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07.殿下、それはサンダルです



 なんとか波乱の金曜日を終えた。

 これにて華金、そして休息の土日へ突入する。


 麦茶ぶちまけ事件の後は、ロイも事情を分かってくれたようで、スライドドアを押し開けて入って来ることはなかった。退勤報告をして画面が切れるのを見届けて、私はノートパソコンをパタンと閉じる。


 本来であれば、スーパーかコンビニに出向いて酒類と弁当、軽いつまみなどを調達するけれど、今日はそうもいかない。スライドドアをそっと開くと、猫型ロボットに飽きたのか、韓流のドロドロ愛憎劇を流し見しているロイの背中があった。



「ねえ、そういえば……」


 声を掛けると驚いたようにビクッと震えて振り返る。画面の中の熱々なキスシーンを目に入れないように、ロイの瞳を見つめた。


「ロイさんはどうして私の言葉が分かるんですか?」

「……言葉?」

「普通、異国…というか異世界から来た場合は言葉の壁があったりして、意思疎通が難しいんじゃ…?」


 雷に打たれたように固まるロイの顔を眺めつつ、返答を待った。開け放たれた窓からは、どこからかカレーの匂いが入って来る。


 超便利な翻訳マシーンを携帯しているでもないし、ロイが何故日本語を話せるのか、どうして私の言葉を理解できるのかはかなり謎だ。日本大好き外国人というわけでもなく、彼の話を信じれば、そもそも住んでいた世界が異なる。


「……それは、たぶん」

「たぶん?」

「天賦の才能……?」

「………、」


 なんだその便利なスキルセット。どうせなら空気を読む力や相手の気持ちを(おもんばか)る能力も持ち合わせてほしかったところだけれど、今更文句を言っても仕方ないのだろう。


 彼を私の元へ飛ばした超人的な存在を恨めしく思いながら、とりあえずは納得した。毎度翻訳機能を通さなければ会話できないよりは、手間が掛からない分マシだ。



「分かりました。ところで、夜ごはんは何が良いですか?」

「おお、もうそんな時間か」


 一日中テレビ漬けにしてしまったので若干の申し訳なさはある。昨日の夜ロイを拾ってから、そろそろ丸一日が経つ。さすがにまったく外の空気を吸わないのもどうかと思い、外に出ることを提案してみることにした。


「隣駅のスーパーが大きいので、良ければ一緒に行きます?」

「スーパー……?」

「えっと、商店…というか、食品を売っている場所です」

「なるほど。興味はある、案内しろ」


 相変わらず偉そうなロイにサンダルを差し出して履くように指示した。初めてのサンダルに彼は違和感が大アリなようだったが、まあ歩き出すとすぐに慣れるだろう。


 鍵と財布をエコバッグに突っ込んで家を出た。


 日が長くなったので、もうすぐ7時だと言うのにまだ外は明るい。久しぶりの太陽に目を細めるロイを促して駅までの道を歩き出した。



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