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1.ゲーム開始

「やったー!! 当たった!!」


 飲み会の帰りに何となく買った宝くじが当たった。しかも前後賞含めて10億円分。

 適当にテレビ台に放置していたのに奇跡だ。たまたまスマホで当選番号を確認して良かった!


 宝くじは当たる確率が50%とパチンコより低いらしい。

 私は小躍りするのをやめ、なくさないように財布にしまってから銀行を目指す。周りが強盗の集団に思えてしまったのは内緒だ。


 しかしそこからは非常に面倒だった。


 しつこく本人かと確認してくる銀行。

 どこで買ったのかと聞いてくる銀行。

 お金を預けるように言ってくる銀行。


 しばらく銀行を見たくないと思った程度にはうざかった。

 これに比べれば会社を辞めるのなんて簡単だったけれど、それはそれで自分がいらないと言われているようで悲しい。


 まあ、しつこく引き伸ばされるよりは良いか。何となくモヤモヤしたけど、仕事なんてそんなものかもしれない。


 一応防犯のために宝くじが当たったとは言わず、家業を継ぐと嘯いて地方都市に引っ越すことにした。


 その引越し作業も済んだ今日。ついにVRMMOをスタートできるのだ!

 ふははは。


 丁度今日から配信されるゲームがあるということで既に事前ダウンロードは済んでいる。

 VR機は未だに高額だけれど10億ある私には怖くない。1億円で最高機種を購入してみた。一度やってみたかったので非常に満足だ。


「ふんふん、【第二の人生】は自由度が高くてリアリティが豊富なんだよね」


 就職してゲームからは離れていたので自由度やリアリティと言われてもどの程度なのか分からない。月額料金制なので課金の煽りは少ないらしい。

 通常の課金すら良く分からないけれど、とりあえずゲームを初めてみることにした。







*****

 ダイブすると始まったのはチュートリアルだ。自分のアバターらしきものが目を開く。


「凄い再現度だ」


 本当に自分が目を覚ましたように感じて思わず瞬いてしまった。その間にどこからともなくデフォルメされた蝶の羽を持つ少女が現れて目が合う。


「初めまして。私はチュートリアルを担当するAIのリルモなの。あなたのお名前を教えて欲しいの!」


 へぇ、ここで名前を聞かれるのか。使いたい名前は使えるかな。


 VRMMOで人気の名前は争奪戦らしい。昨今の流行りは知らないけれど少し遊んでみようか。

 私はリルモににっこり笑い返した。


「私はリルモって言うの」


「あなたもリルモって言うのなの!?」


「そうなの。私もリルモなの」


 驚くリルモはまるで人間のようだ。

 外見はファンタジーだけれど表情といい反応と良い私の知っているゲームと違う。これは悪いことをしたかな。まさかこんなに人間っぽいとは。


 NPCが普通に応答できるだけで素晴らしい。

 昔はここが始まりの村だと永遠に言うキャラクターがNPCだった。


 もしかして中に運営がいる? でもAIって言ってたような……。

 逆に悩んでいるとリルモがハッとした顔になった。


「リルモはリルモだから……。そっちのリルモはドッペルゲンガーさんなの!」


「へっ?」


「ドッペルゲンガーさん初めましてなのー。本当のお名前は?」


「あー、そういう感じ? 私はシオリ。よろしくね」


「シオリは既に存在するの」


「うわっ、使われちゃってるのか。じゃあシオンで」


「シオン……シオン……。おっけー、覚えたのなの! よろしくね、シオン」


 自分の名前に近いシオリが既に使用済みだったのは悲しい。けれどシオンが空いていたのはラッキーだ。もはや本名だけど。


 名前の次は種族だっけ。

 種族の次が見た目だったはず。


 あまり説明書を読むタイプではないけれど、楽しみすぎて舐め回すようにこのゲームの情報を読んでしまったので覚えている。

 私はやっていなかったけれどオープンβとクローズβが行われていたようで、そこそこ情報がある。スキルを決めるのの参考にもさせてもらった。


「じゃあ、シオンのスキルを教えて」


「スキル? 種族じゃなくて?」


 予想外の展開に聞き返すと、リルモが首をかしげた。


「シオンはドッペルゲンガーじゃないのなの?」


「ドッペルゲンガー?」


 そういえばさっきふざけた時にそんなことを言われた気がする。

 でもあれって冗談じゃなく?


 いくらAIとは言え私がプレイヤーであると認識しているはずだ。それなのに驚いたような反応をしていたのは設定だと思っていた。


「ステータスオープン!」


 叫ぶと初期のステータスが出てくる。


 シオン Lv.1 ドッペルゲンガー

 HP:15(100)

 MP:185(100)

 STR:100(100)


 ATK:1(10)

 DEF:5(10)

 MDEF:8(10)

 AGI:6(10)

 INT:18(8)

 DEX:18(9)

 LUK:14(3)


「な、なにこれ!?」


 ステータスが良くも悪くも壊れている。

 カッコに書かれているのが全種族の平均と言われるヒューマンのステータスだ。


「ドッペルゲンガーのステータスなの。スキルはまだ取ってないから初期のドッペルゲンガーなの!」


「魔法特化すぎない!? 防御も紙だし」


 この数字がゲームでどのくらいの数値なのかは分からないけれど、恐ろしいほどの極振りだろう。HPが15とか直ぐに死にそうだ。ATKも1だし。


「シオンはドッペルゲンガーじゃないのなの?」


「うーん……」


 そもそもモンスターの種族なんて存在したっけ?

 最初に選べるのはヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人、妖精のはずだ。


 相当レア?

 もしくは正式配信で増えた?


 真相は分からないけれど情報がない種族だし、やってみるのは面白いかもしれない。

 どうせ最強を目指すのではなくのんびり遊ぶつもりだ。気に入らなければ作り直せばいいだろう。


 私は不安そうに首をかしげるリルモに頷いた。


「そう、ドッペルゲンガーだよ。良く分かったね」


 にやりと笑ってみるとリルモが安心したように笑った。


「リルモの真似をされたら分かるのなの! シオンは隠し方が下手っぴなの」


「それでも当てちゃうんだから凄いよ。ところで私の見た目はどうなってるの?」


 いくら退職済みとは言えリアルのままだったら嫌だ。少しくらい美化された自分を楽しみたい。

 名前も本名なのだ。少しは対策した方がいいだろう。


「見た目はこんな感じなの。どこかおかしいのなの?」


 ホログラムのように映し出されたアバターはリアルの自分そのものだった。


 危ない危ない。

 もし聞かなかったらこのままスタートするはめになるとこだった。


「もう少し美人で髪を腰まであるロングにして欲しいな。色も髪は黒で目が紫。髪型はポニーテールでお願い」


「ふむふむ、りょーかいなの」


 リルモが鼻歌を歌いながらホログラムをいじっていく。

 完成したアバターは私の面影の残る美人さんだった。


「違和感もないし完璧! いい腕してるね!」


 いじり過ぎると変な感じがする顔になるけれど、リルモが改造したアバターはそんなことがない。肌も私より白くなっていて手足がすらりと伸びている。胸もCカップくらいあるのではないだろうか。


「若かりし頃の私を良くしたみたいな感じかな」


 今も年を食っているというほどではないけれど、やはり10代の方が良い。

 ハリのある肌もツヤツヤな髪も若い特権だ。10代後半のような見た目は今より10歳くらい若返っているけれど、違和感を感じないから問題ない。


「それならこれで決定するのなの。次はスキル! スキルは構成の基準となるメインとサブ、生産を一個ずつ。他を10個なの。基準に選んだスキルは成長速度が速いのなの」


「確認したいのだけど、スキルの新規取得は困難で、構成の基準に選んだものも変更不可能で間違いない?」


「間違いないのなの。課金でもスキルの新規取得は難しくてリアルラックがかなり要求されるのなの。でも極希にボスからドロップすることがあるから希望は捨てないで欲しいの。イベントにも期待すると良いのなの。スキルの構成は変えるのにスキルの初期化というアイテムをリアルマネーで購入するしかないのなの。このアイテムを使うと全てのスキルが1に戻るから気をつけるのなの」


「色々βから変わってるんだね。ありがとう」


「どういたしましてなの」


 この調子だと気づけていないだけで新要素がたくさん盛り込まれていそうだ。

 しっかり受け答えをしているリルモももしかしたら新要素なのかもしれない。

 情報を読んだだけでβをやっていた訳ではないので判断がつかない。


 それなら取るスキルを考え直そうかとも思ったけれど、ゲームを前にして時間を取るのも嫌だ。どういったものがあるのかも分からないし、リルモに聞きながら変えていくのも有りかもしれない。


「スキルの取得前にこれを使える? ソフトを購入した時に買っておいたんだけど」


 1億円VR機に付いていた激レアスキル確定チケットを1枚と別途購入したお高いレアスキル確定チケットを2枚見せる。合計3枚で購入上限だった。


「使えるのなの。レアスキルは初期スキルが進化したもので、激レアスキルはレアスキルが進化したものなの! こんなチケットを持ってるなんてすごいのなの!」


「激レアスキルとレアスキルってそういう位置づけだったんだ」


 やはり聞いてみないと分からないことが多そうだ。


「スキルはどうするのなの?」


「メインスキルは【テイム】。サブが【観察】で生産が【調合】。薬を作るなら【錬金術】より【調合】で合ってる?」


「間違いないのなの。【錬金術】はモノの性質を変えるスキルで、【調合】はポーションを作成するスキルなの」


 ふむふむ、ここは攻略サイト通りか。それなら【調合】一択かな。


「それならこれで確定で」


「分かったの! テイムはレアスキルだからレアスキル獲得チケットを一枚消費なの」


「はーい」


 これも事前情報通りだ。

 激レアスキルに関しては情報がなかったから慎重に考える必要がある。

 

「他のスキルは【解体】、【栽培】、【釣り】、【醸造】、【STR微強化】、【MP微強化】、【DEX強化】、【INT微強化】、【LUK微強化】にしようと思うんだけど、どう思う? 激レアスキルはあとでで相談させて」


「うーん、シオンは生産をやりたいのなの?」


「そう、あまり戦いをメインにするつもりはないかな」


「それなら【STR微強化】はいらないのなの。【解体】はあっても良いけど、【採取】も欲しいのなの」


「【採取】? 【栽培】と被るんじゃない? STRもスキルを使う時に必要になるって読んだのだけど」


 確か【栽培】のスキルに採取も存在する。

 重ねて取るのは回避したい。

 死にスキルを取ってしまうと大変そうだ。


「【栽培】は自分の畑限定なの。フィールドで採取したいなら【採取】がいるのなの。正式リリースから生産スキルはSTRを使わないようになったのなの」


「なるほど」


 βではSTR不足から生産だけをやるプレイヤーが少なかったらしい。

 STR消費の件は生産特化のプレイヤーを増やす為だろう。


 けれど【採取】に関しては非常に悩ましい。

 普通ならフィールドに出ることもあるけれどHPが15しかない。

 出たところで直ぐに死んでしまいそうな気がする。


「私のステータスでもフィールドに出られると思う?」


「場所によっては出れるのなの。始まりの街の周りはノンアクティブのモンスターしかいないのなの。あと、LUKが高いと襲われにくいのなの」


「それなら【STR微強化】を【採取】に変更して、【DEX強化】を【DEX微強化】、【LUK微強化】を【LUK強化】に変更でお願い」


「分かったの。激レアスキルチケットで【LUK強化】を【LUK超強化】にしたり、【調合】を【調薬師】にしたり出来るけど良いのなの?」


「あー、強化が超強化になるのか。【調薬師】も憧れるけど……」


 最初から強化された生産スキルで楽しめるだろうか?

 コツコツ少しずつ作れるようになっていくのが楽しいのに。


 一瞬心惹かれたけれど最初から強い生産スキルを持っていたら簡単に飽きてしまいそうだ。


「他にオススメの激レアスキルはない?」


「【釣り】や【農業】を変えることもできるけど、一番のオススメはステータスの超強化系なの。ステータスはアバターのレベルが上がる時に上がるからその時にステータス強化スキルを持っていると上がり率が変わるのなの」


「ステータス強化は大器晩成型ってことか。そうなるとDEXかLUKだけど……。決めた! 【LUK超強化】と【DEX強化】で。残りの1枠はオススメがある?」


 私が決めるよりリルモに任せてしまった方が良い。けして諦めた訳ではない。


「【歌】か【ダンス】か【料理】がオススメなの。【料理】は農業で作ったものを加工できるし、【歌】と【ダンス】はどっちも【栽培】で育てているモノにいい影響を与えるのなの」


 牛や豚にクラシックを聴かせたり豊穣の舞をするようなものだろうか。

 リラックスしていた方が美味しいお肉になるらしいし。

 舞の効果は分からないけど作物にもそういった効果があるのかもしれない。


「じゃあ【歌】が良いな」


 料理は別に好きじゃないしダンスは壊滅的だ。

 自分ではみんなと同じように踊っているつもりなのにきちんと出来た試しがない。多分ダンスのセンスがないのだろう。


「メイン【テイム】、サブ【観察】、生産【調合】、他が【解体】、【採取】、【栽培】、【釣り】、【醸造】、【歌】、【MP微強化】、【INT微強化】、【DEX強化】、【LUK超強化】で決定するのなの一度だけやり直しができるチケットがチュートリアル終了後に渡されるのなの。もし変更したい場合はそれを使うと良いのなの」


「はーい」


 戦うつもりが欠片もないスキル構成だけどのんびりやる分には良いはずだ。

 

 日向で釣りとか、のんびり農業とかしてみたいなぁ。リアルでやると筋肉痛がやばそうだけど。

 私はこれから始まる冒険に心を躍らせた。

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[気になる点] 本体1億のやつ何人持ってるんだろ そこまで高いとプレイ人口少なそう? 一般むけはいくらくらいでプレイする上での性能の違いとか地味に気になる
[気になる点] >「私のステータスでもフィールドに出れると思う?」 出れる 出られるはどちらも使うことありますが正しく使うのであれば出られるが適正かと
[気になる点] >【錬金術】より【調合】で合ってる? 錬金術寄りの調合って解釈であれば「より」を「寄り」の方がいいのではなくて?
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