)

 INT: 20+1 → 21+1(9)

 DEX: 21+3 → 22+3(10)

 LUK: 29+6 → 31+7(3)


 スキル:メイン【テイム Lv.5】 サブ【観察 Lv.9】 生産【調合 Lv.4】

 【解体 Lv.2】、【採取 Lv.10】、【栽培 Lv.1】、【釣り Lv.10】、【醸造 Lv.1】、【歌 Lv.8】、【空間収納 Lv.3】、【MP微強化 Lv.4】、【INT微強化 Lv.4】、【DEX強化 Lv.1】、【LUK超強化 Lv.1】



テイムモンスター:ラテ(アンゴラウサギィ♀)(非戦闘要員)【威嚇(いかく)】、【逃走】

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