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いのちだいじに

 訓練と言われて何をするかと身構えたが、なんて事はない、ただの瞑想だった。


 目を閉じて、地球に繋がってエネルギーをもらう、満たして溢れさせるイメージを身につける。

 ただそれだけだったけど、そのそれだけがものすごく難しかった。


 だって考えてもみてくれ。


 なんだよ地球と繋がるって。

 意味わかんねえよ。


 うんうんうなりながら眉間にしわを寄せていたら、やっぱり死にたくなった。


 マジ死にたい。


 するとすかさず天使に罵倒される。



「だからうるせえっつってんだろうがこのボケナスが!!」



 めっちゃグーで殴ってきた。


 その後も蹴りはデフォルト。

 サービスで投げ飛ばされることもある。

 天使ってなんなんだろう。もしかして悪魔も羽は白いのかな?


 1日ではできなくて、それから僕は何度も天使の家に通う事になった。

 合言葉は生命力(いのち)大事に。


 天使の家っつうか虎の穴って感じだけどな!!(泣)








 ある日、僕は天使に訊いてみた。


 

「なんで地上にいたの?」


「仕事」


「やっぱり、人を守ったり幸せにしたりとかしてるの?」



 ドキドキしながらさらに訊いてみた。

 だって、天使が見守ってくれて幸せにしてくれるって最高だよね!

 ビバ他力本願!



「そういう天使もいるにはいるけど、あたしは違うわよ。ノストラダムスってあったでしょ?」


「何それ」


「最近の子は知らないのね……。『1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる』ってやつよ」


「ふうん。降ってきたの?」


「降らなかったのよ。というか、降らさなかったが正しいわね。あの予言がされた頃はまだ地球の方向が決まってなくて、隕石落として生命の進化をやり直す話もあったのよ。でもこの度めでたく、人類を残して繁栄・進化させる事に決まったってわけ」


「へえ」


「そうするとね、繁栄ってどういうタイプがいいかっていう話があってね、蟻とか蜂みたいなのとか、菌類みたいなのとか、色々あるのよ。虎みたいに普段は個体のみで行動するとかね。人間の場合は多種多様な個性で数を増やす、みたいな感じ。で、繁栄に邪魔な個体は始末していこうってなってね、こうして天使が駆り出されてるってわけ」


「なるほどなるほど、って、始末?」


「始末」



 天使が気負ったふうもなくうなずいた。



「え、始末ってなに?」



 天使はにっこり笑って小首を傾げる。まさに天使の微笑み。

 何もかも許してしまいそうになるその美しさに見惚れながら、僕は『天使が許されるんじゃなくて、人間が許されるほうじゃないのか』と心の中で突っ込んだのだった。









 そうして3ヶ月。

 僕はなんとか生命力のみならず、霊力や気力などを回復する方法も覚えた。

 何もそこまで、と思うだろうが、生命力を使って何かを変えようとするような人間は、他の力も限界を超えて使う傾向があるんだそうだ。


 実際、生命力は回復したはずのに、襲ってくる自死を願う衝動は霊力や気力の回復でどうにかなった。


 回復手段を手にしても、結局はその場しのぎにしかならない。

 そう考えていた僕に、天使は淡々と言った。



「あなたのお父さんのとこの社長さん、ブラックリストに名前があるわよ。そのうち順番が回ってくるから安心しなさい」


「順番って、なんの順番?」



 おそるおそる尋ねた僕に、天使は輝くような笑顔で答えた。



「秘密」








 僕の、力を使い過ぎて回復が間に合わないという問題はこうして解決した。


 死にたい、なんて気がついたら滅多に思わなくなったある日、天使はさよならを言ってきた。



「もう大丈夫そうね、あとはなんとか頑張んなさい」


「……うん、ありがとう」


「じゃ、あたしもう行くわね」


「あのさ!」



 思い切って、僕は大声を上げた。



「また会えるかな。君と、僕」



 すると天使は少しだけ寂しそうに首を傾げる。



「いつかまた、そのうちね」



 いつか、また。

 この3ヶ月が特別だったのだと、思い知らされたような気がした。


 口が悪くて暴力的で、でもキレイで可愛い、僕の天使。



「名前、教えてもらってもいいかな」



 以前訊いたときは教えてもらえなかった。『そんなん訊いてるヒマあったら瞑想せんかい!』と怒鳴られた。

 でも今なら、教えてもらえたりはしないだろうか。


 天使は、僕のそばまで来ると、額にそっとキスをした。



「次、また会えた時にね」



 僕は泣き笑いになりながら、努めて明るく笑おうとしたが、なぜか表情筋が言う事を聞かない。

 笑顔を作るのは得意だったはずなのに。



「次、次かあ」



 涙がこぼれた。

 遠い先の話になりそうだと、僕は彼女の手を握った。


 小さな、小さな手だった。











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