死にたい僕を蹴飛ばす君
R15はついておりませんが、主人公が「死にたい死にたい」とうるさいです。
ヒロインは口が悪くて容赦がありません。
心の強い人向け。
死にたい。
僕は笑いながら昨日のゲームの話をする。
死にたい。
僕は帰りにカラオケに行こうと誘われ、笑顔でOKして他の友人も誘う。
死にたい。
去年一緒のクラスだった友人が、休み時間に教科書を貸してくれとやってきて、僕は笑っていいよと答える。
死にたい。
今度の休みに遊びに行こうと誘われ、いいな、どこに行こうかと答えた僕に、友人たちは『やっぱお前がいないとな』と嬉しそうに返してくる。
死にたい。
友人たちと別れて、僕は1人で家路に着く。
もう誰も近くにいない。
そう思うと、途端に力が抜けてぼんやりしだした。
笑顔を作っていた表情が一気に抜けるのが自分でも分かる。
ああ、もうダメだ。死にたい。
笑顔の下で僕が死にたくて死にたくてたまらない事を誰も知らない。
死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。
苦しくてたまらない。誰か助けて。
死にたい。
「っっっさいんじゃボケェ───ッッッッ!!!!!」
突然誰かが叫ぶ声が辺りに響き、背後からの衝撃で僕は前方へごろごろと転がっていく。
背中の痛みと転がったときの痛みで思わずうずくまる。
そうして朦朧とする頭で声のするほうを見た。
「いつまでもいつまでもいつまでも、ほんっとうるさいのよ!! 死にたい死にたい死にたいって!! 聞こえるほうの身にもなりなさいよ!!!」
そこにいたのは、ゴスロリドリルツインテールの茶髪美少女。
腕を組んでふんぞり返り、僕を思いっきりにらみつけている。
というか気のせいだろうか、あの子の背中に羽がある。
「いつまで転がってんのよ! 天使の蹴りなんだから、そこまでダメージないでしょ! 痛いは痛いにしても!!」
蹴ったんか。
てか天使って自分で言うか?
いや確かに羽は見えるけども。
僕がいやいや立ち上がると、その自称天使サマは僕を軽蔑しきったように顔を歪めた。
「ねえ、人が一生懸命仕事してるときに頭の中に『死にたい死にたい』ってず───っと!! 声が響くのすごい邪魔なんだけど理解できる!?」
「……なんだよ、それ」
「あんたの脳内の声に決まってんでしょ!? 隠したって無駄なんだからね!? こっちはずっと聞こえてんのよ、あんたの声が!!」
きいいいいい────っっ!!
と僕の胸ぐらを掴んでぐわんぐわん揺らしてくる彼女。
どうしよう、電波っていうのかな、こういうの。
僕は自分が死にたいなんて思ってるのを認めたくなくて、それでも抵抗した。
「やめろよ! 僕が何を言ったっていうんだ! 1人で黙って歩いてただけだろ!」
「頭の中は死にたいってそればっかりだったじゃない!」
「うるさい! 君は人の頭の中が読めるっていうのかよ!」
「読めるんじゃなくて聞こえるのよ。あんたの死にたいって声がね! 理由も考えずに死にたい死にたいってバカなんじゃないの?」
冷たく言い放った彼女に、僕はたじろいだ。
だって確かにここ最近の僕はずっと死にたくて仕方がなかったから。
「それは……」
「あのね、なんで死にたいって思うようになったか考えた事ある?」
僕が返事をする前に、彼女は畳みかけるようにずずいと僕の顔に指を突きつけた。
僕が思ったのは、指が細くて爪が小さくて、可愛いなあってことだった。
「ないでしょ! 絶対ないわよね、その顔は!!」
「その顔ってどんな顔だよ……」
ぼそぼそ言い訳するように呟くが、彼女はそれをまるっと無視して続ける。
「あのね! 理由がないのに死にたいって思うのにもね、ちゃんと理由はあるの!」
腰に手を当て怒る姿は、まさに『ぷんぷん!』といった感じで、理不尽極まりない状況なのになぜかニヤニヤしそうになって、僕は懸命に自分の表情筋を励ました。
頑張れ、頑張れ僕! 今笑っちゃダメだ、なんかアレな人だと思われてしまう!
「り、理由って?」
近い近い、顔が近い。
でもめっちゃ可愛いしいい匂いがする。ヤバい。
「担当が違うし、ほんとは嫌なんだけど教えてあげるわ。理由もないのに死にたいって思うのはね、パワーを失っている時なのよ!」
ずびしいっ!!
天使は人差し指を立てて僕を見る。
その上目遣いに見てくる感じがもうヤバい。
唇がピンクでぷるぷるしてて、こんなに近いと吸い込まれそうだ。お巡りさんに捕まってしまう、もうほんと勘弁して。
天使はなんかアレな事を言い始めたが、僕は正直それどころじゃなかったのだった。
全4話。本日中に完結します。